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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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27

 時間は数分前に戻る。


「ヨブの報酬を発見して交戦中だそうですよー」

 鈴木竜二郎が殺人倶楽部の面々に報告する。


「私達で行くの? 私達はサボって、転烙市側に戦わせておいて、消耗させるって手は使えないの?」

「都市規模の破壊目論んでいる連中相手に、そんな悠長なことしていて、全部お釈迦になったらどうするんだよ……」


 冴子がにやにや笑いながら提案し、卓磨はそれを聞いて呆れる。


「さっさと行くぞ」

「優さんが出かけているけど、そのまま行く?」


 出ようとする鋭一を岸夫が引き留める。


「優がいなければ行かない。それが私の掟」

「優がいなかったら何も出来ないわけじゃないだろ」


 冴子が断固たる口調で言い、鋭一は真顔で言った。


***


「真……来てくれたのか……」


 真、ツグミ、熱次郎、伽耶と麻耶を見て、安堵する克彦。

 来夢とオンドレイは気を失い、エンジェル、マリエ、正美、怜奈は必死に交戦中だ。四人がかりでも苦戦しているように見受けられる。


「中々激戦だな。しかし良く持ちこたえた」

 真が克彦を労う。


「おおう、オンドレイさんまでやられちゃってるよ」


 オーバーにのけぞって驚いてみせるツグミ。


「流石は全員オーバーライフだけはある」

 真が進み出て、ネロの前に立つ。


「ぐぱあっ!」


 怜奈がオンドレイによって、真の前方に投げ飛ばされた。


「し、真……。俺とやる気か?」


 ネロが動きを止め、真と対峙した。エンジェルと正美とマリエが戦闘を一時中断する。


「ネロ、あんたに大量虐殺なんてさせたくない。あんたがそんなことを出来るような人とは……」

「もう過去に……何度もしている。お、俺の手は血塗れだ……」


 真の言葉を遮り、ネロは自虐的に微笑みながら語りだす。


「フィクサーとは……支配者層とは……そういうものだ。主の聖名を掲げ、正義の旗を掲げ、幾度となく粛清をしてきた……。それが正しいことだと、下の者達に言い聞かせて、罪を誤魔化して、罪悪感を殺す方便のつもりで、屍の山を築いてきた」

「反物質爆弾を使ったら、屍の山すら出来ない。全て消し飛ぶな」

「すまない……。俺は不器用だし、賢くもないから、こんな手しか思いつかなかった」

『すまんこって言おう』


 真の脳裏に純子の声で幻聴が響く。緊張感が若干薄れる。


「その理屈は馬鹿馬鹿しい。これまでも沢山殺してきたから、もうどれだけ殺しても同じか? 例えあんたが、あるいは僕が、これまでに何万人殺してこようとも、これから――例えたった一人だろうと、殺される側からすれば、関係無い。殺さずに済ませられるなら、殺さない方がいい。殺していい理由にはならない」


 説得は無理だとわかっているが、それでも真はネロに呼びかけた。気持ちも理屈も伝えたかった。少しでも心が揺らぐことを期待した。


「そもそも殺さなければならない理由からしておかしい。雪岡だけを狙うならともかく、都市ごと悪と見なして吹き飛ばすなんて」

「そ、そうだな……。俺達が間違っている。き、君が正しい」


 ネロは認めた。しかし――


「だが俺達は……今までこうしてきたから、これからもこうする……。教えに殉じた同胞達のためにも、それは……か、変えられない……」


 しかしネロの答えは変わらなかった。


「いつまで喋ってんのよォ。何やったか知らないけど、せっかく殺そうとしたその餓鬼を助けちゃってさあ。ムカっ腹が立つわ」


 焦れたモニカが不機嫌そうな声をかける。真が喋っている間に呪文を唱え、弓矢を携えた血の射手を増やしていた。全部で十体以上はいる。


「見覚えがある。養血の狩人サミュエル……の子孫か」


 血の射手を見て口にした真の台詞を聞いて、モニカは驚いた。


「オーウ、その名前を知ってるなんてねー。この養血術の開祖よ」

「千年の間に洗練され、進歩しているな」

「何それ? まるで千年前の御先祖様のこと知ってるみたいな言いっぷり」

(みたい――ではなく、知っているのだな。前世の記憶で)


 真の言葉を聞き、モニカは笑い、ネロは複雑な気分になる。


「ツグミ、熱次郎。それから鳥山達も、引き続きネロと、奥にいる奴の相手をしてくれ。僕と伽耶と麻耶はこの女を担当する」


 ネロと距離を取りながら、真が指示を出す。


「へえ、私を御指名とはねえ。ネロ、お友達みたいだけど、殺していいの?」

「よ、用心しろ。お前のことを知っているからこそ……与しやすいと見ての指名だ」


 へらへら笑いながら伺うモニカに、ネロが告げる。


「つまり見くびられてるっわけだ。あははは、こりゃムカつく。私を指名したこと、後悔させてやるっ」


 十体以上の血の射手が、一斉に矢を放ってきた。全て狙いは真と伽耶と麻耶だ。


 真は全ての矢を普通に回避する。


「バリアー」「でぃっふぇーんすっ」


 伽耶と麻耶は自分を狙ってきた矢を、即興呪文で障壁を作って防がんとする。

 全ての血の矢は不可視の障壁で防がれ、血が空中で弾ける。


 攻撃はそれで終わりでは無かった。その弾けた血が、見えない壁伝いに高速で動き、壁を回り込んで、姉妹に襲いかかったのだ。


「げっ……何これ」

「血のスライム……蒸発~」


 伽耶が慄き、麻耶は素早く魔術を発動させる。


 呪文通りに血が蒸発したが、全ての血を蒸発させられなかった。一筋伸びた血が、麻耶の頭部を貫いたのだ。


「麻耶!」


 真が叫んだ刹那、血の矢が真の後方から飛んできた。避けた血の矢がUターンしてきたのだ。


「二つの頭のうちの一つを乗っ取ったら、どうなるんだろうねえ」


 モニカがにやにやと笑う。


「ファンシーだな」


 ネロが唸る。ネロの前には、デカヒヨコ、デブウサギ、叫乱ベルーガおじさん、そして悪魔のおじさんの四体の怪異が出現している。


「私にお任せを……」


 アジモフが言いかけて、その場から飛びずさる。アジモフがいた場所の足元から、三本の触手が飛び出た。


「惜しい」

 触手を出した熱次郎が軽く舌打ちをする。


「ピヨピヨピヨ」


 デカヒヨコがかわいらしく鳴きながら、ネロの頭部を嘴で貫こうとしたが、ネロはかち上げアッパーを見舞い、デカヒヨコをあっさりと撃退した。デカヒヨコは消滅する。


「イーッ! アッアッアッ! ウィーッ!」


 叫乱ベルーガおじさんがけたたましく鳴いてネロに突っ込むと、真空飛び膝蹴りを繰り出す。


「アッ!?」


 飛び膝蹴りを片手でキャッチしたネロに、叫乱ベルーガおじさんは戸惑いの声をあげる。


 次の瞬間、空いた手のフックを頭部に食らって、叫乱ベルーガおじさんは吹き飛ばされて消滅した。


 ネロの真上から、デブウサギが降ってくる。


 ネロは後退してかわす。流石のネロも、体重200キロ以上はありそうな重量を受け止めることはしなかった。


 地面に尻もちをついデブウサギの頭部に蹴りを繰り出すネロ。デブウサギもそれで消滅した。


「一発で怪異を存在できなくするほどのダメージを与えるとはネー。こりゃ危険極まりない相手だヨー」


 口髭をいじりながら、慄く悪魔のおじさん。


 そこにエンジェルと正美の銃撃が再開された。


 今までは回避されていた銃弾だが、今度は当たった。正美の銃が、ネロの頭部を穿つ。


「ふんっ」


 ネロが一声発して自分の頭を叩くと、銃創から銃弾が飛び出てきた。傷口もすぐ塞ぐ。


「ちょっと何あれ。元々銃効かない相手? それなら先に言ってよね。頭にきちゃう。ぷんぷんだよ」


 正美がふくれっ面になりながら銃をしまい、背負っていた銛を手に取った。


「俺達の手に余る上級天使のようだぞ」

「そうでもない。再生能力持ちとの戦いは心得てますー」


 エンジェルも諦めたように銃を下ろしたが、正美は銛を携えて、ネロに向かっていった。


「麻耶の中の悪い血、出て消えろー。ついでに麻耶、真人間になれー」


 伽耶が呪文を唱えると、麻耶の頭部から血が吹き出て、空中で霧散する。


「頭二つで良かった」

「ありがと、伽耶。でも私は元々真人間」

「体内にちょっと入っただけで致命的とか……」

「私達は適している相手かもだけど、それにしてもスリリング」


 伽耶と麻耶が恐々としながら喋る。


「伽耶、麻耶、大きな綿を作りまくれ。そして綿に血を吸い取らせまくれ。吸い取った血は操れなくしろよ」

「はいはい」「オッケー」

「吸血巨大脱脂綿いっぱーい」「強力血吸い綿お出でませー」


 真の要望に応えて伽耶と麻耶が呪文を唱えると、そこら中に大きな綿が大量に現れた


 真を追い回している血の矢の前に、綿が移動し、血の矢が綿に当たる。

 綿が真っ赤に染まる。そして血の矢はそのまま消滅した。


(綿に吸い取られた血は……コントロールできない)

 モニカが顔をしかめる。


「何、あの頭二つ女……。私の血が体内に入って助かった奴を、今日だけで二度も見ることになるなんて……」


 尽く自分の攻撃を防いでいる伽耶と麻耶を見て、これは一筋縄ではいかないとモニカは見た。


「だったら次は乗っ取るとかしないで、速攻で心臓も脳も破壊してやる。いや、全力でいってやるわ」


 モニカが呪文を唱えだすと、禍々しい気配が周囲に立ち込める。


 モニカの足元から間欠泉の如く、血が大量に噴射した。モニカは血で覆われる。

 噴き上がった血が渦巻き、血を直線状に噴き出して、路地裏のあちこちの壁に貼り付ける。一本に伸びた血からさらに直線状に何本も血が噴き出して、壁や地面に突き刺さる。


「うわっ、こっちにも来たっ」


 一直線に伸びてきた血を慌てて避ける熱次郎。まるで血のビームだが、伸びた血はそのまま蜘蛛の糸のように空間に固定されている。そしてそこからまた血が伸びてくる。


「威力も凄いよ。当たったらお釈迦だ」


 マリエが言った。石像で血をガードしようとしたが、石像は血の一撃であっさりと破壊された。


「無差別攻撃」「かなりヤバい。シールド壊れそう」

「これ……勝てると思えない」「量が凄すぎる」

『どうするの?』


 伽耶と麻耶顔を引きつらせながら、次の指示を仰ぐために真の方を向く。


「いや、こいつには弱点あるぞ」


 血の攻撃をかわしながら、真は冷静に告げた。馬鹿な真似をしたものだとすら思う。


「血があいつと繋がっている。血が少ない場合はともかく、これだけの量の血を一度にコントロールするには、切り離して遠隔操作できないって事だ」

『それの何が弱点?』

「電撃を流せ。たっぷり。血で繋がっているから防ぎようもない」

「その手があったかー」

「シンプルだけどナイスな着眼点」


 真に言われ、伽耶と麻耶はぽんと手を叩いた。


「高圧電流よ来たれー」「エレクトリックサンダーライトニング400兆ぼると!」

「いや、そこまでは出せないでしょ」


 麻耶の呪文を聞いて突っ込む伽耶。


 電撃が流れ続け、血の噴射が止まった。


 蜘蛛の糸のように伸びていた血も、全て地面に落ちる。夥しい量の血が路地裏に溢れかえる。

 噴き出ていた血の中から、血まみれのモニカが白目を剥いて現れ、血だまりの中に前のめりに倒れた。


「やった……。一人やっつけた」


 克彦が拳を握って言った直後、怜奈と正美が続け様に吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。


「痛っ……」


 倒れた正美が顔を歪めながら呻く。怜奈はぴくりとも動かない。


「何だこれ……。封じられた……」


 赤い半透明のヴェールのようなもので覆われた熱次郎が、必死で藻掻くが、ヴェールは破れない。空間転移さえできない。熱次郎の視線の先には、宝石をかざすアジモフの姿がある。


「割が合わないな」


 戦況を見て、真が呟く。やっと一人倒す間に、こちらは三人もやられている。その前にも二人やられている。最初にいた転烙ガーディアンの数も含めれば、さらに多いが。


(モニカはあの三人の中で一番弱かったし、どういう力の持ち主かもわかっていた。残った二人はここにいる全員でかかっても、勝てるか疑わしい……と思った所に実に丁度良く来たな)


 先程の克彦達もこんな気持ちだったのかと思いつつ、真は裏路地の入口側の方を向いた。

 裏路地の入口に、四人の男女が立っていた。


「シェムハザ……」


 現れた四名のうちの一人を見て、ネロは目を細めた。

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