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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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17

(不思議な話だ。いや――僕が気まぐれすぎるだけかな?)


 つい数秒前まで動いて、自分を殺しにかかってきた者を素手でひきちぎり、痙攣する血肉の塊へと変えながら、デビルは物思いに耽る。


(半年前は純子の目的に反感を抱いていたのに。純子の目指す世界は、混沌そのものになりそうで嫌だったのに。負けを認めて諦めた時、心の中で、忌々しく捨て台詞を吐いていた。『好きな風に世界を変えればいい』って。今でも覚えている。でも変わった世界は悪いものではなかった)


 活動しづらくなるという事も無かった。明智ユダのように、自分の存在をすぐ察知してしまう困り者も現れたが、それもたまたまの話だ。


 デビルが今いる場所は、高嶺流妖術という妖術流派の本家道場だ。政府のお抱え術師の一族であり、PO対策機構の一員でもあるという理由だけで、デビルの襲撃対象となった。

 道場の広い庭のあちこちに、様々な方法で殺害された亡骸が転がっている。襲撃から数分しか経っていないのに、死体の数は二十を越えた。


「こんなの勝てない……。当主……逃げた方が……」


 デビルを見て、壮年の男が恐怖で青ざめた顔を、年配の男に声をかける。


 他にも多くの老若男女がデビルの前で戦闘態勢を取っているが、その戦意はほぼ失われている。何しろ残った彼等とほぼ同数の死体の山が、道場の敷地内に散乱しているのだから。


「馬鹿者! ここで引いたら高嶺流の沽券に関わるであろうが! この台詞を私が人生で何回言ってると思っているんだ! おっぱいおっぱーい!」


 縁側の柱に蝉の如くしがみついた年配の男が、憤怒の形相で喚き散らす。


(世界を焼き尽くせ……か。言葉だけは威勢がいい。僕の同胞達――憧れしシリアルキラー達。世界を焼き尽くせ。でもその言葉は――目の前の世界を焼き尽くすだけの話)


 心の中で呟きながら、デビルは眼前の光景と心の中の映像を重ね合わせていた。


(純子は――本当に世界全てを焼き尽くす)


 デビルは夢想する。世界が焼き尽くされる光景を。脅え、泣き、怒り、必死の形相で逃げ惑い、絶望して崩れ落ちる、無数の顔を。

 それは今現在、デビルの現実でも展開されている光景でもある。脅え、泣き、怒り、必死の形相で逃げ惑い、絶望して崩れ落ちる、無数の顔がある。それを作っているのはデビルだ。


(僕はそんな純子と同じ道を歩いている。つまり僕も一緒に世界を焼き尽くしているんだ)


 そう意識すると心がとてもウキウキワクワクしてしまう。気持ちが弾む。踊り出したいくらいの気分になってしまう。悪の心に春の陽気が満ちている。


「せっかくこんなに明るく晴れやかな気持ちになっているんだ。悪魔らしく、精一杯踊って楽しまないと」


 声に出して呟いた直後、恐怖に怯えていた敵達が、勇気を振り絞って――というより、ヤケクソ気味に攻撃してきた。一斉に攻撃の術を用いる。


「明太子シールド」


 デビルの体が完全に見えなくなるほどの巨大メンタイコが現れ、全ての攻撃を防ぎ切った。


「ぎぇばっ!」

「重び! ぶぴっ!」


 重力弾が降り注ぎ、二人の術師が潰された。


 デビルが掌をかざし、白ビームが放たれ、一人の術師が氷漬けにされる。


 肩や背中から生えた枝葉から放たれたビームが、二人の術師を穴だらけにする。


「君達も一緒に遊んでいるんだよ? 僕と。純子と。悪魔と。マッドサイエンティストと」


 恍惚とした表情で、死者と生者を見渡して告げるデビル。


 同胞が瞬く間にさらに五人殺され、残った術師達はすっかり臆してしまっていた。


「こうなったら私が出るしかあるまい! 高嶺流当主、参る!」


 柱にしがみついてがなっていた男が威勢よく叫び、柱から地面に飛び降り、両手で印を組む。


「高嶺流妖術絶頂崩壊究極秘奥妙義・極Ⅳ! 蛮徒狂咲悶体陰裂黒霧地獄!」


 当主が両手を大きく広げて叫ぶ。当主の体から黒い霧が溢れ出し、広がっていく。


「凄い」


 思わずデビルの口から称賛の言葉がついてでる。かなり強大なパワーであることが、一目見てわかった。


 黒い霧がデビルに迫る。デビルは消滅視線を用いて霧を消すが、当主から霧はとめどなく溢れ出すのできりが無い。


「ペペロンチーノ・ウィップ」


 当主を攻撃したが、当主を守るようにして、黒霧が党首を覆う。霧に触れた瞬間、複数の麺の鞭が一瞬にして黒ずんで、弾け飛んだ。


(どう攻略したものか。中々厄介)


 思案するデビルだが、すぐに考えるのを辞めた。自分が考える必要は無い。


「ウルトラ狐狗狸さん、どうにかならない?」


 デビルが呼びかけると、箱を持った二足歩行の四尾の狐が現れる。


 狐の手にする箱が開き、中から風が吹き出し、デビルに迫った黒霧の一部を吹き飛ばした。

 直後、狐はすぐに消えてしまう。飛ばした霧の量も大したことはない。しかしそれで十分だった。


(そうか。そんな単純な手でいいのか。霧だし)


 デビルは目の前の空気を圧縮すると、一気に解放した。殺人倶楽部の藤岸夫の能力だ。


「偶然の悪戯」


 さらに運命操作術で、目論見の成功率が上がるようにしておく、これは御守り程度の代物で、確実な効果は期待していない。


「ぬおおおっ!」


 凄まじい勢いの突風によって、黒霧の大半が吹き飛ばされ、悲鳴をあげてよろめく当主の姿が露わになる。


 その瞬間、デビルは衝撃波を放ち、当主の体を大きく吹き飛ばした。道場の壁に叩きつけられる当主。


 黒霧が消える。当主の精神集中が遮られ、術が解けたのだ。


「サラマンダー・サック」


 倒れた当主めがけてデビルが手をかざして呟くと、手から猛烈な勢いで炎が噴出する。炎が当主の体を包む。これは新生ホルマリン漬け大統領のボスとなった、甘粕瑞穂の能力だが、瑞穂のそれより遥かに出力があり、激しい炎が遠距離まで噴き出る。


「うぎゃああぁあぁ!」


 炎に全身を焼かれ、七転八倒しながら絶叫する当主。


「高嶺流も……おしまい……だ」

 最期にそう言い残し、当主は果てた。


 残った術師達はすっかり戦意を失くしていたが、デビルが襲いかかってきたので、引け腰ながらも必死に交戦する。しかし抵抗虚しく、次々と殺されていき、あっという間に全滅した。


(家の中にまだ誰かいる。隠れている。皆殺しにしておかないと)


 デビルが屋内にいる者達の位置を探る。


(ああ、裏から逃げようとしている。逃がさない。だって僕は悪魔だし)


 道場の裏口へと転移するデビル。


 転移した先には、逃げようとしている数名がいた。二人は女性。一人は老人だ。他は皆子供だ。

 突然現れた全身返り血塗れの少年に、女子供達は恐怖に固まる。彼女達は戦闘に参加せず、戦闘の様子さえ見ていなかったが、襲撃者によって一族が全滅した報告はされていたし、故に逃げようとしていた。そして現れたデビルが、一族を皆殺しにした襲撃者であるという事は、一目でわかった。


「遊ぼう」

 デビルがにっこりと笑う。


 老人も女も子供も、デビルは容赦なく殺していく。


 最後に残ったのは身重の女性だった。


「お、お願い……助けて……」


 小さな子供も容赦なく殺した相手に対し、命乞いなど無駄だと理性ではわかっているが、女性は恐怖に震えて懇願していた。


(孕み女か。これは壊し甲斐のある玩具だ。胎児を引きずり出して、まだ生きているうちに見せてあげよう。その時どんな顔をするか――)


 無邪気に残虐行為を思い浮かべて、実行しようとしたデビルであったが、女性の整った容姿を見て思い止まる。


(似ている……)


 女性の顔立ちは、勇気の知っている人物によく似ていた。おそらく親族だろうと思われる。


「鈴音の身内?」


 デビルが鈴音の名を出すと、女性ははっとした顔になる。そのリアクションが答えになっている。


「ちゃんと答えて」


 女の膨れた腹を片手で掴み、爪を突き立てるデビル。わかっていても確認のため、本人の口での答えを求める。


「そ、そうよ……」

「姉?」

「ええ……」


 脅え、躊躇いながらも、女性が頷く。


「わかった。鈴音に免じて見逃す」

 デビルが鈴音の姉の腹から手を放した。


「ただし、鈴音に直接会って、伝えて。今あったこと全て。デビルが皆を殺したと伝えて。すぐに会いに行って。直接口で伝えて」

「は、はい……」


 直接会って口で伝えることに何の意味があるのか、鈴音の姉には意味がわからなかったが、言う通りにしないと、自分も腹の子共々殺されるのであろうと、直感的に理解していた。

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