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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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26

 チロンは累とやる気満々だが、正直累は、別の人物の方に興味が湧いていた。


(彼と手合わせしてみたいものですけどね。妖怪クリエイターの第一人者。数多くの逸話を残している伝説の魔人。綾音と蟻広、そしてジュデッカをも圧倒した実力者――草露才蔵)


 累は男治を意識している。半年前、累は男治と戦ったことがあるが、直接的には戦闘をしていない。その際は綾音と蟻広が、二人がかりで戦っていた。チロンと戦いながらその様子を見て、累は男治を相当な強者であると認識した。


「どこを見ておるかっ」


 チロンが叫び、累めがけて、正面から猛ダッシュで突っ込んできた。


(わかりやすい)


 累は油断なく身構える。正面から突っ込むと見せかけて、直前で転移して、不意打ちを仕掛けるのであろうと、そう見なしていた。


 しかしチロンは裏の裏をかき、そのまま正面からただ突っ込んでいき、横向きに回転しながら跳躍した。


 刀を袈裟懸けに振るおうとした累であったが、先にチロンの尻尾の一撃が、累の側頭部にヒットして、累は横薙ぎに倒される。

 妖力が込められた痛撃を受け、累は意識が飛びかける。強い再生能力があろうと、脳に振動を受けて一切影響が出ないという事も無い。


(昔、これで気絶して、そのまま敗北した事がありましたね)


 懐かしい記憶が呼び起こされ、累は思わず微笑を零す。


 完全に隙を晒した累を見下ろし、チロンが至近距離から呪文の詠唱を行う。体術で追撃はせず、あえて術で攻めるという選択を取る。


「レッドゼラチン・ベイビー」


 仕様したのは、チロンが編み出したオリジナル術だった。赤い半透明のゼラチン状の巨大な赤ん坊の頭が出現し、倒れた累の上に覆い被さったかと思うと、累の体を飲み込んでしまう。


「あぶばーばー、あばーあばー、きゃははは」


 累を飲み込んだ赤ン坊の頭部が、声をあげて無邪気に笑う。


 ゼラチン状の赤ん坊の中に入れられた累は、体から力が吸い取られていく感触を覚える。この術はチロンから教えて貰い、累も使える。下手に力ずくで脱出しようとすれば、ゼラチン赤子は巨大化し、余計に力が吸い取られるという仕様だ。

 累は半年前にチロンと戦った際に、この術を仕掛けられて破った事もある。しかしその時は、今回のように取り込まれてはいない。


「赤……饅頭……」


 累はゼラチン赤子の中で力を吸い取られながら、余計に力を吸い取られる事も承知の上で、術を使用する。


 ゼラチンの中に真っ赤な赤子の頭部が出現し、笑いながら口をすぼめて腐食液を噴き出し、ゼラチンの中に浸透させていく。


「ふん、以前と同じ術で対抗してくるとは、芸の無い奴め」


 嘲るチロンではあったが、累が用いた術は、有効な対策であったと理解している。事実、内部から腐食液に浸蝕され、レッドゼラチン・ベイビーは溶けていく。


「う……ううう……」


 苦悶の表情で呻きながら、累が弱ったゼラチン赤子を突き破り、外に出る。短時間であるにも関わらず、かなり力を吸い取られ、全身がだるく、猛烈に気分が悪い。


「そそるのー。その弱々しい声と表情」


 累を見下ろして心地よさそうに笑いながら、チロンはゼラチン赤子の外に出た累の腹部を思いっきり蹴りつけた。


「余裕をふかして遊ぶなら……相手を選びなさい」


 累が倒れたまま顔だけ上げて、冷めた目でチロンを睨み、言い放つ。


「人喰い蛍改」

 チロンが笑みを消し、呪文を唱える。


 2メートル以上ありそうなサイズの、三日月状の緑の発光体が、チロンと累の間に現れた。緑に光り輝く三日月は猛スピードで回転し、累の体を何度も直撃する。当たる度に累の体が切り刻まれて、派手に血飛沫があがる。

 この術は最近出回った雫野の新術だ。作ったのは累でもチロンでもみどりでもない。雫野のあまり名の知れていない術師である。


 腕を、足を、胴体を輪切りにされ、血と臓物をぶちまけながらも、累は呪文を唱えていた。


「人喰い蛍……改」

「はあっ!?」


 同じ術を唱え、同じ巨大な三日月状の発光体を、しかし累の方は二つ出現させた事に、チロンは驚いた。


 チロンの両脇を挟むような格好で、二つの三日月が回転し、チロンの体を切り刻む。


(二つだと……ワシにはとても無理じゃ……)


 累の術師としての力が、自分よりもずっと上であると、認めざるをえない。


 チロンが累の隣に倒れる。刻まれ方が明らかに累より酷い状態だ。


 二人がほぼ同時に、顔を横に向ける、同じ顔が間近で向かい合う格好となる。


「そうか……累、お主、第二の脳の性能をより強めたのか……」


 チロンが語りかける。ただ倒れているだけではない。再生能力を働かせている。


「はい。面倒臭がって中々着手しませんでしたが、この半年で、純子の協力も得て、改造に改造を重ねました」


 微笑む累。こちらも再生中だ。チロンよりダメージが低い分、先に再生が完了するであろうし、疲労もチロンより少なくて済む。


 しかし先にゆっくりと立ち上がったのはチロンだった。再生しきってはいない。体中のあちこちの傷が開いたままで、未だ血が流れ続けている。出血量は致死量を超えており、とても動ける状態では無いが、それでも無理して体を動かしている。累に先手を取らせまいとしている。


「無理すると……再生のための力も早々に使い果たして、再生できなくて、死にますよ?」


 累も立ち上がった。こちらも再生は不十分だが、チロンほど深刻ではない。


 全く同じ背丈、同じ美貌の二人が、至近距離で互いに向かい合う格好となる。しかしチロンの方が、息が荒い。


「虹みみ……」


 チロンが呪文を唱えかけたが、累が左手を伸ばし、チロンの顎と頬を掴んで、無理矢理詠唱を中断させた。


 思わぬ行動に動揺するチロン。その腹部めがけて、累が右手を突き入れる。


「うあぁぁ! ぎゃああああっ!」


 再生しきっていない腹部の傷口の中に、手首まで突き入れられ、さらには内臓を掴まれ、握りつぶされ、チロンは絶叫をあげる。大きく開いた口から血反吐が噴き出され、至近距離にある累の顔にかかった。


「はらわたを直接愛撫されたのは……初めてでしたっけ? 気持ちよさそうですね? そそりますよ。そのけたたましい喘ぎ声と歪んだ顔」


 血反吐を浴びた累の顔に、清々しい笑みが広がる。


 累の台詞を聞き、チロンは切れた。再生に費やす力の温存も考慮せず、尻尾にありったけの妖気を注ぎ込む。

 チロンは累の体を蹴り飛ばすと、累の方に一歩踏み込み、跳躍する。そして空中で前方に向かって回転し、尻尾による一撃を累の頭部に当てんとした。


 だが累は、チロンがそうしてくるであろうことも予測済みだった。素早く横に移動しながら、刀を横に振るう。


 チロンの体が落下する。切断された尻尾が吹っ飛んで、少し離れた位置に落ちる。


「うああっ! あう! あああ……」


 尻尾を斬られたことで、一瞬パニックを起こすチロン。


「ああ、今のもまた、とてもそそる顔と声でしたね。実に……最高の時間です。最高に可愛いですよ、チロン」


 取り乱したチロンを見て、恍惚の表情になる累。


「こ、この……殺してやる……」


 倒れたまま、憎悪の視線をぶつけて毒づいた直後、チロンは白目を剥いて意識を失った。


 累はチロンの側でかがみ、状態をチェックする。再生は機能している。少しずつ傷口が塞がり、血液が体内に戻っている様子を見て、ほっとする。


「ううう……」


 意識を失ったのはほんの一瞬だった。チロンが呻き声をあげ、薄目を開いた。


「無理しすぎです。本当に死にかねませんよ」


 累がチロンの頬を撫でる。


「……うる……さい……」


 頬を撫でる手を払いのけてやりたかったチロンだが、最早手を動かすことも出来ないほど消耗していた。


(嗚呼……またじゃ……火照っておる)


 胸の動悸が激しくなり、下腹部が疼き、頭にも血が上るチロン。


(あの時もそうじゃったな。あの時はワシの勝ちじゃったが……何故かワシは、累と戦った後、滅茶苦茶発情する。累と無性にセックスしたくなる。しかし勝ったのならともかく、負けた身でそんなことを口にするのは癪じゃ)


 自分の口か求めるのは憚れる分、この場で累に強引に組み敷かれたいという気持ちになったが、現在の累の性格を考えるとそれはあり得ないという事も、チロンにはわかっていた。


(さて、他はどうなりましたか……)


 累はチロンから顔を背け、男治と霧崎、ミスター・マンジと史愉の方へと視線を向けた。

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