表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
3286/3386

8

 蟻広、柚、勤一、凡美の四人は、転烙市外れの歓楽街の祭り会場を警護していた。ここにはPO対策機構は現れていない。


「小規模だけど、普通の祭りっぽいわね」

「いつの場所、いつの時代も祭りの雰囲気は変わりない。御久麗の森の祭りも好きだったよ」


 祭りの様子を見て、凡美と柚が感想を述べた。小さな歓楽街故に、祭りの規模も大きいものでは無いし、人の集まりもそこそこ程度だ。


「祭りの意味がよくわからないな。怪しい噂は流れてきているけど」


 勤一が柚と蟻広の方を見て伺う。転烙ガーディアンと言っても、勤一や凡美のような兵隊には全容を知らされていない。しかし蟻広と柚は、自分達よりずっと純子に近い位置にいるので、何か知っていそうだと踏んだ。


「現時点ではただの祭りだが、純子の目的を達成するための重要な催しが、そのうち行われるそうだ。祭りに参加する者から力を抽出するらしいわ」

「おいおい……」


 あっさり答える柚に、蟻広が顔色を変える。


「こいつらの前でそれを言って……も別にいいか。体的には何なのか、俺達も知らないし。それにその辺のことは、PO対策機構も見抜いているからこそ、祭りの阻止に躍起なんだからな」

「怪しい噂は本当だったってことか」


 蟻広の話を聞いて、勤一は言った。


 欲望のエネルギーを力に変えるだの、命を吸い取られるだのといった話くらいしか、蟻広も知らない。それは区車亀三が明かした事で、PO対策機構の間でも、転烙ガーディアンの間でも、確証の無い噂として知れ渡っている。一部の硝子人にそうした力が有るという話も。


「歩き通しだし、PO対策機構も現れないみたいだし、ちょっと休みましょ」

「賛成」


 凡美に促され、柚が同意し、蟻広以外の三人がベンチに座る。凡美と勤一で同じベンチに座り、柚は少し離れた隣のベンチに座った。


「座らないの?」

 柚が蟻広を見て怪訝な顔になる。


「いや……その……」

 嫌そうな顔で躊躇いる蟻広。


「まさか私の隣に座るのが抵抗ある? 照れてるのか?」

「違う。その質問マイナス1な。ベンチにいい思い出が無いんだよ」


 にやにや笑う柚に、蟻広は言いづらそうに答える。


「ベンチで寝てたからか?」

「ん……!?」


 勤一に指摘され、驚く蟻広。


「よくわかるな。まさか、お前も?」

「ああ。家出してきたばかりの頃にな」


 蟻広に問われ、勤一は一瞬ニヒルな笑みを浮かべて頷いた。


「こっちも同じだ」


 蟻広が息を吐き、観念したかのような顔になって、柚の隣に座った。


「あの人だかりは何?」

 長蛇の列を見て、誰とはなしに尋ねる柚。


「あれは今日発売される予定だった目玉商品の販売ね。宣伝されていたの、見てなかった?」


 凡美が答えた。


「ゲームの宿屋とかクローン販売とか言ってたあれだな。クローン販売は無くなったそうだが」

「完全に無くなったわけではないぞ。制限をかけただけだ」


 柚が言うと、蟻広が訂正した。


「同じ人間を作って売り出すなど、私はおぞましいと思っていた。人はそこまでの技を身に着けてしまったのね」

「私もよ。同じように感じている人は多いと思う」


 柚がぞっとしない顔つきで言うと、凡美も同意を示す。


 凡美がホログラフィー・ディスプレイを広げる。現在の祭りの様子と、転烙ガーディアンの状況をチェックする。


「市内の各地の繁華街で騒ぎが起こっているみたい。PO対策機構が祭りの邪魔をしてきて、転落ガーディアンと戦闘にもなっているわ」

「ここも俺達がパトロール中なわけだが……全ての祭り会場を襲撃しているわけではないのか」


 凡美の話を聞いて、勤一が牧歌的な祭りの様子を眺めながら言った。


(俺らしくもなく、こんなのどかな雰囲気が続いて欲しいとか、そんなこと思っちまってる)


 世界を憎んでいたはずなのに、今のこの時間に限っては、その気持ちが全く湧かない勤一であった。


***


 真、伽耶と麻耶、熱次郎、ツグミの五人は、転烙市外れの歓楽街を歩いていた。すぐ近くで祭りも行われている。


「真、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないように見えるか?」


 熱次郎が心配そうに声をかけると、真は暗いトーンの声で返す。


「いつもの真じゃない。はっきり落ち込んでる」「凄く大丈夫じゃなく見える」

「さっきのはショックだったね。作戦発案者の相沢先輩じゃなくても、皆ショックだよ」


 麻耶、伽耶、ツグミが言った。


「一緒に手を汚したわけだからな」


 ツグミの言葉に対し、熱次郎が皮肉げな声を発した。


「前提として、奴等は市民に手出しはしてこないと思い込んでいた。今や言い訳にしかならないが。日本ではそれはないと、たかをくくっていた」


 傭兵時代を思い出す真。敵ゲリラが市民を人質にとる格好で市街地に潜伏しようと、新居は容赦なくミサイルを撃ち込み、市民も大量に巻き添えにしていた。真も同じことをしたというのに、今はあの時の戦場の感覚が薄れてしまった。


「転落市内でのみ閲覧可能なネット掲示板やSNS見てみたら、あっという間に拡散しているぞ。PO対策機構の評判が酷いことになってる」


 熱次郎がネットを閲覧し、渋面で報告する。他の四人も足を止め、ホログラフィー・ディスプレイを投影して情報をチェックする。


「市内限定だけど拡散」「PO対策機構だけ悪者扱い」


 転烙市内限定の情報サイトを見て、伽耶と麻耶も揃って顔をしかめる。


「真実だけでなく、噂に尾びれがつきまくって、あることないこと書かれまくっているね」


 気落ちした顔つきでツグミ。


「人質に取ったのは僕達だけど、僕達だけを一方的に悪者扱いは納得いかないな。実際に市民を殺したのはあいつらなのにさ」


 真が言う。少し平静を取り戻した。


「ここの市民は多くが、転落市の支配者側の心情なんだ。それも仕方がない。俺達の正体が割れれば、街中をのんびり歩いてもいられなくなるかもな」


 熱次郎が言い、ディスプレイを消す。


「この事件で祭りの客足が止まるかと思ったら、そうでもないみたいだしね。逆に盛り上がってる。転烙ガーディアンでなくても、祭りに参加して、僕達と戦うと息巻いているよ」


 市民の反応をチェックして、ツグミが言った。転烙市民の能力者率は高い。転烙ガーディアンに所属していない能力者も大量にいる。


「で、僕達は祭りの妨害しないの? そういう指示が新居さんから出ているんでしょ」

「僕は――今は積極的にやる気になれない。転烙市全体の盛り上がり方を見ると、祭りの参加者の足を止めることは出来ないと思う」


 ツグミに問われ、真が答えた。


「ちょっと電話する」

 真が断りを入れて、電話をかけた。


「さっきどうも」

『どうもじゃないでしょ。何てことしたのよ……』


 怒りに満ちた声が返ってくる。


「僕達の仕業じゃない。そっちがやったことだ」

『あんた達が市民を盾にしたことがそもそもの元凶よ』

「あんなことになるとは思っていなかった。あいつがあそこであんな真似をするとは、そっちだって思っていなかったことだろう」


 釈明しつつも言い返す真。


『あの子は何なの?』

「僕の口からではなく、雪岡に直接聞いた方がいい。雪岡に与する事になったのも、つい最近――いや、一日も経っていない」

『で……何の用?』


 怒りと呆れが混じった声で、相手が尋ねる。


「僕に協力してくれると言ってたよな? 今こそ協力して欲しい」

『正直、お断りしたい気分なんだけど……』

「話だけでも聞いてほしいな」

『念押ししておくけど、内容によるからね。私は明確に純子を裏切ることはしないし』

『協力した時点で何にしても裏切りちゃウん?』


 電話の向こうから別の声が響いた。


「頼みたいことは二つある。難しいことでもない」


 そう前置きを置いてから、真は頼みを口にした。


『難しいことでもない? 後者は難しい気がするけど……ま、やってみる』


 電話は切られた。


「今のって、ひょっとして真の言っていた内通者か?」

「違う。渦畑陽菜だ。内通者にするつもりもないし」


 熱次郎の言葉を否定し、電話相手の名を出す真。


「陽菜さんと通じていたの?」

「だから内通者とは違う。以前僕に協力してくれるという話もしていたんだ」


 驚くツグミに、真が答えた。


「さっきの失敗は、デビルだけのせいじゃない。あいつらオキアミの反逆が大挙して加勢にきたおかげで、差がついた」

「こっちも援軍送られているのにね」

「敵に比べてこっちの援軍少ない」


 伽耶と麻耶がトホホ顔で言った。


(少なくした事には理由がある)


 姉妹の言葉を聞いて、口の中で付け加える真。


 その時、新居から電話がかかってきた。


『よう、しょげているんじゃねーかと思って、慰めに電話してやったぞ。感謝しろ』

「切るぞ」

『まあ聞けよ。お前のあの作戦な、何も悪くない。いい作戦だったぞ』


 新居が明るい声で告げる。


『デビルが現れなければ、上手くいってた可能性大だ。あれでいいんだよ。俺達が生き残るため、勝利するために、最善の手を常に選び続けろ。どんな汚い手でいい。その二つが重要なんだ』


 新居の言葉を聞き、真の心が一気に冷える。心が凍り付き、強く固まった気がして、迷いも罪悪感も消え去った。


『巻き添えにして死なせちまった連中には、心の中で謝っておけ。許してはもらえないだろうけどな。謝って自己満足でいいだろ』


 しかし次に言われた言葉を聞き、また心が揺らぐ。


『これからも遠慮なく、容赦なく、勝つための合理的な手段を考えてくれ。頼むぜ』


 新居の笑い声を聞いて、真は無言で電話を切った。


「真先輩、あれ」


 ツグミが向かいの歩道を指して、緊張気味の声をかける。


 真達がツグミの指した方を見ると、見覚えがある者達の姿があった。


「ちょっと……あれ」


 真達と車道を挟んだ向かいの歩道にいた凡美も、真達の存在に気付いて指差した。


「あいつらか。ポイントマイナス2」


 蟻広が忌々しげに吐き捨て、噛んでいたガムも吐き捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ