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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
98 悪魔と遊ぼう
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二つの序章

「俺の学生時代の友人の話だ」

 デビルの目の前で、犬飼は語り出した。


「作家志望だったんだが、デビューは遅かったし、デビュー後も鳴かず飛ばずでさ、俺には嫉妬心剥き出しだった。あ、飛ばずはともかく鳴きはしたか? で、やっと世に知られた作品は、パクリだらけ、史実のエピソードの真似事ばかりだったから、それで炎上しちまいやがってよ。自作自演やステマも起こして宣伝していた形跡も発覚して、作品より作者が有名になっちまいやがった」


 そこまで喋った所で、犬飼はウイスキーを呷る。


「ぶっちゃけ、芯の無い奴だ。自分が書きたい作品があるわけでもない。作品に心もこもっていない。売れるためだけ、そのために何でもするって心意気だ。それを見抜いていた読者も多いから、そりゃ叩かれる」


 そこまで話した所で、犬飼はデビルの方を見てにやりと笑った。


「でもな、俺はこいつを馬鹿にする気にはならねーよ。それどころか一目置いているんだ。こいつのなりふり構わなさがあったからこそ、やっと実を結んだわけだしな。一念岩をも通すって言うしよ。出来ることは全てしてみるって心意気。思いつくことは全てやってみる、やり尽くす、その執念こそが一番大事なんだぜ」


 これは説教の流れだったと、その時点でようやくデビルは気が付いた。犬飼は自分に忠告や説教を直接的には行わない。天邪鬼であるデビルに、上から目線でストレートに否定しても聞き入れられないとわかっている。そしてデビルも、犬飼がそんな自分に合わせた説教を行う事を知っている。


「デビル、お前は執念深い一方で、面倒臭くなると放棄するか、卓袱台を引っ繰り返す癖があるな。卓袱台を引っ繰り返すのは俺も大好きだけどよ、お前の返し方は、タイミングを誤っている時がある。あるいは、手を引いた方がいいタイミングで手を引かないこともあって、見極めが出来ていない」


 確かにその通りだとデビルも認めるが、指摘されてその見極めが出来るようになるわけでもないと思い、小さく嘆息する。


 その時、ふとデビルは思った。


「似たような子を一人知っている」

「へえ? 誰だ?」


 デビルの言葉に、犬飼は興味をそそられる。


「犬飼も知っている彼」

「わかんねーなー」

「彼はやり遂げた。悪魔の視点から見て、彼のような子はとても眩しい。悪魔に惑わされる者の対極にいると感じる」


 デビルはすでに生きてはいない。肉体は死んでいるし、魂は冥界に飛ぶはずであったが、デビルを殺した者の術によって、強引に現世に留まっている状態だ。つまり今のデビルは、アンデッドそのものだ。

 デビルを殺した者の名は雨岸百合。強大な力を持つ死霊術師だった。そのうえ数々の強者を従えていた。

 デビルが言う彼も、仲間を引き連れてきたが、彼は最終的に百合と一対一で戦い、勝利した。


「真だよ」

「ああ、あいつか。納得」


 デビルが口にした名を聞き、犬飼は笑った。


「行動力すげーし、無理だと思えるようなこともやり遂げちまう奴ではあるな。強引な所はあるが。まあその欠点も周りが補えば――」

「僕が好きになった子が、真を好きみたいだ。普通なら嫉妬する? でも僕にはその感情が湧かない。認めてしまって、僕も惹かれている」


 犬飼の言葉を聞かず、自分の言いたいことだけを口にするデビル。


「デビルは真をどうしたいんだ? 惹かれているから、殺したいのか?」


 デビルは自分が惹かれるものは壊したいと感じる感情が、ことさらに強い。可愛いものを見ると壊したくなる感情――キュートアグレッションに近い。


「不思議と彼は殺したくない。壊したくない」


 あまりに眩しすぎる光は、悪魔の穢れた手で穢したくないと、そんな感情がデビルの中にはあった。


 それが一ヶ月半ほど前の話。


***


 幾つかの輸送機、あるいは新幹線で、PO対策機構は転烙市から東京に向かっていた。


 真、みどり、ツグミ、伽耶、麻耶、熱次郎の六名は、軍の輸送機で移動している。操縦士等を除けば、彼等以外は乗っていない。


「真兄、流石にお疲れでおねむかー」


 みどりが隣に座る真を見て微笑む。他の面々は起きている。


「イェアー、丁度いい機会だから聞いておこっかなァ。皆は何で真兄に着いてきたのぉ~?」

「愛故に人は苦しまねばならぬ」「麻耶のせい」


 みどりの問いかけに、麻耶が目を輝かせ、伽耶はげんなりした顔で即答した。


「私は以前、真先輩に助けてもらっているからさー。仲間だと思っているし、何より楽しいもーん」


 服装も中身も女の子に戻ったツグミが、屈託のない笑顔で答える。


「ふわあ……楽しいかー」


 確かに自分も真といると楽しいと、みどりは思う。自分を楽しませてくれるだろうし、行き着く先を見てみたいと思ったからこそ、みどりは本来の予定を捻じ曲げて――いや、先延ばしにして、真についていくことを決めた。


「俺も真に助けてもらった。いや……真だけに助けてもらったわけじゃないがな。純子と真と……色んな人達に助けてもらって……でも、その恩を返したいっていう理由で付き合っているわけじゃあない。純子につくつもりだったのに、結局真についちゃってる。あいつに牽引力を感じる」


 結局は真の方に惹かれていると、熱次郎は認めている。真の都合で振り回されている感は凄いが、それも悪くないと感じてしまっている。純子は特に自分のことを求めてこなかったが、真ははっきりと自分を求めてきた事との違いもある。


「ふぇ~……デリカシー無いし、何かとアバウトだし、人を振り回すタイプだし、ここでは言えないような下衆なこともしてるし、欠点だらけなのにね~」

「真先輩の下衆な部分、興味がありまーすっ」

「みどりだけ知っている真先輩の下衆な行為っ。今なら言っていいと思う。いや、そこまで口にしたなら全部暴露すべきっ」


 ツグミと麻耶が期待を込めた眼差しでみどりを見る。


「いやあ……あれは流石に言えないよォ~」


 転烙市で真が女を買っていたことを思い出し、苦笑いを浮かべるみどり。


「欠点が見えることが逆に安心感にもなるんじゃない? 少なくとも私はそうだ」


 ツグミが言った。


「みどりはどうして真に協力してるの? 転烙市では離れて行動すること多かったけど、それでもわかる。真はみどりのこと一番信頼していた」


 麻耶が尋ねる。


(そりゃまあ精神繋げちまってるしねえ)


 みどりが微笑む。そしてどう答えようかと迷う。


「イェア、皆と大体同じかなァ。でもさァ、それプラス、普通に考えたら無理ってことも、平然と挑んで、それを成し遂げちまう所かなあ。真兄とみどりはね、最初敵同士だったんよ」

「マジ?」

「何で敵?」


 みどりの言葉を聞き、一同意外そうにみどりを見る。


「みどりが真兄とやる前に、御先祖様と一戦交えて、それであたしが勝ったんだよね。そしたら真兄が仇討ちどーこー言って乗り込んできてさァ……」


 懐かしい思い出を語りながら、みどりは微笑を零す。


「あたしだってオーバーライフ級につえーんだぜィ。しかも上位クラス? 御先祖様にも勝ってるし、純姉とだって互角に戦える自信あるよォ~。真兄だってそいつを承知のうえで、勝負しかけてきやがったんよ。ま、一対一の正々堂々な勝負じゃなかったけどさァ。御先祖様連れてきたり、色々策練ってきたり……人の心を利用するような、ムカつく手も使ってきたわ。んで、結局その策にしてやられたっていうか……。実は御先祖様の仇討ちでも何でもなくて、真兄があたしを味方として引き入れるための一芝居だったんだよね~。ったく、笑っちゃうよ」


 あの時から真は、関わった人間全てに対して、自分の目的に使えそうかどうかという計算を働かせていたように、みどりには思える。しかしみどりはそれを承知のうえで、付き合ってきた。真に対して真剣に不快になることも何度かあったが。


「一人の力じゃないとはいえ、真兄はあたしに勝って、ヴァンダムとの戦いにも勝って、百合にも勝った。そして今は純姉を相手にしようとしている。どう考えても無理だろって敵相手にも、ドン・キホーテみたく立ち向かっていって、ちゃんと勝ってきたんだよ。こんなん惹かれて当然じゃね?」


 そこまで喋って、みどりはいつもの笑みを見せた。にかっと歯を見せて笑うあの笑みを。


(あたしはこれが最後だけどね。真兄の遊びの誘いに乗って、この時のために、今まで真兄に付き合ってきたんだし、ずっと遊んできたんだし、そして……やっとこの時が来たんだよ)


 そう意識すると、みどりの胸の内で寂しさが嵐のように吹き荒れる。


(皆、これからも真兄の面倒見てやってよォ~。大変だろうけどさァ)


 みどりは一同を見渡し、声に出さずに語りかけていた。


 それが今の話。

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