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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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7

 転烙市各地で発生した転落ガーディアンとの戦闘が、一斉に終結した。スノーフレーク・ソサエティーとPO対策機構の追加援軍に対し、陽動中止のメッセージが送られたからだ。

 スノーフレーク・ソサエティーは、ほぼ一方的に転烙ガーディアンを蹂躙していたにも関わらず、途中で撤退しだしたので、戦っていた転烙ガーディアンは呆然としながら退くスノーフレーク・ソサエティーを見送り、その後安堵した。


「あのね、そのね、突然の撤退理由、わかったよ」


 メールで状況を伝えられた政馬が、仲間達に呼びかける。


「一般人を大量に人質にとったのか。やるじゃねーか」

「そのあげく人質殺され、敗走してりゃ世話ねーよ」


 内容を聞いて、カシムとジュデッカは笑っていた。


「こりゃ最悪の事態になっちまったなー」

「人質作戦なんてアホなこと実行するからここうなるんよ……」


 雅紀と季里江が呆れ顔で言う。


「勇気の奴は止めなかったのか?」

 ジュデッカが尋ねる。


「あのね、えっとね、勇気も嫌だったらしいけど、新居と真が自信満々に押してきて、押し切られちゃったらしいんだ。勇気も凄く御機嫌斜めだね」


 勇気にも直接メールを送って尋ねた政馬が答える。


「誰も止めないっていうのが何というか……悪い意味で日本人らしさだよなあ。俺、この国の奴の気質がだんだんわかってきちまったわ」


 カシムが微妙な顔になって言った。


「他人事みたいに言ってるけど、お前も同類だぜ。俺もな」


 ジュデッカが指摘する。


「PO対策機構が声明出してるじゃん」


 季里江が報告し、ホログラフィー・ディスプレイを投影した。

 外には情報を発信できないため、転烙市内だけで情報発信できるサイトを利用している。PO対策機構は、あくまで市民を避難させようとしていただけで、人質にとったわけではないと主張している。しかし転落ガーディアンは、人質を狙って攻撃してきたと。


「無茶苦茶というか無理ありすぎな主張だろ」

 思わず笑ってしまうジュデッカ。


「転烙市側も声明出してるぜ」


 今度は雅紀がホログラフィー・ディスプレイを映す。

 転烙市側はPO対策機構が市民を人質に取って、そのうえで抗争を始めたと非難。こちらはそのまま真実である。


「私の目にはPO対策機構の方が悪者に見えるじゃん」

「俺もだよ」

「同感」


 季里江の言葉に、雅紀と政馬が頷いた。


***


 デビルは映像記憶生物のアクルを頭に乗せ、暇を潰していた。

 今デビルがいる場所は、クローン製造工場だ。フォルクハルト・ワグナー教授に興味を抱かれたデビルは、彼の誘いに乗る形で、研究の手伝いをすることになった。


「君の体組織を研究し、私の研究に利用させて頂く代わりに、君の力をより強固なものにしましょう。出来るはずです」


 ワグナーにそう言われ、研究に付き合う代償として、みどりによって不死性を失った身であるデビルは、今の体でも出来るだけ死なずに済ませるための改造を受けている。

 正直、ワグナーに付き合うことはあまり面白くなかった。ワグナーに時折検査されるものの、何も無い退屈な時間が多すぎる。検査そのものにも時間がかかり、しかもそれを何度も繰り返すからだ。


「分裂能力はもう試したのでしょう? 以前より楽になっているはずですが、実感はありますか?」

「明らかに軽い。消耗が抑えられている」


 ワグナーに話しかけられ、デビルは正直に答えた。


「私のこれまでのクローン作りのノウハウを、君の分裂能力に結び付けてみましたが、上手くいったようで何より。そしてデビルのこの分裂能力、まだまだ改良の余地がありますよ。より力強くする事が可能と思われます」

「よろしく」


 穏やかだがどことなく熱のこもった口調で訴えるワグナーに、デビルは素っ気ない。

 しかし表面上の態度とは裏腹に、デビルはより大きな力を欲しいと思っていた。今後の戦いのために、少しでも多くの敵を地獄に突き落としてやるために、力は確かに要る。


***


 市庁舎に強行突入を試みて失敗し、敗走したPO対策機構。現在は各地に分散して潜伏している。


「人質を避難誘導って事にしたのか」


 転烙市限定サイトにあげられた声明を見て、義久は心底呆れた。義久は作戦に参加していない。


「最低の手段やって失敗して、あげく恥の上塗りかよ」

「マジで俺等最低だね」

「私は気が進まなかったんですよー。はーあ……」

「最低の三流小悪党に成り下がった気分~」


 バイパーと卓磨と怜奈と二号がぼやく。


 内部でも非難の声はあがりまくっている。しかし真も新居も痛痒に感じない。


「でも結局お前等は従ったただろ。ていうかさ、お前達もわかってたからこそ従ったんだろ? 市民を盾にする手が極めて有効だと、最も合理的だと、直感的にわかっていたから実行したんだろ?」


 新居が冷たい眼差しでPO対策機構の面々を見渡し、言い放つ。


「こいつは命懸けの戦争だ。勝つためには、自分が死なないためには、綺麗事は抜きにして、最善手と思われる手を選ぶ必要がある。それだけの話だ。不服があるなら辞めればいい。綺麗事をほざいて手段を選ぶのは、身の危険が伴わないスポーツでやればいい。命がかかった戦いでおためごかしをぬかして、善意と心中したい奴は、澤村みたいに抜けてくれ。俺はそんな奴等と心中したくはねーし、そんな展開になるのは許せねーんだよ」


 新居は静かに語るが、その言葉は冷たくも力強く、その場にいる面々に突き刺さる。


「最低になろうと何だろうと、勝たなくちゃ意味が無い。手段を選んで負けていたら世話が無い」


 新居に同意を示したのは来夢だった。


「ま、結果論を言うなら、結局盾にした市民は殺されてしまい、うちらは最低の手段を用いたあげく、無関係者を死なせてうえに、敗走しただけという、最低の結果だけどな。問題はこれからどうするかだ」


 李磊がシニカルな口調で言い、新居を見る。


「うん。今の所打つ手は思いつかない」

 新居は腕組みして、苦笑いと共にあっさりと言う。


「ケッ、やっぱりドン底に堕ちたままじゃねーか」

「後ろ向きなことばかり言う奴は、やめてもいいぞ。今から転烙市の方に鞍替えしろよ」


 輝明が毒づくと、新居は意地悪い口調で告げた。


「前向きに考えるとして、次の手はどうするんだ!」

 美香が苛立ちのこもった声で叫ぶ。


「俺達が暴れ、市民に犠牲も出た事で、祭りの客足が遠のくことに期待したいな。そしてこのままゲリラ的に、あちこちで暴れ回る。祭りは十一ヵ所で行われているから、各地を狙う」


 即興で考えたプランを口にする新居。


「襲撃され、殺される可能性もあるという情報を、前もってインプット出来たしな」

「ニーニー、またケチつけて悪いけど、そんなんでいいの?」


 修が不安げに伺う。


「祭りにどういう意味があるのか、この先、敵さんが何をするつもりなのか、詳しくわかっていないんだ。こっちとしてもこれ以上はいい手が浮かばねーよ。ま、そのうち嫌でもわかるだろうが」


 そう言って新居は大きく息を吐いた。発言はしなくても、その言い分には同意する者が多い。


「祭り参加者の命を吸い取るなんてヤベー話を聞いたぞ。転烙市のテクノロジーを使った奴は、内臓に刻印が記されて、そんでもって祭りの際に、刻印ある奴の命を吸い取られるっていう噂をよ」


 アドニスが口を開く。


「お前さんは後発組だったから知らんだろうが、その話はこちら陣営の中ではもう出回ってる」

「そうなのか……」


 オンドレイに言われ、アドニスは納得する。


「転烙市民を生贄にするような計画だよね。酷い話。頭にきちゃう。ぷんぷんだよ」

「でも純子がそこまで酷いことするかな?」


 正美が頬を膨らまし、熱次郎は懐疑的な発言をして真を見やる。


「する」

 真はきっぱりと言い切った。


「だから絶対に止めたい」

「僕には信じられないし、しない方に賭けるよ。いや、少なくとも命を奪うことまではしないと信じる」


 ツグミが異を唱える。


「俺もそっちかなあ……。純子はそこまでひでーことしない……。命を吸い取っても、死ぬまで吸い取らない……と信じてえよ」


 ツグミを見て、輝明が自信無さげに言った。


「で、結局の所、有効な手は思い浮かばず様子見ってことか」


 勇気が大きく息を吐いて確認する。


「話は変わるけど、市庁舎の上にあった謎の黒玉、気付いた人いる?」


 シャルルが一同を見渡して伺う。


「見た」

「空間の歪みを感じたぞ。でも正体はわからない」


 真と熱次郎が言った。


「純子は色々と手を打ってそうだし、その一つかねえ。ケッ、そういうのも含めて、こっちは後手ばかり。この戦い、勝ち目薄いよなー」


 輝明が嫌味っぽく言う。


「輝坊、お前もう本当帰っていいぞ?」

「そういう発言は抑えろよ。皆して頑張っているのに……」

「全くだ。士気を下げる発言ばかりして楽しいのか、このピアスチビは」

「だよね。ネガ発言して場を盛り下げる人は要らないと思う。有害じゃない? 有害だよね? 私は有害だと思います」

『かーえーれっ。かーえーれっ』


 新居、鋭一、勇気、正美が一斉に輝明を非難し、伽耶、麻耶、二号、ミルクが帰れコールを送り始める。


「ケッ、内ゲバかよ。やっぱり駄目だこのしゅうだ……むぐぐぐ」

「もう黙ってテル」


 なおも悪態を突こうとした輝明の口を、ふくが強引に抑えた。


***


 ホログラフィー・ディスプレイに、市庁舎の上空にある黒い球体が映し出されている。


「悶仁郎さん、ありがとさままま、転送装置も完璧だねー」

「あれこれ仕事させおって。難儀したわい」


 椅子に座った純子が礼を述べると、純子の後方に立つ悶仁郎が、ディスプレイを覗き込んで微笑んだ。


「それより、先程の騒動は酷かったのう。民草を盾にして殺めるとは。いや、殺めたのはでびるなる者とも聞いたが」

「そうだけど、PO対策機構の仕業ってことにしておいたよー」


 悶仁郎が話題を振ると、純子はにっこり笑って告げた。


「結果的に言うと、デビルのおかげで助かったねー。汚れ役を引き受けたおかけで、膠着状態にならなくて済んだ。あれは私には出来ない決断だったよ」

「汚れ役を担ってもらってそれで満足か。其処許も大概よの」


 純子の台詞を聞いて、悶仁郎は息を吐いた。

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