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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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4

 累と綾音も、安楽市民球場周辺のマンションに待機している。この辺の多くの建物が、前もって純子によって買い占められていた。あるいは新たに建築された。


「転烙市での攻防を振り返ると、真達の行動には驚かされますね」


 同室にて、自分に寄り添って座っていた累の台詞を聞き、綾音は自分が疑われているのではないかと思ってしまう。


「どの辺がですか?」

「彼等が昨日、市庁舎内に潜入していた事ですよ。祭りの最中――あのタイミングでチロン達と共にあの場所にいたなんて、出来過ぎていると感じます」

「内通者の手引きを疑っているのですか?」


 大胆にも、綾音の方から内通者の可能性を口に出しながら、累のさらさらな白金の髪を撫でる。


「ええ。そう考えれば合点がいきます」


 綾音の手をそっと掴んで、累は静かに告げた。


「思想的にも性格的にも――純子の目的には同調しなさそうな者が、こちらに一人いますよね? 綾音」


 露骨に犯人扱いする言い回しをされても、綾音は全く動揺しなかった。例え発覚したとしても、累が自分を処罰するようなことは無いと信じているからだ。


「逆に父上に質問しますが、純子に与する理由は何ですか?」

「今更そんな質問ですか」


 累は小さく微笑み、綾音の手から手を放した。


「純子の目的は面白いですよ。世界をさらに大きく変化させることでしょう。僕の心の中に未だに眠る闇も、変則的な形ではありますが、満たしてくれそうです。僕は混沌が好きですから。でも……一番の理由は、それではありませんね」


 そこまで喋った所で、累が身を傾けて、綾音に膝枕をする格好で横向きに寝そべった。


「僕は純子に協力したい。同胞として、友人として、家族として。一緒に遊んでいると楽しいんです。だから、別に綾音がこちらに着いていると見せかけて、真達と通じていても別に構わないのですよ」

「その遊びで、多くの命が失われます」


 最早隠す意味も無いと開き直って、綾音は指摘する。


「純子と僕とで、共通している事があります。目に移らない場所にある赤の他人の生と死は、ただの数字の上下としか認識できないことです。知らない数字が下がったからといって、いささかも良心の呵責はありません。失望しましたか? 僕は大分丸くなりましたが、その点はまだ変わっていません」


 喋る累が邪悪な気を纏い始めた事に気付いて、綾音は若干緊張した。そんな綾音の感情の変化は、累にも伝わっている。


(それが悪だと意識し、自覚し、己が悪である事に酔っている。父上の斯様な性格も、そろそろ改めて欲しい所ですが)


 綾音は内心溜息をついていた。例えそれを指摘しても、累を不快にするだけだろうから黙っている。


(されど……父上も長い年月の中で少しずつ変わっています。いつかそのうち……)


 累の心に未だ巣食う闇も、この先少しずつ晴れていくと綾音は信じている。


***


 真とみどりと熱次郎とツグミと伽耶と麻耶は、スノーフレーク・ソサエティーの本部ビルを訪れた。


「よっ、久しぶり」


 建物のエントランスにて、最初に声をかけてきたのは、シルヴィアだった。


「ああ、そう言えばスノーフレーク・ソサエティーの一員だったか」

「転烙市にも行ってないし、銀嵐館とオーマイレイプの仕事が忙しくて、中々こっちには関われねーけどな。多分次も留守番だ。ま、この件では残念ながら、俺の活躍の場は無いかな。じゃーな」


 真達の横を通り過ぎ、シルヴィアはビルの外へと出て行った。


 シルヴィアが出ていった後、真達はエントランスで出迎えが来るのを待つ。


「ははっ、今度は揃って味方陣営か。頼もしいことだぜ」

 今度はカシムがやってきて声をかけた。


「おおっ、花嫁さんだー」

「今日は普通の格好」「オフでは普通」

「おい、俺の服装でからかうのはやめろよ」


 ツグミと伽耶と麻耶の台詞を聞いて、カシムは照れ臭そうに笑っている。


(確かにこいつは、敵だった時は厄介だったが、味方だと頼もしいと素直に思える。能力はな。性格は少し難がありそうだが)


 カシムを見て、真は思う。


「来いよ。会議室に政馬達が待っている」

 カシムが促した。出迎えはカシムだった。


「勇気は来ているのか?」

「まだだけど向かってるとよ」


 歩きながら尋ねる真に、カシムが答える。


「ようこそ。よく来てくれたね」


 会議室に入ると、政馬が笑顔で出迎えた。ジュデッカと季里江もいる。


「うわ、政馬先輩だあ……」


 わざとげんなりした顔を作ってみせるツグミ。半分ふざけて半分は本気だ。


「ツグミ、大活躍だったね~。ところで何で露骨に嫌そうな顔するのかな? 嫌そうな声出すのかな?」

「自分の胸に手を当てて考えてみてねー」

「やってみる。うん。全然わからない」


 ツグミに言われ、政馬は笑顔で胸に手を当てて、あっけらかんと言ってのけた。


 しばらくしてから勇気と鈴音も到着したので、真はまずアルラウネの砲台を調査に行くべきであるという旨を伝えた。


「まず調査からか。ま、言いてーことはわかった」

「確かに言われてみれば、砲台がどんなものかもわからないじゃん」

「ちんたらしてる時間はねーんじゃねーか? 潰せるなら潰していいだろ」


 真の方針を聞いて、ジュデッカ、季里江、カシムが言った。


「カシムは真の話聞いてたの? 真達は砲台の力で強制転移させられたっていうし、だから砲台に関してもっと調査しないといけないって話になったのに」

「わかってるっての。それでもなお、破壊できそうなら破壊に切り替えていいって話をしてるんだ」


 呆れる政馬に、カシムがむっとした顔で言う。


「可能な限り解析アナライズすべー。あたしと真兄と鈴音姉でさ」

「俺も出来るぜ。つまりその四人がかりで解析。他は補佐だな」


 みどりが言うと、ジュデッカが名乗りあげた。


「だそうだ、鈴音」

「私、超頑張る」


 勇気が鈴音をじろりと見ると、鈴音は笑顔でガッツボーズを取る。


「鈴音のくせに生意気だが、今は堪えてやる」

 そんな鈴音の態度が気に入らない勇気。


「成功したら、勇気、ちゃんと褒めてよ」

「断る。政馬に褒めさせる」

「え、えええ~っ?」


 鈴音の要求をつっぱねた勇気だが、自分に振られた政馬が素っ頓狂な声をあげた。


「な、何でそこで僕を出すの?」

「政馬は鈴音を褒めたくないのか?」


 動揺気味の政馬を訝る勇気。


「ぼ、僕に褒められたって、鈴音が喜ぶわけないだろ。勇気に褒められた方が嬉しいに決まってるし……」

「そんなことないよ。政馬でも嬉しいよ」


 政馬が上擦った声で言うと、鈴音は気遣うような口振りで言った。


「じゃあ政馬が褒めるのも無しだ」

「ちょっと……勇気意地悪すぎだよ。政馬、気にしないで好きにしていいからね」


 再び不機嫌になって却下する勇気に、鈴音も憮然とした顔になった。


「政馬先輩……いつもと違うノリになってるよね? これってもしかしてさあ……」


 そんな三人のやり取りを見て、ツグミがみどりに耳打ちする。


「ふぇ~……見え見えすぎてこっちが恥ずかしいよォ」


 みどりが苦笑いを浮かべる。カシムと季里江も、政馬のわかりやすい反応に呆れ気味だ。


「何だ、お前達三角関係だったのか」

「は……? 違うっ!」


 真の遠慮のない指摘を受け、一瞬きょとんとした勇気であったが、いきなり声を荒げた。政馬と鈴音も硬直している。


「真兄、ストレートにぶっこみすぎ」

「流石デリカシー無し度100%の真先輩だ~」


 半笑いになるみどりとツグミ。


「今後こいつら、ことあるごとにぎくしゃくしそうだなー」


 勇気と鈴音と政馬を見ながら、ジュデッカがにやにや笑っていた。


***


 純子はホテルの一室を予め研究所ラボに改造していた。簡易的な代物ではあるが、ここである程度のことは出来る。例えばマウスを作る程度の事も出来る。


「んー……何か用?」


 部屋で一人、仮眠を取っていた純子であるが、気配を感じて目覚め、声をかける。


 扉も開けずに入ってきたデビルが、純子が座るソファーのすぐ側で、純子を見下ろしていた。


「僕を改造して欲しい。純子が持つすべての技術をつぎ込んで、僕を純子の最強のマウスにして欲しい」


 デビルの言葉を受けて、寝ぼけ半分だった純子の意識が一気に覚醒する。


「真は改造されることを拒否していると、累から聞いた。それなら代わりに、僕にとびっきりの改造をして欲しい」


 さらに口にしたデビルの要求は、純子の様々な感情を刺激した。真のために取っておいた、文字通りの取っておきを、デビルが名指しで求めている。これだけで純子は興奮してしまう。


「僕はかつてアルラウネによって、人から悪魔へと変えられた。その後、百合と戦って敗れ、オーバーデッドにされた。犬飼に心を壊された。ワグナーにもいろんな処置を施された。多くの者が僕の体と心をいじってきて、今の僕がある。最後は――君がいい。そうすれば一番素晴らしい僕になれる。いろんな人によって手を入れられて出来た悪魔」

「共同作品かあ……」


 デビルにしては珍しい、熱がこもった口調での話を聞き、純子は百合が口にした台詞を思い出す。百合は真のことを、自分達二人で手掛けて作った共同作品だと言っていた。


「君の力になるためにも。僕は君につくと決めた。君が世界を焼き尽くすことの手助けをするためにも、僕を改造して」

「わかったー。はりきってやらせてもらうよ」


 純子はにっこりと笑って快諾した。

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