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『これだけの数が揃っておるのじゃ、手っ取り早く拙者を仕留めるという手もあるぞ』
『無いな。市長のお前は殺せない。ややこしいことになる。転烙市民のその後を考えればな。お前、かなり支持されているらしいじゃないか。そもそも傀儡を殺した所で成果には繋がらない』
壇上で悶仁郎と勇気が向かい合い、言い合いを続けている。PO対策機構、転烙ガーディアン、通行人のギャラリーが、それを見守っている。
『くっくっくっ、そしてそれは其処許にも言える理屈よのう、葛鬼勇気。この国の支配者となった其処許を殺めようものなら、これまで以上に本腰を入れて、この転烙市を潰しに来るであろう。それこそ軍隊の投入も、市民への危害も厭わぬほどにのう』
『自分が安全圏にいると自惚れて、この場に立っているわけじゃないぞ。俺は生まれた時からこの宇宙の王であり、主人公だ。常に堂々たる振る舞いをすべきであり、この俺を傷つけられる者などいないと信じているからだ』
挑発気味の悶仁郎に対し、勇気は尊大な口振りで言い放つ。
「いや、そっちの理屈の方がずっと自惚れているというか……」
「でもあそこまでいくと清々しいね。馬鹿っぽいけど、俺は嫌いじゃない」
勇気の弁を聞いて、克彦が苦笑し、隣にいる来夢は好意の視線を向けていた。
「こいつら、数増えてる」
転烙ガーディアンがどんどん数を増やしている光景を見て、卓磨が唸った。
「うちらの倍以上いそうだぞ」
「こんなに多かったですかねー?」
「数で考えるとヤバそう……」
鋭一、竜二郎、冴子が転烙ガーディアンの側を見て言う。
『市長、一大事です』
『失礼』
部下からの緊急メールが入り、悶仁郎は壇上を下りて電話を取った。
「何が起こった?」
『街のあちこちで騒ぎが発生しています。祭りの店舗を壊され、通行人や御役人を脅されと……』
「然様か」
部下の報告を聞いても、悶仁郎は慌てることは無かった。想定内の事態だ。
「何かあったのかな?」
悶仁郎の動きを見て、シャルルが呟く。
「スノーフレーク・ソサエティーと、追加で来たPO対策機構の兵士が動き出したのさ」
シャルルの横にいる新居がほくそ笑む。
『ふむ。大人数を集め、この場に目を引いたつもりか? 然らば的外れであったな』
悶仁郎が壇上に戻り、勇気の方を向いてマイクを手に取って笑う。純子の指示により、PO対策機構が中央繁華街に集結してもなお、転烙ガーディアンを中央繁華街に集結はさせなかった。各主要施設や祭り会場を護らせていた。
勇気にも電話がかかる。相手は政馬だった。勇気は壇上を下りずにその場で電話を取った。
『勇気。上手くいってない。転烙ガーディアンがすぐ駆けつけて交戦になっちゃってる。こっちは戦力バラけているし、数が違うからまともに戦うのは無理だし、逃げるよ』
政馬の報告を聞いて、勇気も動じなかった。
「ああ、逃げておけ。ただし、手筈通りに……逃げきらずに引き付けておけ。奴等が追跡をやめたら、攻撃に転じろ。転烙ガーディアンを出来るだけ引き留めろ」
『わかってるよ』
勇気が命じ、政馬が頷く。
「純子は流石に引っかからなかったか」
新居も報告を聞いて、小さく息を吐いた。
「でもここまでは想定の範囲内だ。政馬達やPO対策機構の援軍が、各地の転烙ガーディアンを引き付けているうちに、こちらも予定通りに動く」
「陽動の連中は数が少ないし。綱渡り感すげーがな。奴等は空の道をつかって、すぐに飛んでくる」
「スノーフレーク・ソサエティーや追加面子の頑張り次第だね」
真、李磊、シャルルが言う。
「よし。全員、作戦決行だっ!」
新居が号令をかけると、PO対策機構が一斉に動いた。
「わっ!?」
「何何何? 何よこれ?」
「ちょ、ちょっと何するんですか!?」
「え? これどっきりだよね?」
PO対策機構の行動を見て、驚き、戸惑い、恐怖する通行人達。PO対策機構は、一斉に通行人を拘束しだしたのだ。
「大人しくしろ。さもないと痛い目にあうぞ」
「は、はい……」
オンドレイに恫喝され、中年男が震えて縮こまる。
「頼むから大人しく人質に取られてくれ……」
「え……うん……」
自分の半分未満の年齢しか無さそうな熱次郎に手首を取られ、あまり恐怖を感じずに従う女性。
真、バイパー、桜、アドニスもそれぞれ通行人達を抑え、転烙ガーディアン達の方に盾にするように向けた。ようするに人質に取った。
「通行人を人質にとったら、ヒューマンシールドにして、急ぎ市庁舎に乗り込め」
新居が命令する。
「僕達、これで完全に悪になったね……」
「最低な作戦」「真のためなら悪にもなる」
ツグミと伽耶がげんなりした顔で言い、伽耶は邪悪な笑みを広げていた。
「本当最低ですよっ。いくら裏通りの住人だからといって、外道かつ鬼畜ですっ」
「俺は最高な気分。だって俺は生まれついての悪だから」
怜奈が忌々しげに吐き捨てる横で、来夢が清々しい笑みを広げていた。
「敵が人質もろとも攻撃してきたらどうするんだ。それで死人が出たら俺達の責任だぞ」
「全くよ……。こんな倫理にもとるやり方、賛同できないわ」
鋭一が憮然とした顔で言い、ふくも同意する。
「ケッ、そうなったら敵の責任だろ」
笑い飛ばす輝明。
「流石に盾にされた人質もろとも攻撃したら、向こうの立場が悪くなりますし、出来ないと思いますよう。人道的には酷い作戦ですけど、効果は高いと思いまあす」
優が冷静に述べる。
「向こうは同じ手は使えませんが、こっちはこういう手が使えちゃうんですねー」
と、竜二郎。
「うへ~、あたしらマジ腐れ外道じゃん」
「本当にこんなことをしていいのですか?」
二号がぼやき、十三号が美香に伺う。
「よくないが仕方ない! そして……この作戦は絶対に真が考えたと見た!」
美香が苦渋の面持ちで叫ぶ。
「確かに転烙市民を護る立場の転烙ガーディアンが、転烙市民を攻撃するはずがないものね」
十一号はその事実を受け入れ、割り切っていた。これが最良の手だと。
「人質の安全な保証があるからこそ、この作戦にも踏み切れたと言える!」
美香も理屈ではわかっている。しかし感情面までは割り切れない。
『転落ガーディアンは立場上、間違っても誤爆で人質を死なせるようなことは出来ない。それを突いた格好か』
「人質も多少怖い体験はするだろうけど、安全と言えば安全だな」
ミルクとバイパーが言った。バイパーは女性を一人、人質として確保している。
『やれやれ。呆れたもんじゃのう。其処許は……それでもこの国の統治者か? 民を人質に取るとは』
口では呆れていると言っている悶仁郎だが、その顔はおかしそうにへらへらと笑っている。
勇気はマイクを捨てた。
「俺が考えたわけじゃないし、俺も本心を言えばこんなやり方は反対だ。しかし合理的な方法ではある。お前達が人質もろとも俺達を攻撃するとも思えないし、俺達も傷つける気は無い」
この作戦を提案された際、勇気は猛反対したが、結局最後は他に有効な手が無いとして、押し切られる形となってしまった。
「公の場で拙者を亡き者にする作戦は難有りと見なす癖に、民を人質に取ることは是とするなど、わからん考えじゃなあ」
悶仁郎もマイクを捨てて言う。
「あいつら……まさか市民を人質にするなんて……」
「政府の犬があのような手を取るとは、流石に考えられませんでしたね」
「マイナス20ポイント。ま、裏通りの住人も決行混じっているし、有りなんじゃないか」
勤一、浜谷、蟻広が、通行人を人質に取って市庁舎へとゆっくり進行するPO対策機構を見ながら話す。
「このまま手をこまねいて見ているのか?」
勤一が口惜しげに浜谷と凡美をそれぞれ見やる。
「ここにいる私達だけでは手に負えないけど、取り敢えず様子を見て、上の決定を待ちましょう」
凡美はPO対策機構を睨んだまま言った。
***
「さてはて、これは真君と新居君、どっちが考えた作戦かなあ……。どっちもやりそうなんだよねえ」
市庁舎前の映像を見て、純子が楽しそうに笑う。
「真は新居の弟子、そしてどちらも純子の弟子でもありますが、純子はこの手を思いつかなかったのですか?」
累が疑問を口にする。
「こういうのは私が嫌う手だし、あっちは正義の味方気取りな立場だし……それでああいうことをするとは……あれ?」
純子が喋っている途中に表情を変え、訝った。
「どうしました?」
綾音が問う。
「映像に、知っている顔はいっぱい映っていたけど、いない子もいるねえ。政馬君達は……他の繁華街で陽動しているとして、ふみゅーちゃんと男治さんとチロンちゃんがいないよー」
とんでもないミスを犯しました。
「97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう」の「四つの序章」の1話目が飛ばされ、2話目に入れる予定の話を1話目に書いていました。
よって、97章の1話目に本来の話を挿入し、間違えた1話目は2話目へ、2話目は3話目へと、一話ずつズラしました。
影響があるのは二話分だけですが、しおりを入れている人は、おかしくなってしまうと思われます。御迷惑かけてすみませぬ。




