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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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24

 最も人が集中して賑わっている中心繁華街の祭り会場には、特設ステージも用意されていた。

 その特設ステージに、市長の硝子山悶仁郎が何の予告も無く姿を現したので、ステージの側にいた市民達がざわめく。


『各々方、転烙魂命祭、楽しんでおられるか?』


 にやにや笑いながら問いかける悶仁郎に、歓声と拍手が巻き起こる。


『じゃがのー、ここまではただの祭りに過ぎん。ここからが本番じゃ。まだ家に帰るでないぞ。今より驚天動地の催しが行われるでな。皆を新たな世界へといざなうことは必定。あと一時間以内といったところか』


 悶仁郎が何をしに現れたかと言えば、祭りにいる人達を引き留める事と、この呼びかけをネットでも流して、祭りに参加する者達を増やす意図があった。


『時が来れば――皆の望みが叶う』


 悶仁郎の発言に、市民達はぽかんとなる。そんな市民達の反応を見て、悶仁郎はにたりと笑う。


『言葉通りの意味じゃよ。望みが叶うのじゃ。時が来ればわかる』


 市民達の反応をおかしそうに見ながら、悶仁郎は確信を込めて言い切った。


***


 真、伽耶、麻耶、熱次郎、ツグミ、チロン、史愉、男治の八名と対峙する、純子、累、ネコミミー博士、ミスター・マンジ、霧崎、そして転烙ガーディアンの兵士達数名。


「どこでバレたんだろ? 伽耶ちゃんと麻耶ちゃんの術が破られたってこと?」


 ツグミが疑問を口にする。


「完璧な術なんてない」

「向こうが上手だった可能性もあるし、別の要因かもしれない」


 伽耶と麻耶が言う。


(綾音が内通者だという事がバレたか? 最悪、綾音が僕達を騙していたケースも考えられるが……。いや、それならわざわざ呼び込みもしない)


 勘繰る真だが、すぐに己の考えを打ち消した。


「少数で潜入してくることは警戒していたしね。でも発見が遅れちゃったかなあ」


 純子が屈託のない笑みを張り付かせたまま口を開く。


「発想としては普通だし、私も同じこと考えていた。私がそっち側にいたら、同じことをするよ。敵陣地を大人数で攻めて駄目なら、少数精鋭で破壊工作か暗殺。何もしないはずもないし、君達に出来ることといったらそれしかないでしょ? だから警戒はしていたんだけど、術か能力か、随分と巧妙に隠れていたよね」

「チロンと男治、それに伽耶と麻耶がいる時点で、監視の目は容易く誤魔化せますしね。そうなると――」

「一番狙われやすいのは、この時のために用意した特殊硝子人。つまりその近辺で仕掛けをしているんじゃないかっていう、ちょっと考えればすぐわかる推理だよー。だから硝子人の周辺を念入りに探ってみたら、術で姿を悟られないようにしている形跡を確認したってわけ」


 累が途中で口を挟み、純子がさらに答えを繋げた。


「いや、そのわりには時間かかってないか? もっと早い段階にわかっていたなら、ずっと泳がせているのも変だしな。硝子人に仕掛けを施す作業させて、いいことはない。考えればすぐわかる答え? それ、今思いついたんだろ」

「んぐっ……」


 真に指摘され、純子は苦笑気味に唸る。


「ムッフッフッフ、図星ではあるが、チミ達の運命が風前の灯であることに変わりはないのだよ」


 ミスター・マンジが笑う。


「硝子人達の制御は奪ってありますよ~。硝子人達を盾に使いましょー」

「そうだ。硝子人をここで皆戦わせればいいぞ。元々ぶっ壊す予定だったしな」


 男治が提案し、史愉が頷くと、廊下の先で列をなして歩いていた硝子人達が急に方向転換し、真や純子達がいる方に歩いてくる。


「おい、どこに行くんだ?」

「何してるんだよ。硝子人達がいきなり変な方向に歩きだしたぞ」

「硝子人達のコントロールが出来ませんっ」


 職員達がその光景を見て動揺する。


 硝子人達がやってきて、廊下を埋め尽くす。


「狭い」「満員電車状態」

「盾にするというが、狭すぎて戦闘するのも困難な状況になったぞ」

「文句ばかり言ってんじゃないぞー。ぐぴゅう」


 伽耶と麻耶と熱次郎が顔をしかめると、史愉もしかめっ面になって言った。


「累、いい加減ワシらの因縁にも決着をつけたい所じゃな」


 チロンが累に向かって言い放つ。


「貴女がグリムペニスに所属している間は、僕達は相対するしかないのではないですか? それとも本気で殺し合いを望んでいるのですか? 貴女の望みは、僕が折れて貴女に従うことなのでしょう?」

「その通りよ。お主はワシに支配されておればいい。それが一番平和じゃ」


 累が穏やかな微笑をたたえて指摘すると、チロンは憎々しげな笑みを広げて開き直った。


「同じ顔なのに、表情が違いすぎる」

 累とチロンを見比べて面白そうに言う伽耶。


「私と伽耶は同じ顔なのに頭の出来が違い過ぎる」

「性格の良し悪しが違い過ぎる」


 麻耶の言葉に、伽耶がむっとして言い返す。


「戦って勝てると思う? まあチロンちゃんも男治さんもふみゅーちゃんも、多人数相手だろうと優位に立てる力の持ち主ではあるけどさ。こっちもそれなりに精鋭連れてきたし、数が違いすぎるでしょー」


 純子が真を見て、からかうような口振りで語りかける。


「あとさ、真君の指摘聞いて、何か誤解してるなーって思ったんだ。確かに気付いたのはついさっきなんだけど、市庁舎内の硝子人を全て無力化されても、計画が崩されるわけじゃないよ?」


 ホログラフィー・ディスプレイを投影して、他の場所にいる硝子人多数を見せる純子。


 特殊な硝子人が市庁舎以外にも待機していると知り、史愉とチロンは少なからず書受け義を受けた。自分達の工作も大した効果が無かったのではないかと、そんな考えが頭によぎってしまう。


(ま、その可能性も考えていたんですけどね~)


 男治はさほど驚いていなかった。予想しながら作業を行い、史愉とチロンにも作業を集中させるために、口にしないでいた。


「もちろんここの硝子人も重要だけど、市内各地の祭り会場までカバーできるものじゃないしむしろここにいるのは少ないくらいだよ。なので、穴埋めはいくらでも出来るんだ」

「ぐぬぬぬー……おのれえ~……男治、こうなったらもう一つの仕掛けの方を発動しろっス」

「はいはーい、わかりました~」


 史愉に命じられ、男治は短い呪文を唱え、市庁舎内のもう一つの仕掛けを発動させた。


***


「硝子人がおかしくなったって聞いたぞ。こっちの制御が出来ないって」

「本当ですか? 上に報告は?」

「市長は今演説中で、反応が無い。緊急連絡入れたのに」


 市庁舎内の一室で、職員達が喋っている。


「緊急連絡入れた……のに……市長は緊急演説……今、反応が……無い……」

「え……?」


 目の前でうわごとのようなことを口走り、急に顔が膨れ上がり、口の端が裂け、肌のあちこちに小さな突起物が生え、肌も緑色に変色する職員を見て、もう一人の職員は呆気にとられた。


「反応が……おかしくなったって……市長は今……制御ができ……なあぁぁぁい!」


 叫び声と共に、化け物となって職員が口を大きく開けて、もう一人職員の頭部にかじりついた。


「た、助けてくれ! 誰か! 化け物になっちま……!」


 その部屋の外では、悲鳴をあげながら片足をひきずって逃げる職員がいた。ひきずる片足は大きな棘に貫かれて、大量の血を流している。

 片足をひきずる職員の後を、腕から無数の棘を生やし、下半身が二股のウナギの尻尾に変化した三つ目の全裸女が、にたにたと笑いながら追い掛け回す。


「げひゃッ!」


 女の腕から棘を射出し、その棘が背中から喉の下辺りを貫き、逃げていた職員かおかしな声をあげて前のめりに倒れた。


 倒れて痙攣する職員の上に女が跨ると、長く伸びた舌をストローのような形状に変化させて、職員の首筋に突き刺し、体液をすすりだす。


「ほんげーっ!」


 目が複眼になり、口が大きくせり出して二本の湾曲した大きな牙を生やし、腕が昆虫の肢の形状に変化した男が咆哮をあげ、近くにいた者に襲いかかる。


 しかし次の瞬間、虫男の顔に半透明の黄緑のスライムのようなものがへばりつく。


「ごぼこぼこぼこぼごほごこぼ……」


 虫男は必死にあがいて、顔にへばりつい黄緑スライムを取ろうとしたが、取れなかった。それどころか黄緑スライムは口の中へと入りこんでいく。


「ごぼぼぼーっ!」

「やかましイわ。このダボっ」


 スライムに腹部にまで侵入された虫男が断末魔の絶叫をあげると、虫男を仕留めたエカチェリーナが吐き捨てた。


「どういうことなの? 市役所の中が化け物だらけになって……」


 エカチェリーナの後ろで、陽菜が呻く。


「PO対策機構のアホ共の仕業やろ。陽菜、オキアミの反逆の兵士も同じ目におうてないか、チェックしとき」

「う、うん。わかった」


 エカチェリーナに言われて、陽菜は部下達にメッセージを送り、安否の確認を行った。


***


 転烙市南部の商店街にある祭り会場近くに、大量の硝子人が現れたと報告を受け、近くにいた美香とクローンズは確認に赴いた。


 果たして報告通りの光景が広がっていた。車道には硝子人達の整然と列を作って並んだ状態で、一糸乱れぬ規則正しい動きで足並みを揃え、行軍している。


「何あれー?」

「どうしてあんなに硝子人いっぱい? 何が始まるんです?」

「市長が言ってた本番のため? 何しようってんだ?」


 人々もその光景を見て不気味がっている。


『美香、こっちは東部の歓楽街だけど、硝子人達が学校の朝礼みたいに列作っていて馬鹿みたいで面白い事態だよ』


 来夢が連絡を入れてくる。


「こっちも同じだ! おそらくすべての繁華街の祭り会場に、硝子人が大量出現している!」


 美香が電話に向かって叫ぶ。


「一体何が起こる!? 何が始まる!?」


 空を仰いで叫ぶ美香。無論、答えは返ってこない。


「いつにも増してオリジナルがうっさいわー。恥ずかしくないのかねー」

「それだけシリアスだし非常事態なんにゃー」


 茶化す二号に七号が言った。

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