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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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24

 デビルは勤一におぶられた状態で、移動していた。


「何かすっかりしょげちゃってるわね」


 勤一の背でぐったりとしているデビルを見て、凡美が言う。


「何があったのか知らないけど、ショック受けて塞ぎ込んでいるこいつの姿は新鮮だな。これまでのイメージに無いというか」

(好き勝手言ってくれている……)


 そう思うデビルだが、勤一の台詞に反論する気力も無かった。

 ただ敗北しただけなら、気力を根こそぎ失うほどショックを受ける事も無い。みどりにオーバーデッドとしての特性を消された事が原因でも無い。


(僕は……犬飼に飽きられ、切り捨てられた。そういうことなんだ)


 改めて実感し、喪失感と絶望が押し寄せてくる。

 先程は怒りも生じていたが、今はその感情は無い。怒りに代わって喪失感が胸を占めていた。


「飽きた玩具はどうする?」


 勤一の背でぴくりとも動かず、何もしゃべらなかったデビルが、口を開いた。


「捨てるか、あるいはずっとしまったままになるな」

 勤一が答える。


「僕の場合、最後に壊して遊ぶ。ずっとそうしてきた。壊れた玩具は作り直して遊んで、それで飽きたらまた壊してみる」


 それは実に楽しい遊びだった。しかし――


「僕は飽きられた玩具になった」


 今や自分がその立場になった実感し、哀しさが怒涛の如く押し寄せ、デビルは落涙する。


(泣いてる? この子がこんな風になるなんて、一体何があったの?)


 デビルの涙を見て、凡美が眉をひそめる。


「取り敢えずそこに運んで休まない? 市の研究施設だし。デビルの様子もおかしいから、診てもらえるかも」


 側にある工場を指す凡美。空の道を使って闇雲に逃走して、今いる場所は偶然辿り着き、潜伏できそうな場所を探っていた。現在PO対策機構とは同盟を結んでいるので、市庁舎に連れて行くのも不味いと判断した。


「今話題のクローン製造工場か」

 勤一が建物を見て呟く。


「責任者のワグナー教授は、転烙市側とちょっと揉めているし、丁度よくない?」

「なるほど……」


 凡美の計算に感心する勤一。


 二人が工場の敷地内に入り、受付で身元を明かして、ワグナーに会わせて欲しいと訴える。

 しばらくしてワグナーが出てきた。


「転烙ガーディアンの方ですか。お二人とも、見覚えありますね。おや? そこの君も見覚えが有ります。一昨日クローン作りの依頼に来ましたね」


 ワグナーが勤一におぶられたデビルを見る。


「デビル、知ってる人か?」

 勤一が問うが、デビルは無反応だ。


「苦しそうですね。それにその様子、追われているのですか? 現在は転烙市とPO対策機構は一時休戦中だと聞いていますが、只事ではなさそうですね」

「休ませて欲しいし、それにこいつの体を診断してほしい」

「板挟みの立場だからこそ、私を頼ったという事ですか。わかりました。どうぞこちらへ」


 ワグナーは若干複雑な表情になって、三人を施設の中へ迎え入れた。


 実験室ラボの中で、ワグナーがデビルの治療を行い、その後様々な検査を行う。ワグナーはしきりにデビルに声をかけたが、デビルはほとんど反応しなかった。


「ショックなことがあったようで、それがすっかりおかしくなっちゃってるみたいなの」

「なるほど。私も最近ショックなことがありましたし、消沈仲間ですね」


 凡美の言葉を聞き、ワグナーはデビルを見て力無く笑う。


「人の体のようでいて、人の体ではない。そもそも細胞組織が生きているようで生きていない。この子は何なのですか?」

「俺達もよく知らない」


 ワグナーの問いに、勤一が答える。


「まあ、調べ甲斐はありますね」


 クローン製造販売の代わりにはならないだろうが、とんだ神の思し召しを授かったかもしれないと、ワグナーはそんな予感がしていた。


***


 犬飼は勇気の滞在するホテルに訪れ、勇気、みどりの二人と対面した。


「あらら、取り逃したのか」


 犬飼が息を吐く。そうなる可能性も考えていたので、落胆もしていないし焦燥も動揺もない。


(デビル、俺が用意したサプライズはどうだった? 楽しんでくれたか? 今度はお前が俺を楽しませてほしいが、お前にそれが出来るかな?)


 ロビーの破壊された跡を見ながら、犬飼は心の中でデビルに問いかける。


「すまねー、せっかく犬飼さんが策を立ててくれたのにさァ」

「気にするな。次があるさ」


 申し訳なさそうに言うみどりに、犬飼は笑う。


(いいねえ。デビルはこれで俺に疑いを持つ可能性大だ。それはわかっていた。失敗したらそうなるってことはわかっていた)


 承知したうえで、犬飼はデビルをハメた。何のためにか? それが楽しいからだ。


(久しぶりの命をチップにした賭けだ。デビルが次どうするか。俺の前に来るか? 俺を問答無用で殺すか? あるいはその前に会話があるなら、俺は切り抜ける事もできるか? うん、できれば切り抜けたいが、そのためにはどうしようか? ああ……もう考えると楽しくて仕方ないぜ)

「何にやにや笑ってる」


 上機嫌で、うっかりにやけ笑いが出てしまった犬飼に、勇気が不機嫌そうな声をかける。


「次がある? もう何度襲われていると思ってる。うんざりだ」

「まあまあ、生きていただけでめっけものだろう」


 吐き捨てる勇気を、犬飼が笑顔のままなだめる。


「みどり、ちょっと頼まれてほしいことがあるんだが」

「何よ~。どーせろくでもないことだべー」

「あのな……」


 露骨に勇気の目を気にして、犬飼はみどりの耳元に顔を寄せて、ひそひそと囁いた。


「俺の前で堂々と口にできないことか」


 勇気が憮然として言ったその時、みどりの顔色が劇的に変わった。


(ふえぇ~……犬飼さん、デビルと繋がってたのかよォ~。しかもそれでいてデビルをハメてたんかーい。デビルを切り捨てるつもりって……)


 流石のみどりも、犬飼の口から告げられた真実は衝撃的だった。犬飼はデビルとの関係を全てぶちまけたうえで、みどりにある頼みをした。


(勇気、耳がよかったら、今の話が全部聞こえていただろうけど、この様子じゃ聞こえてねーか)


 勇気の表情に変化が無いことを見て、犬飼はそう判断する。勇気はポーカーフェイスをするようなタマではない。かなり感情にストレートだ。


 みどりから顔を離すと、犬飼は電話をかける。


「優、ちょっと頼まれてほしいことがあるんだが」


***


 輝明、修、ふくの三名は新居の滞在するホテルの部屋にいた。


「ニーニー、今後俺達はどうすりゃいいんだ?」

「PO対策機構と転烙市は一時休戦だから、ヨブの報酬と戦うことになるな。まあ、お前達に出番があるかどうかはわからなねーけど」


 輝明の問いに新居が答える。


「援軍は僕達だけ? じゃないよね」

「まさかな。東京から援軍は次々と送ってくれている。ま、あてに出来そうな奴は限られているが」


 修の問いに新居が答える。


「祭りってのは明後日からなんだけ? それまでにヨブの報酬と決着つけないと、彼等が何かヤバいことをしてくるのよね?」

「そう見ていいだろうな」


 ふくの問いに新居が答える。


 電話がかかってきて、新居が取る。

 電話の相手が何を言っているか、新居以外には聞こえなかったが、新居の顔が目に見えて険しくなっていた。


(ニーニーはわりと顔に出るタイプだけど、それにしてもこれはヤバそうだね)


 新居の表情の変化を見て、修が思う。


「何があったんだよ?」


 電話を切った新居に、輝明が尋ねる。


「貸切油田屋からの連絡だ……。この転烙市内に、反物質爆弾が転烙市に持ち込まれた可能性が高いんだとよ。仕入れたのは当然、ヨブの報酬だろうな」

「俺達逃げ出していい?」

「駄目よ。食い止めるために頑張らないと」


 新居の報告を聞いて、輝明が半笑いになっておどけた口調で言ったが、ふくが真顔でぴしゃりと制した。


***


 美香と熱次郎とクローンズは、真、ツグミ、伽耶、麻耶の元に戻り、ワグナーとのやり取りの報告を行った。


「傍から見れば丁度いい落し所、当人達からすれば納得できないけど無理矢理飲み込んだと、そんな感じだな」

「その通りだ!」


 真が言うと、美香が如何にも不承不承という顔で叫ぶ。


「つーかそういう構図になっちゃっていることが、一段と腹立つわ」

「そうするしかないとはわかっているけどね」


 二号と十一号が言う。


「ワグナーって人はそれを全て飲み込んだの?」

「飲み込んだ振りして、また他所の所行って同じことしそう」

「表面上は飲み込んだし、他所に行ってどうこうは、流石に純子達は責任持てないだろう! 例えば他国に行って同じことをしたとしても、私達は他国まで追い回したくもない!」


 伽耶と麻耶の言葉に対し、美香は正直に思う所を述べる。


「新居からとんでもない連絡が入った。貸切油田屋からの情報で、反物質爆弾がこの転烙市に持ち込まれた可能性が高いらしい」

「ええっ!?」

「何だと!」


 真の報告を受け、熱次郎と美香が叫ぶ。他の面々も驚愕の表情になっている。


「確か地球壊すレベルの凄い爆弾だっけ?」

「地形を変えるレベルだから、全壊とは言わなくても、多少は壊しますね」


 ツグミが伺うと、十三号が答えた。


「テオドール、それは本当なのか?」


 熱次郎がすぐさまテオドールに直接電話をかけて問う。


『日本国内に持ち込まれたのは間違いない。転烙市にまで運ばれたかどうかは未確認だが、その可能性は非常に高いな。あんなものをこのタイミングで日本国内で必要とするのは、ヨブの報酬以外に考えられないだろう』


 テオドールが答える。


 一方で真は純子に電話をかけ、貸切油田屋からの情報を伝える。


「お前の推測が当たっていたみたいだぞ」

『話を聞く限り100%断定ってわけじゃないけど、ほぼそれに近いよねえ』


 純子もテオドール達と同じ考えだった。


「ネロ達の所在はまだ掴めないのか?」

『向こうも警戒しているみたいでさあ』


 真が伺うが、純子の口からは芳しくない答えが返ってきた。

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