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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
3336/3386

23

 幽鬼のような顔つきの集団が歩いている。その異様さは、多くのすれ違った通行人の目を退いた。

 彼等は、民主主義をリザレクションさせる会のメンバーだった。とある目的で、とある場所に向かっている最中だ。


 マンションの入口の自動ドアを破壊して侵入する。マンシヨンの一室を目指す。


「ぬ~んっ!」


 部屋には鍵がかかっていたが、男がくぐもった声で叫ぶと、ドアに向かってパンチする。ドアし大きく吹き飛んで破壊された。


「いない……」

 家の中には誰もいなかった。


「旅行か?」

「そうかもしれないが、違うかも……しれない。我々が来ることがわかっていて逃げた……?」

「馬鹿な……。我々の行動を悟られるわけが……ない」

「ならば父親の方だ……」

「母親は保留だ……。いずれどちらも殺して、葛鬼勇気という……民主主義を脅かす悪魔の子を作った罪を償わせるのだ……」

「そうだ。それがいい。葛鬼勇気の家族を殺して、民主主義を取り戻すのだ……」


 ぶつぶつぼそぼそと呟きあうと、彼等は一斉に部屋を出て行った。


***


 純子とデビルは滞在しているホテルに戻った。


 デビルは疲れて、ベッドに寝っ転がっている。純子は机に向かってホログラフィー・ディスプレイを幾つも投影し、ネットで情報収集を行っている。


(デビルが私のベッドで寝てる。あとでくんかくんかしとくかなー)


 ベッドに寝ているデビルを意識し、にやける純子。


「楽しかった」


 デビルが天井を凝視したまま呟く。先程の戦闘を終えて時間が経過し、緩やかにクールダウンしているが、まだ余韻は残っている。


「そうだねえ。さっきのデビルの台詞、私は凄く嬉しかったよ」

「どの台詞?」


 デビルが純子の方を見る。


「二つあるよ。私なら、意地悪な神様が作った世界を焼き尽くせる可能性があるとか何とか。あと、私が真君のために一生懸命作ったのにって怒ってた所ね」


 本当に嬉しそうな笑顔で喋る純子であったが、デビルは憂い顔になる。


「怒ってたというより引いていた? 呆れてた? 嘆いていたかも……」


 真の言動を思いだし、デビルは小さく息を吐く。


「世界を変えることはさ、元々は私のマスターの望みで、マスターが私に託した願いだったのになあ。マスターの転生である真君はそれを否定してくるのが、にんともかんともだけどねえ」


 笑顔で喋る純子を見て、純子がそんな真の行動も心底楽しんで受け止めようとしている事が、デビルにはよくわかった。


「私のマスターも、神様っていう存在を意識していたなあ。神様のこと嫌ってる風だったよ」

「嫌われて当然の存在。世界を酷いデザインにして、生き物を苦しめている」

「神様は世界に色んな秘密を隠している。その秘密を暴いて、世界を良いものへと変える。マスターはそう言っていた」

「だから君はマッドサイエンティストになった?」

「んー……まあ、そうとも言えるかなあ。まるっきりそうだとは言えないというか、ちょっとそれは答えにくいけど」


 デビルの問いに、純子は奥歯に物が挟まったような物言いで答える。


「純子もずっと何かを探していた。僕も探していた。僕は……探していた問いに……いや、答えに、ようやく辿り着けた気がする」

「探していた?」

「僕達は世界に否定された者だ。そして僕達もまた、世界を否定する。あ……僕達というのは、僕と純子の二人を指すのではなく、僕や、睦月や、勤一や凡美、多くの反社会的な人間。シリアルキラー。世界を燃やす者達のこと」


 デビルが天井を睨み、静かに――しかし確かな熱を込めて語る。


「社会の法は、秩序は、勝手に決められている。不満でも押し付けられる。そしてその中で虐げられ、否定され、貶められた者達がいる。僕達はその歪そのものだ。でも……僕達にも魂はある。命はある。やられっぱなし、我慢しっぱなしで、黙ってはいられない」


 そこまで喋った所で、デビルは身を起こし、純子の方を向いた。


「半年前、純子が世界を変えて、僕達は少し解放された。当時の僕は反対していたけど、今はよかったと思っている。そしてまた純子が世界を焼き尽くせば、僕達は燃やされた世界で命を吹き込まれる」

「んー……私は犯罪者のために、世界を変えたいんじゃないんだけどなあ」


 純子が頬を掻く。


「でもサイキック・オフェンダーを率いている。その時点でその理屈は通じない。君は僕達を利用しているだけかもしれないけど、僕達も君に同調してるし、期待しているんだ」


 デビルが涼やかな微笑を浮かべる。


「命は燃える。命は燃やすためにある。僕の命も今燃やしている。世界を焼き尽くす炎の一部」

「んー……」


 詩を吟じるかのようなデビルの台詞を聞き、純子はデビルを案じるかのような目つきになって唸る。


「デビル、今の君はさ、楽しそうな一方で……どこか儚げに見えるよ?」


 純子が指摘して、椅子から立ち上がり、デビルの横に座った。


「犬飼のこと……引きずっている」


 すぐ側に純子が来た事に居心地の悪さを覚えながら、デビルは正直に吐露した。


「犬飼には……色々楽しませてもらった。学ばせてもらった。殺したことを後悔してはいない。でも……寂しいし哀しい」


 自分の弱さを他人の前でさらけ出すなど、恥ずべきことだとデビルは認識している。しかし純子の前で、自然と出てしまった事に、デビルは驚いていた。


(嗚呼……この子の前だと正直になりすぎる。犬飼の前でも、僕はいつも天邪鬼だったのに、純子のこの赤く輝く目を見ていると、心の中の一切合切をぶちまけてしまいたくなる)


 手を伸ばせ届く距離にいる事で、それ以上の欲求も沸いてくる。


「僕は犬飼に依存していたのかな? そして今は……純子に依存してる?」

「んー……そうは感じないけど」

「君は人に依存する輩が嫌いと聞いた。ラット扱いすると」

「誰が私のこと色々と話してるの? 累君?」

「累からも、霧崎からも、ネコミミーからも、色々聞いた」


 デビルが身を乗り出し、純子に顔を寄せる。


「ラット扱いするより、僕を不要と感じたら、宣言したうえで処分してほしい。もちろん僕も抗う。その時は犬飼のように、殺し合いで解決が望ましい」


 真剣な面持ちで訴えるデビルに、純子は一瞬目を細めた。


「ラットだとは思わないよ。私が嫌うのは、我や個を失くしたうえで、依存、信仰、従属、崇拝、心酔、溺愛――といった形で、誰かに心を委ねてしまう行為だからさ。デビルは自分を持ったままだし、私に全てを委ねてはいないから大丈夫だよ」

「わかった」


 身を乗り出していたデビルが、元の位置に戻る。純子からも顔を背け、うつむき加減になる。


「睦月もそうだったけど……君が傍にいると、心が落ち着く」

「そ、そう……?」


 再び頬を掻く純子。


(触れたい。抱きしめたい。でもそれは禁忌。その一線を越えてはならない。近くにいるだけでいい気分なのだから、それで我慢しておかないと)


 デビルは沸き起こる欲求を押し殺すのに必死だった。


(でも……やっぱり触りたいし、抱き着きたいし、壊したい。でもどれもやりたくない。この距離を維持していたい。この距離でいい。もう、あんな気分になりたくない。もう、純子は真のものだ。それを奪おうとしても、きっとみじめで嫌な気分になるだけだ)


 デビルの中で、忌まわしい記憶が鮮烈に蘇る。お人形さん状態の睦月。意思の無い人形となった睦月を弄ぶ自分。それはデビルの心に深く突き刺さったトラウマだ。


「そう言えばデビルは、側にいる人の負の心を吸い取って、気持ちを落ち着かせるっていぅ、悪魔らしくない力があるんだよね」


 デビルが黙りこくってしまったので、話題を変える純子。


「逆の事も出来るけど、それは意識して行う。無意識の状態だと、自動的にその能力が発動している」

「アルラウネが――私と最初に会ったアルラウネであるあの子が、君をそんな風に作った。それもまた縁であり、意味のあることなのかなあ」


 話しつつ、純子がデビルに向かって手を伸ばした。


 掌が頬に触れそうになった瞬間、デビルはぎょっとした顔つきになって、大きく身を引く。


「駄目だよ……。やめて……」

 弱々しいか細い声で拒絶するデビル。


「どうしたのー? ちょっと触ろうとしただけだよ」


 まるで女の子のような台詞と反応を見て、純子は興奮する。


「僕が何もしないという保証は無いのに、どうしてそんなことをする。やってはいけないことだ。真に悪いと思わないの?」


 デビルの口から思わぬ台詞が出て、純子は笑みを消した。


(悪魔は……神聖なものを穢せない。穢してはいけない。睦月の時に、それを思い知った。あんな気持ちにはもうなりたくない)


 純子のことを、睦月に代わる新しい女神と見立てているわけではないが、少し重ね合わせている部分はある。


「そっか。デビル……そういう考えだったのかー。すまんこ」


 謝罪しながら純子は屈託の無い笑みを広げ、再び手を伸ばして、デビルの頭を撫でた。


「人の話聞いてた?」

「悪魔の話なら聞いてたよ?」


 憮然とするデビルに、純子は笑顔のまま告げる。


(マッドサイエンティストと悪魔がプラトニックラブか。いやはや)


 その様子を見ていたヴァンダムが溜息をつき、隣にいる、デビルの守護霊の方を見る。


(つかさ、デビルがこんなに奥手でピュアだとは思わなかったぜ。意外な一面を見たって感じだな)


 ヴァンダムの隣にいる守護霊――犬飼が、デビルを見下ろして笑っていた。

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