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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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17

 一夜が明け、転烙魂命祭まであと二日となった。

 午前十時。霧崎とワグナーと日葵は、勤一と凡美と浜谷と共に、昨日ヨブの報酬の残党と遭遇した場所に赴いた。


「ここです」


 道の脇を指す浜谷。街路樹の下の目立たぬ場所に、宝石が幾つか置かれている。調べてもらうために、そのままにしてある。


「強い力の残滓を感じるが、これは確かに私より日葵さんの領域だな」


 霧崎が日葵を見る。


「フェッフェッフェッ、どれ、リクエストにお応えしてやるかの。ふむふむ……霊的磁場が半端なく強い。ふむふむふむ……なるほど……。これはこれは……」


 置かれた宝石と、その周辺を解析する日葵。


「陣か……。いや、結界を張っているといった方がええ」


 鼻を鳴らし、日葵は宝石を蹴り飛ばした。これだけで、陣は容易く解除される。


「日本の術ではないな。西洋魔術じゃ」

「西洋の術にも精通しておられるのですか?」


 ワグナーが問う。


「西洋の術であろうと、結界術の類に変わりはないわい。規模からいって、転烙市全体に作用する強大な儀式魔術を用いるつもりじゃろうな。フュフュフュ……しかしこれは、禍々しい類の術ではないぞ。邪気の類は全く感じぬ」

「どのような術をかけているかまではわからないのかね?」


 今度は霧崎が問う。


「ウヒ~ヒッヒッヒッ、支柱となる一つの陣を見ただけでは、わからぬな。あと幾つか見れば、読み解くことも出来るかもしれん」


 日葵が浜谷達のいる方を向く。


「他にも何ヵ所か見つけてあるので案内します」

 浜谷が告げた。


「ところで、ワグナー教授はどうして同行を?」

「身の安全のためですよ」


 霧崎の質問に、ワグナーは微苦笑と共に答えた。


「どうやら硝子山悶仁郎市長も雪岡純子女史も、私が邪魔なようです。必要な技術を引き出したので、もうお払い箱ということですな。私を人知れず亡き者にするかもしれません。貴方達の側にいれば、刺客も手が出しづらいのではないかと思いまして」

「ふーむ……。私も雪岡君の貴方への扱いは、快く思っていない。しかし雪岡君はそこまではしないと思うぞ」

「私は信用できません。すでに不誠実な振る舞いを取られていますし」


 霧崎が言うも、ワグナーは微苦笑を張り付かせたまま小さくかぶりを振った。


「くっくっくっ、しかし我々が傍にいたからといって、お前さんを護るとは限らないであろうに。私達は信用できるのかね?」

「藁にもすがる思いで……と言ったところですかね」


 意地悪い口調で言う日葵に、ワグナーは肩をすくめた。


***


「えっとー、政馬は具体的に何をしているんですか?」


 政馬が借りているホテルの部屋にて、アリスイが政馬に尋ねる。現在部屋には、他にツツジがいるだけだ。


「えっとね、僕はもうね、勇気の家来ってことになったからさ、勇気にはしっかりと協力しているし、変なことは企んでないよ」

「本当ですか~? うーん、怪しい。政馬のことだから怪しい」


 政馬の答えを聞いて、アリスイはジト目で露骨に怪しむ。


「酷いねアリスイ。それでも僕の保護者?」

「保護者でも疑っていますよ~。何故ならオイラは、保護者だから疑っているんですよ」

「僕ってよく日本語が変て言われるけど、アリスイがたまに口にするその怪しい日本語のせいでそうなったのかもしれない」


 冗談ではなく、これは本当にそう疑っている政馬だった。


「とにかく、僕達はもう変な陰謀とか企んでいないから。それは信じて欲しいな」

「信じるわ。でも信じたんだから、裏切ったら怒るわよ?」


 ツツジが政馬の方を見て、にっこりと笑って告げる。


「何か怖い。怖いと思わない? アリスイ」

「ええ、怖いですよ。これは怖い。ええ。ツツジはこういう所が怖い」


 揃って引き気味になる政馬とアリスイ。


「今後具体的にどう動く気でいるの? 勇気の下で働くという割に、PO対策機構とは距離を置いているみたいだけど」

「勇気の指示次第だよ。PO対策機構とはね、確かにあまり関わりたくないんだよね。個人的に気に入らないし、色々嫌な因縁がある相手もいるし」


 ツツジの質問に対し、政馬が少し不機嫌そうな顔になって答えた。


「あとさ、個人的にはね、心情的にはね、純子の方寄りなんだよね。勇気が純子と敵対していないなら、あっちについたかもしれないよ。純子は僕達を裏切ったとはいえ、それでも彼女の能力も目的も、そしてこの転烙市という成果も、僕から見ると凄く魅力的なんだ」

「勇気と組んでおいてよかったですねー」


 政馬の話を聞いて、心底そう思うアリスイ。


(まだまだ油断できないけどね。政馬は何か狙っている気がする)


 一方でツツジは、政馬に対する疑念を拭えずにいた。


***


 とあるホテルの会議室。


「よく来てくれたと言っておいてやる。労ってやる」


 東京から新たにPO対策機構の援軍として送られてきた、輝明、修、ふくを前にして、勇気が尊大な口調で労いの言葉を述べた。鈴音、男治、チロンもいる。


「ケッ、相変わらずだな。王様野郎め」

「実際俺はこの国の王だからな。生まれた時からこの世の王となる事は決まっていた」


 笑う輝明に、勇気はにこりともせずに言い切る。


「ああ~……ふくの服に返り血やら泥やらついちゃてるじゃないですか~。早速戦闘したんですか~? いけませんよ~。危ないことしゃ。ふくはまだ子供なんですし、こんな小さな子に戦いを強要するなんてやめてくれませんかね~?」


 ふくの姿を見て嬉しそうに顔を綻ばせながら案ずる男治。


「すみません、皆さん。これは無視して」


 ふくが笑顔で冷たく告げたので、全員従うことにした。


「それにしても警備厳重だね」


 修が言う。ホテルの周辺も中も、スノーフレーク・ソサエティーの兵士達が目を光らせている状態だった。


「今俺はおかしい奴に狙われている。そのおかげで自由が利かない」


 と、勇気。


「そもそも転烙市が敵地じゃし、PO対策機構の者共も、転烙ガーディアンに見つかると追い回されているらしいぞ」

「こっちは追い回されているのかよ。情けねーな」


 チロンの報告を聞いて、輝明は半笑いになる。


「それだけ戦力差があるんだよね」


 鈴音が言った時、勇気に電話がかかってきた。相手は犬飼だ。


『デビルを仕留める見通しが立ちそうだ』


 犬飼の言葉を聞き、勇気の目つきが鋭くなった。


***


「今日……例のブツが届く。う、受け取りに行かなくては」


 アジモフとモニカを前にして、ネロがそう告げる。


「転烙市内にまでは運んでもらえないの?」

「運び屋が……転烙市内に入りたがらない。入ると、赤猫の電波によって、内部の情報を出せなくなり、それでは仕事にも差支えあるそうだ。ゆ、故に、市内に入る手前で受け渡しがしたいとのこと」


 モニカの疑問に、ネロは事情を伝える。


「ブツの注文だけは出来たんだねえ」

「転烙市の情報を出したわけではないからな。外と連絡が全くできないわけではない」

「でもさー、私達がリスク犯して、わざわざ陣なんて張らなくてもいいだろうに。ン万人殺すのもン百万人殺すのも一緒でしょ~」

「ぜ、全然違うっ」


 モニカとネロとで喋りながら三人は移動する。アジモフはずっと無言だ。


 やがて目的地に着くと、宅急便の車が停まっており、その前に一人の青年が佇んでいた。


「ヨブの報酬のネロ・クレーバーだ」


 ネロが名乗ると、青年は愛想良くにっこりと笑った。


「『踊る心臓』の春日祐助だ」


 青年――春日が名乗ると、車の荷台から両手で抱える程度の箱を取り出し、ネロ達の前に置く。


「御苦労……」


 ネロが蓋を開き、中身を確認してから、春日の方を向いて頷いた。


「確かに届けたぜ。じゃあな」

 そう言い残し、春日は車の運転席に乗る。


(まさか、またこんなもんに関わるとは思わなかったなー)


 笑みを消し、ぞっとしない顔つきになって口の中で呟くと、春日は車を走らせた。


「へー、これが……? 小さいんだね。こんなんが地形変えるほどの威力あるなんて、信じられないわ」

「これが反物質爆弾ですか。初めて見ます」


 モニカとアジモフが箱の中を覗き込む。


「うむ。これで……転烙市を吹き飛ばす」


 張り詰めた顔になって、悲壮な決意と共に宣言するネロ。


(シェムハザ……すまない。俺にはこんな方法しか思いつかなかった。こんな方法でしか君を止められない)


 箱の中の黒い楕円の球体を見つめ、ネロは心の中で純子に語りかけていた。

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