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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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16

 新居、李磊、シャルル、義久の四名は同じ建物に潜伏していた。そこにバイパー、ミルク、つくしが訪れる。


「何か変わったことは?」

「史愉から連絡が入った」


 バイパーが尋ねると、新居がディスプレイに目を落としたまま答える。市内の情報収集中だった。


「祭りに使う特殊な硝子人を確保したそうだ。で、内通者と遭遇して助けてもらったとさ。内通者の名は伏せてある。真が接触した内通者らしい」


 李磊が得た情報を伝える。


「俺にも名を伏せる必要があるのかと。まあいいか。許してやろう」


 新居が横柄な口調で言った。


「で、俺達は何の用で呼び出された?」

 バイパーがさらに尋ねる。


『各地でPO対策機構と転落ガーディアンの小競り合いになってるぞ。つーか、PO対策機構が発見されて、攻撃されて逃げ回る格好になってる。このままでいいのか? 何か攻勢に出る手が無いと、ジリ貧になりかねないです』


 バイパーの質問に答える前に、ミルクが訴える。


「逃げられるなら逃げるようにと、伝えてあるわ」


 新居はうるさそうに顔を上げ、つくしが持つバスケットに視線を向ける。


「お前のお仲間の史愉やチロン達が、何かやろうとしているし、そっちに賭ける。で、人員が必要だとも言っている」

「どうせ真が名乗りをあげるよー。真に任せよう」


 新居がそこまで話すと、シャルルが言った。


「真にも頼みたいが、こいつらにも働いてもらいたい。特に、声だけの誰かさんの力はあてにしたい所だな」


 バスケットを見ながら言うと、新居は傍らに置いてあった小銃を手に立ち上がった。

 新居が立ち上がるのと全く同時に、李磊とシャルルも立ち上がる。バイパーも同じタイミングで振り返る。

 あまりに同時すぎる動きに、義久だけがぎょっとしていたが、何が意味するかはわかっていた。


「敵と思われる個体、十三、いえ、十四に増加。さらに三追加して十七」

「結構いるねー」


 つくしが淡々と報告すると、シャルルが笑う。


 新居とシャルルが窓から銃を撃つ。敵の位置は大体わかっている。隠れられるポイントが限定されているからだ。建物の周囲にそういうポイントが絞られている事も、新居達は把握している。

 銃弾だけではなく、新居は小銃に取り付けられているグレネードランチャーも発射した。爆音が響く。


 こっそりと取り囲んだつもりで、仕掛ける前に、相手から攻撃されたことで、敵は浮足立つ。


『お前達はいいですよ。私に任せろ。つくし、表に出ろ』

「イエスマイマスター」


 ミルクが言うと、つくしはバスケットを持ったまま、堂々と扉の外に出た。


「おいおい……」


 スモッグを着た幼稚園児姿のつくしが、敵に囲まれている状況で単身外に出る様を見て、義久は苦笑いを浮かべる。


 立て続けに、何かが激しく打ち付けられる音が難解も響いた。


 周囲の建物――隠れられるポイントが、激しく打ち壊されていく。不可視の力を叩きつけられて、地面が大きくへこんでいる。

 敵はわけがわからないまま、悲鳴を上げる間もなく、潰されて死んでいく。


「何しているんだろ? 李磊と同じ力?」

「いや、念動力みたいだ」


 シャルルの問いに、李磊は小さくかぶりを振る。


『終わりだ』


 ミルクの声が響く。敵の気配は消えていた。


 新居達が潜伏する建物の周囲は、あちこち小さなクレーターのようにへこんでいて、隣接する建物の多くが大きくえぐられて破壊されていた。


『雑魚大勢相手にするのは得意なんでね』

「そうみてーだな。出し惜しみしてないでとっとと最前線行ってくれ」


 得意げなミルクに、新居が面白くも無さそうに告げた。


***


 美香とクローンズは、祭りを楽しんでいた。


「私達目立たない? いくら帽子と眼鏡で変装しているとは言っても、体格同じだし、揃って帽子と眼鏡だし」


 十一号が危ぶむ。


「私はお面つけているから大丈夫にゃー」

「あたしは麦わら帽子にお面だから平気だろー」


 祭りで買ったお面をつけている七号と二号が主張した。


「いつもならオリジナルが『遊びにきたわけじゃないぞ!』と怒る所ですけど、どうしました?」

「十三号……今のオリジナルの物真似怖いにゃー」

「本人そっくりだったね……」

「流石はオリジナルを最も信奉する十三号だぜ……。こりゃオリジナルに化けていてもわかんねーなー」


 十三号が怒鳴る所だけ美香そのものだったので、他の三名のクローンは慄いていた。


「少しくらい息抜きも必要だろう! どうせ今は打つ手も無い! そして現在、あちこちでPO対策機構が転烙ガーディアンに襲われていると聞く! 襲撃者を招き寄せ、返り討ちにして、少しでも戦力を削ぐのもいい!」

「じゃあ変装しなくてもいいじゃんよー」


 美香の主張を聞いて、二号が突っ込んだ。


「誘き寄せ作戦なんてしなくていいぞ」


 美香達の後方から声がかかり、美香とクローンズが一斉に振り向く。


 いたのは勇気と鈴音だった。


「祭りを楽しむのはいいとして、無理に戦闘なんてしなくていい」

「オリジナルもそうだけど、祭りを楽しむのがいいという考えがわかんない。私達抗争の真っただ中なのよ?」


 勇気の台詞を聞いて、十一号が非常に真っ当な発言を口にする。


「それくらいの余裕は王者として備えておくべきものだからだ。どこでも俺は俺だ。だから祭りを楽しむのはいい。お前も俺と似たような性質だろう」

「うむ! その通り! 話がわかるな!」

「ようするに慎重さに欠けてるってことじゃない……」


 勇気の台詞を聞いて、美香は気をよくして微笑み、十一号は呆れて突っ込む。


「勇気、みどりちゃんがいるよ」


 鈴音が勇気の袖を引っ張って言う。勇気も美香達も、鈴音の指した方を見る。


「おーい! みどり!」

 美香が大声をあげて手を振る。


「美香姉……今PO対策機構は、転烙ガーディアンに追われている身なんだよね? 目立つことしていいのぉ~?」

「勇気達もいるし、みどりもいるのだ! 戦力的に構わん!」


 みどりが苦笑しながら問うと、美香は胸を張って言い切った。


「もや……かいわ……みどりか。何をしている?」

 勇気が問う。


「またもやしとかかわれ大根って言おうとしたべー? あたしは遊軍だし、単独調査だよォ~」

「何かわかったことは?」

「ふぇ~、今は特に……」

「ふぇぇぇ~んっ、ダズゲデグダヂャーイッ!」


 みどりが肩をすくめた直後、身も世も無い悲鳴があがった。


「行くぞ!」

「行くにゃっ!」

「行くぞ、鈴音」

「うん」


 美香と七号が叫び、勇気もそれに応じるように鈴音に声をかけ、四人で悲鳴が上がった方へと駆け出す。


「あーあ、面倒事は関わらない方がいいのに~」

「あばばばば、面倒事に首突っ込まない美香姉とか、どこの世界の美香姉だよォ~」


 二号がぶーたれ、みどりが笑いながら、十三号と十一号は無言で、それぞれ後を追う。


 祭り会場の外れに人垣が出来ていた。


 人垣をかき分けた先には、凄惨な光景が広がっていた。何人もの男女が無残な死体となって転がっている。

 死体はいずれも特徴的な殺され方をしていた。目出した肌の部分を見るに、全身に非常に小さな穴があけられて殺された者と、体のあちこちをひきちぎられて肉片を散乱させて死んだ者がいる。


 大量の死体を挟む格好で、全身灰色の肌のヒューマノイド二人と、恐怖に引きつった表情の三人が対峙している。


「あいつら、PO対策機構の者だな。見覚えがある」


 三人の方を見て勇気が言った。


 灰色の肌のヒューマノイドは、肌の色以外は双方デザインが異なった。一人は体のあちこちに赤い宝石のようなものが、規則的に埋め込まれていて、背が高い。頭部はイカを思わせる形状をしているが、顔には目も鼻も口も確認できない。赤い宝石があるだけだ。

 もう一人は中肉中背で、頭部は鮫を思わせる形状になっていた。大きく突き出した口が有り、鋭い牙を大量に覗かせている。しかし目は見当たらない。両腕の前腕からは大量の細い麺のような触手が生え、地面まで垂れていた。


 それは輝明達が交戦した灰色の怪人と瓜二つであったが、勇気や美香達が知る由も無かった。

 鮫男の方が、三人に向かって腕を突き出す。腕から生えた麺状の触手が一斉に伸び、三人のいる方に向かって伸びていく。


「やらせんにゃーっ!」


 七号が叫ぶと、アスファルトが砕け散って、大量の礫が噴き上がり、麺触手に直撃した。麺触手の多くは上方に吹き飛ばされ、何本もちぎれ飛ぶ。


 灰色ヒューマイノドが二人揃って、美香や勇気達の方を向く。


「おい、あいつは葛鬼勇気じゃないか?」

「ていうことはPO対策機構の援軍か?」

「あそこにいるの……変装しているけど、ツクナミカーズじゃないの?」

「転烙市の敵だぞ。やっちまうか?」


 ギャラリーが勇気と美香達の方を見て囁き合う。


「これさ、モブも敵に回りそう?」


 二号が野次馬の反応を見て不安がる。この中には能力者も多そうであるし、それらが敵に回ったことを考えると脅威だ。


「手出しをするのは自由だが、反逆罪で死刑にしてやるからそのつもりでいろよ」


 勇気が宣言すると、大鬼をフルサイズで出現させる。そこらのビルより背の高い鬼が現れたので、野次馬達はあっさりと畏縮する。


「お前達! 逃げてもいいぞ!」


 美香がPO対策機構の三名に向かって叫ぶ。


「助かったけど……助けてもらって自分達だけ逃げるってわけには……」

「邪魔だ。消えておけ。どうせ役立たずの足手まといだ」


 PO対策機構の一人が留まって一緒に戦う旨を伝えようとしたが、勇気がすげなく言い放った。


 三人は申し訳さそうに逃げていく。灰色ヒューマイノド二人はその三人に最早目をくれず、勇気と美香達を脅威と認識し、そちらに集中していた。


「ヘーイ、皆気をつけれ。こいつらかなり強いぜィ」


 みどりが警告を発したその瞬間、イカ男の全身の赤い宝石が光を帯びた。


***


「ムッフッフッ、また勇気君か。彼とはとことん縁が有るようだね」


 ホログラフィー・ディスプレイの中で、イカ頭と鮫頭の灰色怪人と対峙する勇気を見て、ミスター・マンジはにたにたと笑っていた。


「うわあ、強者が揃っちゃっているね。みどりちゃんもいるし。ツクナミカーズもいる。これはいくらバージョン2が二体でも、難しいんじゃない?」


 ネコミミー博士が、ミスター・マンジの横からディスプレイを覗きながら言う。


「勝てる気はしないね。しかしチミ、データさえ取れれば構わんだろう。そしてデータを取るにはうってつけの相手だよ。むっふっふっふっ」

「データを取る事もままならないまま瞬殺されちゃう可能性も、無きにしも非ずだけどね。作った四体の中で個体差が凄いし、この二体は期待できそうにない」

「ムフフフ、あの二体はそこまで弱くないよ、チミ。再生能力も備えているのだから。そして殺傷力が極めて高い。そう、殺戮のために生まれてきたような命だよ」

「でも勇気君達に勝てるとは思えないよ。四体のバージョン2のうち、二体はこれでお釈迦だね。せっかく作ったのになあ」


 ミスター・マンジは笑いながら興味津々に見物しているが、ネコミミー博士は浮かない顔だった。ネコミミー博士は自分が手掛けた実験体を大事にする。しかしあくまで実験体としての範疇で、あまり情を持つようなこともない。


 ネコミミー博士とミスター・マンジは、大石常雄からデータを取得し、さらに改良した、陰体をベースにした強化版灰色怪人を新たに四体作り、PO対策機構討伐へと差し向けたのであった。


「せめて四本角だったらいい勝負できただろうに」


 そう言ってネコミミー博士が、ホログラフィー・ディスプレイをもう一つ開く。そこに映し出されていたのは、四本の角を生やしたトカゲのような顔の灰色怪人だ。この灰色怪人が、作った四体の中で、群を抜いて素晴らしい出来であった。

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