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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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10

「護と誓までやられているじゃない……」

「柔彦と堅吉も……壺丘さんもだ」


 トレーニングルームの惨状を見て、冴子と卓磨が慄然として唸る。


 真っ先に仕掛けたのは鋭一だった。デビルに心の中でロックオンして、腕を振った。


 不可視のつぶてがデビルに大量に降り注ぐ。しかしデビルは少し体をよろめかせただけで、大して効いていないように見える。


 鋭一が腕を振る所作に合わせて、冴子が飛び出した。トレーニングルームにいた能力者達も、殺人倶楽部の主力である優達が来た事で、勇気と闘志を振り絞って、攻撃を開始する。


 再びマトワリスライムが現れる。今度はデビルの足のみに集中して巻き付いていく。


 さらにはぬいぐるみの戦闘機と爆撃機が大量に出現し、デビルに向かう。


「しつこいね」


 脚に絡みついたマトワリスライムを一瞥すると、マトワリスライムが跡形もなく消え去った。


「なっ……!?」

「え……? 今のは……」


 マトワリスライムを出していた能力者が驚きの声をあげ、優はデビルの行為を見て、ある可能性が脳裏をよぎる。


 ぬいぐるみの戦闘機がぬいぐるみのミサイルを発射する。機銃を撃つ。ぬいぐるみではあるが、それらには十分な破壊力と殺傷力がある。

 デビルの後方から無数の黒い触手のようなものが伸びて、ミサイルも弾丸も全て打ち払っていく。


「おい……あれは……」


 鋭一はデビルの後方から出ているものに、見覚えがあった。真っ黒なそれは、よく見ると触手ではない。長く伸びた黒い腕だ。


「克彦君の影手……?」


 優が呟くが、克彦のそれとは微妙にデザインが異なり、棘まみれで、爪も大きくより凶悪なデザインだ。そして影手はペラペラの平面だが、これは立体的である。


 デビルに接近した冴子にも、影手もどきが攻撃を仕掛けた。棘だらけの拳が冴子を打ち据える。冴子はかわせないと見て両腕でガードしたが、凄まじい衝撃が両腕から全身まで突き抜け、冴子体を大きく後方へと吹き飛ばす。


 克彦の影手はスピードと持久力はあったが、パワーはそれほどでもなく、攻撃に用いるものではなかったが、これは攻撃力も相当なものであるように見えた。


「あ……が……ぎ……」


 仰向けに倒れた冴子が、苦悶の形相で呻く。両腕は粉砕骨折し、肋骨も何本も折れていた。背骨にもヒビが入っている。完全に戦闘不能だ。


 ぬいぐるみ戦闘機がなおも攻撃してくる。


 デビルが手をかざす。直後、ぬいぐるみ戦闘機&爆撃機が、垂直に落下した。そして床の上でぺちゃんこになる。


(今度は来夢君の……?)

 それを見た優の中に恐ろしい想像がよぎった。


「畜生! 食らえーっ!」


 殺人倶楽部の一人が、全身から光る刃を生やして叫び、体を丸め、激しく回転しながら、デビルめがけて飛来した。さながら人間砲弾だ。


「不運の譲渡」

 デビルがぽつりと呟く。


「ちょっ……どわ!」


 人間砲弾となった男は、どういうわけか途中で軌道が変化し、デビルではなく別の方向にいた岸夫めがけて、回転して突っ込んだ。岸夫は悲鳴をあげて、ばらばらに破壊される。


「ご、ごめんっ! 途中でコントロールミスった!」


 上半身と下半身が切断された状態の岸夫に向かって、砲弾男が謝罪する。


「ロボット? サイボーグ?」

 岸夫を見て、デビルが怪訝な顔になる。


「運命操作術まで……。やっぱりこれは……マウスの能力を複数……備えているのですかあ……? しかも従来よりグレードアップされた力で……」

「正解。全部ではないけど。今の僕は純子のマウスの集大成。これまで純子が手掛けたマウスは、僕に施された改造のための供物のようなもの。僕に与えられる力のために、実験台にされた君達がいる」


 優が恐る恐る尋ねると、デビルは誇らしげでもなければ奢るでもなく、何故かアンニュイな表情になって言った。


(全ては彼のためだったのに、そのために純子は頑張っていたのに、僕が頂いてしまった)


 デビルはこの能力を純子から授かった事に対し、後ろめたさにも似た、非常に複雑な思いを抱いていた。


「そして他人の能力を覚えて、改良も出来る。これは純子ほど上手じゃないけど、一応出来る」


 淡々と解説するデビルに、その場にいる全員が固まっている。


(でも一番凄いのは、超常の力じゃない。純粋な肉体強化なんだ)


 そう思いつつ、デビルは砲弾男に視線を向けた。


「いい加減雑魚は鬱陶しいから消えて」


 デビルが言った直後、砲弾男が文字通り消失した。


 さらにデビルは、マトワリスライム使い、ぬいぐるみ使いなど、先にトレーニングルームにいた殺人倶楽部のメンバー達に、視線を走らす。デビルが見た瞬間、視線を送られた者の姿が跡形もなく消えていく。


「やっぱり私の消滅視線も使えるみたいですう」


 優のその台詞を聞いて、鋭一と卓磨はぞっとする。先程のマトワリスライムを消した時点で、優はその疑念を抱いていた。


 残ったのは優、鋭一、卓磨の三名。岸夫は破壊され、冴子は倒れたまま動こうとしない。


「消滅視線は思ったより疲れる。僕と相性が悪い? それとも優の使いこなしが特別上手いの? 全てが上位互換というわけでもないみたい。まあ、これだけを使っていてもつまらない。色々やって遊ぼう」


 デビルが残る三人を見てにっこりと微笑む。とても殺し合いの最中のものと思えない、清々しくさわやかな笑顔に、鋭一と卓磨はぞっとする。


「パンダデカ・ビーム」


 デビルが呟き、目からビームを放つ。純子のマウスであるパンダ刑事の技だが、パンダ刑事が放ったビームよりも太く、ずっと眩しい。


 卓磨が慌てて左足を踏む。するとビームが途中で途切れる。


 一瞬訝ったデビルであったが、すぐに続けて攻撃を行った。


「ペペロンチーノ・ウィップ」


 純子のヒーロー系マウス、スパゲティー・カラドリウスこと木島樹の技を繰り出すデビル。樹のそれは、一本の麺の鞭を飛ばして攻撃する業だが、デビルの手からは何十本もの麺が、樹の鞭よりはるかに速いスピードで放たれた。


 優が双眸に力を込める。消滅視線により、全ての麺が消滅した。


 卓磨が右足を踏む。卓磨は左足を踏むことで、自分の周囲に発生したエネルギーを吸収及び蓄積が可能で、三十秒内に右足を踏むことで、自分を中心に半径10メートル以内の任意の場所で、エネルギーを放出することが出来る。


「不幸の共有」


 デビルが呟いた直後、デビルの前方で爆発が起こる。


 卓磨が起こした爆発のタイミングに合わせて、鋭一が腕を振る。再びデビルを無数の透明つぶてが襲ったが、デビルに大したダメージは見受けられない。


「あがっ!?」


 卓磨が悲鳴をあげてのけぞり、よろめいた。爆発の際、吹き飛んだ床の破片が卓磨の顔に直撃したのだ。

 爆発が起こる直前、攻撃の気配を感じたデビルが、運命操作術を発動させていた。自分か、味方と認識した者に降りかかる不幸を、敵と認識した者にも降りかかるようにする術だ。


(今なら……!)


 消滅視線をデビルに向けて放つ優。


 デビルが攻撃した後、デビルが攻撃された後、デビルが運命操作術も発動したその後というタイミングを狙い、消滅視線を発動させた。普通にやっても、今のデビルには抵抗レジストされてしまう可能性が高い。攻撃された後、力を連続で使った後ならば、息を吐いた後のように、ほんの微かな気の緩みが生まれ、抵抗値も下がるだろうと見て、優はその一瞬に賭けた。


 だが、デビルの体は一瞬ぶれただけで、消滅しなかった。


「消滅視線、効かないようだね。もっと僕を弱らせれば効くかもしれないけど、君の仲間は貧弱すぎて、それも無理」


 デビルが優の方を見て、静かな口調で話しかける。嘲っている様子は無い。冷たく事実を告げているわけでもない。友人に対して親しみを込めてからかうような、そんな喋り方だった。


「悪魔様にお・ね・が・い」


 トレーニングルームの入口から声がした。その声を、デビルは覚えていた。


 電撃が迸り、デビルの体を直撃する。


(ちょっと効いた……)


 膝をつくデビル。しかし完全に倒れずに何とか踏ん張る。


 優がまた消滅視線をデビルに放つ。


 しかし優の攻撃するタイミングを見切っていたデビルは、優が能力した瞬間に合わせて、下腹部に力を入れて気合いを入れ、優の消滅視線に抵抗しきった。


「あの学校でも、君がいい所で邪魔しに来て、逆転した。覚えてるよ」


 竜二郎を見て、デビルが言う。


「おやおや、覚えてくれていましたかー。ではあの後どうなったかも覚えているんですよねー? また同じことの繰り返しにしましょうねー」


 竜二郎が笑顔で告げると、懐から呪符を抜き取った。


 竜二郎が呪符を前方の空間に放つと、狼の体に鮫の頭を持ち、背中からは四匹のコブラと二匹の巨大ムカデを生やしたキメラが出現する。朽縄一族の妖術、獣符だ。


「悪魔様にお・ね・が・い」


 さらにまた能力を発動させる竜二郎。獣符は強力だが、術師の消耗が激しく、持続力が乏しい。それを悪魔様におねがいの力で補助し、持続力をあげたうえに、呼び出した獣の戦闘力そのものも向上させている。


(不快だな)


 デビルはこの悪魔様にお願いという能力も、知っている。使おうと思えば使える。しかし使う気にはなれなかった。スタイルだけの問題とはいえ、自分が悪魔だと自認するデビルが、このような能力を使うのは、どう考えてもおかしい。そして能力のコンセプト自体も、好きになれない。


「お願いされた覚えは無い」


 向かってくるキメラを見ながら呟くと、デビルは何かを前方に放り投げた。


 投げたのは一円玉だった。


 獣符の獣が、一円玉に近付いた瞬間、滑って転倒した。

 獣は立ち上がろうと藻掻くが、立ち上がれない。すぐに滑ってしまう。まともに身動きが出来ない。


「えー? どうしたんですかー」


 竜二郎がその光景を見て呆気にとられる。

 デビルは元々備えていた、摩擦消去の力を使ったに過ぎなかった。


「飛べるように神様にお願いしてみたら?」


 デビルが竜二郎に向かって嫌味を口にするなり、猛スピードで駆け出した。その先にいるのは、竜二郎だ。


 近接戦闘を挑んできたデビルに対し、竜二郎がいつの間にか腕に装着していたランタンシールドを振るい、迎え撃つ。


 デビルが腕を一振りする。盾と手甲から伸びた複数の刃が、あっさりと折れて飛び散る。


 切断されたのはランタンシールドの刃だけでは無かった。盾と手甲と、竜二郎の腕も切断され、宙を舞っていた。

 竜二郎は目を見開き、宙を舞う刃と己の手を見ていた。回転しながら見ていた。視界が突然激しく回転していた。その理由はわからなかった。


 竜二郎の首も切断され、空中でくるくると回転していた。しかし竜二郎は気付いていなかった。自分が殺されたと気付く前に、竜二郎の意識は暗転した。

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