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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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3

『転烙市に住まう者達よ。各方おのおのがたはおーばーてくのろじいの都に住まう選ばれし民であるぞ』


 芝居がかった喋り方であり、いつものように笑い声混じりの喋り方で、悶仁郎が切り出す。


『これより始まる祭り――転烙魂命祭は、ただの祭りではない。転烙市に集いし叡智より生まれた文明の利器を……えーっと……果て……いかん、忘れたわ。原稿用紙読みあげるのはみっともないでのう。避けておったが、忘れては元も子も無いわい』

「あの人は相変わらずだな!」


 悶仁郎の放送事故スピーチを聞いて、美香が笑う。


 ホログラフィー・ディスプレイを開く勇気。音声だけではなく、ローカル局で映像も流していた。市庁舎前に壇上を設けて、悶仁郎が立っている。多くは無いが、通行人も止まって悶仁郎に注目している。


「市庁舎前だから、ここから近い場所でやってるな。行ってくる」


 勇気が早足で歩きだした。鈴音も続く。


「俺達も行くか」

「全員で殴り込みかな?」


 新居が言い、修が冗談めかし、それぞれ移動を開始する。修の言葉は冗談でもなく実現する可能性が高いと、真は見ていた。


『ま、早い話が、新しい発明品がどどーんと発表される祭りっちゅーことじゃ。他にもさぷらいずが用意されておるという話じゃし、楽しみにしておくがよい』

「突然ざっくりまとめた」

「あの爺さんらしい」


 伽耶と麻耶が揃って苦笑する。


 百人以上はいると思われる、PO対策機構の部隊が市庁舎前に現れたので、悶仁郎のスピーチを聞いていた通行人達はぎょっとした。


 たちまち転烙ガーディアンが何十人と集まり、悶仁郎とPO対策機構の間に割って入る。大人数で向かい合う格好となる。


「お前等、何かあるまで動くな」


 勇気が断りを入れ、市庁舎の方に近付く。それを見て、転烙ガーディアンの兵士達の警戒が強まった。


「何だ、お前ら。支配者様である俺に手出しをしようっていうのか?」


 転烙ガーディアンを見渡し、勇気は不敵な笑みをたたえる。


『通してやるがよい。可愛い歯医者様が拙者と対話したいそうな」

「支配者だ。ボケて耳も悪くなったか」


 悶仁郎が鷹揚な口調で告げると、転烙ガーディアンは二手に割れる。勇気は傲然とした口調で吐き捨て、転烙ガーディアンの間を堂々と抜け、壇上へと進む。


『ほれ、其処許もまいくを手に取るがよい。民が話しを聞きたがっておるぞ』


 壇上に登った勇気に、予備のマイクを差し出す悶仁郎。勇気は悶仁郎の方を向いたまま、マイクを受け取る。


「敵の大将が堂々と一人で……」

「それを言うなら私達の大将も、最初は一人で壇上に立って演説していたのよ」


 転烙ガーディアンの集団の中にいた勤一が唸り、隣にいる凡美が言った。


『度胸があるのう。御大将自ら敵陣に乗り込んできたうえに、一人でこの目立つ場に立つとは』


 勇気が中々喋ろうとしないので、悶仁郎が言う。


『そっちの大将はずっと隠れたままだがな。操り人形の市長を立てたうえで』

『して、何の御用かな?』


 嘲るように衝撃的なことを口にする勇気。転烙ガーディアンも、通行人も、PO対策機構もざわつくが、悶仁郎は何も聞かなかったかのように、とぼけた口調で問いかけた。


『ただの宣戦布告だ。日本国政府は、転烙市に巣食うサイキック・オフェンダーの暴走を見過ごしはしない。断じて叩き潰す』


 冷然たる口調で言い放つ勇気に、転烙ガーディアン達は一斉に険悪なオーラを放った。


「宣戦布告とか言ってるけど、とっくにもうやりあってるよね? 皆それ心の中で突っ込んでいると思うんですけどー?」

「とっくにドンパチしまくっているうえで、この人目のつく場で改めて、大将自らが宣戦布告か。悪くない」


 正美がおかしそうに言い、アドニスがふてぶてしい顔のまま拳を掌で叩いた。


『勇気。純子の名を口に出さなかったか』


 つくしが持つバスケットの中にいるミルクが呟く。


「真に対して気遣ったんじゃないか?」

『だろうな。あいつは傲慢で横柄だが、わりと配慮もする』


 バイパーの言葉に対し、バスケットの中で頷くミルク。


「ミルクは勇気の爪の垢煎じて飲んだら?」

『だまれヴォケガ殺すぞ』


 桜の軽口に、ミルクが毒づく。


『せっかくの祭りも潰すつもりかね?』

『そのつもりだ』

『剣呑じゃのう。皆楽しみにしておるのじゃぞ? しかもこの場に兵士を沢山連れておる。国の元首が市民を脅かすとは、いやはや』

『ただ祭りをするだけなら構わないが、絶対にそれだけでは済まないとわかっているからな。俺は支配者だし、民を護る責務を果たす。しかしこの街の住人がテロリスト共に与するというなら、その時点でこいつらもテロリストだ。容赦する謂れは無い』


 おどけた口調でのらりくらりと話す悶仁郎に対して、勇気は堂々たる態度を崩さない。


「あははは、あの子は僕達に近いね」

 シャルルが勇気を見て笑う。


「俺達としてはその理屈は歓迎だが、他が不味いんじゃないか? 味方も動揺していそうだ。それに、市民も場合によってはテロリスト扱いするなんて、そんな話は初耳だぜ」


 李磊が顎髭を撫でながら苦笑する。


「勢いで言ったんじゃねーの。それくらいは許す」


 シャルルと李磊の言葉を聞いて、新居が言った。


『拙者達が何をするつもりかもわからんで、ただ危ういかもしれんという理由だけで、宣戦布告とは、これまた呆れた理屈じゃのう』


 人を食ったようなにやにや笑いをたたえて、悶仁郎はオーバーな呆れ口調で言う。


「向こうの立場からすればそうだろうな!」

「空っぽな理由。チンピラの因縁みたいなものだよ。でも危険だと、こちらは皆感じている」


 美香と来夢が言った。


「今更だけど、政馬先輩達スノーフレーク・ソサエティーは、相変わらず来てないみたいだね」


 ツグミが自陣営を見渡して言う。今日は男の方だ。


「あいつらは勇気の下についているらしいが、PO対策機構とは距離を置いているようだからな」


 と、真。


(あいつらがいない。どこに行った?)


 一方でミルクも、ある人物達の姿を見えないことを気にしていた。


『それで? 宣戦布告のためにわざわざ出てきただけかの? 軍勢を率いてそれだけかね?』

『他にも意味はある。わからないだろうけどな。そして教えてやらない』

『祭りを盛り上げてくれるための手助けかな?』


 悶仁郎の目に危険な光が宿る。今の言葉はただの軽口ではない。まだ祭りは始まっていないが、祭りを盛り上げるための前座を、今から始めてやろうかと、そう告げているかのような意味合いに、多くの者には聞こえた。


***


「わからないなあ」


 市庁舎前の様子を映したディスプレイを見て、勇気の言葉を素直に認める格好で、純子が呟いた。


「何でPO対策機構の兵士をあんなに大勢、目立つ場所に集めたのか。何が狙いなんだろ」

「月並みな発想だと、示威か陽動でしょう。陽動にしては派手すぎますし、前者のような気がします」


 純子の疑問に対し、累が私見を述べる。


「でも指揮を執っているのは――作戦を考えているのは、新居君だと思うし。ああ、真君の可能性もあるねえ。んー……どっちも私が指導した弟子なのに、弟子の考えが読めないなんて」

「弟子だからこそ読めないのではありませんか? あの弟子ならこうするはずだ、こうはしないはずだと、そういう固定観念を純子が抱いているのではありませんか?」

「なるほどー、綾音ちゃんの言うことが正しいかも」


 綾音が口にした考えに、純子は納得する。


「そして新居君にしろ真君にしろ、それを意識したうえでの作戦かなあ」

「つまり……裏をかいて、凡庸で月並みな手を用いているという可能性もあるわけですか」


 裏の読み合いのあげく、そのような手に出る事もあるだろうが、累からすると、真や新居の性格を考えると、そのような手に出るイメージがいまいち湧かない。


「ま、陽動である可能性も考慮してあるから、転烙ガーディアンもあの場に全て集結させてはいないよ。他の祭り会場全てに配置してあるから」


 祭りが行われる場所は中央繁華街一ヵ所ではない。市内の各地で同時に行われる。純子は全ての祭り会場の警護を怠っていなかった。

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