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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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20

(私のせいだ……。私が前に出てごり押しすれば済む話だったのに、二人に経験詰ませたいとか、二人の意気を汲みたいか、そんなこと考えて、ちまちまと戦っていたせいで……)


 ふくには強力な再生能力がある。盾になるとしたら修より自分の方が適している。そして数多くの能力を有している。輝明と修を危険に晒さずに戦闘を終わらせる事も出来た。しかしそうしなかったせいで、輝明が深刻な事態になった。


「修! テルを見てて!」

 ふくが叫び、転移する。


 ふくの叫びを聞き、修は輝明の方を向き、うつ伏せに倒れて大量の出血をしている輝明を見て一瞬固まった。


「テル!」


 修が弾かれたように動く。四本の光の紐の存在も忘れて駆け出す。


 トカゲ頭怪人は修を追撃しなかった。目の前にふくが転移してきたからだ。


 ふくが手をかざすと、金色に光る網が大きく広がり、トカゲ頭怪人を覆う。


 トカゲ頭怪人には角から出た光の紐で金色の網を切断しようとするが、すでに自分の体にかかっているので、上手くいかない。一部を切っただけだ。


 倒れた輝明に駆け寄りながら、修の脳裏に嫌なイメージがよぎる。それは何度も見た。それは何度も感じた。輝明が傷つく度に見た。

 掘り起こされる記憶。生まれる前のイメージ。有り得ざる記憶が脳裏をよぎる度に戦慄し、後悔し、悲痛を覚える。

 自分への深い失望。失う絶望。護るはずだったのに護り切れなかった事への悔み。生まれる前にもあった出来事が、魂に焼き付いている。同じ痛みが蘇る。今回は特大だ。


 輝明の元に到着した修は、輝明の体を引っ繰り返し、状態を見て、息を飲んだ。腹部に穴が開いている。尋常でない血が流れ続けている。


(テル……これは致命傷……。そんな……そんな……。いや、勇気がいれば回復できるはずだ)


 修がふくを見る。


「テルを連れて勇気の元に行ってくれ!」

「修を置いて私が? そしたら修が殺されるよ。私がここで踏ん張るから、修が連れて行って」


 半泣きで叫ぶ修に、ふくが冷静に告げる。


「わかった……」

 修が輝明を担ぎ上げた。


「修……これ……俺、死ぬのか……?」

 輝明が薄目を開けて問う。


「勇気に治してもらう。勇気の所に連れて行くまで死ぬなっ!」


 必死の形相で叫び、修は勇気に電話する。


「テルが死にかけてる! 助けてくれ!」

『わかった。すぐ行く』

「僕もそっちに向かう! 今どこにいるんだ!?」


 互いに場所を言い合い、位置の確認を行う。


(奇跡か? 勇気のいる場所、ここから近い)


 絶望に思えた中で、一縷の望みが見えて、修は全速力で駆け出した。


 その修の目の前に、勇気が文字通り降って来た。大鬼の手に投げ飛ばされて移動し、着地点にも大鬼の手を呼び出してキャッチさせたのだ。


「これは酷い……危なかったな」

 勇気が癒しの力を発動させる。


 輝明の腹部の痛みが無くなった。出血も止まる。しかし体力の消耗はそのままだ。失った血が戻ったわけでもない。


「ありがとう、勇気……」

 修が掠れ声で礼を述べる。


「ケッ、よりにもよってこいつに助けられちまうなんてよ……」


 勇気を見上げ、弱々しい声で悪態をついて笑う輝明。


「死ぬまで感謝しろよ。ま、その間抜けさと貧弱さからすると、感謝する期間も短そうだがな」

「テメーこの野郎……」


 意地悪い笑みを浮かべて言い放つ勇気に、輝明は思いっきり顔をしかめた。


「ふくが一人であいつと戦ってる。加勢してくる」


 修が言い、元いた場所に戻る。


 トカゲ頭怪人は光の紐を分離させまくって、光のブロックで網を消しにかかる。


 ふくはその間にも、至近距離からマイクロ波を放ってトカゲ頭怪人の体内を焼いている。


「いちいち攻撃を防いでいたから再生能力は無いのかと思ったら、ちゃんとあるのね」


 マイクロ波攻撃をしても中々死なないトカゲ頭怪人を見て、ふくが言った。再生能力が無ければ、とっくに死んでいるはずだ。


「ガガガガ……」

 トカゲ頭怪人が唸り、憎々しげにふくを見た。


 自分を束縛している金色の網の切断を諦め、ふくを攻撃する。


 ふくの頭部が光の紐の直撃を受けて消し飛ぶ。


 しかしマイクロ波の攻撃は収まらない。トカゲ頭怪人の体内がシェイクされ続けている。


 一方、ふくの頭はみるみるうちに再生されていく。


「削り合い、試してみる? 再生能力だって有限。貴方もそれを知っていたから、出来るだけ攻撃を防いでいたんでしょう」


 トカゲ頭怪人に冷たい視線をぶつけながら、ふくは話しかける。


「グゲーッ!」


 トカゲ頭怪人が咆哮をあげ、四本の角から生じる四本の光の紐を引っ込めた。しかし四本の角は光り輝いているままだ。


 四本の角の間に、小さな光球が生じる。


(小さく凝縮された高密度エネルギー体。これが切り札ってわけね。しかも自分へのダメージも省みず、至近距離で放つつもり?)


 あるいはトカゲ頭怪人自身は、ダメージを受けないのかもしれない。流石のふくも、この攻撃に付き合うつもりは無かった。


 光球が大爆発を起こす。


 ふくの読み通り、このエネルギー体の爆発は、トカゲ頭怪人自身には害を及ぼさない。それどころかトカゲ頭怪人自身の力として回収できる仕様だった。


 街路樹が五本倒れ、近くの建物の窓ガラスが割れまくり、祭りの店舗が幾つも吹き飛び、地面にはクレーターが出来ている。


「それで? 他は?」


 転移してあっさりと攻撃を避けたふくが、空から降ってくるとトカゲ頭怪人を見下ろして冷ややかに問う。


 トカゲ頭怪人は絶句している。


「あんたの力は凄いけど……空間操作能力も無いし、そういう能力者と戦ったことも無い。経験不足。そろそろ終わりにするね」


 哀れみを込めて告げると、ふくは呪文を唱える。


 トカゲ頭怪人の足元から膨大な量の粘菌が湧いて出て、トカゲ頭怪人の全身を包み込んだ。


 粘菌の中から四本の光の紐が飛び出す。しかしそれだけだった。角を動かすこともかなわないので、コントロールできない。


 ふく自身はマイクロ波の攻撃を続けている。粘菌での圧迫と、マイクロ波による体内シェイクによる燃焼が続けられる。


「ガガガガガガガ!」

 苦悶の絶叫があがる。


(苦しいでしょうね。下手に再生能力があるから、苦しみが長く続く)


 その苦しみが持続しようが、再生のための体力が尽きて、再生しなくなるまで、命が果てるまで、ふくは攻撃を緩めるつもりは無かった。


 やがてトカゲ頭怪人の声が途絶え、一切動かなくなった事を確認して、ふくはマイクロ波を止め、粘菌も消した。


 消えた粘菌の中から、レンジでチンされた状態のトカゲ頭怪人が現れ、地面に倒れる。すでに事切れている。


「終わったのか」

 そこに修がやってきた。


「テルは?」

「間一髪だった」


 修が微笑んで報告すると、ふくは胸を撫で下ろして大きく息を吐いた。


***


 ホツミは今日も転烙幻獣パークで、動物達と戯れている。


 現在、転烙市内は慌ただしいが、正直ホツミはあまり興味が無い。純子の陣営という立場であるし、協力出来る事はしたいと思っているが、純子の理想の実現に積極的というわけでもない。正直あまり興味が持てない。


 陽菜とエカチェリーナが転烙幻獣パークに遊びに来たので、ホツミは二人をガイドしていた。


「私達こんな所で遊んでていいのかな?」

「息抜きも必要ヤで」


 陽菜が呟くと、エカチェリーナが肩に手を置いて微笑みかける。


「純子ちゃん公認の息抜きなんでしょ? じゃあ遠慮せずたっぷり息抜いてー」

「何か変な言葉遣いに聞こえる」


 ホツミの台詞を聞いて、何故かおかしくて微笑む陽菜。


「私はずっとここにいるから、転烙市の今の様子とかよくわからないけど、大変ぽいねー」


 興味は無いが、話題を振ってみるホツミ。


「ああ。各地で転烙ガーディアンや、転烙市のマッドサイエンティストが作った怪人が、PO対策機構の連中追い回しとーらシいわ」


 と、エカチェリーナが言ったその時、陽菜に電話がかかってくる


『そちらの準備は出来ているか?』

 相手は真だった。


「大丈夫」

 陽菜が答える。


『じゃあよろしく頼む』


 電話はすぐに切れた。この程度のやり取りならメールでいいのではないかと、陽菜は思う。


「ほんまにえエんか?」


 エカチェリーナが陽菜の耳元に顔を寄せて確認する。


「いいの」


 陽菜もホツミの耳に入らないように小声で答えた。


「私は純子を裏切ったと思わないよ。真に力を貸すことが、多分純子のためにもなるから」

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