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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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16

 翌日。都内某所。新居、弦螺、沖田、宮国、朱堂の、PO対策機構のトップ陣が顔を突き合わせている。


「殺人倶楽部を含めた政府の特殊戦闘部隊拠点が二つ、政府お抱えの妖術流派が三つ、自警団組織の二つが壊滅しました」

「グリムペニス日本支部も襲われ、死者多数です。一応、退けましたけどね」

「他はともかく、あの殺人倶楽部が壊滅かよ」


 朱堂と宮国の報告を受け、新居は舌を巻く。


「デビル一人でここまでやるとはね。だが純子のやり方としてはおかしいな、ここまで積極的に殺戮に臨む時点で、純子の指示というより、デビルの独断だろう。まあ、それも純子は承知のうえで許容しているんだろうから、同罪だがなー」


 新居からすれば複雑であった。純子は新居にとって恩人であり、師にもあたる。裏通りに堕ちたばかりの時に世話になった。今、その純子と相対する事になっている。


「この先もどんどん襲われるぞ」

「全員一ヵ所にまとめるぅ?」

「全員は無理があるし、それこそ一網打尽にされかねない。しかしすぐに救援に行けるようにした方がいい。襲われた時に素早く対処も出来るようにしたい」


 沖田、弦螺、新居がそれぞれ言う。


「真や勇気は、何か重要な情報を掴んで、対策に乗り出したようだ」

「ようだ?」


 新居の台詞を訝る沖田。


「こっちにも情報を回さない。漏洩を恐れてな。それにしたって俺にだけは教えればいいのに、こいつは許せねーなー」


 新居がぼやく。


「良いニュースと考えていいのでしょうか?」

「まだ何とも言えねーよ。活路となるかもしれない……って所かな。真の様子からするとな」


 宮国が伺うと、新居は難しい顔で答えた。


***


 正午。


 ガオケレナは昨日、真達に猶予は92~104時間と告げた。


「現時点で残り時間は73~85時間になったな。アルラウネ砲台のガオケレナの言葉を鵜呑みにするならな」


 喫茶店にて、ツグミ、伽耶、麻耶、熱次郎を前にして、真が言う。


「その時間を過ぎると世界崩壊」

「崩壊はしないけど、また世界が大変なことに」


 麻耶と伽耶が言う。


「みどりちゃんはどうしたの?」


 今日は男の子バージョンのツグミが、真に尋ねる。


「引き続き精神世界にダイブして調査中だ。ガオケレナの言う、協力してくれそうな根人を探してな。しかしこの調査とやらも、一筋縄ではいかないらしい。下手に接触すれば、こちらの行動も相手にバレてしまうし」


 と、真。


「ガオケレナの存在自体が御都合主義的に奇跡だし、ラッキーだったよな。まあそれでもまだ綱渡りだし、成功するかどうかわからないが」


 熱次郎が言う。敵の切り札が思想的にはこちらの味方で、協力してくれる展開は、奇跡的な幸運と捉えられた。


「デビルが昨日大暴れだったらしいね」

「竜二郎まで死んじゃった……」

「貴重な殺人倶楽部が……貴重な弟弟子が……」


 ツグミが言うと、伽耶と麻耶が悲しみの表情になってうつむく。


「派手に暴れたもんだ。殺人倶楽部も黒柿島の連中も大勢殺された」


 真は心の中で大きく溜息をつく自分を思い浮かべた。


「これも純子の指示か?」


 熱次郎が口にした疑問は、真も思い浮かべたことだ。しかし――


「違うと思いたい。しかしデビルのこのパワーアップには、雪岡が絡んでいる可能性が高そうだ」


 真ははっきりと否定しきれなかった。純子を信じたくても、完全に信じ切れなかった。マッドサイエンティストは目的のために手段を選ばない。親しい者を切り捨てる可能性も疑ってしまう。


***


 グリムペニス日本支部ビル。

 河馬我、白汰毘、ムロロンの死によって、綿禍は昨日から現在に至るまで、悲しみに暮れていた。誰が話しかけても返答をせず、押し黙って俯いていた。


「綿禍にも色々と協力して欲しい所ですが、あの様子では無理でしょうね。とほほ」


 男治が史愉を前にして言う。同室に綿禍とカケラとチロンもいる。


「デビルは少しでも不利になると、とっとととんずらするようだぞー。勇気は散々ちょっかいかけられたにも関わらず、仕留めきれてないぞー。ぐぴゅ。次こそ絶対仕留めたい所だぞー」

「純子と累もあんなもんと組む神経がわからんわい。そのうえ自分が手掛けたマウスまで殺しおって……」

「純子なんて元々屑でカスで腐れ外道で人でなしのろくでなしだぞー。親切っぽく見せているのは上っ面だけで、一皮剥けばただのマッドサイエンティストだぞー」

「そうだったんかのう……。ま、何にせよ腹が立つことに変わりはないわ」


 史愉とチロンが揃って不機嫌そうな声で話す。


「俺がデビルを殺す」

 カケラが陰にこもった声で宣言する。


「あのですねえ、カケラ君では無理ですよ~。全然敵わなかったでしょ? 足手まといにしかならないから引っ込んでおきましょう。いくら怒っても、どうにもならないものはどうにもならないんですよ~?」


 男治がへらへら笑いながらカケラを諭す。本人はこれでも諭していつもりだった。


「少しは言い方を考えたらどうじゃ」

「いえいえ、ここは厳しくとも、はっきりと言っておく場面ですよー」


 注意するチロンに、男治は言った。


「カケラ、復讐したいならあたしが改造してやるぞー」


 史愉が真顔でカケラに声をかけた。


「あたしも頭にきてるぞ。あたしのもてる技術全てぶちこんで、君を最高のマウスにしてやるぞー」

「頼む。俺はどうなっても構わないから、とびきり強くしてくれ」


 史愉を真っすぐ見つめて、張り詰めた表情で告げるカケラ。


「あ、私も協力して色々と術をかけてあげましょうか~? カケラはオギャーと生まれたその頃から知っている仲ですし、私にとっても子供みたいなものですからねえ」


 男治が明るい笑顔で申し出る。


「あんたのどこが親だ。片手の無かった俺を見て、失敗作だから、どうせすぐ死ぬからと、さっさと殺してしまえみたいなことを言っていたよな。覚えているぞ」

「えー、そんな酷いこと言いましたあ? 全然覚えてませ~ん。たっはっはっ」


 カケラに睨まれ、男治は頭をかきながら笑う。


「二人がかりで改造とかややこしいことになるし、カケラが男治を嫌っているようだから、あたしが担当しておくぞー」

「頼む」


 史愉とカケラが部屋を出ていく。


「とほほ~。いつも私はこうやってハブられる~。どうしてなんでしょうね~?」

「何百年も生きているくせにわからんのか」


 肩を落とす男治に、呆れるチロンであった。


***


 マンションの一室に、複数の男達が座り、会話を交わしている。

 ここは反葛鬼勇気を掲げる過激派活動家団体、『民主主義をリザレクションさせる会』の本拠地だ。


「今日も民主主義リザレクションソングを歌うぞ、歌うぞー」

「はー民主主義は金科玉条どっこいしょー。民主主義だけ絶対正義でほいさっさー、よいよいよーい」

「民謡は嫌だよ。ラップで歌おうぜ」

「アニソンテイストがいいってば。その方が今の時代はウケる」

「やっつけろーあくのどくさいしゃーくずーきゆーき」

「そんな子供向けアニソンじゃダメだってば。臭そうな大きなお友達にウケる奴でよろー」


 自分達の思想を世に広め、賛同者を広めるために、彼等は毎日真剣に議論を交わし、良い手段は無いかと模索していた。


「ちょっとこれ見てよ」


 男の一人がホログラフィー・ディスプレイを大サイズで投影する。


『――であるからして、この都市のオーバーテクノロジーを全世界に解放するが故に、この都市の特別な自治権を認めて頂きたい』


 転烙市のニュースと、市長の硝子山悶仁郎の会見が行われている。


「この市長は独裁者と呼べる者では?」

「いや、違うだろ……。市長の選別方法には難が有るし、民主主義と呼ぶのは躊躇うけど」

「誰にでも機会はあるし、民主的ではある。そんな奴より、俺達が敵とするのは、葛鬼勇気だけだ」

「じゃあその敵、さっさと殺そう」

「ん? 誰の発言だ?」

「そうだ。殺そう……」

「うん、殺そう……。葛鬼勇気を……殺そう」

「いいね……葛鬼は殺すべき。未成年だろうが容赦せず殺して、民主主義を取り戻す……」

「お前達何を言って……ああ……そうだ。葛鬼勇気。殺しちゃおう……。それが民主主義のリザレクション也……」


 気が付くと全員虚ろな表情になり、似たような台詞をぶつぶつと連呼し始めていた。


(手駒は手に入った。勇気を襲うには、元々勇気を憎んでいる連中が操りやすい)


 デビルが窓の外から室内を見て、満足する。民主主義をリザレクションさせる会のメンバーの憎悪を増幅させ、勇気への殺意一色で満たしたのだ。


(僕は引き続き、PO対策機構に与する者を襲っていくか)

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