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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
3303/3386

25

 殺人倶楽部の面々も、祭り会場に出現した硝子人達の列を目撃した。

 異様な光景に、市民達がざわついている。彼等も直感的に危険な予感を覚えている。


「こいつらが市民から生命力を奪うのか?」

「今のうちに避難させる? ……って、そんなこと出来るわけもないよね」


 硝子人の列を見ながら、卓磨と冴子が囁き合う。


「このまま市民が生贄にされてしまうのですかねえ? でも、どうやるんでしょうねえ?」


 優が疑問を口にした。


「一人が羽交い絞めに、もう一人がキスして口からずきゅんずきゅん」

「それは無いでしょう。一人に二人がかりでは効率悪いですよう。そんなことしているうちに逃げられちゃいますよう」


 冴子の想像を優が真面目に否定する。


「いずれにしてもわくわくしませんかー? 何かが起こる前触れ感凄いですよねー」

「確かに高揚感もあるな。それは否定できない」

「俺は不安の方が強いよ」


 竜二郎、鋭一、岸夫が言った。


「硝子人達が市民を襲いだしたら、私達で頑張ってあの硝子人の群れを破壊して回りましょう」

「数多すぎるし、反撃食らったらこっちがヤバそうだ……」


 優の決定に、卓磨が気乗りしない顔で呟いた。


***


 男治はこっそりと市庁舎内の職員に、妖怪化する術をかけてまわっていた。その男治が術を発動させたことによって、職員が次々に妖怪化し、人間のままの職員に襲いかかる光景を、純子や真達もホログラフィー・ディスプレイで確認した。


「何てことするんだ」


 真が頭の中でぷんぷん怒る自分を想像しながら、男治を睨む。


「わっはっはっはっ、これは戦争だぞー。どんな汚い手を使ってでも勝った方が正義だぞー。大体真、君だって人質盾作戦したじゃないっスかー。あれは君の立案だと聞いたぞー」

「えっへっへっへっ、そういうことですよ~」


 高らかに笑う史愉と、悪びれずにへらへら笑う男治。


「ふみゅーちゃん、男治さん、それさあ、何のためにやったの?」


 一方、純子は呆れて半笑いになっていた。


「確かに混乱するだろうけど、あまり意味は無いかなあ。それとも妖怪化した職員の人達をここにまで攻めさせる?」

「そのつもりですよ~。制御下にある硝子人もいますし、混戦にはなりますが、いい勝負になるかとー」


 男治の答えを聞いて、純子は顎に手を当てて思案する。


「無意味な手だな。計画の妨げにはならん。しかし市役所の役人達を全て見捨てるという前提での話だ。流石にそれは後味が悪い」


 霧崎が神妙な面持ちで言った。


(釘を刺したのか)


 霧崎が口にした台詞は、純子に向けてのものだと、真は見抜いた。純子は平然と職員を見殺しにするだろう。しかし霧崎はそれを良しとしない。その旨を純子に伝えたのだと。

 純子も霧崎の意図を察し、吐息をついた。


「勝負はお預けにしておかない? それよりさ、これから起こる事を一緒に見物しようよ。ここじゃなんだし、建物の外に出て、直にさ」

「わかりました~」


 純子が方針転換し、この場での戦闘を避けると言ったので、男治は呪文を唱えた。


 無数に映し出されたホログラフィー・ディスプレイの中で、妖怪たちが人の姿へ戻っていく。暴走もやめる。


「雪岡先生達、余裕ありまくりって感じだね」

 と、ツグミ。


「むっふっふっ、実際こちらが圧倒的優勢だからね、チミ。もう始動してしまったし、手遅れなのだよ」

「出来はしないでしょうが――例え僕達をここで殺したとしても、それで止まるわけではありません」


 ミスター・マンジと累が言った。


「オキアミの反逆を呼んだ時点で、勝負はついたようなもんだよ。サイキック・オフェンダーの数が、転烙市内に入ったPO対策機構の数を圧倒的に上回った。そこで限りなくチェックメイトに近かった」

「まだ勝負はついていない」


 純子の言葉を真が否定する。


「もちろんまだだけどね。でも現時点で限りなく詰んでるよ?」


 そう言って純子が歩きだした。他の面々も歩きだし、純子の後を着いていく格好となる。


「はあ~……PO対策機構も援軍を送ってはくれましたが、思ったより少なかったですしねえ。何でケチったんでしょー。いっそ軍隊送り込んでくれればよかったのに」


 男治が肩を落とす。同様のことは、チロンも熱次郎もツグミも牛村姉妹も感じている。真は援軍が大した数しか送られなかった理由を知っている。


「大量の兵を送るわけにはいかなかったのよ。PO対策機構に、純子の能力を知る者がいて、その人物が指示を出したのね」


 そう言ったのは史愉だ。全員が驚いたように史愉を見る。


「へー、ふみゅーちゃんがシリアスモードだ。しかも理由も見抜いちゃってるみたいだし。あ、知ってる人もいるかもだけど、ふみゅーちゃんは真面目化すると、キャラ作りやめて喋り方が普通になるんだよー」

「うん、知ってた」

「余計なこと言わなくていいッス。ぐぴゅう」


 純子が教えると、ネコミミー博士が頷き、史愉は憮然とした顔になった。


「それは僕の仕業だ」


 真が口にした台詞に、今度は真に驚きの視線が向けられた。


「僕が高田に頼んだ。新居にも理由は話してある。援軍を送りすぎるなと」

「何故じゃ……?」


 チロンが非難混じりの視線を真に向けて問う。


(やっぱりな……)


 喫茶店での会話の際、熱次郎はそうではないかと思っていた。


「まさか真先輩、雪岡先生との決着の邪魔になるからとかそんな理由じゃ……」

「そんなわけあるか。そうじゃない。あまり本腰を入れ過ぎると、雪岡も本気になるからだ。こいつが本気で殺しにかかってくるような事態は避けたかった」


 ツグミの言葉を否定し、説明する真。


「どういうこと?」「イミフ」

「わかるように説明せい」


 伽耶と麻耶とチロンが言う。


「純子は放射線を発生させる能力があるんだぞー。ぐぴゅ」


 史愉の言葉を聞いて、真が援軍を削った理由を、全員が理解できた。


「例え一万の軍隊を差し向けようと、純子が致死量の放射線をばらまけば、問答無用で一万の死体が出来るだけだぞ。ぐぴゅう。常人では何をどうやっても純子には勝てないんだぞ。もちろん、あたし達みたいに、核戦争に備えて放射線耐性のある体を作っていれば、話は別ッス。でもその処置をこちらの兵士全員に施すってのも、無理があるぞー」

「たは~……なるほど~。真君はそれを危惧していたから、純子さんを刺激しない程度のギリギリの数で攻めるべきだと、進言していたわけですか~」

「そういうことだ」


 男治が言うと、真は頷いた。実際には進言というより命令もしくは要請である。


「雪岡が本気で殺しにかかってこないギリギリの戦力で臨んだが、結果はこの通りだ。酷い綱渡りをした結果がこれ。ネロの容赦無い方法こそが、勝利するためには最も現実的な手段だったな」

「おい……真、今更何言ってんだよ。あの人質作戦もお前が考え、そして援軍が来ないようにしたのもお前の要請? お前のやってること全部裏目だぞ。いや……お前、純子に味方でもしてるのかって、そう疑いをもたれても仕方ない体たらくだぞ」


 熱次郎が非難がましい視線を真に向け、心なしか震え声で言った。熱次郎には真の方針が理解できない。そんな理由で投入する兵士の数を制限するなど、下策としか思えない。犠牲も覚悟で、数で圧倒して解決できるのではないかという考えであった。


「結果がこの様だから、責められるのは仕方ない。でも……これでもさ、必死に頭捻って、一番いいと思った選択をしてきたつもりなんだよ。そして……」


 真の視線が純子へと向く。純子は前を向いて歩いたままだが、真が自分を見ている事は意識していた。


「まだ僕は諦めてない。遊びは終わってない」

「だよねえ。まだ私は世界を作り変えてもいないし、これからだし、諦めるのはそれを見届けてからにしてほしいなあ」


 純子が嬉しそうに微笑む。


 全員が市庁舎の外へと出る。


「さて、私の半年間の転烙市での集大成とも言える一大イベント、これから始まるよ。こんな所じゃあ何だし、場所を移そうか。真君、熱次郎君、ツグミちゃん、伽耶ちゃん、麻耶ちゃんはこっちにおいで」

「ワシらはお呼びでないか」


 純子の台詞を聞いて、チロンが皮肉げに言う。


「んー、残念だけど、ここからは身内と言えるこの子達と共有したいんだよねえ。君達は累君達と遊んでるならお喋りするなりしててほしいなー」

「僕には共有させてくれずに、彼等の相手をさせるんですか」


 純子の決定を聞いて、累がそう言ったが、特に不服を感じているわけでもない。


「累君とはずっと今まで一緒だったでしょー」

「冗談ですよ。みどりもいればよかったですね」


 純子が言うと、累は笑顔で言ってのけた。


「ほら、こっちにおいで」

 純子が手招きする。空の道に上がる装置の前で。


「それ使って大丈夫なの?」


 ツグミが苦笑気味に尋ねる。以前空の道を使ってばらばらに飛ばされた事や、転烙市のテクノロジーを用いると、体内に刻印が刻まれる話があって、それ以降は利用しない方針になっていた。


「今更小細工しても仕方ないでしょー」

「信じておく」


 純子が笑って告げると、真が純子のいる方へと進み出た。


 純子、真、ツグミ、伽耶、麻耶、熱次郎の姿が消える。空の道の中継地点ある、透明階段へと転移したのだ。


「ワシらは暇じゃの。よければ少し遊ぶか?」


 チロンが累を睨んで笑うと、累は無言で闘気を放つ。


「ちょっと~……何のために妖怪化を解いて外に出たのかわからないですよ~。戦闘を避けるためでしょ~? それなのにここでまた戦闘するのです?」

「ワシは遊ぶかと言っただけじゃ。そちらは転烙ガーディアンに手出しはさせず。こちらは硝子人も市庁舎内の職員も使わず。この条件でどうじゃ?」


 男治が訴えるが、チロンは聞く耳持たない。


「僕はいいですけど?」

「ムフフフッ、私も構わないよ、チミ」

「不利になったら互いに何をするかわからないのではないか? まあ、遊びに留めておくのなら、付き合うのもまた一興」


 累、ミスター・マンジ、霧崎は応じる構えだ。


「気が進まないよ。ごめん。僕は遠慮するね。三対三で丁度いいみたいだし」


 ネコミミー博士は拒否した。


「ぐぴゅ……純子がいないし、転烙ガーディアンも手出し無しとあれば、勝ちの目もあるかな」

 史愉はそう計算した。しかし勝算が高いとも思っていない。五分五分ではないかと見ている。

「では始めるぞ、累。今度という今度こそけちょんけちょんじゃ」


 一番やる気満々のチロンが、累に視線をぶつけたまま言い放つ。


 累はそんなチロンの視線を受け止めたまま、笑顔で刀を抜いた。

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