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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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18

 高嶺流の道場がデビルに襲われて全滅したと聞き、鈴音は蒼白になった。すでに縁は切れているし、何年も帰っていない家とはいえ、それでもショックを感じないという事はない。何より、一番仲のいい長女とは頻繁に連絡も取り合っているし、何度も会っている。

 心ここに非ずといった顔で道路を歩く鈴音。その少し前を、勇気と政馬が並んで歩いている。三人はファミレスで少し遅めの昼食を済ませて、外に出た所だった。


「デビルはさ、真剣に討伐しないといけない相手じゃないかな? これは。僕はそう思うよ」


 政馬が勇気に話しかける。


「そんなことわかってる。だが奴は移動が異様に速いし、神出鬼没だ。現れたという報告を受けて、近くにいるPO対策機構が一斉に向かったが、到着したら死体の山だったそうだ」


 勇気が忌々しげな表情で言った。


(こころに頼んでみるかな。正直、PO対策機構にはこのままいい感じに弱体してほしい。そうすればその後で、スノーフレーク・ソサエティーにとっては良い形に働くからね。でも一応僕達は勇気の下にいるんだし、デビルを無視しているわけにもいかないか)


 代々、大物代議士や財閥に深く関わってきた占いの大家魔宮院家の当主であり、スノーフレーク・ソサエティーのメンバーであり、それ以前は裏通り中枢最高幹部悦楽の十三階段の一人であった少女、魔宮院こころ。彼女の超常の力レベルの占いであれば、デビルの出現所も割り出せるのではないかと考え、政馬はメッセージを送る。


 返事はすぐには返って来なかった。既読マークもつかない。


「お姉ちゃん……子供が出来ったって喜んでたのに……」


 涙ぐむ鈴音が、バーチャフォンの振動を受け、電話を取る。


「お姉ちゃんっ!? 無事だったの!? うん……うんっ」

 鈴音の顔が輝く。


「お姉ちゃんからだった。生きてたんだっ。よかったあ……。今、会いに来るって」


 鈴音は安堵してまた涙ぐむ。


「よかったな。でもわざわざお前に会いに来るってことは、相当精神的に不安定になってそうだ」


 珍しく優しい声をかける勇気。


「うん……今回は……私がお姉ちゃんを支えてあげないと」


 鈴音が微笑と共に涙をぬぐった。


(警察とか、PO対策機構に状況説明するより前に、まず離れている身内に会いに来る? それって変じゃないかな? いや、僕には家族いないし、女でもないし、ちゃんと家族があったり、女であったりすると、そういうものなのかな? うん。僕にはわからないけど)


 一方で政馬は、違和感を覚えていた。


***


 安楽市民球場近辺。


「やーねー、変な人達がいっぱいぞろぞろと、物々しい」

「怖いわよねー。あれ、西から来たサイキック・オフェンダーの集団っていう話よー」

「変なことしなければいいけど」

「ぷにぷにっ」


 主婦が四人集まり、球場の方をチラ見しながら井戸端会議を行っている。


「あの大きな木とか何なの? うちの家、丁度お昼に物陰に隠れちゃうわ」

「倒れてきたらと思うと心配じゃない?」

「いや~、怖いこと言わないで」

「ぷにぷにっ」


 そんな主婦達の会話を、勤一と凡美と蟻広と柚の四名はすれ違いながら耳に入れていた。


「付近住民の評判の悪いこと。ポイントは変動無し、と」

「あの者達からすればマイナスポイント継続中だろう」


 どうでもよさそうに呟く蟻広に、柚が言う。


「デビルが八面六臂の大活躍らしいな」

「凄くやる気出しちゃってるようね。何があったのかしら」


 仲間内の情報をチェックする勤一と凡美。


「デビルってこんなに戦闘力あったのか?」

「無かったと思う。それなら俺達と交戦した時だって、俺達を全滅させる事も出来ただろう」


 尋ねる蟻広に、勤一が答えた。


「つまり力を身に着けたのね」

「ええ。そう考えるのが自然でしょう」


 柚の言葉に頷く凡美。


「お前達はデビルと仲いいらしいけど、詳しくは知らないのか? 訊けば教えてくれるってことはないのか?」

「仲いいってほどでは……。いや、同胞だとは思っている。自然にそう感じられる」

「私もよ」


 蟻広が伺うと、勤一は一瞬否定しかけてから、訂正した。凡美も勤一の言葉に同意する。


『世界を焼き尽くせ』


 デビルが口にした言葉が、凡美の脳裏に蘇る。それは強い言霊を伴い、凡美の心に焼き付いていた。


(派手に暴れすぎてて……敵の目も引いて、このままだとあいつはヤバそうだ。同胞だと思っているなら、助けた方がいいよな)


 この時、勤一は決意した。


***


 真の元に、新居から電話がかかってきた。


『俺もお前をかばっていたが、このまま黙ってるのは無理があるぞ。こっちは攻撃されまくってる。反撃に出るしかないだろ』


 ひどく苛立ち気味の声で、新居が告げる。


 真はPO対策機構が安楽市民球場に攻撃させないでくれと、新居に頼み込んでいたが、デビルが暴れているせいで、それも難しい話になった。

 やられっぱなしという状況で、理由もわからず攻撃しないままでいろというのは、確かに無理があると、真も理解している。


「だからといってあの大木を破壊できるわけでもないだろう? こっちは今その方法を探っている所だ」

『せめてPO対策機構のトップ陣にだけでも、今何しているか説明しろ。そして早いうちにこっちから仕掛けてケリをつけねーと、また世界がとんでもねー事態になっちまうんだろ。少なくともデビルに対する反撃は抑えられない』

「デビルに反撃はしてもいいと思う。安楽市民球場には――ガオケレナには手出ししないで欲しい。明日になっても進展しないようなら、全て教える。だからそれまで待ってほしい」

『わかった。明日がタイムリミットだ。PO対策機構にも伝えておくぞ』


 電話が切れた所で、真は額に手をおいて深々と溜息をつく自分の姿を思い浮かべる。


(デビルの大暴れが思いのほか響いているな。そして何人も僕の知り合いも殺してくれた)


 何人もの知己を殺されたにも関わらず、真はあまりデビルを恨む気にはなれない。元々殺るか殺られるかの世界であるという理由もあるが、今の所、真と親密な者は殺されていないせいもある。


***


 鈴音、勇気、政馬の三人は、繁華街の通りで姉と落ち合った。


 鈴音の姉はひどくやつれた顔をしていた。無理も無いと、勇気達は思う。家族を皆殺しにされたのだから。


(よく一人だけ生きていられたよね。どうやって生き延びたんだろ)


 不思議に思う政馬。


「姉さん、生きててよかったあ……」

 半べそをかきながら、鈴音は身重の姉に抱きつく。


「父さんと他の兄弟は……皆殺されちゃったけどね……」

 虚しげに言う姉。


「でも姉さんだけでも生きていてくれたから……姉さん? どうしたの?」


 突然姉が苦悶の形相となって腹部を押さえて蹲り、鈴音は心配げに声をかける。


「お、お腹が……いだ……」

「陣痛?」

「ち、ぢガウ……ごレはそんなんじゃ……なっびぃぃぃうぼおおぉ!」


 叫んだかと思うと、姉の口から大量の血を噴射された。鈴音は反射的に血を避ける。


 姉の膨らんだ腹が爆発して、中からゆっくりと何かが這い出てくる。

 それは胎児であったが、明らかに人の胎児とは異なった。頭部から角が二本生え、背中からは蝙蝠の羽根が生え、臀部からは先端が矢尻状になった細い尻尾が生えていた。大きく裂けた口の中からは、鋭く尖った牙が覗いていた。


 悪魔のような姿の胎児が、姉の臓物の中から出てくると、鈴音を見上げて笑った。姉は大きく目を見開き、口から何度も血を吐き出して痙攣している。


「初めマシテノコンニちハ。ボクは悪魔の赤チャン。お腹の中デツイさっキマデ人間ダッタけド、アクマニ呪ワレたカラ、悪魔ニナリマシタ。ドウゾよロシク」


 たどたどしい口調で、胎児が喋る。胎児でありながら、その顔には歪んだ笑みが張り付いている。


「何て真似をするんだ……」


 勇気が顔をしかめて呻く。これが一体どういうことかは、当然理解している。デビルの遊びだ。デビルはこの遊びのために、鈴音の姉の体に仕掛けを施し、鈴音の元に送らせたのだ。


 鈴音は凍り付いていたが、やがてデビルの悪意の賜物であると理解し、怒りにわななき、殺意を呼び起こす。


「ア、こロスノ? ヤッぱリ殺スノ? ボクガ悪魔ノ赤チゃンだカラコろすんダね? ソうダヨネ? ヤッター! 大正解! 悪魔はコロサなクチャ駄目ダモんネ」


 鈴音から放たれる殺気に反応して、悪魔の胎児が甲高い声でおちょくり続ける。


「今日はボクノ誕生日。悪魔ノ誕生日。ソシテ君の誕生日。僕ハ君ニ殺さレテ死ヌケド、ボクトイウ存在の記憶ハ、キミノ中でズット生キ続けル。ツマリ、君ノナカニウマレタ、殺シタアクマの記憶のタンジョウビ。はーっぴぃぃぃばーすでぇえぇぇえーいっ。誕生日おめでトうござイまーす!」

「パラダイスペイン」


 鈴音が冷たい声と共に、爪の間に針を突き刺した。直後、胎児の体の半分が破裂する。


「アア、残念……死ニキレてイマセん。デモ……シヌね、こレハ……」


 体が半分破裂した状態で、胎児がへらへらと笑う。


「ヨクモ生まレタバカリのボクヲ殺しテクレタナ……。オ前ガモシモ孕ンダら、オマエノハらの子ニ転生シテやルカラ、ヨク覚トケ。ソシテ……オまエノ腹モ食イ破っテやル。絶望シタオマエのカオを見テ、お久シブリ、ママ……オメデトウト言ッテ……ヤル……アハハハ……」

「ヤマ・アプリ。電気椅子」


 政馬がとどめをさす。胎児は動かなくなった。


「悪趣味かつ下衆極まりない」

 勇気が吐き捨てる。


「酷い呪詛だね。鈴音、気にしちゃ駄目だよ」

 と、政馬。


「無理言うなよ。気にするだろ、これは」

「そうだね。ごめん。でも気の利いた台詞が見つからないし、怒りに任せて敵に突っ込む展開とか、それは危険だからさ」


 勇気に突っ込まれ、政馬が謝りながらも危ぶむ。


「気にしないよ。私はそんなにヤワじゃない。私だって……高嶺流の娘なんだからさ。こういう時に平常心を持つように、小さい頃から訓練されてたから……」


 苦悶の形相のまま果て、無残な屍を晒す姉を見下ろし、鈴音は完全に無表情になって、冷たい声で言う。


 繁華街の歩道で死んでいる女性の姿を見て、通行人達が集まってくる中、鈴音は動こうとしない。


「これはさ、警察が来たら事情聴取される事になりそうかな?」

「支配者特権で切り抜ける。こういう時こそ役に立つ」


 政馬と勇気が囁き合った直後、政馬に電話がかかってくる。


 相手は魔宮院こころだった。


『デビルという者の、次の出現場所が占えました』

「どこ? デビルはどこに現れる?」


 意識して、勇気と鈴音にも聞こえるような声を出す政馬。二人が反応して政馬を見る。


『スノーフレーク・ソサエティーの本拠地ビルです』

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