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デビルによって傀儡にされた、民主主義をリザレクションさせる会の者達が、勇気の両親の居所を知っていたのは、勇気が新しく得た能力、ウルトラ狐狗狸さんを用いたおかげだ。
「葛鬼勇気の母親……殺せなかった。代わりに父親殺す……」
「そうだ。独裁者としての償いをさせるのだ。家族も皆殺しだ」
「そして民主主義を……取り戻す……。葛鬼勇気の家族を皆殺しにすれば、民主主義も復活するのだ……」
「おお……民主主義がリザレクションされる未来が……見える……」
虚ろな目つきでぶつぶつと呟きながら、指定された家へと向かう民主主義をリザレクションさせる会。
そんな彼等の前に、勇気と鈴音と政馬の三人が現れた。
「ああ、こいつらか。最近話題になっている、勇気を毛嫌いしている活動家達だよ」
政馬が嫌悪感を露わにして吐き捨てる。
「知ってる。面倒な暇人共だろ」
勇気が気怠そうな表情で言う。
転烙市を出てすぐに勇気は、両親をすでに避難させたうえで、両親が住む家を見張らせていた。
「この人達、操られている。デビルにね」
「そのようだな。デビルのことだから絶対俺の親にも手を出してくると思っていたが、デビル自身は来ずに、こんな奴等を使ってきたのか。何が飽きただ。その裏ではこんなことしてくるんだからな」
「これを仕掛けてきたのはその前だったのかもね」
鈴音、勇気、政馬がそれぞれ言う。
「おのれ……現れたな……悪事の首魁め」
「高慢な独裁者……悪魔の子……葛鬼勇気に天誅を……」
「葛鬼勇気を殺し、絶対悪たる独裁政治に終止符を……」
「民主主義こそ絶対正義、今こそ民主主義をリザレクションだ」
勇気を見た民主主義をリザレクションさせる会がぼそぼそと呟いている。
「デビルに操られているとはいえ、ムカつくな」
勇気が不機嫌そうに言った直後――
「ヤマ・アプリ、絞首刑」
「ぐえーっ!?」
「ぎぎぃーっ!」
「ぐぎぎぎ!」
民主主義をリザレクションさせる会のメンバー達数名が、一斉に見えない力で首を締めあげられて、空中につるし上げられた。
「おい、死ぬぞ」
「そうだね。殺すよ」
勇気が政馬を見ると、政馬は笑いながら言ってのけた。
空中でじたばたと藻掻く、民主主義をリザレクションさせる会。
政馬の能力に全員がかかったわけではない。政馬の能力の対象から外れた者は、とっとと逃げ出している。
「おい……いくらなんでも殺すことは無いだろう……」
「生かしておく理由はないよ? だって勇気、こいつらは卑怯にも勇気の親に手を出そうとしたんだよ? デビルに操られているとか、そんなことは関係無い。元々こいつらは気に入らなかったし、その行為に及んだ時点でね、もうね、死罪は確定だよ。元々反勇気なんて掲げていたから、デビルに目をつけられたんだし、情状酌量は無用だよ。死刑しかありえないね」
喋っている間に、民主主義をリザレクションさせる会の動きは止まった。首吊り状態で体が弛緩している。
「はい、死刑執行と。気分爽快。ゴミ掃除完了」
小気味よさそうに言い捨てる政馬。
「私もすっとした。勇気は自分を犠牲にして頑張り続けてるのに、そんな勇気を悪人呼ばわりとか、死んでいいよ」
「鈴音……」
鈴音も政馬に同調しているので、勇気はげんなりとした。
(勇気の周囲まで狙ってくるし、デビルはどうあっても放置できないね。しっかりと殺そうって思っていたのに、純子達の妨害で逃しちゃった。機会があったら今度こそ仕留めないと)
改めて決意する政馬だった。
***
さらに一日経過。
勤一と凡美は安楽市民球場周辺の警護を行っていたが、PO対策機構が攻めて来る気配は無く、退屈な時間を持て余していた。
「何であいつら攻めてこないのかな?」
「デビルのおかげじゃない?」
「そうかもな」
「もしかしたら他にも事情があるかもしれないけど、デビルの暴れっぷりを考えると、向こうの――」
勤一と凡美が喋っていると、噂にあげている人物が現れた。デビルだけではない。隣には純子もいる。
「デビル、丁度噂してた所よ。随分はりきっているそうじゃない」
「遊びは全力でやるから面白い」
凡美が声をかけると、デビルは心なしか弾んだ声で答えた。
(しかしこいつがこんな美少年だったとはなあ……)
勤一がまじまじとデビルの顔を見て思う。雰囲気も、体色が黒一色だった頃と違うように感じられる。
「デビル、外面だけじゃなくて、中身もちょっと変わってきてるのかも」
勤一が丁度思っていたことを、凡美も口にする。
「私も凡美さん言う通りだと思うよー」
「本人に言っても認めなさそうな気がするけどな」
純子が同意し、勤一が冗談めかす。
「いや、変化はしているかも。微妙にそう感じる」
デビルが認め、純子をチラ見する。
「僕は噂になっているの? 僕の存在も知れ渡っている?」
「あれだけ派手に暴れれば、自然と噂になるよー」
誰とはなしに問いかけるデビルに、純子が言った。
「純子がバラして回っているとかじゃなくて?」
「ええええっ? 私がそんな口の軽い子だと思ってるの?」
デビルの台詞に、心外だという口振りの純子。
「女の口はガスより軽く、女の情報網はタキオン粒子より速いというのが、僕の認識」
「偏見凄いと言いたい所だけど、あながち否定できない……」
「あはは……デビルもそんな冗談言えるようになったんだねえ」
デビルが断言すると、凡美と純子は揃って苦笑いを浮かべる。
(仲睦まじいな? この二人、付き合ってるのかな?)
デビルと純子を見て、勤一は思った。
「そろそろ行く」
デビルが短く言い残し、立ち去ろうとする。どこに行くかはともかく、何をしに行くかは明白だった。またPO対策機構の者達を殺して回るつもりだ。
「行くの? また一人で?」
純子が尋ねる。
「昨日は三人だった。純子と累と一緒。それでも敵が多すぎて撤退」
デビルが言う。
「それなのに今度は一人かよ。無理してないか?」
勤一がデビルを案じる。
「じゃあ三人共来て」
「わかった。暇だったしな」
「行くわ」
デビルの誘いに、勤一と凡美は快く乗った。
「すまんこ。私はちょっと外せない用事があるんだー」
「そう」
純子が断りを入れる。
「天気、悪くなってきたな」
空を見上げて呟くデビル。一面、曇天だ。風も強い。
「台風来てるってよ。まだ遥か南なのに随分風強い」
「降って来ないといいわね」
勤一と凡美が言う。
デビルが無言で歩きだし、勤一と凡美しその後を追った。
***
その日の午前、真は新居と会った。
喫茶店にて、真は約束通り、新居に現在の状況を全て伝えた。ガオケレナの話も包み隠さず話した。
砲台アルラウネ――ガオケレナの言葉を信じて、味方になってくれそうな根人を探していること。みどりが精神世界から根人達を探っているが、それらしき者達は見つからないこと。根人達に逆に見つからないように、非常に慎重に探っているということ。それが現状だ。
「猶予は50~62時間だ」
「んーむ……」
真が最後にそう伝えて、コーヒーを飲む。新居はしかめっ面になって腕組みをして唸っている。
「有効な打開策が見えないし、そっちに任すしかないってのもわかるが、こちとら一方的にやられっぱなしだ。待てる時間は限られる。その猶予の時間ギリギリまで待つわけにはいかないぜ?」
つまりは、みどりが根人と接触してガオケレナを止める方法を見つける前に、総攻撃に移ると、新居は言っている。しかしその一方で、その総攻撃をした所で、ガオケレナを止められる保障が無い事も、新居は承知している。
「わかっている」
「こっちからも悪い報告だ。貸切油田屋と交渉を続けているが、向こうはどんどん非協力的になってきた。転烙市の技術が欲しくてたまらないんだとよ。最悪、純子の側につくかもな」
新居の報告を聞いて、確かに悪い報告だと真も思う。ただでさえデビルに引っ掻き回されている中で、貸切油田屋まで敵に回るという状況は頂けない。
「デビルだけでもどうにかしないと。デビルに照準を絞ってPO対策機構を動かせないか?」
「そいつはデビル対策にPO対策機構の気を回すってことだろ。ガオケレナ討伐を遅らせるわけだ」
真の提案に隠された真意を見抜き、新居がにやりと笑う。
「まあいい、その路線でいこう。デビル討伐チームの発足を訴えてみるわ」
新居は真の提案を聞き入れ、決定した。




