表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
3279/3386

1

 真はまた明晰夢を見ている。夢だと意識していても、夢を操作は出来ない。


 真の前に少女がいる。真にとってかけがえのない存在である、真紅の瞳の少女。だが今より幼い姿だ。十歳か十一歳といったところだろう。


「マスター、私はマスターの夢を引き継ぐよ」

 幼い純子が決意を込めて言い放つ。


「お前は僕の夢に依存するのか? お前は依存が嫌いだったはずだ」


 真が静かに問いかける。純子は容易く誰かに依存する者を好まなかった。自分に依存する者も、自分を崇拝する者も、ラットという区分にして冷遇していた。


「他人の夢を自分に夢に置き換えるのか?」

「そうじゃないよー。依存しているわけじゃないよ。もうさ、これは私の夢なんだよー」


 悪戯っぽく言う幼い純子に、真は違和感を覚えた。


「私の夢にようこそ、マスター。ここはずっと覚めない夢。もうマスターがどこにもいかないように、ずーっとここに閉じ込めておくねー」


 幼い純子の言葉を聞いて、真は確信した。


(違う。こいつ。マスターとか言ってるけど……違う。つまりこいつは……)


 溜息をつく真。


「お前は――」

「おや、気付いた? いや、露骨すぎたかなあ」


 純子が笑う。姿は変わらない。


「何故だろうな。夢の中で作り上げた虚像ではなく、確かな意思を感じてしまったよ。気持ちが流れ込んでくるというか……」


 そこにいる幼い純子は、真の頭の中で作られたものではない。本物の純子の精神が、夢を通じて接してきている事に、真は気付いた。


「みどりの手引きか? この前の夢もそうか?」

「これが初めてだよ。そして今も真君が見ている夢だよ。それに私の意識が入ったんだ。夢の設定まで操作しているわけじゃない。本当は今夜に――と思ったけど、随分お寝坊さんだねえ。疲れちゃってた?」


 真は毎日規則正しい時間に起きる事を純子は知っている。


「今夜に?」

「私の願いへの第一段階が達成される。真君には止められない。それを二人して見届けた後で、こうして夢の中で会おうかと思ったけど、気が変わって先に会うことにしたんだ」

「何のために?」

「君と心を繋ぐため? 私が勝った時、それでも真君が反発しているのは嫌だなと思ってさ。その時には――ちゃんと褒めて欲しいし、認めて欲しいよ。そう思うこと、おかしい?」


 純子の言葉を聞いて、真は胸の痛みを覚える。


「お前は前世の僕の目的を、自分の拠り所にしているのか? 依存して――支えにして、それで千年の孤独を旅してきたのか?」


 そう考えると、真の胸が激しく締め付けられる。


「違うよ」


 全部違うわけではないが、純子は否定する。


「マスターの夢に依存しているわけじゃない。これは確固たる私の願い」


 本当にそうだろうかと真は疑いかけたが、純子の想いがダイレクトに伝わり、それは嘘ではないと感じ取った。


「僕が負けることは無いから、そんな心配はしなくていいぞ。そっちこそ、僕に負けた時は潔く僕に従ってもらうからな」

「従うって何?」

「何度も言わせるな。マッドサイエンティストは廃業だ。そしてお前を僕のものにする」


 真が力強い声で宣言すると、純子は思いっきり恥ずかしそうな顔になってたじろいでいた。


「あは……あははは……私、そういう台詞にどうにも弱いというか、耐性無いっていうか、あはは……」

(本当チョロいな)


 嬉しそうにでれでれと笑う純子を見て、真は微笑ましく思う。


「でも、お前の気持ちもわかった。それは汲んでおく。いや、それは忘れないし、ちゃんと心に留めておくから……。そのうえで、全力でお前を叩き潰す」


 意図的に優しい声で宣言する真。


「わかった。ありがとさままま、真君」


 純子の姿が消え、真は夢から覚め、瞼をゆっくりと開く。


(あいつは否定していたけど、あいつはやっぱり、前世の僕の夢に縛られている。その呪いを解いてやる)


 改めて真は決意した。


***


『全てのピースが揃いつつあります』

 高めで柔らかな男性の声が響く。


『母星での我等の天敵であるアルラウネの特性を把握し、活かし、改良し、最大限の効果を引き出せば、君の願いは成就されるであろう』


 年配の男と思われる厳粛な口調。


『この短期間で、科学文明を一気に加速させ、都市一つの文明を著しく発展させた才腕、御見事』


 次は少し癖のある少女の声。


『貴女の行動力と発想、何より創造の起点となる力にはただただ感服するしかない。雪岡純子』

「私だけの手柄じゃないよー。私に賛同して集まってくれたマッドサイエンティストの皆と、貴方達根人さんの協力があってこそだよー」


 ハスキーな女性の声を聞き、純子は笑顔で言ってのけた。


 純子のいる研究室には、一見して純子しかいない。しかし多くの意識が純子に向けられている。意識は実験室にある植物に宿っている。

 惑星グラス・デューで最も知性の高い彼等の正体は、植物だ。そして彼等は植物と植物の間を、精神で行き来できる。


『謙遜することはない。起点となっているのは貴女だ』

『私達は純子さんの手伝いをしただけですよ』

『我々は君達地球人と違い、想像力と創造力に欠ける。これらは知能の高さと比例はしない』

『地球人の中には、IQが著しく低い知的障害者でも、創造に長けた者がいますしねえ』

『そして地球人の中でも、人種や国家の違いで、この創造力が異なる事もまた、厳然たる事実。我々も種として、創造力が乏しい。しかし地球人がそうであるように、我々もまた、成長の可能性がある』

『僕達は貴女の手伝いをする事で、創造の学習をさせて貰っている。年月はかかるかもしれないが、僕達も創造力を高めることが出来るよ』


 次々と喋る根人達。最後に口にした台詞が、根人達が純子に協力した真意だ。


『懸念が一つある。我々はアストラル、メンタルのエネルギーの移動は容易に出来る。精神世界の距離感は、物質界での距離とは異なるからな』

『でもエーテルの力は物質界を経由せねばなりません。硝子山悶仁郎氏が作る、大規模な転移装置を用いて転送するつもりのようですが、果たして上手くいくのでしょうか?』

「そんな博打を打たなくてもいいんじゃないかって、そういう心配だよね? 私はこっちの方が上手くいくと思ってるんだ」


 それまで黙っていた純子がようやく口を開き、己の考えを述べる。


『貴女がそう仰るのであれば、それに合わせます』

『自分はあくまで反対だが、方針を決めるのは君だ』

『不安はあるが……まあ……』


 懐疑的だった根人達数名が、やや渋々といった感じで折れた。


『もう一つ、案じている事があります。私達も一枚岩ではありません。純子の目的そのものには、疑問を抱く者が何名かいました』

「世界に調和がもたらされれば、文明の発展は滞るっていう考えだね」


 それは四日前、根人の一人が純子にぶつけた疑問であった。


『これまでが停滞していた。これより再び動かす――という弁でしたね。根人達の間でも、貴女の考えは共有していますが、それを聞いたうえでも納得しきれていません。安易に望みの叶う世界。艱難辛苦から離れた世界では、人々はただ与えられるもの享受するだけで、堕落してしまい、創造性を失うのではないかと』


 なおも一人の根人が、疑問をぶつける。


「人間は苦難やストレスをどこかで欲している生き物だから、そうはならないよ。例えば多くのテレビゲームは――アクションゲームでもRPGでも、ストレス要素があるからこそゲームって言える。苦難を乗り越えるための試行錯誤や、上達や進歩の喜びを味わうじゃない。もちろん色んな人がいるし、ただ受け取るだけの人も出てくるかもしれないけど、そういう人は元々そういう人なんだって思うよ?」

『なるほど……。私達は地球人のことを把握しきれていないようでしたね』


 純子の答えを聞き、疑問をぶつけた根人は納得したようだった。


(根人さん達は、頭はいいんだけどね。私達と価値観の相違が激しくて、どうしてもそこの部分で調整が必要だね)


 しかしこちらが出来るだけ砕いて説明すれば、わりとすんなりと受け入れられるし、例え受け入れられなくても、容易く感情的にならずに折れる所が、根人の優れた所だと純子は思う。


 やがて根人達の意識がその場から消える。


 一人になった所で、純子は先程の、夢の中での真との接触を思いだす。


「依存しているわけじゃない。もう、これは私の夢なんだよ」


 真の問いかけに対して、純子は現実で再度答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ