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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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22

 デビルは真と勇気を交互に見た後、再び真の方を見て溜息をついた。


「どうしてそいつに味方?」

 真に向かって問いかける。


 真は答えず、ただじっとデビルを見ている。


「僕は君と戦いたくはない」

「お前こそ何で勇気を目の仇にする。何かあったのか?」


 デビルの台詞を聞いて、真が疑問を口にした。


「僕からすれば、勇気は存在するだけで悪い」

「だから何で気に食わないか、理由を尋ねているんだよ」


 デビルが勇気を気に食わない理由が、真にはいまいち理解できない。


「いい子だからだよ。あるいはいい子ちゃんぶっている偽善者? 悪魔的には一番気に入らない」


 勇気を睨み、嫌悪感を露わにして吐き捨てるデビル。勇気は冷めた目でデビルの視線を受け止める。


 ふと、勇気はある事実に気付いた。


(こいつ、以前と比べて確かにパワーアップしているが、分裂体はまだ一体しか見せてないな。みどりに何かされたせいで、作るのが困難になったままなのか?)


 分裂体をもっと複数繰り出してくれば、より苦戦したであろうが、一体を奇襲に使っただけで、しかもそちらの方は政馬にあっさりと始末されている。その事実を見て、勇気はそう勘繰った。


 勇気の読みはかなり真相に近かった。ワグナーがデビルの体を検査し、施術を行った結果、視界内限定で分裂する事が出来るようになったデビルであるが、純子によってさらに改造されたことで、あまりに一つの体に色々な力を詰め込まれた結果、同じスペックの分身を作るのは困難になっている。上限は合わせて三体までだ。


 デビルと真が喋っている間も、累とジュデッカ、政馬と雅紀と純子で戦闘が続いている。


「はああああっ、助太刀いたすう~。って、政馬先輩を助ける日が来るとは思わなかった~。ちゃんちゃんちゃんちゃん」


 芝居がかった声をあげておどけながら、ツグミが政馬と純子の間に、ミミズマン、叫乱ベルーガおじさん、ビニール魔人、土偶ママといった、七十七不思議の怪異を次々と出現させた。


「あは、僕は嬉しいね。ツグミは僕のこと嫌いなんじゃないかって思っていたし、そんなツグミに助けられるなんて、こんな嬉しいことはないね」


 政馬のその言葉は皮肉や嫌味ではなく、軽口程度のものだったが、嬉しさも確かにあった。政馬はずっとツグミを面白いと感じて、興味を抱いている。


「伽耶と麻耶もツグミと政馬の方に助太刀してくれ」

『らじゃーっ』


 真に促され、姉妹が応答する。


「これは厄介かなー……」


 政馬と雅紀に加えて、ツグミと伽耶と麻耶が敵に回った事実を受けて、純子は微苦笑を零す。


 一人ずつ相手にするのであれば負けることはないが、この五人は抜群な組み合わせに思える。雅紀が仮想霊、ツグミが怪異で手駒を繰り出して、伽耶と麻耶が便利な支援。そしてツグミが絵を被せたり絵の中に引きずりこんだりする能力を駆使し、政馬が強力な攻撃を繰り出す。この組み合わせを考えた場合、攻撃面で政馬とツグミの二人が特に危険な存在であるが、出来る限り二人まとめて倒さないとならない。


(何より私はこの子達を殺したくないし、これはいくらなんでもしんどいかなあ……)


 高速で頭を巡らす純子だが、いい攻略案は思い浮かばない。


 政馬達もすぐに仕掛けようとはしなかった。純子が硬直して攻めあぐねている分、純子を抑えている事になる。迂闊に攻めるより出方を待った方がよいと、五人共示し合わせもせずに同じ判断をしていた。


「君とはやりたくなかったけど、今、気が変わった。いいことを思いついた」


 デビルが真に向かって言った。


「君と勝負して僕が勝ったら、君は睦月の側に行かせる」

「何?」


 あまりに予想外なデビルの発言を受け、真は頭の中でぽかんと口を開いた自分を思い浮かべる。


「睦月の心は君のことでいっぱいだ。睦月の願いを叶えさせる」

「デビル、お前は……」

「そして雪岡純子のことは忘れさせる。純子は僕が貰う。それで皆ハッピーだ。悪魔らしくない望みだけど、これが、僕の願う純粋な望み」

「いや、それならお前が睦月の元に行けばいいだろ」

「残念だけど、睦月は僕のことを望んでいない」

「雪岡は……」

「純子は僕を望んでいる。僕と合うはずだ。僕にはわかる。君にもわかる。君にそれがわかるという事も、僕にはわかる」

(何かデビル……凄いこと口にしまくってるけど……)


 政馬達と対峙している純子も、デビルと真の会話はちゃんと聞いていた。デビルの言葉を聞き、純子は嬉しさと気まずさが入り混じった複雑な気分になる。


「全部拒否する。お前の望みに合わせて動けない」


 意図的に柔らかい声を出す真。正直、デビルの思わぬ一面を見て動揺していたし、デビルのその考え方を不快とは捉えていない。それどころか好感さえ抱いてしまう。しかしだからといって、受け入れることは断じてできない。


「そうか。じゃあ殺しちゃおうかな」

「駄目だよデビル。真君は殺さないでー」


 デビルの発言を聞き、純子が釘を刺す。


「真君。今のデビルにはね、君のために温存していた、とっておきの改造処置をしてあるんだよ。君がいつか気が変わって、私に改造してほしいって願い出た時用のために取っておいたんだけど、君にその気は無いみたいだったから、デビルに施しちゃった」

「ああ、そう。だから何だ」


 純子が政馬達と向かい合ったまま、真に対して解説したが、真は素っ気なく返した。


 真のその反応を聞き、デビルはむっとする。


「ああ、そう? だから何だって……酷い言い方じゃない? 純子は君のためを思って一生懸命作ったのに……」


 自分を非難してくるデビルに、真は心の中で目を丸くする自分を描く。


「悪魔らしからぬ台詞だな」

「いいや、君は悪魔も引くくらいの酷い発言をしたんだ。純子がマウスを沢山改造していたのは、この改造手術のため。飛びっきりの改造人間を作るため。とびっきりの改造を君に施すため、純子は人体実験を繰り返していた。全ては君のためだったのに、君のために純子は頑張っていたのに、僕が頂いてしまった。君へのプレゼントだったのに……」


 デビルが苦悩するような顔で批難している様を見て、真も少し胸が痛む。


「おおお、真先輩さっすがー、デビルにまでデリカシー疑われるなんてっ」

「それは全然流石じゃないだろ……」


 デビルの発言を聞いたツグミが茶化し、熱次郎が突っ込んだ。


「いつまで喋ってるの? さっさと続きしないの?」


 鈴音が冷たい声と共に凍り付くような殺気を放つ。


「君はもういいよ。興味失くした。今は真の方が興味ある」

 デビルが鈴音を一瞥して、すげなく告げる。


「パラダイ……」


 鈴音が針を口の中に突き刺そうとしたその瞬間、鈴音と勇気の体が上から押し潰された。こっそりと重力弾を移動させていたのだ。


 しかし勇気はすぐに立ち上がる。勇気の頭上に、大鬼の手が出現して、重力弾を押し上げている。


「油断もいい所だな」


 デビルとうつ伏せに倒れた鈴音とを交互に見やり、勇気が吐き捨てた。


 真が銃を抜き、デビルに向けて二発撃つ。


 デビルは転移して避ける。今の体はただの銃弾なら効かないが、何かギミックがあるかもしれないと警戒して、回避に努めた。


 真の真横に現れたデビルだが、そのまま真を攻撃する事は出来なかった。


「君と会うのは二度目だナー」


 シルクハットに燕尾服姿の髭もじゃの中年男――悪魔のおじさんが、デビルの方へとステッキを突き出して笑う。


「球場にいたイメージ体」

 デビルがぽつりと呟く。


「一応そっちにも支援出しておいたよ」

 純子の方を向いたまま、ツグミが言った。


「こっちも助けておくかなー。ほーいっと」


 ツグミが新たに怪異を出す。影子がジュデッカの側につく。


 悪魔のおじさんが全身を大きく膨らませ、デビルの体を包みこまんとする。


 デビルが後方に二度跳んでかわした所に、真が銃を撃ってきた。


 銃弾はデビルが咄嗟に衝撃波を撃って弾き飛ばしたが、ここでデビルに隙が生じてしまう。


 勇気が出した大鬼の手が、デビルの体を掴んだ。


 大鬼の手がデビルを圧迫するが、デビルは体をゾル化させて、あっさりと手の外へと抜け出る。


「パラダイひュ……フェひンっ」


 鈴音が口の中をカッターの刃で斬った。能力が発動し、デビルのいた空間が爆発する。


「大鬼の手ごと攻撃してくれたな……鈴音っ」


 勇気が文句を言っている最中に、鈴音が崩れ落ちた。勇気は慌てて鈴音の様子を見る。能力を使いすぎて、体力の限界が来たのだ。


 一方で累は、ジュデッカと影子の二人と同時に戦闘――ではなかった。床の下からカシムが現れて累に切りかかってきたのだ。


「流石にこの数相手では退くしかないですよ」


 累は転移してカシム、影子、ジュデッカと距離を取り、純子に声をかけた。


 純子も純子で、政馬、ツグミの怪異、雅紀の影法師、牛村姉妹を相手にしている。さらにミサゴと熱次郎も、純子にちょっかいを出し始めた。


「ツグミちゃんが出す七十七不思議の怪異が何気にしんどいねー」


 純子も頬を掻きながらそれを認めた。


「それだけではありません。ツグミの空間歪曲シュレッダーをかけられたら、再生能力の乏しい純子は危険ですよ」

「知ってる。政馬君よりずっと危険だよね。こりゃ退いた方がいいかなあ」


 純子がデビルを見る。


「残念だ。真ともっと遊んでみたかったんだけど」

「その真達が来たから、退かずにはいられない状況になったのですけどね」


 デビルが真を見ながら頷き、累が苦笑気味に付け加えた。


「真、今度は他の邪魔が入らない状況で遊ぼう」

「出来たらな」


 デビルの台詞を受け、真は短く答える。


「勇気、鈴音」


 へばっている鈴音と、それを看る勇気の方に視線を向けるデビル。


「君達はもういいから。興味失くした。だから僕に関わらなくていい。もういい加減飽きたし、つきまとわないで。はい、レッドカード。退場」

「どの口が言うか……」


 手をしっしっと払うデビルに、勇気は心底呆れた。あまりにふざけた発言だったので、怒りも沸かない。怒りを通り越して呆れてしまった。


「追撃しねーのか?」


 堂々と出ていくデビル、純子、累の三人を見送りながら、ジュデッカが伺う。


「追撃したら向こうも苛烈な反撃してくるじゃんよ。それなら見送った方がいいんよ」


 と、季里江。


「あのね、実際ね、敵の大将叩き潰すチャンスなんだから、犠牲覚悟でやっておくのがいいのはわかってるんだよ。でもさ、こっち陣営、見送りモードになっている人多いから」


 政馬が喋りながら、真と勇気と鈴音をそれぞれ見た。この三人がすでに追撃する気配が無い。鈴音は勇気の治療を受けている最中で、力も相当消費している。真は何を考えているのは、政馬にもよくわからないし、真が動かないなら、真が連れてきた者達も動かないだろうと見る。


「見送っていいのか?」


 純子達の後姿を見ながら、熱次郎が真の耳元で囁いた。


「あの三人が揃っているというのは、相当危険だ。こちらが勝てるかどうかわからないけど、どちらにしても戦い続けていれば、相当の犠牲が出ると思う。雪岡はその犠牲を出させないために退いたんだ。あるいはその犠牲を出させないために、わざわざ出向いてきたのかもな。それを台無しにすることも無い」

「なるほど……」


 真の説明を受け、熱次郎は納得した。


「勇気、張り込んでいた人達から連絡」

 鈴音がバーチャフォンを取って告げた。


「やっぱり現れたよ」

「そうか。すぐに向かおう。俺はちょっと行ってくる」


 鈴音の報告を受け、勇気が外に向かう。


「今から向かっても間に合わないんじゃない?」

「馬鹿鈴音。サイコメトリーと遠視できる能力者を連れて行って、足取りを補足するに決まってるだろ」

「痛い痛い痛い、痛いよ勇気」

「あのね、僕も行くよ」


 移動しようとする勇気と鈴音に、政馬も申し出た。二人が誰から何の連絡を貰ったのか、どこへ向かおうとしているのかも、政馬は知っていた。

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