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デビル討伐チームは輸送ヘリで飛び立ったが、勇気と鈴音と政馬は別行動をとった。政馬がグリムペニスの者達と距離を置きたがっていたからだ。それに勇気と鈴音も付き合った格好である。
「で、ハリネズミ頭のピアスチビも討伐隊に加わる流れになったな」
と、勇気。言うまでもなく、輝明のことを指している。
「そうなったね。彼の一族が被害甚大だったしね」
「もう少し早く着けばよかったのにね」
政馬と鈴音が言った。
「俺の手であいつに確実なとどめをさしてやりたいが……執着するのも危険だな」
勇気が鈴音を見る。
「私は大丈夫だよ、勇気。感情に任せて動いてヘマしない」
「ああ、あいつはそれを狙ってくるからな。抑えろよ。そんなくだらない手にかかって殺されたら、鈴音、俺はお前を絶対許さないぞ。文字通り死んでも許さない」
「わかってる。大丈夫だってば」
心配して念押しする勇気に、鈴音はうるさそうに唇を尖らす。
(何のかんの言って、勇気は鈴音のことを気にかけているよね。僕が入る隙間なんて無い、か)
二人のやり取りを見て、政馬は少し寂しい気分になった。
***
輝明、ふく、修、善治は輸送ヘリに乗り、グリムペニス日本支部ビルを訪れた。ビル一階にある喫茶店で、四人は待機している。
「君達は放射線耐性をつける処置をするぞ。術を使って疲労した分も回復するぞ」
史愉にそう言われ、四人はグリムペニス日本支部ビルに連れてこられた。他の面々も回復させる必要があるとのことだ。特に使用滅視線を全開で使用した優は消耗が激しい。
「ゲームの宿屋か。昔は雪岡研究所がそうだったね」
「ケッ、以前はよく純子の所で世話になったな」
修と輝明が言う。
「その純子と今は相対しちまっている。皮、肉な話だ。そして今は、あの変なキャラ作ってる頭悪そうな眼鏡白衣のボサ頭の言いなりかよ。あいつは何であんなえらそーな態度なんだ? おまけに勇気のアホまでいやがるし、PO対策機構ってカスの巣窟かよ」
「偉そうな態度はテルも人のこと言えないでしょ」
ぶつくさと不満を口にする輝明に、ふくが突っ込んだ。
「善治を連れてきて本当によかったの?」
本人を前にして、ふくが確認を取る。善治は無言でうつむいている。
「こいつだって星炭の術師だ。ちゃんと覚悟はしているだろ。俺達は同胞を失うなんてしょっちゅうだ。仲の良かった奴が見えない所で死んじまったとか……な」
暗い面持ちになって輝明が言った。
「テルや修は、そんな生き方でいいの? 子供の頃から、誰かのために、いつ死ぬかもわからない危険な任務をこなすなんて」
「俺達はそういう世界でしか生きられないし、俺は星炭の皆を見捨てたくもねーから、この生き方をやめる気にもなれねーよ。ババアだって、星炭の任務をこなしながら俺を育ててくれたのによー」
「僕も似たようなものかな」
ふくの質問に、輝明と修が答える。
(俺は……覚悟……していたつもりで、出来ていなかったんじゃないかな? こんなに心が痛んで……辛くて……。情けない)
善治は無言のまま、自嘲する。
(情けないけど、へこんでいるけど……俺も死ぬまで星炭の妖術師として戦う。それだけはやめない。覚悟なんてしてなくてもいい。そもそも覚悟って何だって話だけど)
覚悟を決めながら、覚悟を放棄し、覚悟に疑問を抱く善治だった。
***
夜。デビルは純子と共に夕食を取っていた。夕食は純子が作ったものだ。
デビルは無我夢中が食事を食べている。かなりの量を食べることは知っているので、純子も多めに作っている。あまりマナーがいいとは言えない食べ方だったが、その食いっぷりは見ていて気持ちがよかった。
「どう、美味しい?」
ニコニコ笑いながら尋ねる純子。
「美味しい。料理自体、あまり食べたことがない」
デビルが答える。
「百合ちゃんの所では食べさせてもらわなかったの?」
「嫌がらせのつもりなのか、腐った蛙とか干からびたミミズとか、そういうのばかり食べさせられていた」
「そ、そっか……。それ以外は?」
デビルの答えを聞いて引き気味になる純子。
「店で盗んだものを適当に」
「そ、そっか……」
「純子はいつも自分で料理を?」
「そうだよー。お料理は好きだし」
「マッドサイエンティストに作って貰った料理を美味しく頂く悪魔……って変な構図。でも面白い。美味しい」
喋りながら料理を口に運んでいく最中、デビルはふと思う。
「真にも料理作って食べさせていた?」
思ったことをそのまま口に出して尋ねる。
「うん。一緒に暮らしていた時はねー」
「真が羨ましい。ちょっと妬ましい」
「おおー、デビルにもそういう感情あったんだねえ」
デビルのその台詞を聞いて、純子はやたら嬉しそうな笑顔になる。
「嫉妬は見苦しいから出来るだけ抑えている。それに……真だとあまり嫉妬は湧かないかな」
「どうして?」
「真のことは認めているし、好意を抱いているから」
ストレートに答えるデビル。
「ふむむむ、そう言えばそうだったねえ」
頭の中でわからぬ方に繋げる純子。
「でも全く無いわけでもない。真にはむっとする事も色々ある。君と敵対している事が特に」
「まあまあ……それも遊びの一環だよ」
「わかっている。でも僕には理解できないし、したくもない。だからこそ純子についたんだ」
「なるるる」
納得しつつ、純子は裸淫をチェックする。
「凡美さんも誘ったんだけどなー。流石に今はキツいかー」
「凡美は食事も喉を通らない。ずっと落ち込んでいる。今はそっとしておいた方がいい」
「おおー、デビルも友達を気遣えるんだね。ああ、それは前世でもわりとそうだったかな」
「凡美はもう死ぬしかない。死ぬまで遊ばせて、勤一の所に行かせるよ。でも今日はもう疲れているし、ゆっくり休ませる。明日思いっきり遊ばせる」
デビルらしい気遣いだと思い、純子はおかしくて微笑んでしまった。
「PO対策機構、僕が攻めまくったせいか、ここには攻めてはこない?」
デビルが疑問を口にする。もしそうであれば、自分の行動に大きな意義があると感じられる。
「んー……それ、ちょっと謎かなあ。いくらデビルが掻きまわしているにしても、ガオケレナ――アルラウネ砲台が急成長しているのに、それに対して何もしようとしないんだよねえ。最初にミサイル飛ばしてきたけど、それっきりだし、動きが無さすぎて不思議だよ」
「何かを企んで、陰で動いている?」
「そう勘繰っちゃうよねえ」
二人が話していると、部屋の扉が開き、凡美が入ってきた。
「あ、凡美さん来た」
表情を輝かす純子。
「明日のために、御飯をちゃんと食べておくことにしたわ。世界を焼き尽くすマッドサイエンティスト様の料理を御馳走になったって、地獄で話のネタにも出来そうだしね」
冗談を口にする凡美だが、冗談が言える程元気になったというわけではない。心の平衡を保つため、無理矢理冗談を口にしている。
「ごちそうさま……」
「相変わらず大食漢」
デビルの食事の後を見て、凡美が呟く。
(ごちそうさま、か。この台詞、口にしたのは何年ぶり? まだ家出してない時か。あ……これ……)
ふとデビルは、接近する複数の気配に気付いた。
(あいつらまだ生きてたか)
向かってくる気配が何者かはわかっている。それらはデビルが目的でここに来たのだが、デビルにとって敵ではない。行き場を失くして、デビルの元に来たと思われる。
デビルが席を立つ。
「どこ行くの?」
「野暮用」
尋ねる純子に短く答えて、そのまま部屋の外に出ようとしたデビルであったが、ふと足を止めて振り返った。
「純子、手っ取り早く強化できる類の薬を複数欲しい。僕が使うのではないから、長くもたなくてもいい」
「わかったー」
デビルの要望に二つ返事で応じる純子。
「それと薬をうった奴を従わせる薬はある?」
「それ、デビルの能力では駄目なの?」
「僕一人でやるのは面倒。複数いるし分散しているから」
「わかったー」
納得して立ち上がる純子。
(つかさー、純子は一体どういうつもりなんだ? ずっとデビルとイチャついてんぞ……。真に対する当てつけか? それとも真と三角関係になりたいのか? それとも逆ハーでも狙ってるのか?)
デビルの斜め上後方にいる犬飼が、純子の斜め上後方にいるヴァンダムに話しかける。
(美少年ハーレムを作りたいと公言して憚っていないぞ)
(マジで~?)
ヴァンダムの言葉を聞いて、犬飼は呆れ声をあげた。もちろん肉声ではない。霊と、霊能力のある者にしか聞こえない声だ。
***
午後七時の雪岡研究所。
真は熱次郎とみどりと同じ部屋にいた。伽耶、麻耶、ツグミは家に帰している。
みどりは協力してくれそうな根人を見つけるため、未だ精神世界を探査中だ。
「新居に催促されまくりだ。まあ無理もないけど」
小さく息を吐く真。
「俺達はデビル討伐隊に加わらなくていいのか?」
熱次郎が問う。
「機会があったら手出しをしてもいいが、僕達が有る意味一番、雪岡の目的を防ぐのに近い位置にいる。デビル相手に戦闘は、極力任せておいた方がいい」
自分が手を出す事なく、誰かがデビルを斃してくれることに期待している真であった。今のデビルと戦うとあれば、真は前世の力をフルパワーで呼び出さなくてはならないと見ている。そしてそれを誰にも知られない状況で行わなければならない。
「きたぁぁぁぁっ! あばばばばば、やっときたぜィ!」
突然みどりが喜色満面になって歓声をあげた。
「ガオケレナを止めることに賛同してくれる根人いたぁぁぁ! イェアアッ!」
「そいつは何て?」
「まだ交渉始めてもいねーって! 今から詳しい聞くよぉ~!」
真の問いに、みどりは笑顔のまま、ハイテンションな声で告げた。




