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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
3318/3386

5

 赤と黒と青が渦巻く毒々しい空。真っ黒い岩盤で覆われた渓谷。煌めく水色の川のほとりに佇み、満足そうに微笑む白衣姿の少女。


 真は絶望している。絶望しながら少女を見ている。

 少女が顔を上げる。真紅の瞳がかつてないほど禍々しい輝きを放っている。


「これで……私の千年越しの望みは叶えたよ。でも……」


 かつて一度も見せた事のない虚無的な表情で、少女は言葉を発する。


「でも、色々と失っちゃった? それが何であるかはわからないけど、漠然とそう感じる」


 少女が真を見た。少女はいつも真を見る時、その瞳に喜びの輝きを宿していた。しかしその輝きは今、微塵も見当たらない。

 真は喪失感と恐怖を覚えて震えていた。最も大事なものが失われたという事実を、素直に受け入れ難く、しかし受け入れるしかない事実に、心が崩れそうな感覚に襲われていた。


「君のことも……覚えていない。君は私を知っているようだけど」


 少女のその言葉が、氷の刃となって真の胸を突き刺す。


「ああ、思い出した。漠然とだけど、思い出した。君は……裏切り者だ。私に世界を変えるという目的を与えたのは君なのに、その君が、私の邪魔をし続けた」


 さらに発した言葉が、憎悪に満ちた視線が、真の胸を切り刻んでいく。


「君を許さない」


 少女が放った台詞に、真の恐怖と絶望が最高潮に達した瞬間、真の意識が覚醒した。


 真は電車の中にいた。隣にはツグミが座っている。他の面々は少し離れた席に座っている。


「真先輩、嫌な夢でも見てたの? うなされてたよー」

「最低の悪夢だった」


 ツグミが心配げに声をかけると、真は顔を押さえて答えた。冷や汗までかいている。


(半年前に雪岡がやったことで、世界はかなり乱れた。犯罪者だらけになって、多くの被害者が出た。あいつは今、さらに超常の能力者を増やそうとしている。それが上手くいくかどうかはさておき、また世界中で犠牲者が出るのは間違いない)


 それはそれで問題だが、実は真が最も気にしている部分は、そこではない。


(何より、世界中の人間に影響を与えるほど大規模な変化を起こすために、悪魔の偽証罪を用いれば、今見た夢のような最低の展開になりうる可能性だって、無きにしも非ずなんだ。あるいはもっと酷いことになるかもしれない。あいつがやろうとしている事は、そういうことなんだぞ。それなのに何であいつも、全ての元凶である前世の僕も平気なんだ)


 嘘鼠の魔法使いなら、直接質問する事も可能であるが、どんな馬鹿馬鹿しい答えが返ってくるかわかったものではないので、それを直に訊く気にもなれなかった。


***


 デビルは寝台に寝かされ、改造手術を受けていた。


「麻酔で意識無くなるのかと思ったら、起きたままなんだ」


 自分の腹をかっさばいている純子に向かって、話しかけるデビル。痛みは一切無い。麻酔でちゃんと感覚が消えている。


「麻酔はかけてあるよー。意識も消えるはずだけど、おかしいねえ。君の体と魂がアンデッド化しているせいかな?」


 多分その考えであっているだろうと、喋りながら純子は思う。


 無為な時間が流れていく。


「結構長くかかる?」

「うん。ここの設備でも出来るけど、不十分なのは否めないし」


 デビルが尋ね、純子が答えた。


「私は真君が心変わりした時のために、とびっきりの改造を常に想定して温存していたからね。この真君用の改造プランは頻繁にアップデートして、私の中で常に最良最高最強のものをキープし続けてきたよ。他の実験を参考にしてね」


 デビルが退屈しているのかと気遣い、純子が話題を振る。


「真君の代わりに改造とか言われた時、どきっとしたんだ」

「どうして?」

「デビルは真君になりかわりたいのかな? そう思っちゃってね。つまりデビルは私のことを……?」

「そういうのじゃない」


 にやにや笑いながら問いかける純子であったが、デビルはあっさりと否定した。


「何だあ。がっくし」

「何で?」

「デビルと真君――二人の美少年で私を取り合いとか、そういう熱い展開期待したのになあ」

「気持ち悪い」


 憮然とするデビル。


「そういうのは嫌いなの?」

「大嫌い」

「真君とわりと似ているかな。真君もこういうノリ、嫌ってるし」

「恋愛感情に安易に繋げたくない」

「どうして?」


 デビルの不機嫌そうな物言いを聞いて、不思議そうな顔になる純子。


「どうしても。君にはとても懐かしい気持ちを抱いている。それを大事にしたい。壊したくない。悪魔にも穢せない領域はある」


 それだけではなく、もう一つ理由はあった。デビルは睦月のことを想っていたい。自分が好きになった女の子は、睦月一人だけでいいと思っている。もう二度と会えなくても構わないし、睦月が他の男とくっついても構わないが、ただ心の中で一番大事にしておきたいので、自分は他の異性に心を向けたくない。


「純子と真の仲を壊したいとも思わない」

「そうなんだ……」


 デビルの言葉は純子からすると、とても意外な代物だった。


(この子って、そういう方面に関しては凄くピュアなのかな……。美しいと思うものを美しいままで、汚したくはないっていう気持ちが、強く働いているんだ)


 デビルを見て、純子は思う。


「真がもし僕が嫌いなタイプだったら腹が立っていたし、もっと早くに殺しに行ってた。でも彼はそうじゃない」

(でもデビルは私よりずっと気まぐれっぽいし、気が変わる可能性もありそう)


 デビルが続けて口にした言葉に対しては、純子はやや懐疑的だった。


「真のことは認めているけど――昨日も言ったけど、真が君に歯向かう理由には共感できない。あれは駄目だ。何故純子の味方にならないんだ。純子が大事なら、協力するべきなんじゃないか?」

「んー……そこは真君の考えもあって、反発している感じかなあ。大事だろうと何だろうと、全て折り合えるわけじゃないしさ」

「そういうものか……」


 何を言われてもデビルには理解しがたかったが、二人がそれで納得しているなら、自分がとやかく言うものでは無いと、わかっている。


「ああ、大事なこと言い忘れてた。この改造、君の体にあれこれ詰め込みまくりいじりまくりで、中々複雑なことになるから、君のお得意の分裂は難しくなるよ。できなくなるわけじゃないけど、分裂してもう一人の君を作るのに、わりと時間かかっちゃう。つまり一回の戦闘で何回も分裂するとかできなくなるし、予め作っておく形になるね。分裂体は、合計で三体までかな。それ以上生み出すと、個々の精度が大幅に下がるからね」


 純子の解説を聞いても、デビルは何も思わなかった。


「別にいい。僕の分裂能力はみどりのせいで酷い制限がかかり、ワグナーのおかげで少し自由になった。オーバーデッドではなくなっても、その分強くなるならそっちの方がいい」

「そっか。再生能力乏しくしてでも、別の力を色々詰め込んだ、私と同じ考えだねえ。君ならそう言ってくれると思った」


 自分の言葉を聞いて喜ぶ純子を見て、天邪鬼なデビルはこんなこと言わなければよかったと思う。


 会話が途切れる。その後も暇な時間が続いたので、デビルはネットを検索する。

 そこで興味深いものを見つけた。SNSのトレンドのまとめサイト。勇気への評価が掲載されている。主に勇気を嫌悪する者達の呟きで埋め尽くされている。


「勇気を信じない人もいる」

「んー、勇気君はわりとまともな政治はしているよー。でも言動が色々と酷いでしょ。どこにいってもああいう態度だしさ」

「政治内容はまともでも、言動が粗暴だと嫌われるのか」


 馬鹿馬鹿しいとデビルは思う。デビルも勇気のことは嫌っているが、言動で嫌っているわけではない。


「政治家に関わらず、私は仕事さえまともなら、発言や性格は気にしないけどね。そうじゃない人もいるみたい」


 純子が言った。デビルも同じ考えだった。


(馬鹿だ。でも馬鹿だけど使えそう。民主主義をリザレクションする会――か)


 まとめサイトは、特定の団体が運営しているものだと、デビルは知った。その者達が勇気に反発して、このようなサイトを作ったのだ。


***


 安楽市民球場から少し離れた場所に、真、勇気、政馬といった面々が到着する。


 球場周辺は大量の兵士が警備している。近付くことは容易ではなない。

 今回の威力偵察に赴いた面子は、真、ツグミ、熱次郎、伽耶、麻耶、みどり、勇気、鈴音、政馬、ジュデッカ、カシム、ミサゴの十二名だ。


「ミサゴもいたのか」

 真がミサゴを見た。


「問題有るや?」

「いや、意外だと思っただけだ」

「スノーフレーク・ソサエティーの首領が、アリスイとツツジと親しいと聞き、そちら経由也」


 真に向かって事情を説明するミサゴ。


「首領って言い方がどうもね。それに今のスノーフレーク・ソサエティーのトップは勇気だよ」

「実質トップは政馬のままでしょ」


 政馬と鈴音が言った。


「しっかし見事に入り込む隙が見当たらないな。」


 遠巻きに球場周辺の警備の具合を見て、熱次郎が言った。


「これよー、威力偵察はやめた方がいいだろ。数が多すぎるぜ」

「そうだな……。威力偵察どころか、隠れて調査もとても無理そうだ」


 ジュデッカが言い、勇気も渋々認める。


「おいおい、ここまで来て、すごすごと撤退かよ?」

「まだ諦めるのは早いと思うな」


 カシムが引き留め、真も撤退には反対の意を示す。


「空間操作の結界も張ってあるだろし、あらゆる感知能力や探知能力で警戒しているはずだ」


 と、ジュデッカ。


「こっちもその手の能力にひっかからないようガードしているよね?」

「してる」「ばっちり」


 政馬が尋ねると、伽耶と麻耶が答える。


「それならカシムの力が使えるかも」

「全員運ぶとか勘弁してくれよ……。俺一人で行ってくるわ」


 政馬がカシムを見ると、カシムは嫌そうな顔で言う。


「あのね。カシム一人でいっても、調査は難しいよ。カシムは解析能力も無いんだし」

「今回は砲台の調査が第一目的だしな」


 政馬と真が言う。


「いけるならそのまま破壊もと思ったが、このメンバーでは……そしてあの大きさでは無理そうだ。もうあんなに育っているのか」


 球場から天に向かって高々と伸びた、巨大合体木を見上げて、勇気が言った。


「伽耶、麻耶、カシムの能力を拡大できないか? コピーでもいいが」

「できないこともないけど……」「難しい」

「一人は気配ガードしなくちゃならない」

「能力拡大担当はかなーり消耗する」


 真が伺うと、伽耶と麻耶は気乗りしない様子で答える。


「やってくれ」


 姉妹が気乗りしないことなどお構いなしに、真は促した。

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