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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3357/3386

4

 安楽市民球場周辺では、スノーフレーク・ソサエティーの精鋭戦闘員と、転烙ガーディアンのサイキック・オフェンダーによる激しい戦闘が行われていた。

 通行人は来ないように排除してある。車も通らない。おそらく巻き添えは出ないはずだ。

 大人数による衝突にも関わらず、互いに死者や戦闘不能者の数は少ない。付近の建物をカバーして、ちまちまと遠距離攻撃を撃ち合っているせいだ。


「手強いな。ヨブの報酬を仕留めた時よりもずっと手強いな」

「敵の数が多いじゃん。質はこっちの方が上だけど」

「互いに防御重視の戦闘だからなー。一気呵成に攻め込もうとせず、慎重になりすぎているぜ」

「俺の仮想霊もすぐに打ち消されちゃって、無駄に消耗しちゃった感じだ」


 政馬、季里江、ジュデッカ、雅紀がそれぞれ言う。


「もうちょっと温存していたかったけど、切り札を出そうか。ジョーカーを切ろうか」

「応、連れてくるわ」


 政馬に促され、ジュデッカが移動する。


 やがてジュデッカが一人の白人少年を連れて戻ってきた。頭の所々が禿げ、右目が無い少年だ。

 この少年の名はティム・フォモール。スノーフレーク・ソサエティーのジョーカーとされている存在だ。


「カシムが死んじゃったなんて、哀しいヨ……。仇は討つカラ」

「あのね、ティム。仇は討たなくていいし、仇は討てないんだ。殺した奴は殺されているからね」


 ティムの言葉を聞き、政馬が苦笑気味に告げた。


「今更だけどさ、ガオケレナの乗っ取り、本当にうまくいくん?」

 季里江が疑問を口にする。


「やってみねーとわからねーけど、試してみる価値はあるさ」

「ボクとジュデッカで頑張ってみるヨ。安心しテ」


 ジュデッカが言い、ティムが笑顔で主張する。


「ティム、昔に比べると明るい性格になった? 政馬とジュデッカと……カシムにしか心開いてない感あったのに、今、あたしとも喋ってくれたし」

「ボクも悟ったカラ。いつまでも殻に籠っているのはよくナイ」


 不思議がる季里江に、ティムは笑顔のまま言った。


「ただ、ガオケレナの乗っ取りには、俺の持てる力全て使い切る必要があるぜ」


 と、ジュデッカ。


「じゃあティムとジュデッカは温存? この二人の力抜きで球場に突入するのは難しくない?」

「いや。ティムの力は絶対必要。ティムのキコルは、突破の鍵でもある。今だってそのためにここに連れてきたんだし」


 雅紀の問いに、政馬が答えた。


「途中までは戦うさ。ただ、ティムが殺されないようにしっかり護ってくれよ。俺はいい。自分の身は自分で護るからよ」


 ジュデッカが不敵に微笑みながら告げる。


「じゃあティム、よろしく」

「わかったヨ。来て、キコル」


 ティムが能力を発動させ、十字路の真ん中に巨大な物体が出現した。

 手足が付け根から無くて胴体と頭部だけしかない、醜悪な山羊頭の巨人が、横向きに寝そべっている。


「きゃああぁっ!」

「何ぞごれぇぇぅうえぅえぇ!?」

「溶けてい……やめ……」


 あちこちから悲鳴があがる。球場周囲に火潜んでいるサイキック・オフェンダー達が、次々と全身が赤く爛れて、赤ガム化していく。


「へへっ、壮観だな」


 民家の屋根の上に昇ってその光景を確認したジュデッカが笑う。


「いつも思うよ。君が味方でよかったよって」


 政馬がティムの頭を撫でて微笑みかける。ティムも政馬を見上げてにっこりと笑う。


「大分逃げたが、これで障害は無くなったようだぜ」


 屋根の上から降りてきたジュデッカが報告した。


「さて、これは絶好のチャンスだ。そして多分最後のチャンスだ」


 スノーフレーク・ソサエティーの仲間達を見渡し、政馬が告げる。


「一度は諦めかけた理想郷だけど、せっかくの好機だ。賭けに出る。世界を変革する砲台は利用させてもらうよ。撃ち出す砲弾は入れ替えるけどね。純粋な者だけが幸福の絶頂に浸り続ける世界を作る。不純、不潔、不浄の者はずっとずっと、永遠に、永久に、苦痛に喘ぎ、苦しみを力にして捧げ続けるんだ」

「こんなタイミングで演説するの?」


 心地よさそうに語りだす政馬に、富夜が呆れて突っ込む。


「勇気は怒ると思うんだけど平気なん?」

 季里江が問う。


「平気。大丈夫。問題無い。やり遂げてしまえば、世界を変えてしまえば、その後で順応してしまえば、多分勇気も忘れるし、怒りもそのうち覚めるよ」


 政馬が喋りながら、大通りに視線を向けた。大勢の老若男女が現れ、攻撃してきた。


「敵兵士が増えた。キコルの力は効いてないの?」

「効いてないみたイ。おかしイナ」


 物陰に隠れつつ、富夜とティムが不思議がる。


「近場に待機していた連中が出てきたな。しかし何でティムの能力が通じてないんだ?」


 訝るジュデッカ。


 二人の女性が、キコルに近付いていく。


「このデカブツの力かイな」

「そうみたいね。でもこれは私の力でも消せないわ」


 オキアミの反逆のナンバー2である中山エカチェリーナと、ボスである渦畑陽菜が、キコルを見上げている。


「赤い塊にされテもーた奴等は治せるん?」

「やってみる」


 エカチェリーナに問われ、陽菜は近くで赤ガム化している者達に近付く。するとあっさりと赤ガム化は解除され、元の人間に戻った。


「キャンセルゾーンに入れば元に戻せるみたい」

「よっしゃ、ほな片っ端から元ニ戻していき」


 キコルによって赤ガム化していく味方を陽菜が解除していく。


「おいおい、キコルの力が無効化されちまってるぜ」

 ジュデッカがその光景を見て舌を巻いた。


「そういう能力者がいても不思議じゃないけど、それにしてもいとも簡単に破ってくれたね」

「ううう……ボクは役立たずナノ? 哀しイヨ」

「そんなことないよ。ティムはまだまだ役に立てるから」


 顔を曇らせるティムの頭を撫でる政馬。


「ティムの能力を消している奴を探して仕留めればよくない?」

「さっきの女二人が怪しいな。ふー……俺も出し惜しみしている場合じゃなさそうだ」


 富夜が提案し、ジュデッカが溜息をついて槍をアポートした。


「あたしにはわかるじゃん。さっきの二人の女のうちの若い方よ。今見えなくなっているけど、正確な位置もわかる」

「よし、季里江は俺と一緒に来い」


 季里江が言うと、ジュデッカが季里江の方を向いて告げた。


***


 純子と霧崎と累は、球場近くのホテルの一室から、無数のホログラフィー・ディスプレイを投影し、球場周辺で繰り広げられている戦闘を見物していた。


「私の娘も来ているようだ。やれやれ」


 季里江の姿を見て、渋面になって肩をすくめる霧崎。


「季里江は改造手術とかされていないんですよね?」

「生来の能力だけだよ。あれは超常の力を持つ者を探れる。どんな能力かも多少はわかる。そして純粋に自身の肉体を強化する力も身に着けている。私は改造手術することも提案したが、物凄く嫌がった。自分の力だけで成長したいとのことだ」


 累が伺うと、霧崎は渋い表情のまま語る。


『改造なんかして無理矢理に進化しなくても、努力で成長する分でも強くなれる事を証明したい。そうすればこいつもそのうち改心する』


 以前、真に言われた台詞を思い出す純子。


 部屋の扉がノックされる。


「どーぞー」


 純子が声をかけると、扉が開き、蟻広と柚が現れた。


「うちのお師匠はどこ行ったんだ? 知らないか?」

「綾音に何か用なのですか?」


 蟻広が問うと、累が問い返す。


「俺は弟子だし、用があったら悪いのか? おまけに質問を質問で返す。師匠の親父といえど減点1だ」

「そういう言い方はしなくてもよいでしょう」


 蟻広の口振りに、少しむっとする累。


「連絡しても応じない。居場所もわからない。何か妙な胸騒ぎがするんだ」


 蟻広が不安げな表情を見せる。


「師を案ずる蟻広の気持ちを汲んであげて」

「おい、そういう言い方されるとハズいっ」


 柚の台詞を聞いて蟻広が狼狽する。


(やっぱりそうなのかなあ? そんな気配はしていたし、累君も何となく気付いているようだけど)


 累を一瞥して純子は疑念を抱く。


「球場とその周辺のホログラフィー・ディスプレイに、綾音ちゃんが映っていないか、私がチェックしてみるね。累君と霧崎教授は、外の援護してきてほしいなー」

「わかりました」

「承知した。あの子も来ているようだし、行ってくるか」


 純子に要請され、累と霧崎は立ち上がった。

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