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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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9

「またお前等か」


 車道を渡って真達に接近した所で、勤一がうんざりした顔になる。


「関わるのが嫌なら無視してくれてもよかったのに」

「さっきあんなことをしなければ、それでもよかったかもね」


 ツグミが煽り気味に言うと、凡美が冷淡な口調で言い返した。


「おい、何か対決ムードだぞ」

「転烙ガーディアンとPO対策機構バトルじゃない? さっきの市庁舎前での争いにいた子がいる」

「あの頭二つの子は、硝子山市長と戦った子だよ」


 向かい合う真達五人と勤一達四人の姿を見て、通行人達が足を止めてざわつく。


「危険な状況。正体ばれまくってる」

「転烙市の住人はもう完全にPO対策機構を敵視済み。そして多くが能力者」


 伽耶と麻耶が言った直後、熱次郎がある事に気が付いた。


「というか伽耶と麻耶は正体隠していたんじゃないの?」


 熱次郎が尋ねる。二人は目立つので、魔術で認識されないようにしているという話だった。


「持続力長い術である代わりに、ふとした弾みで解ける」

「私達以外が認識されたから解けた」

「なるほど……」


 姉妹の答えに納得する熱次郎。


「その術はやっぱり全員にかけておくべきだったな」

『それは疲れる』


 真の台詞を聞いて、姉妹は口を揃えて拒絶気味に告げた。


「さっきは随分と身を張ったギャグしてくれたな。お上の手先の分際で、市民を盾にしたあげく逃亡とは、大した珍事だった。でもマイナス13だ」


 蟻広が嫌味たっぷりに吐き捨てる。


(これは不味い。凄く危険だ。逃げた方がいい)


 周囲を見渡し、真は即座にその結論に至る。


(こいつらだけでも手強い。いや――木島柚が危険だ。みどりがいない限り、こいつと相対するとなると、犠牲が出かねない。だが何よりヤバいのは、この通行人達だ)


 足を止めた転烙市民達。彼等は決してPO対策機構の味方ではない。PO対策機構が市民を盾にして殺した事も知れ渡っている。そして彼等の中には、能力者も多く含まれていると思われる。それらが全て襲ってきたら、全滅しかねない。


「頑張れよーっ。転烙ガーディアンっ」

「PO対策機構みたいな外道に負けないで!」

「市民を盾にして殺すような奴等を許すなーっ!」

「いざとなったら俺達も戦うぞ!」


 通行人達が次々と声をあげる。


「完全に悪役」

 伽耶が溜息をつく。


「いや、まだよ。まだ……」

「何がまだ?」


 麻耶の台詞を訝る伽耶。


「ブーイングが心地好く感じられて自然と笑えるくらいになったら、その時こそヒールとして完成」

「麻耶一人で勝手に完成してて。私は嫌だから」


 麻耶の言葉を聞いて、伽耶は再度溜息をついた。


「ここで無駄な戦闘はせずに逃げた方がいいな。さっきも戦闘してからそんなに時間が経っていない。消耗は避けよう」


 真が方針を口にした。


「承知」「せんそーはんたーい」

「簡単に逃がしてくれるとは思えないけどね」

「了解……でも本当の理由は、周りの奴等が危険だからだろ」


 伽耶、麻耶が応じ、ツグミが微苦笑を零し、熱次郎が図星をつく。


「皆の足速くなれー」「体軽くなれー」


 伽耶と麻耶が呪文をかけた直後、五人は高速で走りだした。


「逃がすか」

 勤一が変身し、走って追いかけようとする。


「ま、この状況で戦うのは都合が悪いだろうな。プラス2。それなら無理にでも戦わせてやろう」


 蟻広はその場を動かず、妖魔銃を撃った。狙いは逃げる五人の前方だ。


 五人の足が止まった。行く手に、臓物と骨が混じり合った壁が出現し、行く手を遮ったのだ。しかも壁からは湾曲して大きな牙のような物が何本も生え、蠢いている。近付けば攻撃してくる可能性もある。


「手っ取り早く転移して逃げよう。俺は真を受け持つから、伽耶と麻耶はツグミを」

「らじゃっ」「あいあいさー」

「すっかり失念していたがその手があったな」


 真に指示され、伽耶、麻耶、熱次郎が転移の力を発動させようとした。


「あれ?」

「しかし何も起こらなかった」


 伽耶と麻耶が揃って首を傾げる。


「駄目だ……空間を固定されて、操作出来なくされて。あいつに……。こっちの力も封じるくらいの圧倒的な干渉力だ」


 熱次郎が呻き、柚を指す。柚は得意げににんまりと笑っている。


「止まったぞ」

「やっちまえっ!」

「おーともよーっ」


 ギャラリーの中の能力持ちが手出しをしてくる。真達は回避し、あるいは能力で防ぐ。


「ありがたいけど加勢はしないで! 危険よ!」

「攻撃すればそっちも攻撃される! 手出しはするな!」


 凡美と勤一が叫ぶ。


「わ、わかった……」

「ううう……危険だからと言われて、危険なことを任す流れとか。俺も転烙ガーディアンに入ろうかな……」

「せめて応援だけでもしないと。ガンバレー」


 勤一と凡美の声に応じる形で、側にいた市民達は攻撃の手を止めた。


「あっちは完全にヒーローだね。転烙市を一歩でも出れば、お尋ね者のサイキック・オフェンダーなのに」


 ツグミが言う。


「周囲の奴等が手出ししないのなら、まだマシじゃないか? 戦ってもよくないか?」

「それは無い。多分勇ましい奴がいて、向こうが不利になったら手出しもしてくる。つまり状況は変わらない」


 熱次郎が言うが、真は否定的だ。


「しかし逃げてばかりってのも無理があるぞ。いや、逃げ切れると思えない」


 熱次郎が柚を見た。特にあの少女が計り知れない力を有していると、はっきりとわかる。


「じゃあ……伽耶、麻耶。ギャラリー含めて全員眠らせろ」

『この数はキツい』


 真が命じるが、伽耶と麻耶は同時にかぶりを振った。


「数で問題あるのか? 例えば眠りガスを発生させて操作するとか、それでも数が多いと消耗が激しいか?」


 真が提案して伺う。


「あ、それならいける」

「その手が有った。流石は真。冴えてる」

「大気よ、我等に敵意を向ける者達の魂を安息の世界へと誘え」「ねんねんころりんガス爆発バス獏バグ」


 伽耶と麻耶が呪文を唱えると、一般人達が次つきと倒れていく。勤一と凡美もあっさりと目を閉じ、崩れ落ちていった。


「何だ……これ……堪えきれない……」


 蟻広はある程度抵抗できたようだが、堪えられたのは三秒か四秒程度だった。


「おやおや。これは中々凄いぞ。これだけの人数を一斉に眠らせるなんて」


 柚には効いていない。目を丸くして感心している。


「やっぱりあの子には効かないか」


 ツグミが言う。柚が寝ないことは予想していた。ツグミはかつて柚と交戦し、必殺技とも言える絵を現実に被せる能力を用いたが、あっさりと柚に破られている。


「全員に直接術をかけたわけではない」

「それは難しいとわかったから、眠りをかける媒体を作った」


 伽耶と麻耶が答える。


「今のうちに逃げるとしよう」

 真が促したが――


「喝!」


 柚が大声で叫ぶと、柚の首から下げている鏡が一強い光を放った。

 眠りに落ちていた者達全員、一斉に飛び起きる。柚の気合い一つで、全員が無理矢理一気に覚醒させられた。


「凄い……あっさり破られちゃった」

「何でもありなの? って、私がおまいう」

「噂には聞いていたが、飛び抜けてるな……」


 柚の力を目の当たりにして、愕然とする伽耶、麻耶、熱次郎。


「いいから逃げるぞ。今はまだ隙が出来ている」

 真が改めて促し、先に走り出した。

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