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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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33

 一夜明けた午前九時。勇気の元に政馬から電話がかかってきた。


『勇気、今日もデビル討伐隊に僕も混ぜてよ。ジュデッカとカシムも混ぜて』

「別にいいが……あいつは掻きまわすだけ掻きまわして、いつもいつも逃げのびている。いい加減うんざりだ」


 本当にうんざりした口調で言う勇気。


『こころにデビルの場所の特定を頼んだよ。前回だってデビルのいる場所占って当てたのは、こころだしね』

「便利で頼もしくて恐ろしい奴だな」

『本人曰く所詮は占いだから、当たるとは限らないと、いつもね、しょっちゅうね、言われてるけどね。実際外れたこともあるし、敵が意識して防御している時にはわからないらしいけど、それにしても当たる方が多いよ。的中率高いから頼りになるよ』

「まあ、デビルの動きはあの糞猫がマーキングしてあるから、こころが占ってくれなくてもわかるだろ」

『あのね、僕はミルクなんて信じてないんだよね。じゃあ』


 勇気の口からミルクの名が出て、政馬は一転して機嫌が悪くなり、電話を切った。


「態度の悪い奴だ。会ったら罰だな」

 勇気も機嫌を悪くする。


「こころは……悪い予感はしていないのかな?」

「何を言ってるんだ?」


 鈴音の脈絡の無い台詞に、訝る勇気。


「私、凄く嫌な予感がする……」

「お前の予感なんてあてにならない」

「そうやっていつも私のこと馬鹿にして……。真面目な話をしている時まで馬鹿にしないでよ」

「馬鹿にしているんじゃない。不吉なこと言われていい気はしないし、真に受けたくもないんだ。俺に死相が見えるのか?」

「見えてない。でも、直前に見えることもあるし」

「ふーむ……」


 不安げな鈴音を見たまま、勇気は思案する。


(そう言えば占い師のおっさんも不吉なことを言ってたな)

 ふと、時計を見やる勇気。


「残りは30~42時間か……。本当に世界が変わるのか?」


 ガオケレナの言葉を鵜呑みにするなら、その時間までに有効な手を打たないと、世界は再び激変するという。勇気は前回の当事者であるが、それでもいまいち現実味を覚えなかった。


「失敗しても、世界が終わるわけでもないんだよね? 混乱はあるだろうけど」

「何が言いたい?」


 問う勇気だが、鈴音が何を言いたいか、実は何となく察しがついている。


「勇気が、政馬が、命懸けで阻止する価値なんてあるの?」

「今日は随分とネガティブだし、くどいな」

「ずっと疑問に思っていることだよ。何度か……勇気にも言ったよ」


 鈴音が怒ったような口振りで訴える。


「勇気はいつも他人のためにばかり……自分を犠牲にしてさ。今回はそれがいつもよりキンチョだよ」

「顕著だろ。キンチョって何だよ、馬鹿鈴音。ガキンチョの亜種か」


 毒づいてから、勇気は吐息をつく。


「お前の言いたいこともわかるけど、ここで動かないで、後で嫌なものを見る方が、俺にはよほど辛いんだよ」

「……」


 真顔で口にした勇気の台詞に対し、鈴音は何も言えなくなった。そのことも、鈴音は承知している。わかっていてなお、感情では納得しきれない。


***


 デビルと凡美は純子と同じホテルに泊まっている。


「まだ出ないの?」

 凡美がデビルの部屋を訪れ、声をかける。


「作戦を練っていた」


 椅子に座ったまま、凡美に目を向ける事も無く、デビルは口を開いた。


「どうも……彼等は僕の居場所を探れるみたい。前もって出現場所がわかる予知能力もある? だったら……それを逆手に取る」

「罠を張って待ち構えるつもり?」

「そういうこと。いっぱい殺せるように。少しでも戦力を削ぐために。純子の敵を少しでも排除する」


 何故か嬉しそうに微笑みながら言うデビルを見て、凡美も相好を崩す。


「あなた……そんなに純子のこと好きなんだ」

「そういう方向の話を振られたくない」


 凡美の台詞に、デビルはむっとした顔になった凡美を見上げる。


「ごめんね」

「そういうのはいらない。一緒にいて楽しいかどうか。犬飼だってそうだった。マッドサイエンティストが悪魔と一緒に、世界を焼き尽くす遊びを楽しむだけ」

(露悪が過ぎても痛々しい。でも、デビルからそれを取ったら何も残らないわよね。それに……)


 デビルを見て、凡美は思う。


「世界を焼き尽くせって、いい響きの呪文ね」

 これは凡美の本心だった。心惹かれる台詞だ。


「最高の言霊」


 デビルが言い、ホログラフィー・ディスプレイに地図を投影する。安楽市絶好町が映し出されている。


「誘き寄せるのはここがいいかな」

 デビルが地図の一角を指した。


「安楽大将の森。夜になると裏通りの住人がよく抗争していた、あの悪名高い公園ね」

「でもやるのは夜じゃない。今からだから」


 デビルが立ち上がる。


「勤一も一緒ならよかった」

「そうね。でもきっとあっちから見守ってくれてるわ」


 デビルの言葉を聞き、凡美は嬉しさと寂しさが同時に沸き起こる。


「神様は私達のような悪人を、きっと見捨ててる。その代わり、私達には悪魔がついている」


 冗談のようでいて、かなり本気で、凡美はそのような台詞を口にする。


「悪魔は世界を蝕む。人の心を、命を弄ぶ。人の法にも神の法にも逆らう」

「いいわね、それ。この世界は……一見美しいこの風景は――」


 窓の側に移動し、町の景色を見ながら喋る凡美。


「この世界は、綺麗に飾っただけのハリボテよ。表面だけ良く見えても、一皮剥けば、そこにあるのは腐ったゴミと糞の塊。私も、私の息子も、勤一君も、サイキック・オフェンダーになった人達も、みんなみんな、糞と生ゴミの中に巣食う蛆虫の奴等に……いじめられてきた……」


 途中で悔しげな口調へと変わり、凡美はデビルの方に振り返った。


「だからさ…、焼き尽くせるものなら焼き尽くしてよ。デビル。世界を焼き尽くして」

「僕はその手伝いをするだけ。無意味な手伝い。不要な露払い。僕の一人満足。でも僕にとっては重要なこと。世界を焼き尽くすのは、純子がやってくれる」


 快い笑顔で、しかし瞳に暗い輝きを宿して訴える凡美に対し、デビルは淡々と告げる。


「でも、この世界が生ゴミは言い得て妙。気にいったよ」


 淡々と告げた後で、デビルは小さく微笑んだ。


***


 安楽市絶好町繁華街の裏道。褥通りと呼ばれる地域がある。裏通りの住人だけが足を踏み入れる危険地帯で、店舗も裏通り向けのものばかりだ。


 デビル討伐隊は、その褥通りに集結していた。真、伽耶、麻耶、ツグミの四名は、一番遅くにやってきた。すでに現地には、ミルク、バイパー、史愉、チロン、男治、勇気、鈴音、政馬、ジュデッカ、カシム、優、カケラ、輝明、修、ふく、善治がいる。


 何故彼等が褥通りにいるのかと言えば、こころの占いで、デビルがこの場所に訪れるというので、待ち伏せするためにだ。


「よう」

 真が勇気に向かって短く声をかける。


「応」

 いつも通り短く返す勇気。


「少数精鋭じゃなかったのか? 随分大所帯じゃないか」

「俺もそう聞いたから、この人数には面食らっている」


 真が問うと、勇気は眼鏡に手をかけながら渋面で答えた。


「ぐぴゅう、奴と交戦してみろっての。とんでもなくヤバい奴だぞ。確実に仕留めるにはこれくらいいた方がいいぞ」

「ケッ、この前と逆のこと言ってねーか? この眼鏡白衣は」


 史愉が言うと、輝明が揶揄気味に突っ込んだ。


「おいチビハリネズミ、お前が果たして役に立つのか? 足手まといになりそうな奴は、ここで除外した方がいい」

「ケッ、何度もデビルを取り逃している腐れ無能国家元首様が、何かぬかしてるぜ?」


 勇気が輝明に向かって威圧的な口調で告げると、輝明が笑いながら嫌味たっぷりに返す。


「えっとですねえ、喧嘩はやめましょうねえ。星炭流の術師――それも当主である輝明君が来たとあれば、頼もしいですよ~」


 男治がなだめにかかる。


『熱次郎は?』

 伽耶と麻耶が口を揃えて尋ねる。


「あいつは留守番。みどりの補佐をしてもらっている」

 真が答えた。


『私と何人かは奴の転移による逃走を防ぐ役割を担ってもらうぞ。転移封じの結界を張るからな』


 バイパーの持つバスケットの中のミルクが、有無を言わせぬ口調で言った。


「それ、うちのツグミに協力させてくれないか」

「え? 私が」


 真がツグミを推薦し、ツグミはきょとんとした顔で己を指す。


「ミルクとツグミだけじゃなく、伽耶と麻耶も含めた四人に頼みたい」

『何か考える所があるようだが、聞かせてもらおうか』

「他には知られたくないことだ」


 真がバイパーの元に近付いていき、身をかがめてバスケットに顔を寄せる。


「おいおい、ここに来て内緒話かよ」

 バイパーがからかう。


「ツグミは絵の中に他者を封じる力と、絵を現実に被せる力がある。累から習ったものだが……。どちらでもいいから、その力でデビルを別の空間に一時的に閉じ込めてくれ。その空間に入れた時点で、ミルクの力で、そこから転移して逃れられないようにしてほしいんだ。伽耶と麻耶は、ツグミとミルクの力添えを頼む」


 囁き声でミルクに語り掛ける真。


『デビルを閉鎖空間に送る意図を教えろ。ただ逃走を防ぐだけじゃないと見た』

「僕がその隔絶された空間の中で、デビルをやっつける。多分、僕には出来る。しかし僕の力を他に見られたくない」

『お前の力って何だ?』

「そこまで教える必要あるのか?」

『当たり前ですよヴォケガ。そこが一番肝心だろう』


 ミルクに罵られ、仕方なく真は、自分のプランと秘密の能力を全て伝えた。


「……の力でやっつける。僕なら勝てると思う」


 真はミルクへの印象はあまりよろしくない。ファーストコンタクトの際に悪い印象を植え付けられている。しかしわりと義理堅い一面もある事は知っていたため、全て打ち明けた。バイパーとの繋がりがあるという面でも、信じていいと思えた。


『なるほど。わかった。確かにそれは、人前で言うのは躊躇われるし……そいつを私に話したからには……うん。秘密は守ってやるです。私は口が堅いから安心しろ』


 ミルクが真面目な口調で言う。


『しかし気になる発言があったな』

 不審がる声を発するミルク。


『やっつける……ってのは何だ? 真、私の知るお前なら、そこで殺すと断言しそうなもんですよ。お前もしかして、デビルを殺したくないのか? 自分の持つ秘密の力を隠しておきたいという理由だけじゃなくて、負かしたうえで、デビルの命も助けようとしていないか?』

「意外と鋭いんだな」

『何が意外と、だ。そんなことしたらお前はド顰蹙どころじゃすまないぞ。デビルがどれだけPO対策機構の者を殺しているか、知っているだろう』

「わかった。ちゃんと殺すよ」


 非難気味のミルクに、真は告げた。


「それと、実行するのはデビルがある程度弱ってからだ」

『お前もいい根性してやがるな。美味しい所だけ頂きですか』

「合理的だろ」


 真がバスケットから顔を放して立ち上がる。


「相沢とこそこそ内緒話とは、変わった組み合わせだったな」


 バイパーが垂れてきた前髪を払いつつ、おかしそうに声をかける。


『あいつはいつだって鍵を握っている。あるいは握ろうとする。だから私のような強者とも接近する。最初に会った時からそういう奴でしたよっと』


 そこまで喋ってから、ミルクははっとする。


『デビルが移動している。近いぞ』

 全員に聞こえる音量で、ミルクが報告する。


「こっちに来るのか?」

 チロンが尋ねる。


『いや、反対方向に行っている。停まった。これは安楽大将の森ですよっと』


 と、ミルク。


「褥通りに来るって話じゃなかったのか?」

「こころの占いもたまには外れるよ。でも近いからいいじゃない」


 勇気が政馬の方を向いて尋ねると、政馬は微苦笑を浮かべて言った。

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