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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
3322/3386

9

 殺人倶楽部本拠地、トレーニングルーム。


「おーい、言ってた例の新人連れてきたぞ。ていうか、今日は少ないな」


 殺人倶楽部の顧問とも言える壺丘三平が、一人の少女を伴って、トレーニングルームに入ってきた。

 赤口護、友引誓、右山堅吉、左谷柔彦、その他数名の殺人倶楽部が、訓練の手を止めて入口に注目する。


 壺丘が連れてきたのは、ロングヘアーの十代後半美少女だった。少し緊張気味の表情で愛想笑いを浮かべている。


「すげえ可愛い……」

「あの子知ってる。神酒山沙裸だ。うちらの仲間になるのか」

「芸能人だっけ。名前だけ聞いたことあるような。テレビ見ないから」

「最近CMでも見かけるようになったじゃない。歌も聞くし」


 ざわつく殺人倶楽部の面々を見て、少女――沙裸は照れ臭そうにするが、その仕草は半分以上演技だ。予想されていたリアクションではあった。


「神酒山沙裸です。兼業になりますが、今日から殺人倶楽部の一員としてお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」


 沙裸が深々と頭を下げる。


「よろしく……。月奈美香みたいなものだと受け取ればいいのかな?」


 右山堅吉が尋ねる。表の世界で成功しているのに、わざわざこんな世界に足を踏み入れる時点で、それなりに事情があるのだろうと察する。


「はい。美香さんは憧れの人です。私も美香さんみたいになりたいです。いえ、なりますっ」


 営業用スマイルを崩すことなく、はきはきとした声で宣言する沙裸。


「もうすぐリーダー含め、ここのトップチームが戻ってくるから、その時に能力のお披露目もお願いね」


 誓が沙裸に向かって告げる。


「え? 各自能力は隠し合うとか、そういうことは無いんですね。能力バトル漫画見たら、仲間でも能力隠していましたけど」

「無いよ。互いに能力を把握してないと、チームワーク取りづらいじゃないか」


 沙裸の台詞を聞いて、護が笑う。


「そうなんですね。わからないことだらけですが、色々教えてくださいね」

「おうよ、何でも聞いてー」


 沙裸が微笑みかけると、左谷柔彦が鼻の下を伸ばす。


「じゃあ後はよろしくな……って、何だ、お前?」


 踵を返し、扉を開いた壺丘が、そこにいた者を見て訝る。


 殺人倶楽部はかなりの人数が所属しているが、壺丘はその全ての顔と名前を把握している。そこにいた少年は、明らかに殺人倶楽部の者ではなかった。


 壺丘の様子を見て、すぐ近くにいた沙裸は不審がる。


 何か異常事態が発生したのではないかと見て、真っ先に臨戦態勢に入ったのは誓だった。誓の周囲に、大量の不気味人形が出現する。

 誓が能力を発動したので、異常事態発生と見て、護もフルプレートアーマーの騎士を呼び出した。


 直後、何かが猛スピードでトレーニングルームを飛んでいった。何かが激突する音が、扉とは向かいの壁から聞こえた。


 壺丘の首から上が消失していた。


 壺丘のすぐ近くにいた沙裸は固まっていた。他の殺人倶楽部の面々はこの時点で異常事態だと受け取り、身構えた。


「ぼけっとしてるな!」


 右山堅吉が叫び、光り輝く白い帯を放つ。

 光るトイレットペーパーのようなそれが、沙裸に巻き付いて引き寄せ、何者かの襲撃から守ろうとしたが、その前に沙裸の腹部が引き裂かれ、大量の血と臓物が四方八方に弾け飛んだ。


 腹部が爆散した沙裸の上体が、仰向けに倒れる。いや、落下する。上半身と分離した下半身は、少し遅れてうつ伏せに倒れた。


「あれ……?」


 沙裸は自分に何が起こったかわからなかった。痛みは無い。身体の異変に反応して、大量の脳内麻薬が分泌していたせいだ。


(私の体……どうなったの? 動かない……。天井……? あれ? 暗くなっていく……。意識が薄れて……?)


 疑問に次ぐ疑問を浮かべながら、沙裸の意識は消失した。


 沙裸と壺丘の屍の向こう――トレーニングルームの入口には、一人の少年が立っていた。この少年が壺丘と沙裸を殺害したことは明白だ。

 細身な体型の、白皙の美少年――いや、色白というより、その肌は不健康そうな青白さだ。無表情で室内を見回し、殺人倶楽部の面々を観察している。


(こいつ……どこかで見たことがあるような……。知っている雰囲気だ)


 現れた少年を見て、護が息を飲む。どこかで見た、どこかで感じたおぞましさ。しかし思い出せない。そして思い出したくもない。


「何だ、こいつ……」

 左谷柔彦が呻くと、少年は目を細めた。


 床に飛び散った沙裸の臓物が、宙に浮かんでいく。主に腸だ。

 念動力によって、沙裸の臓物が空中に固定されて、文字を作った。その文字を見て、護は嫌悪感の正体が何であるかわかった。文字は五文字のアルファベットだった。


「デビル……」


 空中に浮かんだ臓物が、DEVILという文字を作る様を見て、護は脂汗を噴き出しながら唸る。


「まさかそんな……」


 誓も恐怖と驚愕の入り混じった表情になる。デビルとはかつて関わった事がある。殺人倶楽部に入る前に、戦った事がある。


 デビルの視線は、右山堅吉の光る帯に向けられた。


 右山堅吉は恐怖する。危険と感じ取り、自身の能力『エターナル・トイレットペーパー』を最大限の力で発動した。

 光る帯が分裂し、速度が増し、デビルの体に左右上下から巻き付かんとする。


 デビルがうるさそうな仕草で軽く左手を振った。


 吸い寄せられるかのようにて、全ての光の帯がひとまとめになって、一瞬にデビルの左手の中へと納まった。実際、念動力によって吸い寄せられたのだ。


「ええ……?」


 有り得ない事態を目の当たりにして、右山堅吉の思考が停まる。


 デビルが駆ける。


 駆け出したかと思ったら、その直後には、デビルは右山堅吉の隣にいた。デビルの左手には、光るトイレットペーパーが握られたままだ。

 そして気が付いたら、右山堅吉の首に、光るトイレットペーパーが巻き付けられていた。光る帯ではない。光る糸状に変化している。デビルによって形状を変えられている。


(能力を解除しろ!)


 相棒の左谷柔彦が心の中で叫ぶ。肉声でも叫ぼうとしたが出来なかった。声に出す前に、右山堅吉の首が切断され、床に落ちていたからだ。

 デビルが左手を軽く引いただけで、研ぎ澄まされた光の糸は、首を切断していた。


 右山堅吉が死んでも、光の糸は消えていない。


「これ、いいな」

 デビルが左手で光の糸を弄ぶ。光の糸が宙を踊る。


「うがあああああっ!」


 目の前で親友を殺された左谷柔彦が咆哮をあげ、デビルに向かって突っ込んだ。


 左谷柔彦の両脇の下から、昆虫の節足のようなものが生える。

 護が騎士を向かわせる。近接攻撃を得意としている左谷柔彦でも、このデビルに一人で相手をするのは危険だと見た。


 無数の節足が、デビルめがけて繰り出された。鋭い先端がデビルの体を串刺しにせんとする。


 節足は全てへし折られ、あるいは切断された。


 左谷柔彦は目を剥いた。デビルはほとんど動いていない。左手の人差し指を微かに動かした程度だ。それによって光の糸が激しく宙を踊り、全ての節足を砕き、もしくは切断した。


(堅吉からパクって……変えた能力で……)


 その事実に驚愕し、同時に激しい怒りを覚え、そして恐怖へと変わった。


 デビルが一歩踏み出した。右腕を伸ばした。デビルの右手が左谷柔彦の胸元を掴む。

 デビルが右腕を振るう。左谷柔彦の体が回転して吹き飛び、護が向かわせた騎士に直撃する。


 護の騎士と左谷柔彦が大きく吹き飛んで、床に倒れる。


「我ながら凄いパワー」


 片腕で男一人を投げ飛ばし、その先にいた騎士まで倒した様を見て、デビルは純子から受けた改造の成果に感心していた。


 そのデビルに、水色の光線が放たれる。他の殺人倶楽部のメンバーの遠距離攻撃だ。


 水色の光線はデビルに届く前に、ねじ曲がった。

 光線を放った殺人倶楽部のメンバーが驚愕する。


 驚いている合間に、光線は180度曲がり、光線を出している本人の頭部を穿ち抜いた。光線が消え、そのメンバーも崩れ落ちる。


「優っ、早く来てっ! トレーニングルームが襲われている! デビルに! 壺丘さんも殺されて、堅吉さんも殺されて! 早く助けに来て!」


 誓は優に電話をかけ、必死の形相で叫んでいた。


 デビルの視線が、鎧の騎士と護に交互に向けられる。


「オ前ミタイナヒドイ奴今マデ見タコトナイヨオ前ガ一番ノ悪ダ」


 護をじっと見ながら、デビルが棒読みで口にしたその台詞を聞き、護と誓はぞっとする。二人共、その台詞は覚えていた。かつて護がデビルに向かって放った怒号だ。


「おまえみたいなひどいやつおまえみたいなひどいやつ、見たことないよ見たことないよ」


 歪なオウム返しを繰り返しながら、デビルは歪んだ笑みを浮かべ、ゆっくりと護へと近づいていく。


 護が甲冑の騎士を動かし、自分の前方へと移動させる。誓も不気味人形を飛ばして、騎士の左右に展開させた。


 デビルが途中で足を止めた。先程投げ飛ばした左谷柔彦の体が、前方に倒れていたのだ。


「お前が一番の悪だお前がお前がお前が一番の悪だ。お前が一番の悪だ。一番の悪だ一番の悪だ一番の悪だ一番の悪だ」

「ぎゃあああぁっ! ぎひっ! やめ! ごぼぶ!」


 同じ台詞を繰り返しながら、デビルは左谷柔彦の脇腹を踏み潰し、腕を踏み折り、肩を踏み砕き、最後に鳩尾を踏み抜いた。その度に悲鳴があがったが、最後に腹を踏み抜いた際に、左谷柔彦は口から大量の血を噴射し、その後は声をあげなくなった。


 誓も護も他のメンバー達も、デビルの行為を止めようとせず、見送っていた。命を弄ぶかのように、常軌を逸した殺し方を行うデビルを見て、恐怖し、畏縮していた。加えて、全員デビルの戦う様を見て、察していた。これには勝てないと。下手に手を出したら、左谷柔彦と右山堅吉と水色光線使いのように、即座に殺されてしまうと。


「町子先生ごめんなさい?」


 デビルが護を見て、爽やかな笑みを広げ、そんな台詞を口にする。その台詞も、護は聞き覚えがある。仏滅凡太郎がデビルに殺される間際に発し、その後デビルは同じ台詞を繰り返していた。そしてその後に護は激昂した。


(駄目だ……。こいつには絶対……勝てない。こいつは俺を殺すつもりだ)


 死の恐怖が護の全身にまとわりつく。闘争心はほぼ残っていない。今のデビルは、あの時のデビルと比べ物にならないとわかる。


「護! しっかりして!」


 誓が叫び、チェーンソーを持ったパンダのぬいぐるみと、七本ある手の全てに様々な得物を持った血塗れの女の子の人形を、デビルに向けて飛ばす。


 デビルは飛来する人形二つを衝撃波で撃墜する。これは改造前からデビルが持っていた能力だが、改造前よりパワーアップしていると、デビルは感じた。


 さらに二体の人形を飛ばす誓。そこで護も我に返り、恐怖を必死で押し殺しながら、フルプレートアーマーの騎士を接近させる。


 人形と騎士を破壊しようとしたデビルだが、その前方に、不定形な灰色の物体が大きく広がった。まるで粘土が大きく広がるかのように。

 灰色の物体は、何本もの太い触手を大きく伸ばし、デビルに巻き付かんとしてくる。デビルは手刀で触手を切断していくが、切られても空中ですぐにくっついて元通りになり、大きく伸びあがる。


(マトワリスライムね)


 誓が殺人倶楽部のメンバーの一人を意識する。恐怖を払いのけ、デビルを攻撃してくれたのだ。


 マトワリスライムがデビルの体に絡みついたが、デビルは慌てなかった。この拘束を振り払う方法などいくらでもある。衝撃波で弾いてもいいし、平面化して振りほどいてもいい。改造前の力でもどうにでも出来る。

 しかしデビルはあえて、ただの力任せで抗うことにした。


 マトワリスライムに全身まとわりつかれた状態で、デビルは人形を両手で打ち砕き、騎士が剣を薙ぐより早く蹴りを突き出して、騎士の甲冑を吹き飛ばし、ひしゃげさせた。


 デビルは護めがけて走る。マトワリスライムはデビルの足にも巻き付いてそれを防ごうとするが、デビルの動きは全く止まらない。


 誓が人形を新たに放つが、デビルは簡単に打ち砕き、護の目の前まで迫り、唐突に停まった。


 護を護る者は最早誰もいない。その術も無い。そんな状態で、デビルが護の目と鼻の先にいる。至近距離から護をじっと見つめている。


「楽しいのかよ、それ。タノシイノカヨソレ。たのしいのかよ。それ。楽しいのかよソレ」


 様々な口調で、同じ台詞を口にするデビル。それもかつて、護がデビルの前で口にした台詞だった。


 デビルの腕が動く。護の背中からデビルの手が生えたかのように、護の後方にいた殺人倶楽部のメンバー達の目には映った。


「楽しいな。一番の悪となるのは」


 胸を貫かれ、硬直し、痙攣しだした護の耳元で、デビルが囁く。


 デビルが腕を引き抜くと、護はうつ伏せに倒れた。夥しい量の血が床に広がっていく様を見て、誓は泣きながら震えていた。


「僕が一番の悪? そうなのか? わからないけど、人生で最高の誉め言葉だった。護。あの言葉、嬉しかった。ずっと忘れない。ありがとう」


 護の死体を見下ろし、にっこりと嬉しそうに微笑んで礼を述べるデビル。


「ああああああぁあぁあぁっ!」


 誓が悲痛な叫び声をあげる。デビルの顔から笑みが消え、不機嫌そうな顔へと変わる。


「うるさい」


 デビルが呟いて誓を一瞥すると、誓の周囲に大量に浮かんでいる不気味人形達が、一斉に誓を攻撃しだした。人形達が手にした包丁、釘、杭、ハンマー、剃刀、電ノコ、カッター、釘バットが、誓を突き刺し、切り刻み、打ち据える。鋭い爪や牙が誓の体中に食い込む。


「うっぐ……ぐぅ……」


 全身血塗れになった誓が、呻き声をあげながら崩れ落ちる。人形達が全て消滅する。

 倒れた誓の体から、護と同じかそれ以上の血だまりが広がっている。人形達によって動脈を何ヵ所も切断されていた。


 デビルにまとわりついていたマトワリスライムが消滅する。仕掛けていた能力者の恐怖と絶望がピークに達し、能力を解いてしまったのだ。


「誓さん、だいじょ……」


 トレーニングルームに優が飛び込んできたが、たった今息を引き取ったばかりの血塗れの誓を見て、言葉を失った。


 優の後ろから、岸夫、冴子、卓磨、鋭一の四名も現れ、トレーニングルームの惨状を見て目を剥いた。


「僕は君に会いに来た」


 デビルは優に視線を向け、嬉しそうに目を細めて告げた。


「僕は君と遊びに来た」

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