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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3356/3386

3

 安楽市絶好町にある中枢施設の会議室に、真、新居、弦螺、沖田、エボニー、朱堂、宮国、シュシュの八名が集まっていた。PO対策機構のトップ達だ。


「ミルクは来ないのか?」

「気に入らない人がいるので出席したくないということでしゅ」


 真が誰とは無しに尋ねると、シュシュが答えた。


「よかったにゃー。あんなやつこにゃくていいにゃー」

「お前か」


 エボニーが小気味よさそうに言い、真はエボニーに視線を向けた。


「ていうか真がなんでここにいるにゃー」

「いたほうがいいだろ。現場組代表だ」


 不満げなエボニーに対し、真は淡々と告げる。


「世界中のフィクサーに連絡は入れています。しかしどこも協力を渋っているというが現状です」


 朱堂防衛事務次官が報告する。


「貸切油田屋と同じだろう。転烙市のオーバーテクノロジーを鼻先にぶら下げられちまったんだ」

「その貸切油田屋が一番マシだ。ある程度は協力する姿勢を示してくれている。ミサイルも撃ち込んでくれたし、月読の迎撃も試みている。結果は芳しくないがな」


 新居と沖田が言った。


「じかんもたりにゃーし、PO対策機構だけでどーにかしにゃいとあかんにゃー」


 と、エボニー。


 ふと新居は、裏通りに堕ちたばかりの十代の頃に、サイモンと共に、純子から聞かされた話を思い出していた。


『支配者層って、そんなに悪い人ばかりじゃないんだけどね。欲望を満たしきっちゃったか、あるいは最初から信念を持っていたのか、世界を良くしようと真剣に考えている人が結構いるんだよ』

『そのわりには世界の歴史を振り返れば、戦争ばかりでろくなことになってねーぞ。悪い奴等が私服を肥やしてばかりだし』


 純子の話が納得できず、新居は言い返した。


『全部が全部善人でもないってことだね』

 純子が悪戯っぽく笑う。


『例えばさ、宇宙人が攻めてきて、地球が大ビンチになったとしても、地球人類が一丸になってまとまって戦って、独立記念日だーなんていう展開、起こると思う? 私は無いと思う。宇宙人に攻められて地球が滅茶苦茶になった事も利用して、何とか自分が利益を得ようとする人が暗躍して、盛大に足を引っ張り合うよ』

『なるほどな』


 皮肉げに笑うサイモンを横目に見る新居。


『支配者層にいい人がいっぱいいても、一握りの欲の深い人達が欲をかいて動くだけで、わりと台無しにされちゃうんだよねえ』

(あの時純子が話していたのはこれか。そして純子はそれを知っているからこそ、その欲深い連中に甘い餌をちらつかせて利用し、自分を妨害してくる連中を妨害させているわけだ)


 全て符合する。辻褄が合う。道理が叶っている。改めてかつての師である純子に対し、畏怖と尊敬の念が新居の中で同時に沸き起こる。


「デビルは討伐できたが、奴の大暴れは深刻な被害をもたらした。おかげで士気はかなり下がっている。裏通りの強者達を主力として、安楽市民球場襲撃部隊の戦力も十分とは言えない」


 沖田が渋い顔になって報告する。


「何しろ敵は全員サイキック・オフェンダーだしねえ」

「雪岡に改造手術を受けている者もいそうだ」


 弦螺と真が言った。


「それ以前に放射線耐性の施術に手間がかかっているわ。最前線に投入できるのは、放射線耐性の施術を受けた者と、元々それらが施されている者だけ。時間がかかるので、選りすぐりの強者だけに絞っている有様だぜ」


 新居が言った。みどりから根人の作戦を聞かされた時、根人のプランに頼り切らないと言った原因はここにある。


「それでもデビルの無差別攻撃による戦力低下が、深刻である事は違いない」

「真の分際で俺と逆のこと言うのか? こいつは許せねーなー」


 真が主張すると、新居が微笑を浮かべて茶化す。


「作戦は二つ同時進行だ。一つは安楽市民球場襲撃。もう一つは根人による作戦。これらは両立できるし、どちらか片方を切り捨てる事も出来る。前者は放射線耐性の無い奴等で組織する」


 新居の見立てでは、同時に作戦を進行すれば、純子が狙ってくるのは根人による作戦を遂行する側だ。そちらは放射線耐性を備えた精鋭で組織すればよい。


「同時進行ですか?」

 宮国が確認する。


「そうだ。前者だけ通しても、ガオケレナは潰せないだろ。ガオケレナを破壊しようとすると、ガオケレナ自身によって妨害される。ガオケレナの力が途方も無くて、単純に破壊するのは難しい」


 と、新居。


「後者だけ通すことは出来るのですか?」

「もう一度球場内に入り、ガオケレナに根人の開発した薬品を打ち込むことはできる。二種類の薬品だ」


 宮国の疑問に対し、今度は真が答えた。


「種子の放出を遅らしぇる薬品と、止める薬品でしゅか。どうしてその二種類必要なのでしゅか?」

「あたまつかえだにゃー、あほくりおね。とめるくすりはこうかでるのがおそいからだにゃー」

「なんでしゅとーっ。ねこしゃん口悪すぎでしゅっ」


 エボニーが呆れて言うと、シュシュは両手をぐるぐる回してぷんぷん怒る。


「遅らせる薬品は効果が速いことと、高確率で効果が見込まれる。しかし遅らせただけでは意味が無い。止める方は効果が出る確率は六割程度だそうだ。そして効果が出るのが遅い可能性もあるらしい。当然だが止める方が本命だ」


 真が言ったその時、朱堂が電話を取った。沖田も電話を取る。


「安楽市民球場に、スノーフレーク・ソサエティーの襲撃があったという報が入りました」

「こちらも同じ報告だ」


 朱堂が淡々と報告し、沖田は嘆息しながら短く告げた。


「ここに来て勝手なことしくさりやがって。糞共が。こいつは許せねーなー」


 新居が毒づく。


「敵の戦力を削ぐのならいいけど、そういうつもりじゃないだろう。ガオケレナを利用しようとする腹積もりかな。政馬ならそれくらいは企てる」


 真が言う。


「スノーフレーク・ソサエティーの襲撃に合わせて、こちらも波状攻撃するというのは如何でしょう?」


 朱堂が提案する。


「悪くない手だ。準備は整っているしな。スノーフレーク・ソサエティーと、転烙ガーディアン及びオキアミの反逆、この両者の戦いが終わった直後に、勝った方に仕掛けるぞ」

「新居、それは無しで。もっといい方法があるんだ」


 新居が方針を決定しようとしたが、真が口を挟んだ。


***


「ヘーイ、熱次郎」


 雪岡研究所にて、みどりが熱次郎に声をかけた。


「あんたと……それとマコと会えて本当によかったよォ~」

「突然どうしたんだ? それって俺の前世がみどりと知り合いだったって話だよな?」


 唐突なみどりの台詞に、熱次郎は目をぱちくりとする。


「イェア、熱次郎とマコはさァ、みどりにとってとってもとっても大事な人だったからね。こうして生まれ変わりに会えたってだけで、凄く嬉しかったぜィ。一緒に過ごせたこともね。これも真兄と純姉の導きなんだよね」

「みどり?」


 言うだけ言うと、みどりは熱次郎の前から去っていった。


(何か様子が凄くおかしい……。真に話した方がいいのかな……?)


 熱次郎は思案する。


(いや、今は真の心を乱すようなことは言わない方がいい。第一、みどりも……真には言えないから、俺に言ってきたんじゃないか?)


 そう考えた時点で、熱次郎はみどりの真意を朧気ながらも察してしまった。

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