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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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22

 輝明を救出した後、勇気と鈴音は公園で一息ついていたが、そこにミルクを連れたバイパーと新居が現れる。


「何しに来た?」

「いや、ただの偶然だぞ。あっちの道歩いていたら見かけたからよ」


 問う勇気に、バイパーが垂れてきた前髪を後ろに撫でつけながら答える。


「真の奴が市庁舎に行った」

「真に行かせたのか」


 新居の報告を聞いて、勇気は微かに眉をひそめる。


「あいつも行きたがっていたし、適役だ」

「何でも先に出たがるタイプだな」

「確かにそういうタイプだが、あいつ個人の思惑もあるみてーだし、丁度いいだろう」

「確かに」


 新居の言葉に納得した勇気が、バイパーの持つバスケットに視線を向ける。


「ところでミルク、またそんな所に引きこもってるのか? 新居にも正体を隠しているのか?」

『うるさい。どこにいようと私の勝手だ』


 呆れ口調で勇気が声をかけると、ミルクが不機嫌そうな声を発する。


「俺はこいつのこと知ってるよ。むかーし関わった事が有る」


 新居が言った。


「そうか。たまたま俺がいて、撫でて欲しいと思って期待していたんだろう? ふっ、残念だったな。今はそんな気分じゃない。愛撫はお預けだ」

『この餓鬼、調子にのりすぎですよ……』


 バスケットの中でふーっと怒りの唸り声を発するミルク。


「俺も同行すべきだった。いや、今からでもミルクと鈴音と俺とで、追加で行ってもいいか」


 と、勇気。


『私は元々行く予定になっている』

「おいおい、そいつはどうかと思うぜ? 潜入したチロン達の事情も見えてこないし。手引きをしている奴がいるっていう話だし、追加の援軍を差し向けるとなれば、それが吉に転ぶか凶に転ぶかわからねーだろ」


 勇気とミルクまで向かう事に、バイパーは否定的だった。


「一理あるが、俺達が行く事で事態が大きく悪化という事も考えにくいだろ」

『せっかくだから私と一緒に行くですか』

「さんせーい。一緒に行こう」

「俺に断りも無しに勝手に決めるな。罰だ」

「ひはい、ひひゃいよ勇気」


 勇気が反論し、ミルクが呼びかけ、鈴音が応じ、勇気が鈴音の頬を両手で乱暴に押し潰す。


「どうも、奇遇ですね」


 そんな四人と一匹の前に、澤村が現れた。


「何だ~、もう帰っていいんだぜ? 俺達のやることが許せなかったんだろ?」


 新居が澤村を見て、ねちっこい口調で憎まれ口を叩く。


「帰りません。弱者盾パワー委員会を率いる者として、卑劣な手に与する事はありませんが、サイキック・オフェンダー達の好き放題にさせたいとは思いませんし、雪岡純子の野望も止めたいと思っていますので」


 真顔で言い返す澤村。


「奴等はおそらく人が集まる夜に、何か仕掛けてくる。仕事帰りの時刻とか狙いそうだな」


 新居が言った。


「それまでにこちらの出来る事は無いのですか?」

「精鋭達の活躍次第だ。時間は無い。数でも地の利でも劣る。相手は何してくるかよくわかっていない。こんなマイナス要因ばかりで限りなくどうしょうもない状況で、それでもどーにかしようっていう無茶な作戦してるんだぜ。俺達はよ」


 澤村が伺うと、新居が肩をすくめて答える。


「そこが疑問だわ。何で援軍の数が少ねーんだ? いや、結構来たには来たが、それにしても少ない。軍隊差し向けるぐらいの事はしてもいいだろ。PO対策機構も全投入すればいいし、あるいはそれに属していない腕利きを金で雇うとか、色々あるじゃねーか」


 バイパーが疑問を口にする。その疑問は多くの者が感じていた事だ。

 その理由を、新居は知っている。しかし今ここで口にすべきかどうか迷う。


(それは真の要請だ。赤猫電波が途絶えた瞬間、高田義久に転烙市の情報を暴露すると同時に、PO対策機構のオフィスにも様々な要請を送った。その中に、援軍の数をあまり送るなというものがあった。多数の援軍は喉から手が出るほど欲しいが、数が多すぎても不味くなる理由があると)


 その理由が何であるか、新居は真から聞いている。


『私はその理由を知っている。ま、ここでは言わないでおく』

 ミルクが発言する。


「何だよ、もったいぶってねーで教えろよ」

『理由を教えたら、びびって逃げ出したくなる奴も出そうだからな。味方にも出来るだけ知られない方がいいことですよっと』


 バイパーが言うも、ミルクはからかうような口振りでそう返した。


***


 真、ツグミ、熱次郎、伽耶、麻耶の五人は、市庁舎付近へと移動した。伽耶と麻耶の魔術で、自分達の存在は悟られないようにしてある。


「誤魔化せるのは外までだろうな。市庁舎の中では空間操作の力も使えないし、警戒も強まっているはずだ」

「しかし市庁舎も祭りのおかげで出入りが激しく、慌ただしいと内通者からの情報だ」


 熱次郎と真が言う。


 五人は地下駐車場入口へと移動する。移動直後、五人の前に軽トラが停まる。


「荷台の中に隠れてください」

 五人の後方から、少女の声がかかった。


「この人が内通者?」

「可愛い。私程じゃないけど、伽耶よりは可愛い」


 細身の翠眼の美少女を見て、伽耶と麻耶が言う。


「綾音が内通者だったのか……」


 熱次郎が意外そうな声をあげる。累の娘である綾音とは面識があった。


「私が事前に話を通しておきましたので、チェックはされないと思いますが、万が一の時は諦めて逃げてください」

「いきなり不安になること言われた」

「綱渡り感がさらに増した」


 綾音の言葉を聞いて、姉妹が揃って苦笑いを浮かべる。


 荷台に潜んだ所で、真に電話がかかってくる。相手は陽菜だった。


『あっさり純子に見破られたし、ちょっと怖かった……』

「でも危害は加えられなかっただろう?」


 車が発信し、荷台の中で話す真。


『累とか硝子山の爺とか、刀抜いてきて脅してきたよ?』

「累は僕が後で折檻しておく。風呂の底で寝かせて、その上に一分くらい乗っておく」

『いや、そこまでしなくていいよ……。ていうか一緒にお風呂に入ってるの? ていうか真はいじめっ子なの?』

「たまに入ってた。いじめっ子じゃないよ」

「いや、それはもういじめの域だよ、真先輩。やめた方がいいよ」


 真は否定したが、ツグミがやんわりと注意する。


「自覚無いいじめっ子って一番タチ悪い」「愛嬌の範疇ってことで」


 伽耶がジト目で言い、麻耶は笑顔で言った。


***


「陽菜達を見逃してよかったんですか? 裏切り者は許さないのでは?」


 市庁舎内の研究室にて、累が純子に尋ねる。今は二人しかいない。


「ここでオキアミの反逆を手放すわけにはいかないし、陽菜ちゃんが真君に頼まれた事は、大したことでもないよ。いや、真君にしたら大したことかもしれないけどさ。陽菜ちゃんだって、あれ以上のことはしないでしょ。それにさ、陽菜ちゃんの考え方もわからないでもないんだ」


 純子が考えを述べる。


「陽菜ちゃんの行動や考え方を聞いて嬉しかったって言ったのも、皮肉じゃなくて本当のことだしね。それにさ、さっきは脅かしたけど、真君の件に関しては、裏切り者どうこうみたいな解釈はしないからね。そんなこと言ったら熱次郎君だって裏切り者ってことになるよ」

「彼が真の側につくとは思いませんでした。純子のことをあれだけ崇拝していたのに」

「崇拝や依存というのは違うかなあ。それじゃラットと一緒じゃない。私と会う前はともかく、会ってから変わったんだろうね。それにあの子の心は今や真君の方に傾いてて、だから真君についたわけだからさ」


 意外そうに言う累であったが、純子からすると、熱次郎が真につく事も予想通りだった。


「真は熱次郎のことやたら可愛がってましたしね」

「真君のカワイガルって、あっちの意味での可愛がりに近いけど、熱次郎君は累君と違って、やられてばかりじゃなくて全力で応じていたみたいだしねえ」

「あ、気付いていたんですか。プロレスごっこ禁止令破って、こっそりやっていたこと」

「まあ……真君が私の言うこと聞くはずないから……」


 微苦笑を零して頬をかく純子。


「累君だって、今からあっちにいく可能性あるし、そうなっても私は怒ることも無いし、裏切り者とは思わないよ」


 純子が言うと、累は息を吐く。


「熱次郎といい陽菜といい、真も随分な人たらしです」


 純子の言う通り、自分も心変わりする可能性は十分にあると、累は思っている。


「人を強引に巻き込んで引っ張って振り回すのが得意というか、いや……他人を引き込んだり巻き込んだりするのが上手いのに、それでいて人を振り回すという組み合わせがヤバいよね」

「完全に迷惑人間ですけど、そうとわかっていてなお引きずり込まれてしまう、おかしな牽引力と魅力があります」


 純子と累で談笑していると、霧崎から電話がかかってきた。


『申し訳ない。トラブルが発生してしまった。生命力変換装置がここにきて脆弱性が見受けられた。成功率は98.7%から一気に56.3%まで低下したよ。調整が終わるまで、実行は出来んな。欲望の学習装置の方は無事だ』

「あちゃー。無理に実行すれば、今までの苦労が台無しになっちゃうねえ」

『阿部日葵女史とネコミミー博士とミスター・マンジで必死に再構築中だ。どうあっても二時間以上はかかる。ワグナー教授も呼んだ方がよさそうだ。彼のクローン製作技術が役立つ可能性もある』

「んー、わかった。大変だろうけど復旧よろしくー」


 霧崎の報告を聞き、純子は小さく息を吐く。


「ここにきて重大なトラブルですか」


 純子の様子を見て、かなり大きな問題だと察する累。


「これまでがスムーズ過ぎたねえ。ま、直前に気付いただけマシかなあ」


 純子が額に手を当て、小さくかぶりを振りながら言った。

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