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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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37

 デビルの手駒は大分減ってきた。


「民主主義バンザーイ!」

「民主主義こそ絶対正義! 今こそ我等の手で暴君葛鬼勇気を討ち果たし、民主主義を取り戻すのだ!」

「専横政治に終焉を!」

「独裁政治に終止符を!」


 民主主義をリザレクションする会は残り四人しかいないが、この四人は士気が高く、しぶとく生き延び、自身を鼓舞するかのように、口々に理想を叫んでいた。


「何言ってるのよ、こいつら……。勇気はこの国をほぼ民主化に戻したし、ちゃんと国や国民のためを思って、いい政治していたじゃない!」


 鈴音が怒りと呆れの混じった声で叫ぶ。鈴音は叫ぶつもりは無かったが、興奮して思わず大声を出してしまっていた。


(どこが冷静なんだ。あっさり興奮して。後で罰だな)


 鈴音に視線を向け、溜息をつく勇気。


「ふざけるな! 独裁者としての席は手放さないでおきながら、何が民主化だ! その座を降りない限り、民主化とは言えん!」

「そうだそうだ! どんなに善政を執り行おうと、独裁者は絶対悪! どんなに腐敗した悪政だろうと、民主主義は絶対正義なの・ダー!」


 民主主義をリザレクションする会にも鈴音の声が聞こえて、鈴音の方を向いて叫び返していた。


「こいつら……絶対許せない! 殺しても飽き足らない! 魂を無間地獄に落として、永遠に苦しませたい! 死ね! 死んで地獄に落ちろ!」


 キレた鈴音が怒りに顔を歪めて喚き散らす。


「おい鈴音、何エキサイトしまくっているんだ。少し落ち着け。怒りや憎しみに捉われて戦うとろくな事が無いって、昔から言ってたし、高嶺流の妖術師だから平静を保てるって、いつもうそぶいてただろ」


 勇気がなだめにかかると、鈴音は勇気を睨んだ。


「うるさいっ! 勇気がそうやって甘やかすから全部悪いんだよ!」

「ええ……」

「それは理不尽だよ、鈴音」


 勇気に対してまでも怒鳴る鈴音。勇気は愕然として肩を落とし、政馬が苦笑いを浮かべている。


「ふー……」

「勇気、大丈夫?」


 虚脱した顔で溜息をつく勇気に、政馬が声をかける。


「俺、この戦いが終わったら、鈴音に折檻するんだ」


 勇気の冗談を聞いて、政馬は苦笑いを浮かべる。


「それ、いつもやってるよね? 勇気が冗談口にするって、大分キテるよね? ま、鈴音の気持ちもわかるけどね。デビルは許せないし許さない」


 カシムと優の亡骸を見やり、二人のデビルを睨み、政馬が呟く。


 様子を伺っていた史愉も参戦しだして、デビルの手駒である、民主主義をリザレクションする会の家族や、通行人達の人数が、少しずつ減っていく。


 民主主義をリザレクションする会は、執拗に勇気を狙っているが、鈴音、男治によって阻まれている。


「手の空いた奴、こっちの支援をしろ」

 勇気が声をかけた。


「おいおい、威張りん坊の支配者様よ、いつまでも虫如きに手間取って、あげくの果てに俺達に泣きつくのかよ」


 輝明が茶化しながらも、凍結符を五枚出して、巨大ミズカマキリに向けて放つ。


 五枚の凍結符は巨大ミズカマキリの足の一本に張り付くと、一気に力を解放して、足を凍らせた。


 大鬼が金棒を振るう。


 巨大ミズカマキリはこれまでのようにかわそうとしたものの、足が一本凍り付いていたために、うまく避ける事が出来ず、金棒の一撃を首に受けて、そのまま地面に叩き潰された。


 首が曲がった状態でじたばたと藻掻く巨大ミズカマキリだが、最早戦闘は出来ない状態だ。これがイメージ体ではなく、本当に生物であれば、あとは死ぬだけだろう。


「よくやった、チビハリネズミ。褒めてやる。喜ぶように」

「ケッ、どういたしましてだよ。口だけ達者な無能独裁者様」


 居丈高に称賛する勇気に、輝明が皮肉たっぷりに返す。


「ミズオ……俺の愛するミズオが……ううう……」


 巨大ミズカマキリの飼い主である民主主義をリザレクションする会のメンバーが、膝をついてさめざめと泣く。


「俺は……一体何をしていたんだ? ミズオは何故化け物にされて、殺されなくてはならなかったんだ?」


 天を仰ぎ、ミズオの飼い主が問いかける。やがて彼は憤怒の形相となった。


「何が……何が民主主義だっ! ミズオの方が民主主義なんかよりずっと大事だろうに! そんなもののためにミズオが殺される価値など無ァァァいッ!」


 ミズオの飼い主の絶叫を聞き、他の民主主義をリザレクションする会のメンバーは、一斉に冷たい視線をミズオの飼い主に向ける。


「民主主義を侮辱したな? 許せない……」

「裏切者は総括だ……。粛清だ……」

「これが民主主義の一撃ィィィーッ!」

「げあああっ!」


 残った仲間達三名が一斉にミズオの飼い主を攻撃し、ミズオの飼い主は悲鳴をあげて崩れ落ちた。


「ぐぴゅう……何だあいつら。同士討ち始めたぞ」

「総括って、民主主義と真逆の思想の活動家がするものですけどね~」

「わけがわかんないけど、とにかく嫌な感じ」


 史愉、男治、鈴音が呆れながら言う。


「ぐぴゅう。明らかにこちらが勝つ流れになってるぞー」

「あとはね、このまま転移で逃げられる前に、とどめをさすだけだよね」


 史愉と政馬が全体を見渡して言うが、デビルはまだ二人共残っている。


(ミルク次第じゃのー。しかしそろそろ結界を築いてもよい頃じゃが……その気配が無い。あ奴は何をしとるんじゃ?)


 前線でデビルの手駒と交戦しながらチロンは思う


 ミルクは真の頼みで、意図的に結界の製作を遅らせているが、チロン達はそれを知る由も無かった。


「もういつ転移して逃げるかわからないけど、これ以上待っていられないよ。手加減しているようじゃ、犠牲が増える」


 政馬が言い、ジュデッカと交戦しているデビルを見据えた。これ以上スノーフレーク・ソサエティーの同胞を失いたくない。


「ヤマ・アプリ、電気椅子」


 政馬がデビルに対して攻撃する。

 全身に電撃を受け、デビルはばったりと倒れる。まだ死んだわけではないが、痺れて動けなくなった。


 元々ジュデッカと延々と戦い続けていたため、このデビルはそれなりに消耗していた。そこに政馬の不意打ちがクリーンヒットした形だ。


(全力でとどめをさす。散々暴れて、勇気を、鈴音を苦しませて、僕の仲間を殺して……仇を討ってやる!)


 倒れたデビルを睨み、殺意を膨らませる政馬。


「ヤマ・アプリ、八大地獄モード。無間地獄」


 デビルの全ての罪業を使い、フルパワーでヤマ・アプリを発動させた。


 ありとあらゆる不可視の攻撃が、倒れているデビルを襲う。電撃を浴びた影響で、体をゾル化する事も、転移する事も出来ない。一方的に体細胞を削られ続け、やがてデビルの肉体は消滅した。


(政馬のあの能力は僕の天敵。決戦前に全力で仕留めておくべきだった。ま、もう後の祭り)


 最後に残ったデビルが政馬を見て思う。


「疲れた……。もう後は救護班に回る」

「僕ももう限界……」


 勇気が大鬼を消して告げ、政馬もその場に尻もちをつく。


 残った民主主義をリザレクションする会のメンバーも、善治、修、バイパー、チロンによって掃討された。


「残すはお前だけだぜ」


 ジュデッカが残ったデビルを見て言うが、荒い息をついている。ジュデッカも延々と最初のデビルと戦い続けていたので、疲労気味だ。


(だから~……この状況不味いっスよー。転移で逃がさないための結界を築く前に、デビルを追い詰めたら、逃げられちゃうだけだぞー)


 史愉が焦燥感に駆られる。これだけの御膳立てをして、犠牲を出して、それでまたデビルに逃げられたとあっては、話にならない。


「殺せたの、たった三人。がっかりな結果」


 デビルが溜息をつくが、政馬は戦闘が継続できないほど疲弊しているし、勇気とジュデッカも消耗が激しい。他の面々も決して元気ではない。


(これだけの面子を相手にして、この子のこの奮闘っぷりは、見事と褒めてあげたい所ですね)


 デビルを見て男治が思ったその時だった。デビルの周囲の空間が大きく歪んだ。


 デビルの体が空間の歪みに捉われる。別の空間へと引きずり込まれていく。


「逃げられた?」


 絶望的な顔になって呟く善治。これで全ておじゃんになってしまったと思ってしまった。


『違う。これでいいんだ。あいつを捕えた』

 ミルクがやってきて告げた。


「捕えた? どういうことだ?」

 バイパーが尋ねる。


『転移封じの結界を張るだけじゃなく、特殊な亜空間に引きずり込んだ。両方築くために、時間がかかってしまったのですよ』

「予定とちょっと違うんじゃない?」


 ミルクの話を聞いて、ふくが言った。


『お前達に内緒で予定変更した。真のプランなんだ。私が結界を構築し、ツグミがデビルを絵の中の世界に引きずり込んだ』

「それさ、つまりさ、真がデビルの相手を務めるつもりかな?」


 ミルクの話を聞いて、へたりこんだままの政馬が言った直後――


「危ね――」

「ちょっ……!」


 飛来してくるものに気付いたジュデッカと男治が声をあげる。他にも、史愉とバイパーと修も気付いたが、どうにもできなかった。


 大きな何かが飛んできた。落下してきた。地面に突き刺さった。

 巨大な鎌のようなものだった。ミルクの話に気を取られている最中で、反応できた者は半数もいなかった。

 勇気と鈴音も反応できなかった。鎌は勇気を狙っていた。勇気の首が鎌によって切断され、地面を転がった。そのはずみに、眼鏡も外れて落ちた。


「ミズオ……の仇……討ってやった……。ざまあみろ……ごぼっ……」


 仲間達に殺されたと思われたミズオの飼い主が、血塗れで倒れたまま嗤い、口から血を吐き出すと、今度こそ息絶えた。最期の力を振り絞り、ミズオの鎌を切断して、勇気を攻撃したのだ。


「勇気……」


 倒れた首無しの勇気と、転がる勇気の頭を見下ろし、鈴音が呆然とした顔で震える。


「嘘……でしょ……」


 鈴音の視界が歪む。ショックが凄まじすぎて、気絶しそうになる。一切の音も消える。世界から遮断される。


 今、目の前で勇気が死んだ。殺された。その現実が受け入れられない。しかし一方で鈴音は、幼少時からの戦闘者との教育によって、その現実を受け入れてもいた。

 例え家族が殺されても平静を保つようにと教育された鈴音であったが、勇気の死に関しては、無理だった。精神のコントロールが全く効かない。


「勇気、大丈夫?」


 政馬が声をかける。政馬は気付いていた。他の者達も何人かは気付いている。勇気の首の切断面から、血がほとんど流れていない。今はもう出血が完全に停まっている。


「だ……大丈夫だ……。ぎりぎりだったけどな……」


 首だけの勇気が口を開く。首を斬られたその瞬間、癒しの大鬼の力を発動させて、命を繋ぎ止めたのだ。


「どうしてよ……勇気……」


 しかし鈴音は気付いていない。勇気の声も聞こえず、天を仰いで自分の世界に入っていた。ぽろぽろと涙を流す。


「誰よりも優しくて、いつも自分を犠牲にして、他人のことばかり助けようとしていた勇気が、何でこんな最期を迎えなくちゃならないの!」


 悲しみや喪失感を覚えると同時に、それよりはるかに激しい怒りを爆発させる。それは鈴音がずっと以前から抱いていた感情だ。故に、勇気が死んだと思い込んだ事が引き金になって、爆発してしまった。


「政馬……知ってた? 私って痛いと気持ちいい変態さんなんだよ。でも……この心の痛みは全然気持ちよくない。気持ちよくないけど、この耐えがたい痛みは……私の能力がちゃんと作用してる。無限の痛みが、無限の力を引き出してくれる!」

「う、うん……知ってたけどさ……。その……勇気は生きてるから……」


 瞋恚に燃える鈴音を見て、政馬がたじろぐ。


「いいよ、政馬。鈴音の闇堕ちの場面を見物しておこう。こんな面白いものは中々見られないぞ」


 首と胴を繋げて身を起こしつつ、勇気が告げた。


「もういい……。勇気は間違っていた。こんな世界、護る価値なんて無いのに、護ろうとして、あげく私を置いて死んじゃった。世界に……殺された。やっぱり……綺麗な者だけ残して、他の汚物は全部消し去るっていう……政馬の考えが正しかったんだ。私も……政馬と同じ道を歩む。勇気は政馬を間違っていると言った。でも私は、その間違った道に進んでやる! 悪になってやるっ! 政馬と一緒に悪になってやる!」

「あのさ……僕、自分を悪だと思ってないけど……」


 絶叫して宣言する鈴音に、政馬は思わず突っ込む


「勇気は政馬よりずっと間違っていたんだよ! 私も政馬と一緒に、世界を浄化してやる! この世の醜い奴等を全部滅ぼしてや……え?」


 世界粛清宣言をしている最中で、鈴音は呆気に取られた。首と胴体が繋がった勇気が公園の芝生に座って、史愉に渡された眼鏡をかけ直している姿が、鈴音の視界に飛び込んできた。


「ぐぴゅう、面白い演説だったぞー」

「ちょっと嬉しかったけど複雑な気分だよ」

「大魔王誕生の瞬間を見た気分だぜ」

「でもその大魔王、一分も経たずに滅んだみてーだけどなー」


 史愉、政馬、バイパー、ジュデッカがくすくすと笑っている。


「えっと……あの……その……どうして……その……あああ、勇気っ、生きててよがっばはぁっ」


 抱き着こうとしてきた鈴音の顔を、勇気が平手で押さえて制する。


「うわーんっ! 今の無しっ!。ちょっと勘違いしただけなのーっ!」

「今更取り繕っても無駄だ。馬鹿鈴音。一人で勝手に暗黒面に堕ちて、世界浄化でも世界征服でも好きにやればいい。俺とはもうお別れだな」

「勇気が生きてたからノーカンだからっ!」


 冷たく言い放つ勇気に、鈴音が縋りつく。しかし今度は、勇気は鈴音を拒まなかった。いや、拒めなかった。


「駄目だ。立てない……。これは一気に消耗した……。もう……体に力が全く入らない」


 勇気が力無く言い、体を傾げた。鈴音が勇気の体を抱きとめる格好となる。


「話を元に戻しましょうよ~。デビルをどうするというんですか~?」


 男治がミルクを見る。


『真が相手をする。そういう手筈で進めていた。真の作戦でな』

「ふざけんじゃねーぞー……あたしらに先に戦わせておいて、デビルが消耗してからとどめだけ頂きとか、姑息にも程があるぞー」


 ミルクの言葉を聞き、史愉が仏頂面になる。


「真にデビルを倒せるのかな?」

『それだけの力があるんだよ。純子にも挑もうって奴なんだぞ』


 修が疑問を口にすると、ミルクが言い切った。ミルクは真から直接、真がどのような力を持っているか聞いている。


「デビル……あいつは……俺がとどめをさして、決着をつけてやりたかったけどな。仕方ない。真に譲る」


 勇気が大きく息を吐いて言った。

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