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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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18

 その日も白禍ホツミは、朝一番で転烙幻獣パークを訪れていた。


 普段と変わりなく、地球上の自然界には存在しない動物達と戯れるホツミであったが、異変は急に発生した。

 ホツミの周囲に集まっていた、一本角を生やした毛むくじゃらの猿のような小動物達が、一斉に身を寄せ合い、震えだしたのだ。ホツミの側にいた二匹は、ホツミにしがみついて震えている。


「どうしたの? 皆?」


 何に対して恐怖しているのかわからないが、何かに激しく怯えている猿もどき達の反応を見て、ホツミは訝りながら周囲を見渡す。


 変化は他にも見受けられた。他の動物達もおかしい。丸っこい体型の飛べない鳥が、一斉にギャーギャーと喚きながら駆け回り始めた。柵の中にいる大型の四足獣も、叫び声をあげてせわしなく首を振っている。背に貝のような甲羅を持つ二足歩行の動物は、揃って甲羅の中に引っ込んで震えだした。


「一体どうしたんです? 動物達が一斉に」

「わかりません。こんなことは初めてです」

「地震でも来るのかしら。それを動物達が予知して……」


 係員や客達が、動物達の異変を見て動揺している。


「これって……」


 地震でも来るのかと口にした客の台詞を聞き、ホツミの脳裏にある人物が口にした台詞がよぎる。


(イヒッヒッヒッヒッ、動物は人間が忘れた本能があるもんさね。例えば運命が変わる瞬間を読み取ることが出来るんだよ)


 いつも家畜を従えて歩く老婆阿部日葵が、ホツミの前で口にしていた台詞。今、それが正に発生したのではないかと、ホツミは思った。運命の分岐点。何か途轍もなく悪い事態に、世界が傾いたのではないかと。


***


 ホテルのロビーに、鈴音、勇気、季里江、雅紀、ジュデッカ、カシムで集まってミーティングしていた。


「そういや政馬はどうしたんだ? 全然姿見せねーな」

「知り合いが来て、そいつらと遊びに行った」


 カシムの問いに勇気が答える。


「今後の方針決める大事な会議で、あいつがいないってなあ……」


 釈然としないものを感じつつ、カシムがぼやく。


「俺がいるから問題無い。お前達の頭は今は俺だ」

「ま、その分政馬も自由が利くし、負担も減ったよな」


 勇気が高圧的に告げると、ジュデッカが微笑を零して言った。


「な……」

 その時、突然鈴音の顔色が変わった。


「嘘……そんな……」


 すぐ隣に座っている勇気を見て、愕然とした表情になって震えだす鈴音。


「どうした? 鈴音」

「顔真っ青じゃん」

「嫌だあああっ! 嫌ああああぁぁっ! そんなの嫌だァァ!」


 勇気と季里江が不審がった直後、鈴音が大声で泣き喚き始めた。


「落ち着け。どうしたんだ? 説明しろ」


 只事ではないと見て、勇気は鈴音の両肩に手を置き、顔を寄せて耳元で柔らかい声で囁き、気を鎮めようとする。


 一同が固唾を飲んで見守る中、数秒間、鈴音はがたがたと震えたままだったが、やがて口を開き、再び叫んだ。


「勇気に……死相が見えるっ! 勇気だけじゃないっ! 季里江にも、雅紀にもジュデッカにもカシムにも、皆に!」


 鈴尾との叫びを聞き、全員が顔を見合わせる。


「ホテルの受付の人も……ああ……そこのお客さんにも、全員に死相が浮き出てる……。皆、近いうちに死ぬ……。何かとんでもないことが起こって、皆死ぬ……。それを止めないと……」

「おい、こいつイカれてるのか? それとも予言者か?」

「馬鹿は黙ってろ」


 絶望の顔で喋る鈴音を見てカシムが茶化し、勇気が冷たく言い放つ。


「鈴音は昔から人の死を予兆できるんよ」

「なるほど。でも信じたくない話だな、それは……」


 季里江が解説すると、カシムは苦笑いを浮かべた。


「鈴音、少し町に出てみろ。通行人にも見えるか試してみろ」

「うん……」


 勇気に促され、鈴音はホテルの外に出て、そこで絶句した。


「どうだ? 同じか?」

 勇気が鈴音にぴったりと寄り添って伺う。


「うん……。皆……見える。誰も彼もに死相が出てる……」


 呆然とした顔で鈴音が告げる。先程に比べて少し落ち着いた。


「つまり、都市全体がピンチになるってことか。あるいはもう、ピンチになっているのか?」


 それは意図的に引き寄せられるものではないかと勇気は直感し、都市壊滅規模の破壊を引き起こす何者かに対し、強い敵意を抱いた。


***


 転烙市内の鳥達が一斉に飛び去っていく。

 みどりはホテルの窓からその光景を見ながら、濃厚な死の気配で転烙市全体が覆われていることを察知していた。鳥達も、自分と同じ気配を察知したのだろうと思う。


 真と純子の両方に同時に連絡する。


「真兄、純姉、聞いてっ。超異常事態発生だぜィ。それが何なのかわかんないけどさァ」

『私と真君と同時に訴えてるってことは、只事じゃなさそうだねえ』

『わかっているだけでいいから話せ』


 みどりが呼びかけると、純子と真の映像が映し出され、声が返ってきた。


「今のみどりには、死を読み取る力があるんだわさ。死を司る力もね」


 それはかつて失っていた前世の力であるが、今のみどりは意図的にそれを復活させた。真の魂の底に眠る嘘鼠の魔法使いと接触した事で、復活させる事が出来るようになった。


「だから見えるんだよォ~。都市全体に死の気配が満ちているのがさァ。まるで巨大な死神が空から見下ろしているような圧を感じるんだわさ。近いうちに、転烙市にいる全員が、死神に招かれて冥府にご招待されちゃうんだよぉ」

『もしかして、貸切油田屋がミサイルで……?』

『んー……それはちゃんと対策してあるよ。『月読』ですぐ迎撃するようにしてあるしさ』


 真が口にした可能性に対し、純子が述べる。


『考えられるケースは、BC兵器を使って皆殺しとか、そんなんかんなあ。貸切油田屋ならそれくらいはやりそう。都市全域に撒くだけの量を用意できる組織や国となれば、限られてくるけどね』

「ヨブの報酬はどうなん? 何かこそこそやってるって話じゃんよー」

『あのネロがそんな非道な行為を? 考えにくいな』

『いや……ネロさんは、多分やるよ。付き合い長いし、わかる』


 真が懐疑的になるが、純子はまたしても真の言葉に否定的な言動を取る。どちらの組織も、都市を一つ壊滅させるほどの事は、これまで何度もやってきた事を純子は知っている。


「ふぇ~、何で都市ごと皆殺しにしなくちゃならないって話だよォ~」


 みどりが顔をしかめる。


『貸切油田屋がやるとしたら、都市そのものを脅威と見なしてだろうね。ヨブの報酬も同じだけど、ヨブの報酬はそれに上乗せして、教義の問題もあるよ。あの組織からすると、超常の力そのものが、神の法と摂理に反する悪であり、能力者は自分達の傘下に降った者だけ、認められるっていう教義だからね』

『つまりヨブの報酬からしてみれば、転烙市はソドムかゴモラみたいなものか』


 純子の話を聞いて、真が言った。そして神に代わって神の如く勝手な処罰を下そうとしている事に、憤りを感じる。


『ネロさん達、支柱代わりに陣を築いて、結界を張っているって言ってたねえ。今、うちの優秀な術師が解析している所なんだけど』

『ヒィ~ヒッヒッヒッ、結界の謎が解けたよ。タイムリーだったね』


 純子が言うと、日葵の声が響き、映像の中で純子の後ろに姿を現した。


『あの結界は空間を遮断する壁を築くものだよ。おそらくは転烙市全体を覆って、転烙市と外を隔絶することが目的だろうねえ。そんなことしてどうなるっていうのか、そいつはわかんないが、きっとろくでもないことだろうさ。フェッフェッ』

『幾つかケースは考えられるねえ』


 外界と遮断する結界と聞いて、純子はすぐにその意味を理解する。


『私の推測通り、毒素や細菌やウイルスを撒いて都市ごと全滅させる作戦。この場合それらを転烙市の外に出さずに、被害を都市内に留めさせるため、そして濃縮させるためという目的かな』

『ウヒィ~ヒッヒッヒッ、御久麗の森のように、外部と隔絶した空間にしてしまい、自由に行き来を出来なくするためかもしれんぞ。ま、その場合は多少人道的かの』

「ふわあぁ~……食料もエネルギーも供給が制限されちゃうし、それはそれでしんどいべー」


 日葵が口にした可能性の方がより凄惨であるように、みどりには感じられた。


『あるいは反物質爆弾を爆発させて、転烙市だけを消滅させるためかもねえ』


 と、純子。


『反物質爆弾か……』

 かつての反物質爆弾奪い合い騒動を思いだす真。


『普通に爆発させたら、転烙市どころか、日本の大部分に甚大な被害をもたらすから、破壊のエネルギーが外に出なくするために、転烙市を空間の壁で隔絶するための結界で覆うとかさ』

「BC兵器が外に漏れなくするのと同じ発想だよぉ~」

『転烙市壊滅の危機がヨブの報酬の仕業と断定はできないが、最重要マーク対象と見なしていいんじゃないか?』

『そうだねえ』


 ここまでの会話の流れを聞き、みどりはある考えに行き着く。


「ヘーイ、真兄も純姉も、今は一時休戦して手結んだ方がいいんじゃねーの?」

『僕もそう思っていた所だよ』


 みどりが提案すると、真はあっさりと受け入れ、純子を見た。


『私はそれでいいけど。んー、PO対策機構は納得する? みどりちゃんの力を明かすのもアレだしさ』


 純子が真の方を見て伺う。


『みどりのことは秘匿しておくさ。あるいは上手く誤魔化す。いや……勇気にならみどりのことを話しても平気だろうし、それに勇気と新居なら、納得してくれるだろう。多分』


 その二人が納得するだけで話は進められると、真は踏んでいる。

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