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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
3319/3386

6

「あんなデカくて未知の存在を、短期間で解析したところで、どれだけの事が判明できるか、期待できねーと思うぜ。しかも解析したからどーだって話だよ」


 ジュデッカが懐疑的な口調で言う。


「イェア、あたし達だけで解析しきれなくても、解析したデータそのものを持ち帰って、あのぐぴゅぐぴゅに見せればいいと思うんよー」

「なるほど。専門家の所に持って行けばいいだけか。つまんねーこと言ったな、俺」


 みどりの言葉を聞いて、ジュデッカが照れ臭そうに言う。


「史愉に調べさせるという事か。ミルクでもいいな」

 と、勇気。


「人数絞って……」「全員は無理」

 伽耶と麻耶が言った。


「解析できる者と、もしもの時に突破口を開ける者とで編成しよう。残りはもしもの時に、外から救助する役目だ」


 真が方針を告げる。


「そのもしもの時にならないことを祈りたいね」

 冗談めかすジュデッカ。


「カシム、伽耶、麻耶、ツグミ、みどり、勇気、鈴音、ジュデッカ。そして僕で行く」

「あらら、僕はお留守番なのか。そうなのか。残念無念」

「あーあ、真PTの中で俺だけ居残り組だ……」


 真の編成案を聞いて、政馬が肩をすくめ、熱次郎がぶーたれる。


「何ぞありし時には、留守番役が特攻して救助せねばならぬ。球場近辺に居る者共の足止めも必要であるから、重要な任務也」

「何もなかったら退屈、何かったらハード。損な役回りだね」


 ミサゴが厳粛な口調で告げると、政馬が皮肉っぽく言う。


「解析できない俺は、ついていかなくてもいいんじゃないか?」

「私も解析できなーい」


 勇気とツグミが申し出る。


「何かあった時に緊急脱出係だ」

 真が言った。


「緊急脱出の手筈だが、勇気の大鬼で外に放り投げまくってくれ」

「それでうまくいくのか? お前達は砲台によって強制転移させられたそうじゃないか。砲台に高い知性と能力があるなら、それも難しいぞ」

「もしかしたら僕達を瞬殺する事もできたかもしれないが、砲台はそれをせずに、あえて外に放り出すという選択を取ったからな。砲台に殺される可能性は低いと思う」


 疑問を口にする勇気に、真が私見を述べる。


「しかしあれだな……砲台って呼び方ひでーな」

 ジュデッカが小さく笑った。


「真先輩、私は?」

 ツグミが自分を指して尋ねる。


「ツグミは怪異を呼び出してフレキシブルに立ち回れ。全体の動きを見渡して適当に補佐」

「らじゃーっ」


 真の指示に応答するツグミ。


「おいおい、丸投げ指示じゃねーか」

「段々こいつの性格わかってきたわ」


 ジュデッカが再び笑い、カシムは真を見て小さく息を吐いていた。


「じゃあ、カシム、伽耶、麻耶、頼む」

「あいあいさー」「合点承知の助」

「へっ、上手くいきゃいいな」


 真が促すと、三名が応答する。


 カシムが物質透過能力を使い、伽耶がカシムの能力を複数にかかる拡大の術ほ用いて、解析突入班の面々は地面の下を通って、あっさりと球場内部へと入り込んだ。


 内部にも多少は警備がいたが、外に比べると少ない。そして麻耶の能力で、視覚的にも聴覚的にも第六感でも、察知されないようにしている。


「うわーお……近くで見ると、昨夜より大分大きくなったのがよくわかる~」

「球場の外からも見えたからね~」


 合体木を見上げて感心するツグミに、みどりが言った。


「木島のあの巨大合体木に比べるとまだ低い。まだ猶予はある……と見ていいな」


 勇気が言う。


 真、鈴音、みどり、ジュデッカの四名で解析にかかる。


「うっひゃあ……これ……物質的スケールの大きさだけに目が行きがちだけどさァ、精神生命体としての側面もデカいぜィ。人間のそれとはかなり違うメンタル――かなり高度な精神性を持ってるよォ~」

「俺はそれはわからなかったな。俺の解析能力低すぎっ」


 みどりが言うと、ジュデッカがおどけた声をあげる。


「もやしは精神系統の優れた能力者だからな」

「こらーっ、勇気兄ーっ」


 勇気の台詞を聞いて、みどりが抗議する。


「俺はもやしと言っただけだ。みどりとは言ってない。お前は自分でもやしと認めている」

「その流れで言えば誰のことかくらい一目瞭然だべー。体型からいってもあたししかいないじゃんよ~」

「確かに細身だけど、もやしと言うほどでもないだろ。むしろスレンダーと言って褒めてやってもいい」


 勇気が意地悪い笑みを広げて言い放ち、みどりは憮然とし、ジュデッカはフォローする。


「人の体型をディスるのはいいことじゃない」

「む……そうか。そうだな。つい……すまなかった」


 真がやんわりと注意すると、勇気は素直に認めて謝った。


「ちょっと勇気……私だってそれ注意したよ? どうして真に対しては素直なの? ひどいよ勇気」


 鈴音が口をとがらせて抗議する。


「お前の注意だってちゃんと聞き入れていただろ。というかお前は解析してるのか?」

「してるけどそんなに得意でもないし、何かこれ中々うまくできないよ。植物なせい」

「口だけ達者で言い訳ばかりで、そのくせ俺に注意だと? 思い知らせてやる」

「痛い、痛いよ勇気」


 勇気が鈴音の両耳を後ろから捻じりあげる。


「かなり解析しづらいのは確かだ。植物だからなのかな。他に要因があるのかもしれない」


 双眸を赤く光らせた真が言う。


『私の中身を覗いてるようですね。私を滅ぼすためですか?』


 突然、若い女性の澄んだ声が、その場にいる全員の心の中に響いた。


「今の、お前達も聞こえたか?」

「聞こえた」

「超聞こえた」

「皆聞こえたみてーだぜ」

「テレパシーっぽいなー」

「聞こえてるよォ。この木が、全員に念話送っているんだべ」


 真が伺うと、伽耶、麻耶、カシム、ジュデッカ、みどりがそれぞれ答える。


「世界を変えるために、バクテリアだか種子だかウイルスだかを撃ちだす砲台なんだろう? それは見過ごせない」


 勇気が大木を見上げて言い放つ。テレパシーを送ったのがアルラウネの合体木であることは明白だ。


『私の名はガオケレナと申します。集合体としての名前がガオケレナであり、今話している私は、この合体木の全てのアルラウネの代表です。以後お見知りおきを』

「呼びにくい」「覚えにくい」

『呼び方は砲台でよかった』


 大木の自己紹介を聞いて、伽耶と麻耶が言う。


「ゾロアスター教に出てくる、海の中心にそびえ立つ生命を司る大木だ。癒しの木の王とも呼ばれる」


 ジュデッカが解説する。


「木島のあれと被らせてきたわけか」

「勇気の前世と被ってるね」


 勇気と鈴音が言った。


『貴方達の憂慮は理解しています。しかし私は、人類全てを作り変え、次のステージへと押し上げるために産まれ、そのために在ります』

「その時点で交渉の余地は無いし、話しかける意味も無くないか?」


 ガオケレナの言葉を聞いて、真が尋ねる。


『そうでもありません。私は平和的解決を望んでいます。そして私は、私の作り主である雪岡純子の行いに反対です。それを伝える意義はあると信じ、声をかけさせて頂きました』

「本当かねえ……」

「でも嘘だとしたら……? どんな理由で嘘を? その場凌ぎか? そんな嘘をつく理由も無いんじゃね?」


 カシムが疑う一方で、ジュデッカはガオケレナの言葉は真実ではないかと見なす。


「どう平和的解決をするつもりなんだ?」

「また強制転移するつもりか?」


 勇気と真が尋ねる。


『昨夜は強制転移が成功しましたが、貴方達が油断していたため、そして消耗していたがために成功したに過ぎません。今回は十分に警戒され、ガードされているが故に、上手くいかないでしょう』


 と、ガオケレナ。


『私を止めるにあたって、私を殺す以外の方法を取って頂けるなら、そちらにとって実りある情報を二つ、提供しましょう』

「おいおいおいおい、そんな口約束、お互い信じられるのか? つーか、俺達にとって実りある情報って何だよ」


 ジュデッカが皮肉めいた口調で言う。


『私――いえ、私達は殺されたくありません。止めるにしても、殺す以外の方法でお願いします。一つは、おそらくは解析でも得られない、タイムリミットに関してです。私が世界を変える砲撃を行う時刻が何時であるか、御教えします』

「殺す以外の方法があるん?」

『あります。それがもう一つの実りある情報です。しかし約束して頂かねば、教えられません』


 みどりが尋ねると、ガオケレナはそう返した。


「だから約束なんてお互い信じられる間柄じゃねーだろ。約束が守られる保障は?」

「お前の命の目的が、世界を滅茶苦茶にすることなのに、それを止める方法をお前が教えると言われて、それを信じろというのか? とても信じられない」


 カシムと勇気が揃って胡散臭そうな視線をガオケレナに向けて問う。


『私達は私達の目的を成し得ます。そのように作られ、生まれました。それは私達のレゾンテートルですが、先程も申した通り、私自身が賛同しているわけではありません。もう一度言いますが、私は雪岡純子の目的には反対です。それが私――私達の意思です。皆さんの憂慮と同じように、私達もその後の事態を憂慮もしています。全ての人間が力を得たとして、間違いなく、多くの死をもたらす事になるでしょう。雪岡純子達は、その死をやむなき犠牲として無視しています。その後の世界の変革が重要と考えています。私は無視してはいけないものだと考えます』

「だからよー……その言葉を信じられる根拠もねーんだがなー」


 ガオケレナの弁を聞き終えても、カシムの言い分は変わらなかった。実際ガオケレナは自分の考えを述べているに過ぎない。


「仮に僕達が、お前を殺さずに止める約束をしたとして、それを信じられるのか? そして約束通りに勧められる保証も無いんだぞ? 止める方法が他に見つからなければ、それでおしまいなんだ。生まれたばかりの知能にはわからないのかもしれないけど、理屈で信じられる根拠が欲しいな」


 真が指摘し、要求する。


『ではもう少し詳しくお話しましょう。これは推測の域でもありますが――私達の人格形成の礎は、日本各地から集められたピュアな若者達――苗床と呼ばれる者達によるものです。純粋な心を持つ青少年の、穢れの無い真摯な心によって育まれたアルラウネが、砲台に欲望の在り方を学習させるにあたって、良い素体になると、雪岡純子は考えました。世界の改変に対して、疑問を抱くこともないであろうと。そしてその目論見は正解だったと言えます』


 ガオケレナの話を聞いて、真、伽耶、麻耶、ツグミ、カシムの五人は、ぽっくり市での攻防を思い出した。


『ただ一つ、彼女は小さな、しかし重大な計算違いをしていました。ぽっくり市に集められて苗床とされた純粋な若者達――彼等を指導した者――大丘越智雄という人物こそが、雪岡純子の計算違いであり、見落としです。異物と呼んでもいいかもしれません』

「大丘さん……」


 大丘越智雄の名を出され、ツグミの顔色が変わった。

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