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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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39

 血まみれの真が通常空間に戻る。デビル討伐隊の面々がその姿を見て、一斉に駆け寄った。


(危なかった……。嘘鼠の魔法使い、御頭、この二人は再生能力が無いからな。この二人の状態で食らったダメージは、そのまま僕が引き継ぐし、獣之帝の再生能力は、獣之帝が食らった分しか治せないのか)


 今のデビルとの戦闘で、その事実を初めて知った真である。


「デビルは?」


 鈴音におぶさった状態の勇気が真っ先に尋ねた。自分の足では歩けないほど消耗している。


「確かに殺した。もう復活は出来ない。転生するまでは」

「御苦労だった」


 真の答えを聞き、勇気は労う一方で疑問も抱いていた。


(あのとんでもなくしつこくしぶといデビルが……本当に死んだのか? また出てくるんじゃないかと疑ってしまうな)


 だがその疑問はすぐに解消した。デビルの死体も通常空間に現れたからだ。


「確かに死んでいるね」

「ぐっぴゅー。やっっっっっとケリがついたぞー。デビルの死体はあたしが三体共全部回収するぞー。異論は許さんぞー」


 政馬がデビルの死体を見下ろして言い、史愉が鼻息を荒くして言い張った。


「お姉ちゃん……私の手で仇は討てなかったけど、あいつは死んだよ」


 鈴音がデビルの死体を見やり、虚しさでいっぱいの表情で呟く。


(あいつにどれだけ殺された? あいつはどれだけ悲劇をもたらした? もっと早めに殺しておけば、犠牲は少なくて済んだし、鈴音の身内が殺される事も無かったのに)


 鈴音の背に身を預けたまま、勇気は悔む。


 真が勇気を一瞥する。勇気の憔悴しきった青ざめた顔を見て、これは頼れないと判断する。


「伽耶、麻耶……回復を……。身体のあちこちが痛くてキツい……。骨も結構折れてるみたいだ」

「らじゃー」「あいあいさー」

「きずなおれー」「我が愛しき者を苦しめる傷よ、去ねよっ」


 真が頼むと、伽耶と麻耶が即興魔術で真のダメージを回復する。


「優もカケラもカシムも修も死んだのか」

「いや……僕は生きてるんだけど……。何で死んだことになってるの? 僕ってそんなに脆弱に見えてたの?」


 真の言葉を聞き、修が苦笑いを浮かべて主張する。


「お前、どうやってデビルにとどめをさしたんだ?」


 ジュデッカがやってきて、不審感を丸出しにして問う。


「企業秘密」

 真は答えない。


(真の秘密を知ってしまったが、たまげたな……。前世の中に、あの獣之帝がいたぞ)


 ミルクは閉鎖空間の中で起こったことを、全て見ていた。真が前世の力を使うことは知っていたが、獣之帝が真の前世とまでは知らなかった。


(これなら純子にも勝てるかもしれないな……)

 真を見て、ミルクは本気でそう思った。


「真先輩、おつかれさままま。いよいよ次は……」

「雪岡の前に、砲台――ガオケレナをどうにかしないとな」


 労ってくるツグミに、真は声をひそめて言う。


「真先輩と雪岡先生、元の鞘に収まるといいよね」

「必ずそうする。付き合わせて悪いな」


 ツグミ、伽耶、麻耶を見て、真は頭の中で微笑みかける。


「いいってことよー」

「よくないけど仕方ない」

「報われない愛の奴隷だから仕方ない」


 ツグミ、伽耶、麻耶がそれぞれ答える。


「厄介なデビルは討伐できたものの、疲れたわい」


 チロンが尻もちをついて扇子を仰ぐ。


「安楽市民球場に攻め込む前に休息が必要だぞー。ぐぴゅう。あたしはデビルの死体の回収が終わったらしばらく休むから、お前達は死ぬ気で働くがいいぞー」

「そうはいくか馬鹿。休憩はくれてやるが、事態の収束まで休日は無い」


 史愉が言うと、勇気が釘を刺した。


「もうあたしは……ぐぴゅぴゅ……しゃーない。放っておいたら純子の思い通りになっちゃいそうだし、それは癪だから、頑張るしかないッすね」


 反論しかけた史愉だが、すぐに考えを改める。


「良造さんの仇は討てたね」

 修が善治の側にやってきて声をかける。


「ああ……」

 うつむき加減になって消え入りそうな声を出す善治。


「そっとしておいてあげましょ」

 と、ふく。


「そうしてやりてーのも山々だが、あいつらが言ってたように、まだ終わっちゃいねーからな。ま、俺達に出番あるかどうか不明だけど」


 輝明が史愉と勇気の方を見て告げる。


「ふく~、頑張りましたね~。偉いですよ~。そうだ、御褒美に久しぶりにお食事に連れてってあげましょうか~」

「行かない」


 ふくの側に男治がやってきて、喜悦満面で声をかけるが、ふくはすげなくそっぽを向く。


(真兄、お疲れさまままま。こっちも一応進展あったぜィ)


 みどりから真の脳に直接連絡が入る。


(進展あったにして……浮かない感じだな)

 みどりの声音を聞き、真が訝る。


(根人達が方針を決めてきたんだけどさ……。まあ、それ聞いてちょっとね……。主要な連中連れてきてよォ。そこで話すわ)

(わかった)


 不穏な雰囲気はあったが、ここで不安がっても仕方がない。


(とうとうデビルも斃した。あとは……)

 真は純子のことを意識する。


(改めて考えると……酷い話だ。千年もの間、孤独の道を歩いてきた、あいつの積み重ねを、他ならぬ僕が潰そうとしているんだから)


 いずれにせよ、その後のケアは、自分がしっかりと努めるつもりでいる。


(あいつが諦めなかったように、僕も諦めないし、最後まで戦い通す。絶対に勝つ。あいつのやることを台無しにして、マッドサイエンティストもやめさせる)


 それは真が何度も心の中で強く決意してきた事だ。改めてここで決意する。


(そして僕が納得する形で、ハッピーエンドに収めてやる)


***


 純子は霊体が接近する気配を感じた。それが誰であるか、見なくてもわかった。


 純子の前に少年の霊が浮かび上がる。純子を見て微笑んでいる。純子も自然と微笑み返す。


「デビル……今度こそ本当に死んじゃったんだね」

『そのつもりで遊んだから何も悔いは無い。いっぱい殺して楽しかった』


 本当に楽しそうに言うデビル。


『真、強かった』

「真君にやられたんだ?」

『うん。君にも勝つかもね』

「あはは、俄然楽しみになってきたねえ」


 純子が笑う。楽しみになってきたという言葉は、余裕ぶっているわけではない。偽らざる本心だ。


『君が焼き尽くした世界を見てみたかった。もう少し君と一緒に遊んでいたかった。でも一人で突っ走ってはしゃぎすぎた。その結果がこれ』


 とはいえ、デビルに悔いは無い。やりたいようにやりつくしたのだから。


『僕のことは忘れ――』

「忘れないから。忘れるわけないし、忘却の力も私には効かないよ」


 屈託の無い笑顔のまま、純子はデビルの言葉を遮り、言い切る。


『僕はもう完全に死んでるし、使いたくても使えない』


 肩をすくめるデビル。何故か自分がその台詞を口にしようとした瞬間、強いデジャヴを覚えた。


「生まれ変わったらまた会いに来て。その時、敵でも味方でもいいから、会いに来て。百年後でも千年後でも、また会える時を待ってるよ」

『わかった。じゃあ……また……』


 純子の元を去ろうとして、ふとデビルは思い止まる。


『でも、生まれ変わっても、きっと僕はまた悪魔だ。またいっぱい悪さするし、またいっぱい殺す。めいいっぱい悪意を撒き散らす。悲劇と惨劇を生み続ける』

「いいんじゃない? それで」


 デビルの言葉に対し、純子はにっこりと笑った。


 デビルはそれ以上何も言わず、純子の前から姿を消す。


『睦月の方は、お別れを言いに行かなくていいのか?』


 冥界へと旅立つ間際、デビルの霊体を誘う犬飼の霊体が、声をかける。


『いい。もうそれは前に済ませたから』


 爽やかな表情でデビルは答え、犬飼と二人揃って、現世うつしよを後にした。



98 悪魔と遊ぼう 終

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