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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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26

 対峙する二組。ネロ、アジモフ、モニカのヨブの報酬の残党三名。来夢、怜奈、エンジェル、マリエ、オンドレイ、正美の六名。克彦は亜空間トンネルに潜んでいる。


「ははん、ぞろぞろ来たねえ。しかも餓鬼が多い。子供は大好きよ。破裂させる瞬間が特に」


 モニカが物騒な台詞を口にするや否や、能力を発動させる。


 地面に散らばっているPO対策機構の亡骸の幾つかから、血がアーチを描くようにして一斉に噴き上がった。

 しかしその直後、血のアーチは残らず同時に潰された。


「血を操るの? でも残念。厄介なぜんまいは巻かせる前に潰した。これで空っぽ」


 服を抜きながら、四枚の翼を生やした来夢が宙に浮きあがり、モニカに向かって意地悪い笑みを広げた。


「念動力……とは違うかなあ。空気を操るのか、重力を操るかのどちらかね。重力使いなら、大したことは無いけど」


 モニカが来夢を見てうそぶく。


「破裂とか言ってるし、多分血を操って、その血を体内に入れて、中から破裂させるんだと思う。皆気を付けて」

「中々洞察力のある小僧だ」


 来夢が注意を促すと、オンドレイが感心して微笑んだ。


「それほどでも」

 照れ笑いを浮かべる来夢。


「中年男に褒められたから喜んでるね」

「え? 来夢っておじさんに褒められると喜ぶの? ひょっとしてファザコン? ファザコンの亜種? そういうこと?」


 マリエと正美が言った直後、正美とエンジェルの足元から血が噴き上がった。


「いつの間に……」


 その光景を見て呆気に取られながらも、来夢は即座に重力を操つり、血を地面に落とす。

 落とした血が、なおも動いている。重力で押し潰してもなお、血の動きそのものは止められなかった。


「わかった~? 私の力の方が少し強いってこと。のわっ!」


 にやにや笑うモニカの真横に、モニカそっくりの石像が現れ、モニカめがけて突っ込んできた。


 狼狽して体勢を崩しながらも、モニカは石像のアタックを避ける。


 石像は一体だけではなかった。アジモフの石像とネロの石像も、それぞれが本人のすぐ近くに出現して、襲いかかった。マリエの能力だ。


「ふんっ」


 ネロは素手で石像に殴りかかり、パンチ一発で石像の上半身を粉々に砕いた。さらにキックを見舞って、下半身も破壊する。


「ほう……やるな」

「な、何だい。あの規格外のパワーはっ」


 ネロが石像を破壊する様を見て、オンドレイは嬉しそうに微笑み、マリエは舌を巻く。


 アジモフに飛びかかった石像は、空中で動きを止めていた。アジモフは掌を軽くかざしたポーズを取っている。そして掌には、黄色い宝石が乗っている。

 石像が激しく回転しだしたかと思うと、その形状がぐにゃぐにゃに歪みながら吹き飛び、地面に叩きつけられて破壊された。


「空間使いだ。かなり強い」

 その様子を見て、亜空間の中から唸る克彦。


 エンジェルがネロを狙って銃を撃つ。正美も二秒ほど遅れて、エンジェルに触発されたかのように、モニカを狙って銃を撃った。


 ネロは普通に避け、自分に撃ってきたエンジェルを睨む。


 モニカは避けようとしなかった。銃弾が空中で制止していた。ただ浮いているわけではない。弾が血玉に包まれた状態で浮いて止まっていた。


「何あれ? 血なんかで止められちゃったの? 意味わかんない。ちょっと頭にきたカモ」


 ぼやきながら銃を下ろす正美。闇雲に撃っても意味が無いという事は理解した。それならそれで、機を待てば良いと判断する。一対一の戦いというわけではないのだ。


「あんたらまだ生きていたの? 邪魔よ」


 PO対策機構の生き残りがモニカを銃撃したので、モニカの注意がそちらに逸れる。


 来夢がモニカめがけて重力弾を放ったが、そのどれもがモニカには当たらなかった。それどころか、PO対策機構を押し潰してしまう。


 重力弾によって倒れたPO対策機構の兵士達に、モニカが放った無数の血の矢が突き刺さる。


「また空間を操られた?」

 来夢が掌の上で宝石をかざすアジモフを見る。


「主の盟により来たれ。第十五の神獣、聖火の獅子王!」


 ネロが叫び、ネロの前方に青白い炎が噴き出し、轟然と渦巻く。その炎の渦の中には、全身青い毛皮と鬣を持つライオンの姿があった。


 蒼炎をまとった青獅子が駆け出す。


「随分と獰猛な天使もいたもんだ」


 エンジェルが青獅子に対して銃撃を行うが、効いている様子は無い。青獅子がどんどん迫ってくる。


「天使に例えるには強引すぎだろう」

 オンドレイが青獅子の前に立ちはだかる。


 体の半分以上を青い炎で包まれた青獅子が、大きく口を開け、前肢を突き出して、オンドレイに飛びかかる。

 青獅子の牙も爪も、オンドレイには届かなかった。オンドレイは右手で青獅子の頭部を掴み、左手で青獅子の前肢を一本掴むと、そのまま体を大きく後方にのけぞらせてブリッジして、青獅子の体――頭と背中を地面に叩きつけたのだ。


「ライオン相手にフロントスープレックスとか」

「というか魔神風車固めに近い?」


 克彦と来夢が囁き合う。


 青い炎も浴びているはずだが、オンドレイの体には火傷一つ見当たらない。


「ちょ、超常殺しオンドレイ・マサリクか」


 ネロ自身がオンドレイの前へ、ゆっくり進み出る。


「ふむ。肉弾戦がしたいか?」


 オンドレイが不敵な笑みをたたえて、ネロの前へと歩いていく。


「おおお、ヘビー級対決ですねー」


 アタンクレンジに入るぎりぎりの距離まで進んで向かい合う両者を見て、怜奈が興奮する。ネロも相当な長身かつ巨漢だが、オンドレイと比べると明らかに一回り小さい。


「おじさん達には悪いけど、一対一にこだわるつもりはない。怜奈も手出しして」

「了解っ」


 来夢に指示を出され、怜奈もネロのいる方へと移動する。


 先にオンドレイが踏み込みんだ。巨体に似合わぬ速度で、太い腕が突き出される。


 いきなり見舞われた渾身のストレートを、ネロは眉一つ動かさず弾いた。避けたわけでもガードしたわけでもない。片手を内側から大きく払って、突き出された腕の手首を下から弾き飛ばした。


 衝撃はオンドレイの胴にまで伝わり、体勢が大きく崩れる。

 ネロはその隙を見逃さず、ローキックを放ってオンドレイの脚に痛打を浴びせる。オンドレイは足をすくわれ、半ば尻もちをつくようにして倒される。


「ハシビロ魔眼!」


 オンドレイが倒れ、ネロと偶然目があった怜奈が叫び、ヘルメットの目を光らせた。


 ネロの動きは全く止まらず、オンドレイの厚い胸板に、サッカーボールキックを浴びせた。真に放った時は加減していたが、今度は手加減抜きだ。オンドレイは大きく身をのけぞらせ、地面に大の字に倒れる格好となった。


「き、効かないっ。抵抗レジストされましたよっ」

「動揺してないでさっさと加勢して」


 慌てふためく怜奈に、来夢が冷たく告げる。


 倒れたオンドレイに追撃しようとしたネロであったが、思い止まった。


「ハシビロフラァーイ!」


 叫び声と共に、二階分以上の高さまでジャンプした怜奈に、ネロの視線が向く。


「ハシビロダーイブ!」

 怜奈がネロめがけて滑空する。


「はうあ!?」


 素っ頓狂な叫び声をあげる怜奈。周囲の風景が歪み、体中に違和感を覚えたかと思ったら、滑空していたはずなのに、何故か体が垂直に上昇し始めたのだ。


「あの男の仕業だ。ここぞという所で上手いことフォローしてくるな」


 克彦がまたアジモフを見る。アジモフは掌に宝石を乗せてかざしている。空間を歪めて、怜奈の軌道を大きく狂わせたのだ。おまれに推進力も加速させて、はるか上空へと飛ばしている。


「邪魔が入ったが……」


 オンドレイが口から血を吐き出しながら、獰猛な笑みを張り付かせて身を起こす。歯が真っ赤だ。ネロの注意が怜奈に向いたその瞬間に出来た僅かな猶予を、逃すことは無かった。


 ネロの視線がオンドレイに向くと、オンドレイは怒涛の勢いで、至近距離からネロめがけて低空タックルを仕掛けた。


「おかげで助かった!」


 体重差とパワーと不意を突いた勢いでもって、ネロを押し倒そうとしたオンドレイであったが――

 オンドレイは目を剥いた。それは生まれて初めてというわけではないが、随分と久しぶりな体験であった。


 オンドレイの体はネロにしっかりと受け止められ、さらには上から覆いかぶさるようにして潰された。

 完全なパワー負けだった。力で自分を上回る者が現れるなど、実に久しぶりの体験だ。体格はオンドレイの方が一回り大きいにも関わらず、ネロの力は、オンドレイの力を遥かに上回っている。


「むんっ」


 ネロが一声唸ると、オンドレイの胴に両腕を回し、腹の前で両手をしっかりと掴み、オンドレイの体を掴んだまま身を起こす。オンドレイの巨体を軽々とぶっこ抜き、頭を下にした状態で抱え上げる。

 次の瞬間、ネロは軽くジャンプして、自身の体を回転させながらオンドレイの頭部をアスファルトに突き落とした。


 ネロが両手を放し、頭を軸にして、オンドレイの体がゆっくりと倒れた。再び大の字になる。白目を剥いて、頭からは血が噴き出している。


「嘘でしょ……。あのオンドレイさんが肉弾戦で負けちゃったよ。しかもパワー負けだよ。こんなの見たくなかったよ、私。信じられない。信じたくない」


 オンドレイが敗北する瞬間を見て、正美が呆気に取られた顔で言ったその時、オンドレイによって投げられた青獅子が復活し、正美とエンジェルのいる場所めがけて駆けてきた。


 マリエが石像を出し、正美とエンジェルを護る。


 エンジェルは青獅子を、正美はネロに向かって銃を撃つ。


「あはははは、超常殺しとか、名前だけ大それた雑魚専だったあ? あははははっ」


 モニカが耳障りな声で笑うと、呪文を唱え始めた。


(術師だったんだ。そして今までと違って呪文をちゃんと唱えるってことは、それなりに強い術を使うってこと)


 来夢がモニカを見て身構える。


「ふっかーーーっつ!」


 怜奈が叫びながら、ネロめがけて落下する。


「む……」


 正美の銃撃に気を取られていたネロは、怜奈の一撃を避けられなかった。


「不覚……」


 怜奈と折り重なって倒れる格好となったネロが呻き、すぐに立ち上がる。


 モニカが来夢の力を利用して倒したPO対策機構の兵士の遺体から、血が盛り上がっていく。兵士の体内の血が全て外に出されたかのような量だ。そしてそれは血で出来た五体の人型となり、全員が弓矢をつがえたポーズになる。狙いは全員来夢だ。


 血の矢が一斉に放たれた。


 しかし矢は来夢に届く前に全て同じ地点で勢いよく落下し、アスファルトの上で潰れて広がった。来夢は眼前に重力壁を作っていた。

 先程の重力弾では血を潰しきれなかったが、今回は完全に潰して動きをとれなくしている。出力を大分上げている。


「あは。やるじゃん。その背中から生えた四枚の何かで、重力制御しているんだね」


 モニカが言い当てるが、来夢は動揺しない。解析したのだろうと見なす。


「来夢! 後ろだ!」

 克彦が叫び、黒手を展開した。


 来夢の後方から飛来する、十匹の血のトビウオ。五本の黒手がそのうちの六匹を弾いたが、残り三匹が来夢の翼を二枚破壊し、一匹は来夢の背中に突き刺さった。


 驚愕の表情で落下し、うつ伏せに倒れる来夢。


「来夢!」


 克彦が大急ぎで黒手で来夢を絡めとり、亜空間トンネルの中へと運ぶ。


「そんな……来夢が……」

 マリエが小刻みに震える。


「あはははは、やっぱり餓鬼だねえ。私が血を操るって気付いていたら、後ろも警戒すべきでしょ」


 その様を見て、モニカが甲高い声で笑う。


 モニカは壁伝いにこっそりと血液を大量に移動させていた。視界に入りづらい程の小粒サイズでの移動だ。そして死角に移動させた所で、血液を集めて、不意打ちをかます。モニカにとって、わりと疲れる術だが、効果はいつも覿面だ。


「空間使いが潜んでいるな」

 アジモフが呟くと、青い宝石を指弾で弾く。


「うあっ! 何だ!?」


 亜空間トンネルの扉が強引に外から開けられて、克彦と来夢が引きずり出された。


(黒手で誘わない限り干渉不可なはず……いや、単純に俺以上の力ってことか……)


 アジモフを睨み、戦慄する克彦。


「私、言ったよねえ? 餓鬼が破裂する所が好きだって」


 モニカが来夢と克彦を見てにたりと笑う。


「あっぐ……」

 来夢が倒れたまま苦悶の表情で呻く


「何を……」

「私の操る血が、もうその子の体内に入ってるのよ。つまり、中を好き放題シェイクできるし、引き裂くことも出来る。動脈に栓をする事も出来る。でも安心していいよ。宣言通り、破裂させてあげるから」

「やめろ……やめてくれえっ!」


 泣き顔になって、身も世も無い叫び声をあげる克彦。体内に血が入った時点で、もうこれはどうにも出来ないと悟っていた。


「あははは、残念。もうどうにも出来ないのよね~」

「――だ、そうだ。どうにかしろ。今回は具体的指示出さなくても、簡単だろ?」


 モニカが気持ちよさそうに叫んだ直後、その場にいる多くの者にとって聞き覚えのある声が響いた。


「来夢の内に潜みし忌まわしき血よ、去ね」「悪い血は消えてなくなれー」


 二人の少女の声が同時に響くと、来夢の傷口から血が飛び出て、空中に溶けるようにして消失した。


「は……?」


 絶対に破られないと思っていた自分の術があっさりと無効化され、モニカは大きく目を見開き、ぽかんと口を開けていた。

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