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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3358/3386

5

 スノーフレーク・ソサエティー対オキアミの反逆と転落ガーディアン。両者の戦いの趨勢は、少しずつ変化が生じていた。


「犠牲が増えてる。押されてる。防戦一方よ。眠らせる矢を撃ってくる奴がいて、そいつが特に面倒」


 富夜が政馬に報告する。


「敵の数が一気に増えて、こっちが不利になったじゃんよ」


 目を閉じて精神分裂体を飛ばした状態で、季里江が言う。現在季里江は、ティムのキコルの力を打ち消した能力者とその居場所を探っている。


「ヨブの報酬にとどめを刺した時の構図が、こっちに降りかかって来たみたいだ。皮肉だわ」

「うん。それにね、キコルが通じないのが痛い」


 雅紀と政馬が言う。


「ごめんネ」

「いや、ティムを責めてはいないよ」


 申し訳なさそうに謝るティムに、政馬が微笑みかける。


「超常の力の効果をここまであっさり無効化してくる力の持ち主なんて、今まで御目にかかったことねーわ」


 ジュデッカが言った。全く見たことが無いわけではないが、ここまで解呪特化した力の持ち主は初めて見る。


「長期戦になっているな。俺はもうガス欠気味だ」

 雅紀がぼやく。


「体力回復してくれる力の持ち主がいるから、そいつに回復してもらえ。一人しかいないから、回復する対象は絞っているけど、駒を増やせるお前の力は有用だ」

「わかった。行ってくる」


 ジュデッカに促され、雅紀は移動した。


「このまま僕達が粘っていれば、PO対策機構も援軍を送ってくるかもしれない」

「可能性としては有るが、期待すべきじゃねーぞ。そんなことしている間にも、じりじりとこっちが削られていくんだ。敵の数の方が多いうえに、厄介な能力持ちもたっぷりといる」


 政馬の希望的観測に対し、ジュデッカは否定的な見解を示す。


「じゃあどうするの? ジリ貧になっていくよ?」

「季里江次第だ。強力なディスペラーの能力者を特定して、そいつを始末できれば、キコルを呼び出してまた形勢逆転できるだろ」


 ジュデッカが喋りながら季里江を見る。


「見つけたんよ。ジュデッカ、一緒に来て」

「あいよ」


 季里江が走り出す。ジュデッカも季里江の護衛のために同行する。


 通りに出た季里江とジュデッカめがけて、サイキック・オフェンダー達がありとあらゆる攻撃を行うが、ジュデッカが空間を歪めて攻撃を尽く逸らしていく。


「吐き気が……何これ……。ジュデッカ、ちゃんと防いでよ」


 季里江の動きが鈍る。顔色が酷くなっている。


「非物理攻撃は防げないぜ。気合い入れて抵抗レジストしな」


 ジュデッカが季里江の肩に手を置き、季里江を蝕む攻撃を解除する。楽になった季里江が、大きく息を吸い込む。


「敵の居場所をここから特定できないか? ここいらは空間操作防止の結界の外だから、一気に転移出来るぜ」

「えっとね、あのマンションの裏」


 季里江がジュデッカの問いに答えると、ジュデッカは季里江の手を取り、転移を発動させる。


「ちょっ……」

「何やこいつら、ワープしてきたンか」


 突然すぐ横に現れたジュデッカと季里江を見て、陽菜とエカチェリーナは狼狽した。


「どっちだ? まあ二人共やればいいか」


 陽菜とエカチェリーナの方を向き、槍を構えるジュデッカ。


「若い人の方ね」


 季里江が陽菜を指す。陽菜はぎょっとした。自分がキコルによる赤ガム化を解除してまわったから狙われたという事も、この時理解した。


「よし、お命頂戴だ」

 ジュデッカがにやりと笑う。


 エカチェリーナが素早く陽菜の前に立ち、陽菜をかばう姿勢を取ったその時だった。


 空中から立て続けに何発ものビームが降り注ぎ、ジュデッカと季里江を攻撃した。


 二人ともすんでの所でかわして、上を見る。


「何なん……? 鉢植え?」

 空飛ぶ鉢植えを見て、呆気に取られる季里江。


「盆栽だな。木島の盆栽だ」


 ジュデッカが言った矢先、盆栽は空中を高速移動しつつ、また何発もビームを撃ってきた。


 いつの間に、降り注ぐビームの合間に真っ黒な布が現れ、ひらひらと漂う。


「こいつは……!」


 季里江が目を剥く。黒い布の出現が意味する所がわかったのだ。


 黒い布が激しく渦巻いたかと思うと、人型に変わり、燕尾服姿の顔色の悪い痩せぎすの男に変化する。


「糞親父……」


 現れた男を見て、季里江が憮然とした顔で呻く。季里江の実父、マッドサイエンティスト三狂の一人、霧崎剣だ。


「ふむ。季里江。敵陣地内に飛び込んでくるとは、中々大それたことをするものだ。もう少し慎重に行動できんのかね」


 霧崎は穏やかな口調で、娘に注意する。


「これ、お前の親父さんかよ……。似てねーな」

「はっ、似てなくてよかったよ。こんなのに似てたらたまらないんよ」


 ジュデッカがからかうと、季里江はうんざりした表情で吐き捨てた。


「君は母親似だね。見た目だけの話だが。中身は似ても似つかん。あの子はしとやかで理知的だった」

「そしてあたしが生まれた時には母さんは死んでいた。糞親父は助けられなかったんよ」


 皮肉っぽく言う季里江に、霧崎の顔色が心なしか変わった。


 季里江の母親は難病に侵されており、数十年前に他界している。当時の霧崎には救うことができなかった。季里江は冷凍保存された卵子と体外受精が行われ、人工子宮の中から生まれた。


 空を飛んでいた木島の盆栽が移動する。


(あれが飛び回って、スノーフレーク・ソサエティーを攻撃してきたら中々しんどいな)


 飛び去った盆栽を見て、ジュデッカは思う。


「ここは我々に任せ、君達は下がりたまえ」


 霧崎が陽菜とエカチェリーナの方を向い告げた。


「どうも……」

「おーきに」


 礼を述べ、足早に立ち去る二人。


 ジュデッカが無言で槍を振るい、転移拡散の攻撃を陽菜に見舞おうとしたが、槍の動きが途中で止まった。


 空間が大きく歪んで小さな穴が開き、空間の穴の中から白い手が伸びて、ジュデッカの槍を掴んで止めていた。


「おっと……」


 何者の介入であるかを即座に察して、自然に笑みが零れるジュデッカ。


 空間の穴が広がり、全身が露わになる。


「久しぶりに遊びましょうか、ジュデッカ」


 槍を掴んだまま穴の中から進み出た累が、ジュデッカを見てにっこりと笑う。


 ジュデッカも笑い返し、槍を大きく振り回した。累が槍を手放し、横に跳躍する。


 累の視線がジュデッカから逸れた。口の中で呪文を唱える。


(殺気が俺に向けられていない? 季里江に対してでもない。俺の後ろに向けられている。俺の後ろに誰かいるのか?)


 遊ぼうかと言っておきながら、累の攻撃の矛先が別方向に向けられている事に、ジュデッカは怪訝に思う。


「黒髑髏の舞踏」

 累が雫野の妖術の奥義を用いる。


 大量の黒髑髏が、離れた場所に出現した。


 ジュデッカは隙を見せることも覚悟のうえで振り返ると、スノーフレーク・ソサエティーの戦闘員が潜んでいる地域に、黒髑髏が大量に出現していた。


 一方で、季里江は霧崎と交戦を開始する。季里江が霧崎に殴りかかるが、霧崎は巧みに回避し続けている。


「遊ぼうと誘っておいて速攻で浮気かよ。それともからかっただけか?」

「これも遊びの内の一つと解釈できませんか?」

「屁理屈と解釈した」


 累がからかうように言うと、ジュデッカが槍で突く仕草を行う。


 突きのエネルギーが拡散転移し、累の全身に向けて、あらゆる角度から襲いかかる。タイミングも決まっていない。

 累は攻撃のタイミングを読んで身を低くして、前方に回転して避けようとしたが、右脚、腰、背中にそれぞれ穴が穿たれた。


「糞親父っ! 真面目にあたしと勝負しろや!」


 ただ回避だけし続ける霧崎に焦れて、季里江が怒鳴る。


「勝負? 君と私がかね? 君は勝負するに値はしないよ」


 うすら笑いをたたえて冷然と告げる霧崎。


 累が刀を抜く。


「あ、タンマ」


 交戦しようとした累に手をかざし、ジュデッカは電話を取った。政馬から電話がかかってきたのだ。


『ジュデッカ、被害が拡大してる。眠らせてくる矢と、ビーム出しまくってる空飛ぶ盆栽と、大量の黒い骸骨がキツい』

「そうか。もう駄目みてーだな。被害がこれ以上出ないうちに、逃げた方がいい。こいつはかなわねーよ」

『わかった』

「俺は殿を務める」


 ジュデッカが電話を切り、霧崎に殴りかかってはかわされ続けている季里江を見た。


「季里江もとっとと退却しろ。全員退却だとよ」

「ぐっ……無念じゃん」


 ジュデッカに促され、季里江は攻撃の手を止め、スノーフレーク・ソサエティーのいる方へと駆けていく。


 ジュデッカは動こうとしない。微笑をたたえ、累をまっすぐ見ている。


「ただでさえ敵の数が多いうえに、累の術が多人数相手に効果絶大なのが困りものだったな」


 累を見つめたまま、ジュデッカは話す。


「累……一つ頼みがある」

「何でしょうか?」

「俺の命に免じて、スノーフレーク・ソサエティーの奴等を見逃してくれ」


 ジュデッカの台詞を受け、累が霧崎を見やると、霧崎は微笑んで頷き、了承した。


「わかりました。でも無抵抗でただ殺されるなんて許しません。全力で戦って僕を楽しませてください」

「へへっ、お前さんらしいね」


 累が穏やかな微笑を浮かべて告げると、ジュデッカは愛嬌たっぷりのやんちゃな笑みを広げて、槍を構え直した。


***


 真、伽耶、麻耶、美香の四名は、ある人物と待ち合わせをしていた。


 やがてその人物が現れる。翠の瞳を持つ細面の美少女。


「こちらの手筈は整っています。と言っても、大したことをするわけではありませんが」


 綾音が会釈して告げた。


「こちらは集結を待つまでもない。三人はなるべく力を温存していけ」

「応!」

「らじゃー」

「合点承知の助」


 真に指示され、美香、伽耶、麻耶がそれぞれ返事をする。


 ふと真は天を仰ぐ。一面の暗い雲が、どんどん南から北へと流れ続けている。


(運は僕に味方しているようだけど、綱渡りの先まで辿り着かないと意味が無い。最後まで気が抜けない)


 恐怖が沸き起こる。失敗すれば、何度も見た様々な悪夢のうちのどれかが、現実になる事もあり得るのだから。

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