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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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 アメリカにある貸切油田屋本部。幹部達の約半数がリアル、半数はオンライン越しに集まり、転烙市の件について会議を行っていた。


「ヨブの報酬が実質上壊滅するとはね……」

「それは雪岡純子ではなく、スノーフレーク・ソサエティーの仕業と聞いたが」

『都市一つの文明を、オーバーテクノロジーレベルで発展させるとはな。雪岡純子はこの時のために、今までずっと準備をしていたという事かな?』

「彼女にこれ以上、この世界を好き勝手にいじらせるわけにはいかん」

「最悪の事態となったら、ミサイルで都市ごと吹き飛ばす事も考慮していただかねば」

『最悪の事態とは何だ? 具体的に述べろ』

「世界レベルで大きな影響が発生する事です。半年前の覚醒記念日のように」

「壊滅的被害がもたらすなら検討する。しかしその程度では容認できない」


 最後にきっぱりとそう告げたのは、今や貸切油田屋の実質上のリーダーである、テオドール・シオン・デーモンであった。

 身内だけの場なので、幼児の姿でいる。この姿の方が本人にとっても周囲にとっても落ち着ける。


「都市を壊滅させることを私が反対する理由に、私情が無いと言えば嘘になる。あそこには私の友人が沢山いる。友人の一人はこの事態を引き起こした張本人で、他の友人は、それを止めようとしている」


 テオドールが口にする事態を引き起こした友人とは、純子を指している。


『外から攻撃するとしたら、赤猫の電波とやらを発信している塔を全て破壊することだな』


 そう言ったのは、貸切油田屋日本支部を取り仕切る幹部ハヤ・ビトンだ。日本から繋いで会議に臨んでいる。


『一瞬だけ赤猫電波とやらが遮られたが故に、外に情報を発信出来た。しかし赤猫とやらのおかげで、外に情報が出せないままでは、中と連絡が取れないままだ』

『日本政府に要請し、軍隊を動かそう』


 ビトンが言うと、ビトンと同じく日本にいるラファエル・デーモンが促す。


「いや……表の軍隊が動かされた時の対策も、していそうな気がするがな。考え無しに、一つの都市の文明を進めるなどという、大それた真似は出来ないと思う」


 と、テオドール。


「大それたどころではないですけどね。異次元の御業だ」

 幹部の一人が言った。


「今、転烙市内にはPO対策機構が入り込んで対処に当たっているのだし、我々はバックアップに徹した方がいいと思う。彼等の要請に従う程度に留めておこう」

『それは些か悠長な気もするがな。まあ……君の考えを尊重しよう。テオドール』


 テオドールの方針を聞いて、ラファエルが微笑を浮かべながら、他の幹部達に対して機先を制する格好で支持する。テオドールのこの決定には、否定的な考えを持つ者も出てくるだろうと読んでのうえでの配慮だった。


『『妊婦にキチンシンク』に潜ませているメンバーより連絡が入りました。また日本に反物質爆弾が持ち込まれたそうです。持ち込まれてからの経路は不明とのこと』


 幹部の一人が報告する。


「このタイミングでか……」

『断定はできないが、転烙市で使われる可能性が高いな』

『使う者が誰であるか――実にわかりやすい』

『この状況でそんなものを使うとしたら、追い詰められたヨブの報酬の残党以外にないな』

「馬鹿な……転烙市だけでは済まんぞ。日本の大部分が吹き飛ぶ」


 会議室がざわつく。


「テオドール、本当に関与しなくてよいのですか?」

 幹部の一人が確認する。


「関与しないとは言っていないだろ。協力はする。それに……大っぴらに軍隊を動かすという手は、これまで以上にやりづらくなった。そんなことをしたら、いつ反物質爆弾を使うかわからない。爆破させるためではなく、交渉のために持ち込んだ可能性もあるし……」


 歯切れの悪い口調で言うテオドール。正直な所、どの手を打てば良いのか悪いのか、正解はわからない。


「こうなったら俺自ら乗り込んで……」

「それはおやめください」


 テオドールが口にした台詞に、幹部達がぎょっとする中、側近であるマリオがやんわりと制した。


 結局、消極的な案しか出る事無く、会議は終わった。


***


 正午過ぎ。転烙市のローカルテレビ局にて、悶仁郎から発表があった。クローンの販売に制限をかける決定の発表だ。

 市庁舎内の研究所にて、純子、累、綾音の三名で、悶仁郎の放送を視る。どう制限するか、具体的には詳しく触れていない。熱次郎が提案した内容をそのまま口にしているだけだ。


「ワグナー教授は納得されたのですか?」

「表面上はねー」


 綾音が尋ねると、純子が表情を曇らせる。


「ワグナーからすれば隋分な話ですし、純子や転烙市サイドに対して、かなり不信感を抱かれたのではないですか?」

「んー……美香ちゃんや悶仁郎さんも歩み寄ったつもりでいるし、ワグナーさんも仕方なく飲み込んだ感じ。ウィンウィンではなくて、ルーズルーズな構図に見えちゃうな」


 累に言われ、純子が腕組みして小さくかぶりを振り、苦しそうに印象を口にする。


「今後ワグナーは注意した方が良いですよ」


 累が忠告する。組織に不服を抱いた時点で、不穏分子になりうると訴えている。


「私達が原因でワグナーさんをがっかりさせちゃったのに、その後は裏切る可能性もあるからって、警戒しておかいといけないなんて、私的には嫌だなあ。ま、裏切られたら、それはもうしょうがないと思っておくよ」

「そうも言っていられないと思いますよ。純子さんが嫌でしたら、私が監視役を受けもちましょうか?」


 綾音が申し出る。


「誰がやるやらないとか、そういう問題じゃないんだけどなあ。でもまあ、せっかく綾音ちゃんが言ってくれたんだから、甘えちゃうね」

「はい。お任せください」


 苦笑気味な純子に対し、綾音は真顔で言った。


***


「ここに来てPO対策機構と一時休戦か……。何だかなあ」


 歩きながら、釈然としない面持ちでぼやく勤一。


「仕方ないわ。ヨブの報酬の残党の方がよほど厄介なんだし、転烙市とPO対策機構にとって、共通の敵になったんだから」


 隣を歩く凡美が、周囲をきょろきょろと見回しながら言う。


「どうしたんだ?」

「ちょっと……知っている人の気配っぽいんだけど」


 凡美が右手を変形させた棘付き鉄球を見せる。鉄球についている棘が伸びたり縮んだりしている。


「鉄球にレーダー機能がついたっていう感じね」

「凡美さん、そんな能力身に着けていたんだ」

「これ、デビルだわ。あの辺にいる。近くを移動している」


 凡美が車道を挟んだ向かいの歩道を指す。

 デビルの名を聞き、勤一は今しがたの話題を思いだした。


「あいつは一時休戦とかお構いなしに何かしそうだな」

「そんなに早くないし、追ってみましょ」

「ああ」


 凡美が促し、勤一と凡美はデビルの後を追った。


***


 デビルは犬飼から情報を授かり、移動していた。目的は相変わらず勇気だ。

 PO対策機構側にいるので、勇気の行動はある程度なら把握できる。そして今回は居場所を聞いただけではない。


(最初から犬飼にその情報を貰えればよかったけど、まあ仕方ない)


 犬飼は言っていた。当初は自陣営のボスである勇気を殺されることを不味いと思っていたが、今は考えが変わったと。

 そして犬飼は勇気が護衛をあまりつけない時間帯を教えたうえで、味方陣営にもできるだけ悟られないための秘密会議を行うため、呼び出しをかけたと言っていた。デビルのために隙を作ってやったと。


(もっと普段から犬飼を頼るべきなのかもな。僕の中の変な対抗心が邪魔している)


 天邪鬼な気質故に、頼れる相手にも素直に頼れないデビルである。


(犬飼の側にいると心が落ち着く。彼の考え、彼の話、とても面白い。興味深い。僕に新鮮な発見、喜びを与えてくれる。だからこそ……天邪鬼な僕は、付かず離れずになる)


 移動しながらそこまで考えた所で、デビルは目的地に到着し、勇気を発見した。

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