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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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17

 七号によって吹き飛ばされた大量の麺触手は、鮫頭灰色怪人の体からひきちぎられてもなお、動いていた。


「ソーメンが襲ってくる!」


 二号が叫ぶ。それぞれ独立した動きで身をくねらせ、触手というより細いミミズのようになったそれは、勇気達全員に向かっていく。


「パラダイスペイン」


 鈴音がカッターの刃で頬を切りつけると、麺ミミズ群が一斉に弾け飛ぶ。

 しかし一度弾け飛んでもなお、麺ミミズ群はさらに小さく細かくなって、接近してくる。


「小さい穴だらけで死んでいる奴等って、これにやられたのかねー? 嫌な死に方だなー」


 二号が顔をしかめながら呟き、能力を発動させた。


 麺ミミズの進行方向のアスファルトの上に、赤い泥のようなものが出現し、一面に広がった。そして丁度麺ミミズがその上を通ると、赤い泥が反応して、生物のような動きでもって、麺ミミズに飛びついて、捕食するかのように泥の中へと引きずり込む。


「どこぞの役立たずと違ってやるじゃないか」

「えー、ひどいよ勇気」


 勇気が二号を称賛すると、鈴音が頬からだらだらと血を流しながら、頬を膨らませてふくれる。


 腕から麺状のものを出していた鮫男が、両腕を高々と上げて、再度大量の麺を射出する。麺が宙を舞い、上から降ってくる。


「七号! 焼き尽くせ! サポートする!」

「ほいきたにゃーっ。めらめらーっ!」

「偶然の悪戯!」


 二号が空中に炎の渦を発生させて、美香が運命操作術を用いて、降ってくる麺を全て炎の渦の中へと導かんとする。


 美香の運命操作術が成功し、麺は残らず炎の渦の中へと吸い込まれ、燃やし尽くされた。


「ふぇ~、上手いこと凌いでいるけどさあ、あの麺の攻撃受けたら相当不味いよォ~。死体をサイコメトリーして調べたけど、一本でも体の中に入ると、体内の細胞を利用して増殖したうえに、中から食い破られていくんだぜィ」

「こ、こわいにゃーっ」

「聞かなかった方がいい報告ね……」


 みどりの言葉を聞いて、七号が震え、十一号は近接戦闘を放棄したい気分になった。


「そんなわけで十一号姉、今回は相手に近付かない方がいいわ。あのソーメン野郎がすげーヤバいからさァ」

「相手が近づいてこない限りはそうする」


 みどりと十一号が喋っている間に、美香が鮫怪人に向かって何発も銃を撃っている。銃は当たっているが、効いている気配は無い。


「溶肉液入り弾頭だが、効かん!」

「特殊な体質なんだろうな」


 美香が銃撃を止めて叫ぶと、勇気が冷静に言った。


(もう一体は動かないな)


 勇気がイカ頭怪人と死体を交互に見やる。小さい穴だらけの死体は、鮫頭怪人のソーメン攻撃で殺されたと察せられるが、もう一種類の死体は体をばらばらにひきちぎられて、地面に散乱している。

 勇気はイカ頭怪人の動きを注視していた。イカ頭怪人は全身の宝石を赤く光らせて、確かに臨戦態勢に入っているが、攻撃しようとしてこない。そしてイカ頭怪人も、目は確認でないが、顔は確かに勇気に向けている。


「ペンギンマジシャン」


 自分の方から仕掛けてみる事に決めて、勇気は能力を発動させる。ただし、攻撃はペンギンマジャンに任せて、勇気自身は守りに備える。


「行け」


 勇気が命じると、ペンギンマジシャンは手を胸に当てて恭しく一礼すると、シルクハットをイカ頭怪人に向けて投げた。


 シルクハットが回転しながら大きく弧を描き、イカ頭怪人に向かって飛来する。


 イカ頭怪人の赤く光る宝石の一つが、一際強い光を放ったかと思うと、赤い光を帯びた靄のようなものが吹き出て、手の形状を形取り、飛んできたシルクハットを掴んで受け止める。


 シルクハットは掴まれても回転し続け、赤く発光する靄手をつばの端の刃で切断し、イカ頭怪人の体へ迫ったが、赤い靄手がさらにもう一つ別の宝石から出現し、今度はシルクハットのつばを掴まずに、クラウンを掴んで受け止めた。


(あのもやもやした手で、PO対策機構の兵士達は体を引きちぎられたのか。しかもあの体中の赤い宝石全てから手が出るとしたら、中々脅威だな。体内に侵入するソーメンの奴といい、どちらも接近戦は危険なタイプだ)


 シルクハットを受け止めたイカ頭怪人を見て、勇気は思う。


「ワン! ツー! スリー!」


 ペンギンマジシャンが威勢よく叫んでステッキを降ると、シルクハットが爆発した。イカ頭怪人の体が大きくのけぞって倒れる。


「解析できた。あの鮫頭のソーメン使い、体を液状化? できるみたい。溶肉液とか毒とかが体内に入っても、不純物だけ体に混ざらないようにして、排出しちゃうことも出来るみたい」


 鈴音が解析結果を口に出して報告する。普段は解析内容を直接勇気にテレパシーで送るが、味方陣営全員に報せるために、口にだして伝えた。


「で、物理ダメージはよほどの強い衝撃じゃないと無意味だよ。体が液体みたいなものだから」


 鈴音の言葉を聞き、美香は銃を下ろした。少なくとも銃撃はほぼ無意味だということはわかった。


「七号! 二号! 出番だ! 十三号と私は支援を!」

「わかりましたっ」

「はいにゃーっ」

「うへえ。さっきから出番有りまくりで活躍しまくってるのに、まだやらせる気かーい。触媒ももう残りすくないのによー」


 美香に命じられ、十三号と七号は威勢良く返答し、二号は文句を口にしていた。


「え……?」

 ふと、鈴音が美香の顔を見て、顔色を変えた。


「どうした!?」

「死相が見える……」


 美香の顔にはっきりと死相を見てとった鈴音が告げる。


 みどりも美香を見る。


(マジだ……)


 みどりも美香から濃厚な死の気配を感じ取った。その直後、みどりはその存在を確認した。

 非常に小さなソーメンミミズが美香の肩に乗っていた。空中で全部焼却しきれず、消し損なっていたものがいたのだ。


 みどりがダッシュをかけ、薙刀を振るう。その矛先は美香だ。


「何を!?」


 美香は叫びながら、みどりの突然の行動と、鈴音の発言が重ねていた。自分に死相が見えると言われた意味は、みどりが裏切って襲いかかってきたのではないかと、一瞬錯覚したのだ。

 しかし一秒経たず、その思考は改めた。みどりは必死の形相だが、自分に殺気を向けてはいないからだ。つまりは自分を助けるために何かをしようとしていると、美香はそう判断した。


「善意への支援!」


 咄嗟に運命操作術を用いる美香。誰かを無償で救おうとする者がいた際に、その救済への確率を上げる術だ。救われる対象が自分であった場合、確率的にどうなるのか疑問であったが、今の状況ではこれが一番適していると、美香はそう判断した。


「あばばばばさば、さ、せ、なぁい! 死神さぁん……あっちに行きな!」


 みどりも運命操作術を発動させながら、薙刀を振るった。


 運命操作術の重ねがけの効果もあってか、美香の体内に今まさに潜り込まんとしている麺ミミズは、薙刀の切っ先によって打ち払われ、地面に落ちる。

 落ちた麺ミミズをみどりが踏み潰す。念入りに始末しないと、かなり小さくなっても体内に入るかもしれないと見た。


 潰された麺ミミズが動かなくなったのを見て、みどりは大きく息を吐く。


「ふー……チヨ、ありがとままま……」


 みどりがすでに使えなくなっていた力だが、真の魂の奥底にいる嘘鼠の魔法使いと接触することで、前世の力を引き出す術を改良して、自身の魂の記憶領域の深い部分に潜って力を呼び覚まし、使用できるようになっていた。


「死相消えた」

 鈴音が告げる。


「何やら危ない所だったようだな! サンクス!」

「ムキムキモリモリ~マッチョおじーさん、ここでちからーだしつくすー」

「いっけーっ!」


 美香が礼を述べた直後、十三号の歌の力でパワーアップした七号が、フルパワーで攻撃する。


 炎が激しく渦巻き、火災旋風となって鮫頭怪人を包む。炎の中で鮫頭怪人は固まっていた。一瞬にして全身の体表の細胞が熱で破壊され、さらには体の芯に至るまで焼きつくされ、黒焦げになっていた。


「凄い……」

「あぶあぶあぶぶぶぶ、やるじゃん、七号ちゃん、十三号ちゃん」

「ふっ、あたしが出るまでもなかったな。褒めてつかわすっ」


 鈴音が感嘆の声を漏らし、みどりが笑いながら称賛し、二号は威丈高に言い放った。


(七号が敵ではなくてよかったと思わせられるのは、これで何度目だ!?)


 頼もしそうに七号を見る美香。シンプルな殺傷力においては、ツクナミカーズで随一の力を持つ。


 爆発で吹き飛ばされたイカ頭怪人が、身を起こす。そして鮫頭怪人が炎の旋風の中で果てている様を確認する。


 イカ頭怪人は、味方が殺されても一切動じた様子を見せずに、体中の赤い宝石から、赤く光る靄手を次々と伸ばしていった。


「頑丈だな。まあ、再生能力持ちなんだろうが」


 勇気が呟き、ペンギンマジシャンを引っ込めた刹那、フルサイズの大鬼の巨大な足がイカ頭怪人を頭から踏み潰した。


 否――踏み潰せていなかった。何十本もの赤く光る靄手の大半が上方へと……かいして、束となって、大鬼の全体重を乗せた踏みつけを受け止めていたのだ。


「やるな。しかし何発まで耐えられる? 試しみよう」


 勇気が眼鏡に手をかけてサディスティックな笑みをたたえると、大鬼が苛烈なストンピングを、イカ頭怪人めがけて叩きこむ。

 踏まれる度に、衝撃でイカ頭怪人の体が大きくブレるが、それでも体にまでは届いていない。赤い靄手で全て防ぎ切っている。


「パラダイスペイン」

「偶然の悪戯!」


 鈴音がカッターの刃で人差し指の腹を縦にゆっくりと切りつけ、力を発動させる。そのタイミングに合わせて、美香も運命操作術を使った鈴音が何をするかもわからないままで、成功率は低いが、それでもないよりはマシと考えた。


 イカ頭怪人が鬼の踏みつけを受け止めた瞬間、全ての靄手に横から衝撃が加わった。言うまでも無く、鈴音の力だ。

 靄手が大きくブレて、とうとう受けきれず、大鬼の足がイカ頭怪人を踏み潰す。


 そこからは一方的だった。うつ伏せに倒れたイカ頭怪人はなすすべなく何度も踏み潰される。再生する間もなくぺちゃんこにされる。


 その後、ぺちゃんこの状態からゆっくりと再生を始めたが――


「黒蜜蝋」


 みどりの術を食らって、全身黒蜜蝋化し、再生も止まった。


「危うげなく倒せたか」

「私は危なかった!」


 勇気の台詞を聞き、美香が叫ぶ。


「確かに、相手の攻撃を受けずにこちらが押し切ったとはいえ、こいつの殺傷力はかなりのものだったし、危険な相手だったという事はわかる。もし攻撃を食らっていたら、俺の治癒の力も間に合わずに致命傷になっていた可能性が高いからな」


 灰色怪人二人組に殺されたPO対策機構の死体を見渡し、勇気が言った。


「私、何もしなかった」

「そんな日もある!」


 申し訳なさそうに言う十一号の肩を、美香が笑顔ではたいた。

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