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史愉、男治、チロンのグリムペニストップ三人組は、転烙市中心繁華街に集まったPO対策機構の面々の中にはいなかった。別行動をするようにと、指示を受けていた。
「人質作戦に移ったようじゃぞ」
ホログラフィー・ディスプレイで市庁舎の様子をチェックしていたチロンが報告すると、史愉と男治がチロンのディスプレイを覗き込んで確認した。
「ぐぴゅう……祭りが始まる前に、集団で市民を人質取りまくって、そのまま市庁舎ビルに攻め入り、純子を討伐する作戦とか、あたしは成功する気が全くしないんだぞー」
「たは~。大雑把すぎますよねえ。誰が考えたんでしょ、これ」
気乗りしない顔でぼやく史愉と男治。
「きっと新居の奴に違いないッス。ま、他にいい案出さずに付き合っているあたしらもどうかと思うッスけど」
史愉の推測は外れていた。
「この作戦は、二段構えになっておるからのー。例え失敗しても、次に繋げられる」
と、チロン。
「お祭りの妨害者が暴れているということで、お祭りへの恐怖を植え付け、人々が祭りに参加しないようにする作戦ですかあ。上手くいくと思えませんよ~。今日に至るまでも、PO対策機構やヨブの報酬が散々妨害した事は、転烙市民も知っていますし、それでもなお、お祭りに参加したがっている人ばかりなんですよ~?」
「しかし実際に市民に矛先を向けてきたとあれば、受け止め方は違ってくるじゃろ。純子達の目的は、祭りで人を呼ぶことによって達成するようじゃし、その妨害となる」
「ぐぴゅー、せめてもっと人手があれば、祭りの妨害する手段も色々考えられるけどねー」
現在、男治、チロン、史愉三人は市庁舎の中にいる。内通者の手引きもあって、上手く中に入る事が出来た。
「ちょっと~……この数は尋常ではないですよ~」
ホログラフィー・ディスプレイに映る市庁舎前の映像が切り替わり、転烙ガーディアンの姿が映し出されて、その数を見てうんざりした顔になる男治。
「ぐ、ぐぴゅう。転烙ガーディアンの方……どんどん増えてるぞ」
映像の中の転烙ガーディアン陣営を見て、史愉が指摘する。
確かに転烙ガーディアン側は、市庁舎の中からも、あるいは外側からも、人数が追加して膨れ上がっていた。
「転烙ガーディアンってこんなにいたの? 転烙市各地に派遣されているって聞いたし、政馬達も実際今そいつらの相手してるのに……」
「これは作戦が全て読まれていたのではないか? いや……そうでないにせよ、市庁舎だけは絶対死守する構えじゃなー」
PO対策機構より目に見えて数が多い転烙ガーディアンを見て、史愉は動揺し、チロンは渋い表情になっていた。
「私達三人だけでもこの中に入れたんですし、いちかばちかで、この三人で雪岡さんを暗殺するってのはどうでしょー?」
「馬鹿を言え。純子だけではない。累を含め、強者がごろごろいるのじゃぞ」
男治の提案を聞いて呆れるチロン。
「ま、あたしらがこの中にいるのは大きいよ。突入作戦が失敗したとしても、あたし達は市庁舎の中に居続けて、様子を探るなり、破壊工作するなりできるんだから」
史愉が真顔で述べる。
「史愉、お主は真剣な時、無意識のうちに口調が変わっておるの」
「ぐっぴゅーっ。し、知らんぞーっ」
チロンに指摘されて、史愉は狼狽気味な声をあげた。
***
「おい放せ! 何しやが……」
「じっとしてろ。見せしめに殺しても構わないんだぞ」
両手首を縄で巻かれた、首と肩にタトゥーをいれたイカつい青年が怒声をあげかけたが、アドニスがその頭部に銃口を押し当てると、あっさりと凍り付いた。
人質の中には能力者も数名いたが、流石にこの状況で、力ずくで脱出しようという者はいなかった。相手が一人や二人ならともかく、大集団だ。
「子供まで盾にして……恥ずかしくないんですか?」
「正直恥ずかしいよ? 凄く嫌。でも他に手が無いから。負けるのはもっと嫌だし」
老婆がキツい口調で抗議すると、老婆を拘束している正美が浮かない顔と口調で告げる。
「こっちからすれば人質は安全だとわかりきっているけど、人質にそれを伝えるわけにもいかないのが歯がゆいし心苦しいね」
「転落ガーディアンが人質を撃たないって、本当に思ってるのか? 味方の軍もろとも後ろから撃ってくる腐れ外道と、何度ドンパチしたよ」
「それは海外での戦場での話で、ここは日本だ。それに純子の性格を考えても、それはしないだろ。そして純子も俺達がそんなことするとは思っていなかった。その盲点を突いたのがこの作戦だ」
シャルル、李磊、新居がそれぞれ言う。彼等はヒューマンシールドを確保していない。
「ていうかあれは何だ?」
市庁舎の上にある黒玉を指す真。
「わからないけど、微妙に……空間の歪みを感じるな」
熱次郎が言う。
PO対策機構の者の多くは気付かなかったが、何人かは黒玉の存在に気付いていた。
「ねえ……何か、敵の数増えてない?」
「増えてますねー」
岸夫が言うと、竜二郎が珍しく苦笑いを浮かべて認めた。
PO対策機構の前には、大人数の転烙ガーディアンが列をなし、壁となって行く手を阻んでいる。一般人を人質にしているので手出しもしてこないが、中にも入れさせない構えだ。
そしてその数は尋常ではない。どう少なく見積もっても、PO対策機構側の二倍以上の数の者達が、市庁舎前にいた。どう見ても全員能力者だ。
「こいつら全員転烙ガーディアン……?」
「こんなにいたのか!」
二号が唸り、美香が険しい顔で叫ぶ。
「転烙ガーディアンは各地に散って、祭りの警護しているんじゃないの?」
「政馬達は未だに引き付けている最中だそうだ」
鈴音が問うと、勇気が報告する。
「いや、違う。転烙ガーディアンだけじゃない。こいつらの顔……見覚えがある奴が何人かいる」
真は理解し、頭の中で歯噛みする自分を思い浮かべる。
「この人達、オキアミの反逆だよ。ぽっくり市から応援でやってきたんだね」
ツグミが言った。この発言を耳にした者達が驚く。
「この前PO対策機構に降伏したんじゃなかったの?」
「あっさり裏切ってくれるとはよー。こいつは許せねーけど、まあ裏切られた方が悪いって話だ」
シャルルが苦笑いを浮かべ、新居が憮然とした表情で吐き捨てる。
「転烙ガーディアン、やたら数が多いと思ったけど」
「オキアミの反逆が混ざっていたのね」
麻耶と伽耶が納得する。
「あの渦畑とかいうボスの小娘、従順すぎておかしい部分もあったが、俺達にもあの時選択肢があったわけじゃない。まさかあそこで総力戦をして消耗するわけにもいかなかったからな」
新居が言うと、市庁舎の中から、渦畑陽菜当人が現れた。中山エカチェリーナもいる。
今日の陽菜は比較的ましな服装だが、相変わらずメイクはしていない。
(最悪だ……。渦畑陽菜がこのタイミングで現れるなんて……)
真は陽菜の能力を知っているので、この局面で彼女の持つ二つの能力が猛威を振るう状況になるのではないかと、危惧した。
陽菜とエカチェリーナの二人は、堂々と転烙ガーディアンの前に立ち、正面からPO対策機構と向かい合う。
「真、あんたほんま見損なっタで。えげつない真似しよってからに。そレから、葛鬼勇気。あんたもや。私はあんたのこと評価しとっタのに、がっかりやわ」
真と勇気を交互に見やり、エカチェリーナが冷たい声で告げる。真も勇気もエカチェリーナの視線を受け止めるが、勇気は何も言葉は発さない。
「全員気を付けろ! 渦畑陽菜は超常の力を無力化する力がある!」
真はエカチェリーナには答えずに、珍しく大声をあげて注意喚起した。
「気を付けようがないっていうか……」
「思い切りチート能力者だ」
「だからそいつから狙えって話か? それともそいつに目つけられるなって話か?」
「物理攻撃で戦う奴はその女担当てことだろ」
ざわめくPO対策機構勢。
オキアミの反逆の面々はともかく、転烙ガーディアン勢も陽菜の能力を知って慄く。味方で良かったと安堵する者もいた。
「真、新居。撤退した方がいいぞ。人質取っていても、こいつはどうにもならんと俺は見るね」
李磊が進言する。
(現実主義で、攻めより守りを重視し、危ない橋は避けたがる李磊らしい)
真っ先に撤退を口にした者が李磊という事に、真は納得してしまった。そしてその方が良いと受け入れられた。
「ああ、そう考え始めていた所だよ。このまま強行突破しようとしても、こっちが無駄に人死に出しまくって敗北する結果しか見えねー」
新居も李磊の進言を受け入れる事にする。
「人質を取るような最低な真似は許せないけど、人質を解放して降参するなら、全部目を瞑るわ」
陽菜が冷ややかな口調で告げる。
「こいつはどうにもならねーだろ……」
「うん。何というか……すっかりこっちが悪者なうえに、悪いことしたバチが当たった気分よ」
「凄く同感」
バイパーと桜が渋面で言い、修が溜息混じりに頷いた。
「ケッ、汚え手使ったうえにこのオチかよ。みじめなこった。馬鹿丸出し」
「だから私こんなやり方やめようって言ったのよ。言ったよね? 確かに言いました」
「それでも結局同じぜんまいを巻いたんだから同罪」
輝明が悪態をつき、正美が愚痴るが、来夢が正論を述べる。
「新居の言う通りだ。真。悔しいが諦めた方がいい」
「そうだな……」
勇気も柔らかい口調で訴えると、真は無表情のまま頷いた。
「俺達助かるのかな?」
「助かりそうな流れですね……」
「お願い。解放して。貴方達そんなに悪い人じゃないんでしょう?」
「さっさとこの縄解けよ。キツく食い込み過ぎて痛えんだよ」
人質達がざわつき、ある者は懇願し、ある者は文句を口にする。
「ほどけって言ってんだよ。このや――」
文句を口にした人質の額に穴が開いた。
その人質を捕まえていたPO対策機構の兵士の喉にも穴が開き、二人揃って倒れる。二人揃って致命傷だ。人質の方は即死している。
さらに別の人質の一人が顔に穴をあけられて殺される。細いビームが放たれ、人質の体を貫いていた。
その後も、何人もの人質に、ビームが放たれて殺されていく。PO対策機構の者も攻撃を受けているが、明らかに人質を狙って攻撃されている。PO対策機構はその巻き添えを食らっているようなものだ。
PO対策機構は元より、オキアミの反逆や転烙ガーディアン側にも動揺が走る。
「何で人質だけ狙われてる!? 誰の仕業だ!」
美香が叫び、周囲を見渡す。
「人質を護れ!」
勇気が叫び、大鬼の手足をそれぞれ別個に出して、人質の盾にする。しかし四人分しかない。
「どこから攻撃されてるんだ? 市庁舎の中からか?」
鋭一が言いつつ、市庁舎の窓を一つずつチェックしていく。
「あそこだ!」
アドニスが発見して、市庁舎の窓の一つを指して叫ぶ。
「あいつの仕業か……」
窓の中にいた整った顔立ちの少年を見て、新居が唸った。
「おや? あいつはどこかで見たことがあるような……」
オンドレイが訝る。
窓の内側にいる少年は、攻撃の手を止めた。少年の背中からは木の枝が生え、枝についた葉は光を帯びている。
(あの目と髪型は……デビルか)
勇気はその少年の眼差しを見て、それが誰であるか見抜いた。
「あれはデビルですう」
優が震える声で呟いたその直後、正午を報せる鐘が鳴り響いた。




