表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
3312/3386

34

 気が付くと真達は、転移する前の市庁舎近くの上空透明階段にいた。


「元の場所に戻されちゃったね」

「雪岡の仕業ではないようだけど、何が起こったんだ。転烙ガーディアンの暴走かな?」


 ツグミと真が言う。


「砲台の力だよォ~」


 みどりが発したその言葉に、驚いてみどりの方を見る一同。


「あの合体木のアルラウネ――砲台から、一瞬だけど確かに意思を感じたぜィ。そして力を発動させた」


 確信を込めて言い切るみどり。


「破壊対象のアルラウネにも力が備わっていて、防衛してくるのか。厄介だな。取り敢えず……報告しておくか」


 真は新居に電話をかけ、事の次第を報告した。ただし、アルラウネ砲台に力がある点に関しては、報告せずに控えておく。まだ不明点が多いからだ。


『安楽市だと? 何の冗談だ、それは』

「常套句を返しておくよ。冗談でこんなこと言えるか」


 新居の台詞を聞き、真が言う。


『わーってるよ。俺はお前に向けて言ったわけじゃねーよ』

「僕もわかっていて軽口に付き合っただけだ」

『さて……どうするか悩みどころだな。すぐさま転烙市から兵を引き上げたとして、それも陽動って可能性もあって、本命は実は転烙市って可能性もあるぜ?』


 歯切れの悪い言い方をする新居に、真は訝る。


「新居らしくないな。様子見している間に事態は進行してしまう可能性がある。僕達は確かに目撃している。急成長している合体木化しているアルラウネの苗を」

『わかった。お前に張ってやる。外したら許さねーがな』


 新居が笑う。


『赤猫電波は解除されっぱなしで、もう情報の発信は出来るから輸送機をこっちに向かわせる。すぐに安楽市に向かえ』


 新居が命じ、真の返事を待たずに電話を切る。


「最後の戦い、持ち越しになっちゃったね」

 ツグミが微苦笑を浮かべて言った。


「なあ……色々あって混乱しているけど、さっきの話さ……」


 熱次郎が不安げな顔で話しだす。


「純子を殺さないと止められないって話か? 俺は嫌だぞ。そんなつもりなら俺は――」

「馬鹿か。絶対にそんなことはしない。そしてあいつを殺すつもり奴が現れて、実際にピンチになったら、どんな理由があろうと僕はあいつにつくよ」


 真が力強い声で断言すると、熱次郎は少しだけほっとした。しかし不安は拭いきれない。


「ヘーイ、勇ましいのはいいけど、真兄はいつまで純姉とゲーム続けるつもりなん? 純姉も言ってたけどさあ、マッドサイエンティストとの遊びに皆が延々と付き合えるわけでもないし、真兄一人じゃどーにもならんだろうし、どうするつもりなのよォ~?」

「それは雪岡だって同じことだ。失敗を繰り返したあいつに、付き合う奴も少なくなる」


 みどりに指摘されるが、真はあっさり言い返す。


「ただ勝つだけではなく、ただ阻止するだけではなく、あいつの心を折らないといけないな。それが本当の勝利だ」

「その方法は?」「きっとまだ考えてない」


 伽耶が問い、麻耶がぽつりと呟く。


「麻耶さんも真先輩のこと脳筋みたいに見てるの? 真先輩は結構考える人だよ」

「そそそそそんことはないっ」


 ツグミに問われ、動揺しまくる麻耶。


「考えはある……。幾つか」


 真が奥歯に物の挟まったような言い方をする。


(どれも気が乗らない……。出来れば使いたくない手だけど……。仕方がない)

(上手くいくといいですね)


 決意を固める真の心の中で、からかうような声がかかったが、真は無視した。


***


 悶仁郎と陽菜とエカチェリーナと累と綾音は、純子と転烙ガーディアン達が、市庁舎上空の転移装置を通じて、安楽市に向かったことをすでに把握している。


「もう転烙市は用無しってことなの?」

 陽菜が伺う。


「そうなるのー。拙者も市長のお役御免でいいじゃろ。転烙市は転烙市で好きにすればええ」


 悶仁郎があっさりと言い放つ。


「拙者が黒玉を維持している間に、黒玉を通じて安楽市に残りの転烙ガーディアンと、オキアミの反逆を向かわせるがよい」

「何でわざわざ安楽市くんだりまで行かナあかんの? 守りを固める意味でも、ホームグラウンドのここでええやん」

「さてな。拙者にも純子の考えはいまいちわからんでの」


 エカチェリーナが不満げに疑問話口にすると、悶仁郎はとぼけた口調で言った。


「赤猫電波は解除されてしまったのですか?」


 綾音が累の方を見て尋ねる。


「維持するのも大変だったようですし、もう転烙市を秘匿する理由も無くなったので、解除するとのことです」


 と、累。


「転烙市のオーバーテクノロジーが世界に公表さレるんかー。反応が楽しみやナー」

「ふ……二百年の時を越えてこの星に戻った、拙者のかるちゃーしょっくに比べれば、大したことはあるまいよ」

「世界中に大きな変化が訪れることになるの?」

「半年の間に押し上げられた文明が、世界中に拡散されますね。もちろん、多くの発展途上国は、その模倣さえ出来ないでしょうけど、技術力のある一部の国々は、転烙市の技術を取り込むことで、文明を発展させることでしょう」


 エカチェリーナ、悶仁郎、陽菜、累がそれぞれ喋る。


「転烙市はPO対策機構に――いえ、日本政府とどう向き合うつもりなのでしょう?」


 綾音が疑問を口にする。


「むしろそれはこの国の支配者側が――こちらとどう向き合うかを考えた方がいいでしょうね」


 累がそう言って悶仁郎を見た。


「何じゃ、まだ拙者に市長として働けと申すか?」


 苦虫を噛み潰したような顔になる悶仁郎。


「世界と向き合って交渉できる強い指導者は必要だと思いますが、貴方が拒むなら強要は出来ません」

「はあ……拙者もかつては、其処許や純子のように陰に忍ぶ生き方をしていたというのに、何の因果で斯様ならいふわーくを行うことになっているのやら」


 累の台詞を聞き、悶仁郎は溜息をつく。


「何ヤ爺さん、ライフワークの発音めっちゃキショいな」

「其処許に言われとうないわ。拙者は横文字がどうにも苦手でのう」

「そのわりにはよく使ってるじゃないですか」

「苦手なのになぜか使ってみたくな。妙な話よ」


 エカチェリーナと累に突っ込まれ、悶仁郎


***


 純子は転烙市から呼び寄せた兵達が待機できる場所を、予め市民球場近くに設けていた。近くのホテルを幾つか買い取り、この日から予約を取らずに空けていた。

 転烙市から転送装置の黒玉経由で呼び寄せた転烙ガーディアンをホテルに入れた後、純子もホテルの一室で一息ついていると――


(純子)


 サングラスをかけたスーツ姿の女性の霊が現れ、純子に声をかける。


「どうしたの? 杏ちゃん」


 己の守護霊が何の用があって声をかけてきたか、純子は察しがついていたが、あえて尋ねてみる。


(守護霊交代の決定が下ったわ。短い間だったけど楽しかった)


 純子の守護霊――雲塚杏が微笑みながら告げる。


(最後まで側で見届けたかったけどね。冥府の決定だから仕方ないわ。ま、貴女と真のいちゃいちゃを間近で見なくて済んだって話でもあるけど)

「そっかー。今までありがとさままま&おつかれさままま。また会おうねー」

(うん、どういう形での再会になるかはわからないけど、またね……)


 互いに小さく手を振り合う純子と杏。


 杏の姿が消える。その数秒後、杏と入れ替わりに、白人青年が姿を現した。


「おやおや……」

 新しい守護霊を見て、純子が微笑む。


(お互い、よりにもよってという所かね)

 青年も純子を見てにやりと笑う。


「男の人になっちゃったかあ。それに、若い頃の姿だねえ」

(歳を取ったころの姿のままというケースは少ないよ。おっと、これは冥界の情報を漏らしたことになるのかな?)

「よろしくねー、ヴァンダムさん」

(こちらこそ)


 互いに微笑んで告げると、ヴァンダムの姿が消えた。


「誰と話してた?」


 部屋の中に突然現れたデビルが声をかける。部屋に入る直前に、純子の話し声が聞こえた。


「んー、ちょっとね。ていうかデビル、女の子の部屋に入る時はちゃんとノックしてからね」

「犬飼を殺したのは、純子と真の立場からすれば正解だったかもしれない」


 純子の注意を無視して、デビルは自分の喋りたい話題を切り出す。


「それってさ、犬飼さんが、私達両方の敵になる可能性があったってこと?」


 犬飼ならそうしていた可能性もあり得ると、純子は考える。


「犬飼の性質を考えれば、そうなった可能性は高い。僕がどちらかに与するという選択も、犬飼は臨んでいなかったように思える。昼間にも言ったけど、犬飼は卓袱台をひっくり返したいだけだった。犬飼は僕に、盤を引っ繰り返して、全てを台無しにすることを望んでいたみたい。でも僕は違った」


 その相違によって亀裂が走り、このような結果になったとデビルは受け止める。そして認めざるえない。犬飼を失った悲しみはしばらく引きそうだと。


「犬飼ロスは、純子で埋める」

「それでもいいよー」


 デビルの言葉を聞いて、純子はにっこりといつもの笑みを広げる。


「そして真は純子の敵になっている。このままだと――僕は真を殺したくはないけど、僕は真を殺すかもしれない」

「逆にデビルが殺されちゃいそうだし、他はともかく、真君には手出しをしない方がいいと思うけどなあ」


 純子が忠告するが、デビルの性格を考えると、かけた言葉と真逆の方向に進みそうであるから、間違いなく真に手出しをするように思えた。



97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ