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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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33

「伽耶、麻耶、雪岡の傷を治してやってくれ。こいつは再生能力に乏しい」


 腹部から背中にかけて穴が開き、頭部にも大きな穴が開いて、片目は失い、見るも無残な姿の純子を指して、真が頼む。


「え、いいよー、市庁舎の研究所に戻ってゆっくり治すからさ。一応敵同士だし」

「まあそう言わずに」「今治した方がいい」


 遠慮する純子であったが、伽耶と麻耶が近づいて手をかざす。


「ダメージどっかに飛んでけー」「回復役がいる漫画とアニメとラノベは緊張感無い理論~」

「ええ……。麻耶ちゃんの呪文、それ、ちゃんと魔術の発動に繋がってるの?」

「絶対繋がってない」「断じて機能している」


 純子の問いかけに、伽耶と麻耶で異なる答えを返す。


 ぱっと見では腹部の怪我はわかりづらいが、頭にぽっかりと開いた穴は、みるみるうちに塞がって、元の純子に戻ったが、流れ出て乾いた血はこびりついたままだった。


「腹は治ったのか?」

「うん。大丈夫」


 伺う真に、純子が腹部をさすりながら微笑む。


「皆に見せて無事を証明しろよ」

「えええええっ」

「うん、ちゃんと見せて安心させて」

「真、それはどうかと……」

「真顔でセクハラ」

「多分本人はセクハラだと認識してない」


 真の要求を聞いて、純子は大袈裟な声をあげ、ツグミは真に同意し、熱次郎と伽耶と麻耶は呆れていた。


「仕方ないな」

 真が純子に近付いていく。


「えっ? 何?」

「何する気?」「公然猥褻?」

「これは何かヤバいことが起こりそうだーっ」


 純子が狼狽え、伽耶と麻耶は固唾を飲んで見守り、ツグミは興奮する。


「痛い痛いっ、何ひゅりゅのーっ?」

 真が純子の頬を両手でつまみあげる。


「敵だからな。これは治し賃だ」

「えっ……? 治したの、私達なのに……」

「真が純子から治し賃受け取るの?」


 真の台詞を聞いて、揃ってぽかんと口を開く伽耶と麻耶。


「私が純子に治し代受け取るべき」「私が真から治し賃受け取るべき」


 姉妹の主張はもっともだと、真以外の面々は思った。


「それが反物質爆弾かい」


 アジモフから回収した箱を転移させようとした悶仁郎に、マリエが声をかけた。


「で、あるそうだ。斯様なものが、国を吹き飛ばしかねん威力を持つとはのう。人の技の業の深きことよ。ところで其処許――」


 悶仁郎がマリエを見てにやりと笑う。


「以前に比べ随分と険が取れたのう。穏やかそうで何よりじゃ」

「そ、そうかい? まあ……悪くない生活だよ」


 マリエが照れ臭そうな顔になって、来夢をちらりと見た。


「俺、いい所無しだった。正に空っぽの成果」

「無事が何よりだよー。それに空っぽなんてこと無いよー。ナイス足止めっ」


 憮然としている来夢に、ツグミが快活な笑みを広げてフォローする。


「それはフォローになってない。むしろ侮辱されている。足止め程度しか役に立たなかったってことだから」

「足止めであろうと立派な役割ですよ」


 ますます不貞腐れている来夢に、累が口を出す。


「チームで戦っているのなら、時として足止め役も囮役も受け持たねばなりません。そうした役割を買って傷ついた人を、来夢は馬鹿にする気になりますか?」

「ならない。わかった。でも今は敵の累にそんなこと言われるのは、変な気分」


 累にやんわりとした口調で注意され、来夢は少し機嫌を直した。


「あれ……? 生きてる?」


 倒れていたモニカが目を覚まし、自分を見下ろしていたネロと目があった。


「お、俺達は敗北した……」

「マジ? いや……でもそんな顔してるわ~……」


 ネロの言葉を聞き、モニカは苦笑する。


「正直、ほっとしている……。立てるか」

 ネロが手を伸ばす。


「大量虐殺しないで済んだし、私もほっとしたわ。じゃあ最初からそんなことしようとするなって話だけどね~」


 ネロの手を掴んで立ち上がりながら、モニカは言った。


「我々はまだ滅びていません。ヨブの報酬の立て直しをしましょう」

「そ、そうだな」


 アジモフが心なしか熱のこもった声で呼びかけると、ネロは微笑んで頷いた。


 激闘のあった裏路地から、皆が撤収を始める。


「んじゃ、私も行くね」

 純子が真達の方を見て断りを入れる。


「もうすぐお祭りだから、せいぜい楽しんで――」

 台詞途中に、真が純子の腕を掴んだ。


「ちょ……腕掴まれるのは凄く恥ずかしいし……抵抗あるって前言ったでしょー……その……筋肉あって……あまり女の子っぽい腕じゃないし……って……」


 恥ずかしがる純子を、強引に引っ張って裏路地の奥――人目のつかない場所に連れて行く真。


 他の面々の目につかない場所まで純子を連れていき、真は止まる。


「どうしたの? 別れを惜しんでいちゃいちゃするの?」

「違う」


 純子がふざけて尋ねると、真は無表情に即答した。


「もう少し話がしたかった。敵なのはわかっているし、未練がましいとは思っているけど、自分の欲望に忠実に従った」


 当然本心ではいちゃいちゃもしたいと思っている真であったが、それは口にはしなかった。


「不思議なものだね」

 純子の方から切り出す。


「何が?」

「私、真君のことちっとも憎くない。怒ってもいない。悲しくもない。下に見て見くびっているわけでも無い」

「脈絡が無いというか主語が無いというか、まあ言いたいことはわかるけどな」

「真君、頭いいから、多少は言葉を飛ばしても通じるでしょ」

「そうだな。理屈で感情を考えれば、お前は僕に怒ってもいい。憎んでもいい。嘆いてもいい。千年前、僕がお前に甘い呪いを……甘く残酷な呪いをかけたのに、その当事者である僕が、今はお前の邪魔をしているんだから」

「あははは、呪いって言い方ひどーい。理屈で感情を考えるって言葉回しも面白いね」


 無邪気に笑う純子が、真の目には痛々しく映ってしまう。純子は無理して笑っているわけでもない。普通に笑っている。だからこそ余計に痛々しい。


「呪いなんだよ。少なくとも僕はそのつもりだった。愛弟子であるお前に、僕の願いを刷り込んだ。そしてお前はその呪いを受けたまま、ずっと生きていた。本当の呪いなら、時間の経過と共に解けていただろうけど、言葉と想いの、甘い呪いだったからな。だから千年経った今でも解けていない。だから世界をひっくり返そうとしている」


 真が話している最中に、純子の顔つきも変わった。珍しく真剣な面持ちになって話を聞いている。


「そのうえお前は千年間も僕と出会わず、僕を探す旅を、僕の願いを叶えるための旅をしてきた。で、やっと会えたと思ったら、その僕がお前の邪魔をしようとしている。怒るのが、嘆くのが、自然と言える」

「でも、そんな気持ちは無いんだよねー。これはやっぱり、長生きしすぎて感情がおかしくなっちゃってるせいなのかなあ?」


 喋りながら、そうではないと純子は感じていた。これは自然なことだと。


「でも別の感情はある。私、凄く嬉しいんだ。凄く楽しいんだ。幸せなんだ。生まれ変わったマスターが、私好みの可愛い子になっちゃって、私の前にたちはだかるこの今が。君と一緒にこうして全力で遊ぶのが、楽しくて仕方ない」


 そこまで喋って、ふと懐かしい記憶が純子の頭の中で蘇る。


『悪魔は私に何を求めているのかな? ただ遊びたいだけ? 寂しくて構って欲しいだけ? それとも私に悪魔の仲間入りしてほしいの?』

『ただ遊びたいだけ。でも前は同じ悪魔にしたいと思ったこともあった。でも今はこう思う。悪魔はこの世に僕一人でいい。君とは命をかけて、思いっきり楽しい時間を過ごしたい。遊びたい』


 千年前の会話だというのに、純子は鮮明に覚えている。


「そっか……甘い呪いかあ。でも嘘だったわけじゃないでしょ? マスターは本心だった。本気で私に、同じ夢を見て欲しかったと思うよ」

「ああ、それはそうだよ」


 嘘鼠の魔法使いの心と自分の心は異なると、真は強く意識していたし、その言葉をぶつけたい衝動に駆られたが、今は抑えておいた。


「私は自分に実際に呪いをかけ続けていたのになあ。マスター以外誰も好きにならない呪い。時間と共に薄れてきたと感じたら、またかけ直してさー。この選択は絶対間違ってなかったと思う」


 それもまた悲劇の一つではないかと考える真であるが、同時に嬉しくもある。いや、嬉しくて仕方がない。純子は他ならぬ真のために、他の誰にもなびくことなく、真だけを求めて、千年の旅を続けてきたのだから。

 純子にとっては辛く孤独な道であっただろうと、理屈ではわかっている。申し訳なく思う。しかし真の中では、嬉しさと愛おしさの方が強くこみ上げる。


「まだお前を止めたいと思う理由があるんだよ。それは最近になって生じた、三つ目の理由だ」


 話題の方向性を少し変える真。


「それは何?」

「運命操作術『悪魔の偽証罪』だ。あれは嘘鼠の魔法使いでさえ、危ぶんでいたんだぞ」


 真が告げると、純子は真から視線を外す。


「世界に大きな影響を与えるほどの規模で用いたら、どんな反作用があるかもわからない。それはお前や僕にろくでもない影響をもたらす可能性だってあるだろ」

「そうだねえ……」


 視線を外している純子だが、何かを訴えているような、そんな気がする真であった。


(危険だと思うなら、僕に止めてみろという事か?)


 純子の真意はわからないが、真は勝手にそう解釈する。


「おっと……約束していた事があるんだ。すまんこ。そろそろ行かないと」

「わかった」


 別れを告げる純子に、真は頷いた。


「これが最後の馴れ合いになるかもねえ」

「そうはさせない」


 冗談めかして言う純子の言葉を、真はきっぱり否定した。


「お前の目的は全て阻止するし、お前は僕の思い通りに変えてやる」

「あはは、期待しておくよー」


 改めて宣言する真に、純子は嬉しそうに笑った。

唐突かつ久しぶりかつ変なタイミングで後書き。


このながーいながーい作品をここまで付き合って頂き、まことにありがとうございました。

マッドサイエンティストと遊ぼう!は全九十九章で終わります。このまま最後までお読み頂き、楽しんで頂ければ幸いです。


先に宣言しておきますが、最終話の後に、後書き欄には後書きを書きません。なので先に御礼を言わせて頂きました。

理由は……最後まで読んだ後に、何となく感じ取ってください(;'▽')


作品の最後のまとめ的な後書きは、活動報告に上げる予定ですので、どうしても後書きが読みてえようという方がいましたら、そちらの方を見てくださいませ。

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