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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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23

 史愉、チロン、男治の三名は、市庁舎内の広間に並んで待機している大人数の硝子人達を見張っていた。


 その硝子人達の前に、数名の男女が現れる。すると端の列にいる硝子人から、一人ずつ動き出した。


「おお~、とうとう動き出しましたねー。つまりこれは、いよいよもって市民生贄血祭の開始ですか~?」

「血祭りかどうかは知らんが、転烙市のテクノロジーを利用し、臓器に刻印を施された市民からエナジードレインする事だけは確定しておるの」


 男治が何故か嬉しそうな声をあげ、チロンが神妙な面持ちで言った。


「正直、一都市の人間全てから生命力が奪われていく光景は、見てみたいものがあるぞー。きっと楽しい光景っス。でも純子の思惑通りにさせるのは癪だから、食い止めなくちゃいけないというアンビバレンツだぞー」

「あ~、その気持ち、とてもわかります~。楽しそうですよね~。えっへっへっへ」

「全くこやつらは……」


 史愉が楽しげに言い、男治も笑顔で同意し、チロンは半眼になっている。


 そこに真達がやってきた。


「応、来たか」

「やっと合流できたね」


 チロンが微笑みかけ、ツグミが微笑みかえす。


「丁度いいタイミングだったぞー。ぐぴゅぴゅぴゅ。市庁舎内に集められていた硝子人達が動き出したぞ」


 史愉が報告する。


「よくここまで無事にたどり着けましたね~」

「別人に見える術をかけてもらっていた。監視カメラには気を付けた。そっちはどうなんだ」


 男治が感心すると、真が言った。


「役所の者はずっと忙しいようで、ワシらを見かけても、それどころではないという雰囲気じゃったわ」


 チロンが言う。


「おーい、中断中断! メールしたのに連絡見てないのか!?」


 その役所の人間が泡食った声をあげているのが、一同の耳に入る。


 声がした方に行ってみる。通路に事務員が何名も集まって、深刻な顔で話し合っている。


「何だろう?」

「硝子人の動きも止まったぞ。何かあったみたいッス」

「ただごとならぬ雰囲気」「皆深刻そうな顔」


 熱次郎、史愉、牛村姉妹がそれぞれ言う。


「えええっ!? ここで中止ですかあ?」

「中止するとは言われてない。あくまで作業中断だ。トラブル発生して先に勧めない状態らしいんだ」

「何があったんです?」

「わからんが、とにかく今は作業中断で。他の部署もてんやわんやだよ」


 渋い表情で事務員達が話している。


「中止って、祭りが中止? それとも雪岡先生がこれからしようとしていた、市民の生命エネルギーとか欲望エネルギー抽出が中止」

「祭りそのものではないだろう。多分後者だ」


 ツグミと真が言う。


「果たしてこれはワシらにとって吉なのか?」

 チロンが顎に手を当てて誰とはなしに問いかける。


「時間的猶予が生じたのは良いことだと思いますよ~」

「それだけ考える時間も増えたし、出来る事も増えるな」


 男治と熱次郎が言った。


「仕掛けを施せる硝子人が増えますよねえ」

「またあの地道な作業するのね。うんざりだぞー。あたしらPO対策機構の中で一番働いているに違いないッス。もっと評価しまくれー。給料上げろー」


 男治の言葉を聞き、史愉が嫌そうな顔になる。


「で、僕達は何をすればいい?」


 真がチロンの方を向いて尋ねる。史愉と男治は非常識人なので、出来るだけチロン相手と話すつもりでいた。


「ワシらはここでずっと、硝子人の制御を奪う術を施しておった。伽耶と麻耶はワシらと同じことが出来るのではないかの」


 チロンが姉妹の方を向いて伺う。


『多分できるけど』

「時間の限りそれをするの?」「疲れそう」

「あたしらはとっくに疲れまくってるぞ」


 麻耶の台詞を聞いて、むっとする史愉。


「私は疲れない程度に手を抜いてました~。いざとなった時に戦えないと困りますしね」

「男治ぃ~、ふざけんじゃねーぞー。それならあたしもいざという時のために休憩するッス。あー疲れた疲れた」


 男治の台詞を聞いて、史愉は不貞腐れて廊下に寝そべった。


「伽耶と麻耶の力も温存させておいてくれ。硝子人の制御を奪う術を施す作業はしなくていい」

『らじゃっ』

「おーい、何ふざけたこと言ってるんスかー。君達何しに来たのよー。ぐぴゅぴゅぴゅー」


 真の決定を聞いて、史愉が身を起こして抗議する。


「本番が始まった時に動けなくては話にならないし、敵もトラブルがあって時間の猶予が出来た。ここで作業を進めるよりも、お前達も疲れたなら少し休んだ方がいい」

「ふーむ……作業を続けるチャンスでもあるが、温存という選択を選ぶか。ま、それでもよかろう」


 どちらが吉と出るかわからないが故に、チロンは真の言葉に――自分にとって楽な方に従うことにした。


***


 デビルは依然として、クローン製造工場でワグナーの研究に協力している。


「少しは成果あった?」


 作業を中断してコーヒータイムになった所で、デビルがワグナーに訪ねてみる。


「少しどころではなく、君の体の解析が進むことで、様々な発見がありました。これを応用すれば、クローン製造を劇的に早めることが出来るかもしれません」


 少し興奮気味な口調で嬉しそうに語るワグナー。


 デビルとしてはどうでもいい話であったが、これは取引でもあるので、無視も出来ない。自分にとって重要な話もあるかもしれないので耳を傾けておく。


 みどりのおかげで、今の自分の魂は、非常に不安定な状態になっている。肉体の損壊次第では、魂を現世に留めていられなくなる。つまりは常人とそう大差無い。


 ワグナーが電話を取る。深刻な表情になって、小さく息を吐く。


「トラブルがあったようです。生命力変換装置の脆弱性が発覚し、祭りのクライマックスが行えないと」

「祭り初日でもうクライマックス? 三日続くと聞いたけど」

「彼等にすれば、転烙市民のエネルギーを大量に吸い取れればそれでいいのでしょう。残り二日はおまけというか、最初から考慮していないのでしょうね。まさか祭りを一日だけというわけにもいきませんから」


 言われてみればそうだとデビルは思う。大抵祭りは二日か三日行う。一日だけという場合もあるし、一週間続く祭りも聞いたことがあるが、今回の祭りは初日が平日開催であるし、一日だけで終わるというのも変な話だ。


「私にも呼び出しがかかっています。行ってきますね」

「同行」


 ワグナーがコーヒーを残して立ち上がると、デビルも一言呟いて立ち上がった。こちらはコーヒーを半分以上残したままだ。


***


 ワグナーが電話で呼び出されてから数分後。

 市庁舎内の一室。部屋には陽菜と悶仁郎とエカチェリーナがいる。


 陽菜が時計を見る。六時半。窓の外は夕闇に包まれている。


「予定では七時に実行する予定じゃったが、前倒しで五時に行う事になった。しかしとらぶるとやらが起こり、結局は当初の予定通りの時間か、もっと後になりそうじゃな」


 悶仁郎が渋い表情で言った。


「あまり遅すぎると人おラんくなるで。最悪、明日やな」


 こちらどうでもよさそうに言うエカチェリーナ。


「祭りは三日の予定なんでしょう? 明日や明後日では不都合あるの? 人がいなくなるとは思い難いけど」

「初日の夜が一番人が来るという見込みらしいわい。それよりも時間が経過すれば、PO対策機構の者共に付け入る隙を与えてしまうというものよ」


 陽菜が疑問を口にすると、悶仁郎が答えつつ、ホログラフィー・ディスプレイをミニサイズで開いて、メールをチェックする。


「純子からのめえるじゃ。生命力変換装置の修正作業が完了したそうな。二時間以上かかる見込みが一時間四十分程に抑えたと言うておる」

「じゃあいよいよ?」

「そういうことになるのう」


 陽菜が伺うと、悶仁郎はにやりと笑った。


***


 市庁舎内にいる真に、綾音からの電話がかかってくる。


『修正作業が完了したようです』

「そうだろうと思っていた。こちらも慌ただしくなってきたしな」


 真が廊下の先の光景を伺いながら言う。廊下に人が集まり、列をなして待機していた硝子人達が、今は動き出している。少しずつ市庁舎の外へと出ている。


「これ、僕達も外に出るの?」


 硝子人が外に向かっている様子を見て、ツグミが尋ねた。


「中にいられるものなら、中にいた方がいいな。硝子人の制御を奪うのは、離れていても出来るのか?」

「出来ますよ~。そういう術をかけましたから」


 真が尋ねると、男治が答えた。


「今、とっとと破壊してもいいんだけどね」

 と、史愉。


「今ここでやったら、不審がられるだろう。何をするか見極めよう。破壊するのはその後だ」

「いや、それでは遅い。駄目だろ。何かする前に対処しないと」


 真の方針を、熱次郎が呆れ気味に否定する。


「何かを仕掛けた時、奴等の制御を奪うのが一番良かろうて」


 チロンが言ったその時、真達がいる後方の十字路から幾つもの足音が響いた。そして大勢の人間がやってくる気配を感じた。


「隠れよう」

「ひなーん」「とんずらー」


 真が促し、側にある扉を開け、隠れようとする。


 しかし真達が隠れる前に、十字路に足音の主達が現れ、後方にいた真と史愉と目が合った。

 現れたのは純子と累だった。さらにはネコミミー博士、ミスター・マンジ、霧崎が現れる。そして転烙ガーディアンの兵士達も数名現れる。


「ぐぴゅっ、見つかっちまったぞー。しかもよりによって純子や累達だぞー」

「何じゃと……」


 史愉に言われ、チロンは口をあんぐりと開けて、避難した部屋から出てきた。他の面々も部屋を出る。


「やあやあ、皆さんお揃いでー」

 純子がにっこりと笑う。


「豪華な顔合わせとなりましたね」


 累が主にチロンに視線を注ぎながら微笑みかける。チロンはむっとした顔で累を睨む。


「わざわざそっちから来るとは、都合がいいな」

「いや、よくないぞ。こっちから奇襲かけるつもりだったのに、見つかったうえに、部下いっぱい引き連れて来られた時点でよくないぞ」


 真がうそぶいたが、史愉が現実的な問題を口にした。

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