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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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33

 ハチジョウ、影子、悪魔のおじさんを出すツグミ。


「あははは、ツグミちゃん、いきなり全開だねえ。大丈夫?」

「別に全開ではないよ」


 からかうような口振りの純子に、ツグミは心なしか怒ったような口振りで返す。


「おやおや、興味深い子がいるネー」


 悪魔のおじさんがデビルを見る。彼の呼び名に興味を抱いていた。


 デビルはというと、悪魔のおじさんに目をくれることなく、背中や肩から生やした枝葉から、みどりに向けてビームを出して攻撃していた。


(みどりちゃんの担当してくれるのはありがたいね。でも――)


 最も手強いみどりと戦わなくて済むのは、純子にしてみれば非常に助かる。しかしみどり抜きの五人が楽勝かというと、そんなことも無い。


「本当に勝てるのかな?」

「以前はてんで駄目だった。圧倒されてまさにラスボスの風格だった」


 伽耶と麻耶が不安がる。数日前に純子と戦った際は、真、ツグミ、来夢達の複数を相手にしてなお、敵わなかった。純子は明らかに余裕を見せていた。あの光景を見せつけられた伽耶と麻耶には、純子に勝てるヴィジョンが浮かばない。


 実際に戦ったツグミもそれはわかっている。しかし微塵も臆していない。何より純子に対する怒りと失望が、戦意に繋がっている。


 ハチジョウがスケッチブックと鉛筆を取り出すと、高速で鉛筆をスケッチブックに滑らせる。

 ツグミとほぼ同等の能力を行使できるハチジョウによって、イエロースポンジ君、叫乱ベルーガおじさん、ビニール魔人の三体の怪異がさらに追加された。


(ますます増えたね。多勢に無勢と言いたい所だけど、戦い方次第かなあ)


 多人数相手の戦いも幾度も経験がある純子は、冷静に計算を働かせる。


 真が純子に向けて銃を二発撃つ。純子は避ける。それを合図にしたかのように、影子、イエロースポンジ君、叫乱ベルーガおじさん、ビニール魔人の四体の怪異が純子に向かっていく。


「私は様子見だヨー」


 顎のもじゃ髭をいじりながらにやにやと笑う悪魔のおじさん。


 純子を取り囲む格好で、四本の触手が地面から生える。熱次郎の仕業だった。


 四本の触手が一斉に純子に迫るが、純子はこれまた軽やかな動きで回避した。


 その回避した直後を狙って、真がさらに撃つ。


 純子は避けずに、銃弾を電磁波バリアーで防ぐ。


(これが最後の戦いだ。あれを滅ぼせば――苗床が育って、世界を変える砲台に代わる前に殺してしまえば、それで終わりなんだ)


 絡まったまま蠢く苗の大群を一瞥し、真は強く意識する。


(ちまちまやってないで、全て解放してぶつければいい……)


 皆の前だろうと関係無い。最後の戦いなのだから隠す意味も無い。前世の力も全て解放して、力を出し尽くして戦えばいい。そのはずだが、真には出来なかった。何かが真を引き留めている。


(なのに……。でも何か引っかかる。凄く大事なことを見落としているような……)


 そう意識した直後、真の脳裏に数々の言葉がよぎる。


『真兄、デリカシーの本もう一度読めよォ~』

『真は大雑把だから付き合うのは疲れる』

『人を振り回すタイプだ!』

『あはっ、君はどうしてそう適当で大雑把でド直球なのさ』


 みどり、熱次郎、美香、睦月が、真の頭の中で呆れている。


(何か……とても大事な何かを忘れている。考えて然るべき何か。絶対に見落としてはいけない何かを、僕がこんな性格だから、見落としてしまっている? でも見落としているのは僕だけか? 見落としていたとしたら、僕以外の誰かも気付きそうなものだし、僕の性格云々は関係無い?)


 真は攻撃の手を一切止めて、考え込んでしまう。


(いや、関係ある。そうだ。純子をよく知る僕だからこそ気付かなくちゃいけないことだ。それに今の今まで気付いていなかった。ゲームか漫画みたいに、ラスボスの野望を挫いたらそれでおしまいだと、勝手に思い込んでいた。皆もそう思い込んでいる。だが違う)


 真がそう思った直後、影子とイエロースポンジ君と叫乱ベルーガおじさんがまとめて吹き飛ばされる。熱次郎の触手はとっくに切断されている。


 みどりはデビルの放つビームを避け、デビルの近くに転移して、接近戦で戦っていた。デビルは時折平面化したり、みどりの足元を消したり、薙刀を食らいそうになった瞬間衝撃波でみどりの体を弾いたりと、様々な手を使っているが、それでもなおみどりに押され気味だった。


 伽耶と麻耶は、みどりにも、そして熱次郎とツグミの操る怪異達にも、即興魔術で支援を行っている。しかしあくまでちまちまとした支援に徹している。大きな手助けをすると、敵の狙いが自分に向かいそうなので、わざわざこちらに来ない程度に留めていた。


「痛たた……ありゃ人間と思えないぜ。肉弾戦、私より強いぞ」


 純子に念動力で投げ飛ばされた影子が、顔をしかめて立ち上がる。


「悪魔のおじさん、そろそろ参戦して。前衛が食い止め続けるのも無理がある」

「しかし純子は転移する力もあるから、前衛後衛の概念も薄いナー。ツグミが狙われた時に対処するために、私はこうして様子見しているんだがネー」


 ツグミが促すが、悪魔のおじさんはにやにや笑ったままで、従わなかった。


「おい真、何やってんだっ」


 呆然として固まってしまっている真を見て、熱次郎が声をかける。


「ちょっと……タイム。雪岡に一つ聞きたいことがある」


 真の唐突な呼びかけに、みどりとデビル以外の全員が戦闘を止めた。


「んー? 何かな?」

「ゆき……純子、仮に僕達がここで勝利して、この新型強化アルラウネの苗を全て潰し、砲台を潰し、お前の計画を全ておじゃんにしたとしたら……お前はどうするつもりなんだ? それで潔く諦める……なんて聞くまでも無い。それで終わりにはしない。お前は諦めないよな?」


 真の質問を聞いて、ツグミ、伽耶、麻耶、熱次郎は愕然とした。純子はおかしそうにくすくす笑っている。


「もちろん諦めるわけがないよー。私が生きている限り、失敗しても何度でもやり直すよ? また転烙市みたいなオーバーテクノロジーな都市を作ってもいいし、あるいは別な手段を試みてもいい。私がどれだけ長い時間生きてきたと思ってるの? ゼロからやり直しになったとしても、全然苦じゃないよ」


 笑いながら答える純子の言葉は、熱次郎、伽耶、麻耶、ツグミの心に重く響いた。真の心にも響いたが、他の者達とは響き方が違う。


「つまり、私を本気で止めたいなら、私を殺すしかないってことだね。でも、あれあれ~? それだと矛盾しちゃうよね? 真君の目的は私を護る事も含まれるんでしょ? 矛盾しちゃうね。そして私のこの計画を防ぐことが――イコール真君の最後の目的――私にマッドサイエンティストをやめさせるって事には、繋がらないわけだ。ただ私の企みを一回潰しただけだねえ?」


 悪戯っぽく笑い、煽り気味の口調で言う純子。


「私がまた同じことをしようとしたら、真君はまた止めに来る? ずっと繰り返す? 真君だけならそれでもいいかもね? でも今いる皆は、一体いつまで付き合ってくれるかな? それに、例え真君が私を殺さなくても、皆の心は折れちゃうんじゃない? ていうかさあ、今の聖名の顔見た限り、もう現時点で折れかけてない?」


 純子の指摘を受け、ツグミ、熱次郎、伽耶、麻耶は、それぞれの顔を見た。そして最後に真を見た。


 真はただずっと純子だけを見ていた。いつも通りのポーカーフェイスで。


「おっと。ここまでかな?」

 純子が堂々と振り返る。


 純子の視線の先――球場の客席入口から大人数が雪崩れこんでくる。


「転烙ガーディアンか。黒玉を通ってきたようだね」


 ワグナーが言った。見覚えのある顔が何人かいた。


 その中には浜谷、勤一、凡美もいる。何故か家畜をいっぱい引き連れたドレッドヘアー老婆の日葵もいた。


「どうするん? 真兄?」

 みどりがデビルとの戦いを続けながら問う。


「隙を見てあのアルラウネを破壊する」

 一同を見渡して宣言する真。


「みどりはそのままデビルの、熱次郎は雪岡達の注意を引いてくれ。ツグミは転烙ガーディアンを何とか止めてくれ」

「オッケイ、真兄」

「骨は拾ってくれ……」

「あの数相手は辛いかな」


 真に命じられ、それぞれが答える。


「伽耶、麻耶、アルラウネを放っておけば大惨事になる。抵抗あるのはわかるが、力を貸してくれ」

「らじゃー……」

「おっけー、真兄」


 真に命じられ、伽耶と麻耶も気乗りしない顔で、それでも決心する。


「あいつのことは……その後だ。取り敢えずこのゲームだけでも勝利する」


 純子を見て真が呟く。


「デビルもいたのね」

「あれがデビルか? 随分とイメチェンしたな。ていうか凡美さん、よく一目でわかったな」


 凡美と勤一が、みどりと戦うデビルを見ながら言う。今のデビルを見るのは初めてだ。


「灰燼に帰す業火おいでませー」「植物が腐るような何かヤバいガスおいでませー」


 伽耶と麻耶が即興魔術を唱えて、アルラウネを攻撃しかけたその時――


「え?」

「奴等、消えたぞ」

「テレポートして逃げた?」


 球場内に入ってきた転烙ガーディアンが足を止めてざわつく。


「このタイミングで逃げるのは変なような」

 デビルが純子に伺う。


「しかも空間操作の発動が凄く早かったし、あの人数をまとめて一気にとか、中々凄いね」


 純子はアルラウネに視線を向けた。


「一体どうなったのですか? PO対策機構が消えてしまいましたが……」

「せっかくあたしらが遊びにきてやったのに、帰っちまったのかい。イ~ヒっヒっヒっ」


 浜谷がやってきて尋ねる。日葵は何がおかしいのか不明だが、いつも通りに笑っていた。


「どうもアルラウネの力で……アルラウネの意思で、危険と見なされて強制転移されたみたいだねえ」


 純子が絡まり合う巨大アルラウネ苗群を見たまま言った。そうとしか考えられない。あのタイミングで逃げるのはおかしい。

 そしてあえて殺さないで転移させて凌いたという時点で、アルラウネの苗にはすでに自我と知性があると見た。


「皆は今後ここを拠点にする感じで。転烙市はもういいよ。この市民球場が、アルラウネの鉢みたいなものだし、ここを護ることに注力して。残っている転烙ガーディアンも全てここに集めて」

「了解です」


 純子の命を受け、浜谷が恭しく頭を下げる。彼は転烙市の真の支配者が誰であるか、知っていた。


「それにしてもデビル、真君のこと、随分と気に入ってたんだね」


 純子が笑顔でデビルに声をかける。


「反発する部分もある。彼の目的――純子に盾突く理由は気に入らない。受け付けない。それと……さっき言ったレイプどうこうの話は本当?」

「いや……それは……」


 デビルに訪ねられ、純子は苦笑いになって口ごもる。


「それも気に入らない。僕は……睦月には出来なかった。途中までやって、それ以上できなかった。神聖なものを穢すことは、悪魔には無理なんだ」


 自分が出来なかったおぞましい行為を真が踏み切ったとあれば、それはデビルにとってかなりの嫌悪感情になる。


「気に入った点は?」

「我を通す意志。普通に考えて無理そうなことに挑み、意志を貫き通す所。百合も、純子も、とても勝てそうにない相手なのに、戦うと決めて、実際に戦い、そして百合には勝ってしまった。僕は百合に負けてこの有様だというのに」


 デビルが真を気に入る理由、そして一目置いている理由がそれだった。


「輝いて見えた。漫画かラノベの主人公かと思うくらい。もし殺されるならああいう子に殺されたい。納得して死ねる。一番いいのは純子に殺されることだけど」

「私はもう君を殺したくないんだけどなあ」


 デビルの台詞を聞いて、純子は笑いながら頬を掻いた。

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