表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3360/3386

7

 安楽市絶好町繁華街の裏側。建物の隙間の裏通りに、褥通りと呼ばれる区域がある。

 PO対策機構の精鋭達は今、その褥通りに集結している。裏通りの住人しか訪れないその場所は、潜伏先としても待機場所としてもうってつけだった。市民球場からそう遠くは離れていないし、近すぎるという事も無い。敵側が褥通りを監視しているかどうかも、事前にチェック済みだ。


 雨は降ってないが、台風の影響で強風が吹き荒れているので、全員建物の近くで待機している。


「そんなわけで、安楽市民球場の中へ侵入し、ガオケレナに薬を投与する。少数に分けてこっそりと忍び込んで、全員入った所で戦闘だ。球場内にいるサイキック・オフェンダーは追い出すか殺し、球場内を占拠する。」


 真が作戦内容を述べる。


「球場の侵入は、小分けにする。伽耶、麻耶、美香、三人の能力で、PO対策機構のメンバーを少人数ずつ、転落ガーディアンやオキアミの反逆と偽って、球場内に入れる。すでにこの三人には作戦を伝達済みだ。それを何度も繰り返す」

「上手くいくんスか? その作戦。ていうか何でこのチビガキが仕切ってるんだぞー」

「今更じゃろ。真は仕切りたがりじゃからのー」


 史愉が眉根を寄せ、チロンが微笑みながら言った。


「敵のトップに近い位置にいる者が、僕等の味方についている。彼女に手引きをしてもらう」


 真が合図を送ると、空間が歪み、一人の少女が現れた。


「なるほど……綾音がこちらについておったのか」

「はい。よろしくお願いします」


 納得するチロンに、綾音が微笑んで頷いた。


「私が増援と偽って手引きする予定です。私が同行している時点で、疑いの目もかけられにくくなります」

「それに合わせて、美香の運命操作術で成功率を底上げして、伽耶と麻耶の術で変装や認識の催眠やらもかけるという寸法だ。少しずつ、しかし迅速に行う」


 綾音と真が説明する。


「ようするにトロイの木馬みたいなものですね~」

 と、男治。


「セコい作戦だし、馬鹿丸出しだぞー。絶対途中でバレるぞー」

「二号のように文句ばかりの女だな! やる気が削がれる!」

「何ですぐあたしを引き合いに出すかねー」


 史愉がケチをつけ、美香が怒り、二号が苦笑する。


「バレんようにするために、あの双子の魔術と、美香の運命操作術も使うと言うとるじゃろ。ワシはいい作戦だと思うよ」


 チロンが真と綾音の方を向いて、にっこりと笑いながら支持した。


「克彦兄ちゃんの亜空間トンネルとかも無理?」

「空間操作能力で潜入は難しいだろう。結界が張っていないわけがない」


 来夢が提案したが、真は取り下げた。


「案外こんなシンプルな作戦が、上手くいくものかもしれないと、天使が囁いている」


 と、エンジェル。


「PO対策機構の兵士の数が少ないようじゃが、後から来るのか? それとも皆デビルにやられてしもうたか?」

「この作戦に安楽市民球場襲撃部隊全て投入することは、新居が反対した。バレたら一網打尽だからという理由で。だから正面からの襲撃部隊も残すようだ」


 チロンの質問に、真が答える。


「上手くいけば内外から挟み撃ちも出来るわけかい」


 マリエは戦闘になった際の状況をイメージしていた。


「マリエの能力も敵を混乱させられるから、存分に効果を発揮できるね」


 マリエの太股を撫でながら微笑みかける来夢。マリエはその手を乱暴に払う。


「第一陣は、潜入したら、すぐに根人から授かった薬品をガオケレナに投与する。あとはガオケレナの側にいて、雪岡のガオケレナへの接近を防ぐ。どれだけ時間が必要かわからないけど」


 真が告げる。


「薬の効果も確定ってわけじゃないんですよね~?」

「そうらしい」


 男治の確認に、真は頷いた。


「種子の放出を阻んだ所で、純子を斃すかガオケレナを枯らさないと、同じことの繰り返しになるぞー」


 釘を刺す史愉に、真はうるさそうに視線を向ける。


「ガオケレナをどうにかするのは難しい。雪岡を殺すのは、僕が許さない。あいつは僕が責任もって止める」

「ぐっぴゅっぴゅっ、ふざけんじゃねーぞー。何で君が勝手に決めた方針に、そこまで従わなくちゃならねーんスか。君の言うことなんかアテにならねーぞ」


 真の宣言を受け、史愉が肩をいからせて険のある声で反発する。


「俺は真のいう通りにした方がいいと思う。真は何かんの言って今までうまくやってきたし。ぐぴゅぴゅは黙ってて。ぐぴゅぴゅの方こそ信じられない」


 来夢が真の肩を持ち、史愉に冷たい視線を投げかける。


「来夢ぅ~、君がそんな意見するなら、断じてあたしは真の言い分も聞いてやんねーぞー」

「仲間割れするでない。真の言葉を信じられる根拠は無いが、真がガオケレナの情報を持ってきたのだし、デビルにもとどめをさしたのじゃ。真の方針に沿う方がよいとワシは見るぞ」

「どいつもこいつも……ぐぴゅ……」


 チロンに諭され、史愉はぶつぶつ言いながらも、反駁するのを諦めた。


「到着~」

「イェアー、遅刻ごめんよォ~」


 ツグミと熱次郎とみどりがやってくる。


「風が凄くて移動大変だ」

 熱次郎がぼやく。


「台風の速度が速まっているって話だよ」

 マリエが言った。


(こんな幸運があるものなんだな。いや、ただの幸運ではなく、運命だと受け取っておく。世界が僕に味方していると受け取ってやる)


 天を仰ぎ、凄まじい速度で流れる雲を見つつ、真は思う。


「ヘーイ、真兄。根人からもらってきた二種類の薬」


 みどりが真に太い注射器を二本手渡す。ガオケレナの種子を無効化する薬品と、種子の放出を遅らせる薬だ。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「だーかーらー、勝手に仕切るんじゃねーぞ。せめてミルクが到着するのを待てっス」


 真を引き留める史愉。


「勇気君は来ますか~?」

「消耗が激しいようで、動けないと言ってたぞー」


 男治の問いに、史愉が答える。


「その隙をついて政馬は好き勝手やったのか」

 真が頭の中で溜息をつく自分を思い描く。


「スノーフレーク・ソサエティーとの戦闘で敵の数が減っているし、やりやすくなっている! その状況を利用できると、前向きに考えろ!」

「そうだな」


 美香の言葉に真は頷いた。


***


 失敗して敗走した政馬は落ち込んでいた。


『政馬……お前……ついにやってくれたな』


 勇気から電話がかかってきて、怒りに満ちた声話聞き、泣きっ面に蜂だと思う政馬。


「やっちゃったよ。うん。チャンスだからついやっちゃった。でも失敗した」

『その失敗でどれだけ犠牲が出た?』

「皆覚悟のうえだからね。気にしないでいいよ」

『気にしろ馬鹿。お前あとで、足腰立たなくなるまで殴ってやる』

「いいよ。僕も今殴られたい気分だし」


 投げ槍に言い捨てる政馬の耳に、電話口の向こうで勇気が息を吐いているのが聞こえた。


『まあ、お前が無事でよかった』

「心配してくれてたの? ありがとう。そしてごめんね」

『馬鹿が。本当に悪いと思っているなら勝手なことするな』


 謝罪する政馬に、勇気は厳しい言葉を柔らかい口調で告げ、電話を切る。


「政馬、怒られタノ?」

 ティムが心配そうに尋ねる。


「うん、怒られた。怒られるようなことをしたから仕方ないね」


 きっとアリスイとツツジにも後で怒られるだろうなと思い、気が重くなる。成功したならそれでいいが、失敗しているのだから言い訳も出来ない。


 そこにジュデッカがやってくる。


「ジュデッカ、生きてたんだネ。よかったヨ」

「いいのかねえ……。俺なんかがまた生き延びちまった。累の奴が俺を見逃してくれた」


 嬉しそうに微笑みかけるティムだが、ジュッデッカは浮かない顔だ。


「いいに決まってるじゃないか。少なくとも僕にとって凄くいいことだよ。累には感謝しなくっちゃね。ていうか累にもスノーフレーク・ソサエティーに入って欲しいって前から思っていたし、勧誘もしたんだけどな。今度ジュデッカも勧誘してよ」

「はあ……お前はいつも一度に欲張りすぎなんだよ」


 切り替えの早い政馬に、ジュデッカが頭をかきながら微苦笑を零した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ