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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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2

「『ガオケレナ』が真君達を強制転移させて排除した件、どう思う?」


 根人達に向かって、純子は声に出して問いかける。

 ちなみにガオケレナとは、安楽市民球場に生やした、世界中に再びバクテリアを散布する砲台となる、巨大合体木アルラウネの名称である。


『興味深い。それはガオケレナに、知能と意思が芽生えているのではないか?』

『同意です。単なる反射による防衛であれば、より効率的かつ非情な排除も出来るはずです。しかし何者も傷つけずに、転移という安全な形で遠ざけた事実は、ガオケレナに命を思いやる心がある可能性を示唆しています』

『むしろそれ以外の理由であれば、どうして強制転移という手段を取ったという話になるぞ』

『彼等が純子と親しい間柄であることも理解し、殺すことはなかった説を出してみる』


 根人達の意見はほぼ同じだった。


「既存のアルラウネのように自我を芽生えさせないために、特殊な改造強化型アルラウネを用いて、純粋な者達を苗床にして途中まで育てたのにね。机上の論理ではそれでうまくいくはずだったのに、何がいけなかったんだろうなー」

『意思の疎通は取れないのです?』

「現時点では、意思の疎通は取れないよ。呼びかけにも応じないし、ていうか精神波も無いんだよね。ま、誤魔化すことはいくらでもできると思うから、測定はあてに出来ないけど」


 純子はこの時点で、ガオケレナに自我が芽生えていると確信していた。


(あの巨大植物に自我が芽生えていて、それを隠しているというのであれば、君の味方ではなさそうだな)


 純子の新しい守護霊となったヴァンダムが語りかけてくる。


「私もそう思うよー。ていうか、そういうことになっちゃうよね。こっち側に同調しているなら、隠す必要も無いんだから」

(こういうことはよくある。大きな目的の達成を前にして、唐突に目の前に湧いてくるトラブル)

「障害の規模がどれほどのものか、まだ何もわからないけどね」


 純子は悠然と微笑みながら言った。


(随分と余裕なのだな)

「人事を尽くして天命を待つ――と言うには早いけど、それにしても出来ることはほとんどやったんだ。千年かかって、ようやく叶う……」


 ヴァンダムに指摘されると、純子はうっとりとした顔で虚空を見上げた。


「千年かかって……ようやく真君と出会えた時は嬉しかったなあ……。夢かと思ったよ。実際、何度も夢見て、結局夢だったって何度もがっかりしてたっけ」


 夢見るような口振りで、そして嬉しそうな顔で、純子は語る。


「そしてもう一つの望みも今、叶おうとしている。もう少しで……叶う。やり遂げたら……果たしたら、今度はどれだけ嬉しいかなあ?」


 ヴァンダムが何か言う前に、内線の呼び出し音が鳴り響く。非常事態用のものだ。


「おやおやー、ミサイルが飛んでくるって。安楽市民球場と、私達の泊っているホテルの複数に向けて」


 微笑をたたえたまま、全く危機感の無い声を発する純子。進路の予測と着弾予想時刻まで報告があった。


(私の守護霊としての任務も短い期間で終わるかな?)

「残念。『月読』がすでに反応し、状況に対応しているよ。あ、撃墜したってさ」


 皮肉っぽく微笑むヴァンダムに、純子が屈託のない笑みを広げて報告する。


(対大陸弾道ミサイル用レーザー衛星『月読』か。スミスのことを思い出すよ)

「ミサイル撃たれるのはヴァンダムさんの時に散々やられたし、月読もアップデート重ねまくっているからねえ。今ならミサイルスミスさんの力も防げそうだよー。んー、これもヴァンダムさんのおかげってことで、ありがとさまままーって言っておくべきー?」

(ミサイルを撃ち込まれて礼を述べる――か。全く君という子は……)


 純子が冗談めかすと、ヴァンダムは微苦笑と共に肩をすくめた。


***


 グリムペニス日本支部ビル。勇気、鈴音、史愉、ミルク、男治、宮国、シュシュが集い、今後の方針を話し合うこととなった。


「チロンしゃんはどーしゃれました?」

「累に負けたショックで打ちひしがれてるぞ。ぐぴゅ、普段えらそーにしてるくせに、メンタルよわよわっス」


 シュシュが尋ねると、史愉が嫌味たっぷりに答えた。


『偉そうにしているくせにその実メンタル弱いのはお前でしょーが』

「ぐぴゅぴゅーっ、何だと糞猫ーっ」


 ミルクに指摘され、眉間にしわを寄せて声を荒げる史愉。


「今報告がありました。貸切油田屋が安楽市民球場と、その周辺に待機している転烙ガーディアンとオキアミの反逆に向かって、大陸弾道ミサイルを撃ちましたが、人工衛星の月読によって全て迎撃されたとのことです」

「ぐっぴゅ……ツカエネー奴等だ」


 宮国の報告を聞き、史愉は腕組みして渋面で吐き捨てる。


『貸切油田屋は月読そのものを破壊しようとしだしたが、まるで攻撃が通じていないとよ。対宇宙戦争用の防衛システムも桁違いに強力だとか』


 ミルクも貸切油田屋内のデーモン一族のお偉いさんの知り合いと連絡を取り、さらなる情報を仕入れて報告した。


「ほえ~、雪岡純子さんと貸切油田屋は宇宙戦争も出来るほどなのですか~……」


 男治が舌を巻く。


「ぐっぴゅ、残念ながら貸切油田屋は純子には全然叶わないようだぞー」

「たった半年で、都市一つの文明を超発展させた人ですしねえ。そして全人類をDNAレベルで改造しようとしていますし~」

「今の状態も大概でしゅのに、人類全部を能力者にしないと気がしゅまないなんて、どういう思想と執念なんでしゅかー」


 史愉、男治、シュシュがそれぞれ言う。


「半年前、俺は純子に操られて、世界を変える手助けをしてしまった。その時、俺の中に純子の思想や、世界の変革に、同調する部分もあったからこそ、暗示にかかってしまったという面もある。でも、その結果はこの有様だ。犯罪者が増え、その被害者が増えただけだ。純子もそれを良しとしないから、再び同じようなことをするつもりなんだろうけど、成功するとは思えない。俺はあいつのやることはもう信じない」


 神妙な口調で語りだす勇気に、一同は沈黙して勇気の話に耳を傾ける。


「絶対に止めるぞ。速やかにPO対策機構全員集結させろ。総力戦だ」

「ぐぴゅう……今すぐは無理だぞー。準備中だぞ」


 勇気が力強く命じたが、史愉が眼鏡に手をぱたぱたと振った。


「何の準備だ。いつアルラウネが育って、砲台としての役割を果たせるようになるかわからない。時間がかかっていいことなんて無いんだぞ」

「皆に放射線耐性を上げる施術をしている所だぞ。純子が放射線攻撃してきたら、成す術なくおしまいっスから。勇気と鈴音も受けなきゃだめっス」

「わかった……」


 史愉に言われ、勇気も聞き入れる。


「ところで、この『民主主義をリザレクションさせる会』って何でしゅか?」


 シュシュがホログラフィー・ディスプレイを反転拡大させて言った。

 画面の中では、『独裁政治に終焉を』『葛鬼勇気を引きずり下ろせ』『民主主義を取り戻せ』などのプラカードを掲げた年配の男達が、映し出されている。


『今必要な話じゃないだろ。どうでもいい』

「勇気を目の仇にしている頭のおかしな人達でしょ」


 ミルクが切り捨て、鈴音が嫌悪たっぷりに吐き捨てる。


「最近目立っていますね。ニュースでも取り上げられるようになっています。いえ、それほど大人数でも大規模でもありませんが、一部のメディアが過度に取り上げるから、目立って見えるのでしょう」

『プラカード掲げてデモ行進するしか芸の無い連中だな。こんなもん、活動家の中でも最低ランクだ。本当にヤバい奴は表立って出ないうえに、影響力だけはちゃんとありやがるものです』

「たは~……今の日本て、しっかり民主主義していると思いますけどね~。勇気君は名ばかりの独裁者として君臨していますけど、それ以外は以前の政治体型に戻してますし~。こんなことする意味あるんでしょーかあ」

「自分達の掲げる正義に酔っている暇人っス。ぐぴゅう」


 宮国、ミルク、男治、史愉がそれぞれ言う。男治の台詞には、鈴音は心底同意していた。だからこそ、公然と勇気を批難する連中に腹が立つ。


「くだらない奴等だ。今関わっている暇はない。どうせ大したことも出来ない」


 勇気も侮蔑たっぶりに切り捨てた。


「サイキック・オフェンダーがいるわけでもないようですしね」


 と、宮国。


『しかし過激な言動が目立つな。今の所は過激行為には及んでいないが、それもどうなるかわからん』


 民主主義をリザレクションする会についてネットで検索しつつ、ミルクが言った。


「勇気君は支持率あるでしゅし、日本人はこんなのに賛同しましゅかね?」

「勇気君の政策は悪くないですよ。勇気君は独裁者なのにあまり独裁政治をしていませんし。名ばかりの独裁者で、選挙も国会も昔通りにやらせ、上の立場から口を出す事はあっても、昔通り衆議院参議院通してと、これまで通りのやり方です」


 シュシュの疑問に、宮国が答えた。


「口と態度が悪いから、その辺で叩かれているぞー」

「独裁者許すまじなんて振りかざすのもおかしな話よ。ただ自分も偉ぶりたくて僻んでいるだけの、阿呆集団なんでしょ」


 史愉が茶化し、鈴音が珍しく毒を込めて吐き捨てた。


 勇気が電話を取る。相手は政馬だった。


『スノーフレーク・ソサエティーで安楽市民球場襲撃計画を立てたよ。あのね、勇気もね、参加しない? 参加してほしいなー。参加しようよ』


 政馬の誘いを受け、勇気は無言で思案する。


「いいぞ。詳細な作戦はメールで送れ。今会議中だからな」


 勇気は承諾すると、政馬の返事を待たずに電話を切った。


「賭けに出るか」

「賭け?」


 勇気の台詞を鈴音が訝る。


「少数精鋭で奇襲をかける。一気に駆け抜けて砲台を壊す」


 勇気の台詞を聞き、会議室の面々の顔色がそれぞれ変わった。


「政馬のことだから、俺が駄目だと言っても勝手にやりそうだし、何より俺が望んでいる。まごついている間に砲を撃たれたら元も子もない」


 すでに勇気は決定していたし、反対しても聞き入れそうにないと誰もが察し、口に出して反対する者はいなかった。


「行ける奴を速やかに集めるぞ。使えそうな奴だけな」

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