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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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29

 悶仁郎のスピーチは、転烙市の全ての祭り会場で、特大ディスプレイで映し出されていた。


 全ての願いが叶うわけではないと知った人々は、無難に金品にするか、あるいは趣味に走る形で願いを叶えていった大きな物を望まず、ささやかな願いを叶えて喜ぶ者もいる。


「やったー! 念願のレアカードげっとしたぞー!」


 願いを叶えた男が煌めくカードを抱え、歓声をあげる。


「ちょっと待った。それは本当に価値があるのかね?」

「え?」


 レアカードを手に入れて喜ぶ男に、白髪の老人が問いかける。


「ちゃんと金を出して買って、開封して引き当ててこそ、レアカードの価値と喜びがあるのではないかね? こんな形では安直に手に入れたのでは、それは真のレアカードゲットの価値とは呼べないのでは?」

「うるせーよ爺、大きなお世話だし、あんたの考えを押しつけんな」


 老人の指摘を受け、男は気を悪くする。しかし一理あると感じているからこそ、気を悪くしている面もあった。


「おおおおおおおっ、本当に口に出して望んだものが出た! 部長もやってみてくださいよーっ」


 巨大なフェネックに抱き着いた女性が、興奮した声で促す。


「よ、よし、出世して社長になりますよーに」


 促された中年男が望みを口にするが、何も起こらない。


「部長、市長の話を聞いてなかったんですか? 権力とか目に見えない形の望みは叶いませんて。ちゃんと形あるモノでないと。それに社長になるくらいなら世界征服した方がいいでしょ」

「よ、よし……じゃあ若くて優しかった頃のオカンをぷりーずっ」


 巨大フェネックに抱き着いた部下の女性が、アドバイスすると、中年男は別の望みを口にすると、中年男の前に十代半ばの少女が現れる。


「ああああ、あの頃のオカン……いや、めっちゃん出たーっ! 今の擦れたババアじゃない、高校の部活で初めて会った頃の可愛くて優しいめっちゃんだー! ひゃっほーい!」

「部長……若い頃の奥さん出して、今の奥さんはどうするつもりですか……」


 中年男は歓声をあげて少女に飛びつく。部下の女性巨大フェネックにしがみついたまま、半眼で見ている。


「願いは幾つでも叶えられるようだね。しかし形ある物を出現させるという限定だ」


 大金を詰め込んだアタッシュケースを幾つも抱えた男が言う。


「ぷにぷにの正体が知りたいって願ったけど無理だったから、ぷにぷにを出せと言っても無理だった。つまり、この願いは形になるモノでないと駄目。願いを叶える者が知っているモノでないと、形に出来ない」


 その隣で、友人の男が分析する。


「ところでその金、記番号もちゃんとばらばらなのか?」

「一応……。でもちゃんと使えるかどうか怪しいし、銀行でチェックしてもらった方がいいな」


 現金を出した男が自信無さげにいう。


「それで偽札扱いされたらどうするんだ……」

「でも現金作るのが無難だって市長が言ったから……」


 ぷにぷにを願った男が呆れると、現金を願った男はまた自信無さげに言った。


「願った物を出す形か。それじゃあ俺の願いは叶わねーなー」


 祭りに参加した人々が、願いを叶えて浮かれている様子を見やり、カシムは渋い顔で言う。


「お前の願いって女になりたいこと?」


 ジュデッカがからかい気味に尋ねる。


「女にならなくてもいいから、もう少しスリムな見た目になりてーんだよ。そうすれば色んな服着れる」

「ダイエットすればいいじゃん?」

「実際に体型変わったら戦闘力ダウンしちまうわ。見た目だけ変化してーのっ。身体能力は維持できねーと駄目だ」


 あっさりと言う季里江に、カシムが主張する。


「わかっているだろうけど、皆これに乗っちゃ駄目だよ。どんな罠が有るかわからないからね」


 政馬がスノーフレーク・ソサエティーの面々に向かって呼びかける。


「え~? そういうことは早くいってくださいよー」

「こういうのを躊躇なく試す馬鹿がいるからね。本当早く言ってほしかった……」


 様々なゲームやアニメのグッズまみれになったアリスイと、その隣で額を押さえているツツジが言った。


「おい、硝子人達が動いている」


 雅紀が声をあげ、全員が雅紀が向いている方を見る。


 列を作って待機していた硝子人達がばらばらに動き、願いを叶えて喜んでいる祭りの参加者達をそれぞれ見ている。


「よくわからねーな。何かしら力を発動しているのは確かだが、その力も乏しい。具体的に何してるかもわかんねー」


 ジュデッカが解析するも、詳しいことは不明のままだった。


***


「僕はツグミと伽耶と麻耶を餌にして、お前を誘き寄せようなんて考えていたが、お前の考えは……遥か先にいっていたな。自分が浅はかな愚物のように思える」


 真がその事実を認めた。しかし悔しいとは思わない。むしろ嬉しいとすら感じている。純子が敵として強大だと実感する度に昂る。


「雪岡先生……見損なった……」


 ツグミの目から涙が零れ落ちる。それを見て純子も笑みを消しも表情を曇らせた。


「どうして! どうしてそんな酷いことが出来るんだよ! 人の命を何だと思ってるんだ! しかも僕と……伽耶さんと麻耶さんのコピーだなんて……。これが、この脳みそが全部……僕だなんて……」


 ツグミの反応を見て、その場にいる全員が驚いていた。


(こいつがこんなに感情を爆発させるなんて……。しかも男バージョンの方で)


 真が気遣い、ツグミに寄り添って肩に手を置く。


「伽耶、麻耶、大丈夫か?」


 真が姉妹を見たが、ツグミほどショックを受けている様子は無かった。


「私はいまいち現実感無い。何か麻痺してる」

「私も伽耶と同じ。ツグミみたいに泣いたり怒ったりって気持ちは沸かない。人体実験とか、コンプレックスデビルでもよくやってるから」

「麻耶と同じ。でも……一つだけわかる。これは許しちゃいけない事だって。理屈でわかる」

「感情で一つだけわかる。いや、今感じた。免疫はあるけど、これはやっぱりおぞましい……」


 伽耶と麻耶が今の心情を口にする。


「んー、何が悪いの?」

 純子は否定される事が理解できなかった。


「この脳は確かに医学的には生きているけど、生物的には生きているとは言えない代物だよ? 自我は無いし、魂魄さえ入っていない。機械みたいなもんだよ。植物だと思ってもいいし。そんなに深く考えること無いよー。確かに無断でやったのは悪かったし、傷つけちゃったなら謝るけど。すまんこ」

「許さない……許せない」

「落ち着け、ツグミ」


 涙ぐんで憤慨するツグミを、真がなだめる。


「想像以上に罪を重ねまくってる奴だな。しかも進行形で」


 純子を見て、真が静かに言い放つ。


「でも、お前の全ての罪は僕が贖ってやる予定だし、それは問題無い」

「んー、どうやって?」


 真の台詞を聞いて、純子は面白がるかのようにまた微笑を浮かべた。


「そうだな。取り敢えずは、動けなくなるまで痛めつけて、押さえ込んで、押し倒して、もう一度レイプしてやるよ。今度は皆の前で、それをやってやる」

「それは嫌だなあ。ていうか押さえ込んでと押し倒してが順番逆だよー」


 真の台詞を聞いて、純子の微笑が引きつった。


「い、今とんでもないことが聞こえたような……。幻聴?」

「幻聴ってことにした方がいいことだよね」


 伽耶の目が点になり、麻耶の目が泳ぎ出す。


「もう一度……もう一度?」


 熱次郎がうわごとのように、真の台詞を繰り返し呟く。


「真先輩……それ僕にもやらせて」

「え?」

『えっ?』

「ええ……」

「ええええ~……」


 ツグミの発言に、みどり、牛村姉妹、熱次郎、純子が戸惑いの声をあげる。


「二人がかりで犯ろう。公衆の面前で犯ってやろう。アレは伽耶さんと麻耶さんに生やしてもらう」

「ええええええ~っ!? 生やすの!?」

「そんな呪文唱えたくないっ」


 ツグミの発言を聞き、麻耶が素っ頓狂な声をあげ、麻耶は力を込めて拒否した。


「真君……勢いだけで滅茶苦茶言ってない? それともそうやって皆の心を和ませているのかな? ツグミちゃんもだけど……」

「どっちかというとツグミの方が僕より滅茶苦茶だろ」


 純子が苦笑気味に言うと、真が言い返した。

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