表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
3256/3386

14

「転烙市庁舎のスパイからの報告だ。ヨブの報酬の残党連中が、何やら暗躍しているらしいぜ」


 新居が報告し、同室にいる義久と犬飼が新居の方を向く。


「澤村さんやチロン達にも伝えておく」

 義久が断りを入れて連絡を入れる。


(こいつ、すっかり小間使い役だ。しかも自らその役目を受け入れていやがる。全くもって好青年だこと。いや、もう青年じゃねーか)


 そんな義久を見て犬飼は思う。


「何やら……って、そいつが何なのかまではわかってないのか。つかヨブの報酬は俺達に背向けちゃったわけね」


 犬飼が薄笑いを浮かべて、おどけた口調で言う。


「あいつらはスノーフレーク・ソサエティーにやられちまったからな。そして俺達とスノーフレーク・ソサエティーがつるんでるってんで、もう信用できねーんだろうさ」


 新居が面白く無さそうに言った。


「グリムペニスから連絡が来た。また勇気達がデビルに襲われたってさ。デビルは退けたが殺せないんだと」


 義久の報告に、犬飼は溜息をつきたくなった。


(これであいつも諦める……かな? あと一回トライして駄目なら諦めるムードだったが。いや、場合によってはまた行くかもなー)


 気まぐれすぎるデビルの事だから、その辺はどういう方向に行くか、犬飼にもわからない。


「で、討伐方法の見通しが立ったとよ。雫野流の術師が協力してくれれば、いけるかもしれねーってさ。自分で変なこと言ったけど、それ見通しが立ったって言うのか?」

(みどりか……? いや、チロンの可能性の方が高いが)


 さらに報告された内容を聞いて、犬飼はみどりの存在を思い浮かべた。転烙市内にいて、こちらの陣営にいる雫野流の妖術師といったら、みどりとチロンしか思い浮かばない。


「グリムペニスのあの狐のじゃ娘がその術師だから、そいつに任せるか、あるいは真の所にいるみどりって子が担当するって話だ」


 今度は新居が報告した。義久と二人してグリムペニスと連絡を取っている。


「みどりは、どういうわけか単独行動してるみたいなんだよなー」

 義久が訝る。


「何の目的があって単独行動しているんだか」

 それは犬飼も気になっていた。


「勇気をまた狙ってくるなら、そいつをガードにつけておけばいいわけだな」


 と、新居。


(いや……もうデビルは勇気を狙う可能性低いんだ。わかんねーけどさ)


 そう思う一方で、犬飼はあることを思いついた。


(つまり、また狙わせてみればいいだけの話だな)


 にやけ笑いか自然と零れ落ちる犬飼。


(少し仕掛けてみるかな。デビル。お前が対処するか、どういう反応見せるか、そいつを楽しませて貰うぜ?)


 心の中で、届くわけも無い声で、犬飼はデビルに語りかけていた。


***


「大石さん、負けちゃったみたいだねー。輝明君達が相手だったって」


 市庁舎内の研究所で、純子は霧崎を前にして言った


「ワグナー教授は、御立腹というより諦観しているようで気の毒だったな。本国でも色々と苦労なされたようで、藁をも掴む想いで日本に来て、今度こそ夢がかなうかと思った所で、この仕打ちだ」


 非難がましい口調で言う霧崎。


「ううう……そんな言われ方をすると心が痛むなあ……」

「雪岡君が方針をブレさせるから悪いのだよ。契約違反ではないか。ワグナー教授の身にもなって考えてみたまえ」

「いや、契約破棄はしてないけどねー。悶仁郎さんが反対表明はしたけど、はっきりと取りやめにはしないつもりだし」


 純子のその言葉を聞いて、霧崎は不穏なことを想像した。


「なるほど。つまりワグナー教授を殺害するのか」


 思い浮かんだことをそのまま口にする霧崎に、純子は一瞬驚いて目を丸くしてから、すぐに相好を崩す。


「私はそんなことしないよー。味方を裏切る真似はしないよ」

「勘繰り過ぎだったか。君のことだからそれくらいはやるかと思ったよ。それとだね、市長があの発言をした時点で裏切りなのだよ。少なくとも彼の立場からすればそうだろう。ま、確かにワグナー教授の目的には、私も賛同できんがね」

「でも霧崎教授は自分の目的を叶えるために、ワグナー教授のクローン技術が必要だから、居て欲しいと思っているんだよねえ?」

「思っているよ。違うと言えば嘘になる」


 純子の指摘を霧崎はあっさりと認める。


「それならワグナー教授を助けに行った方がいいかもねえ」

「なるほど。大体の筋書きは見えた」


 呆れ気味に息を吐く霧崎。


「私が手引きしたわけじゃないよー?」

「わかっていてなお、本人を護る構えも無いのではね。結局見捨てて見殺すという事ではないか」


 非難気味に言って、霧崎は立ち上がった。純子の前ではあまり見せた事のない、極めて不機嫌そうな顔だった。


「気に入らないやり方だ。面倒だが、助けに行くとするよ」


 淡々と吐き捨てると、霧崎は研究所を出ていく。


「意外と真面目だよねえ。霧崎教授」


 霧崎を見送りながら、純子は微笑を浮かべて呟いた。


***


 勤一と凡美は、浜谷湯吉と他数名の転烙ガーディアンと共に、市内のとある場所に向かっている。


「見つけましたよ。情報通りです」

「あれがヨブの報酬の残党か」


 アジモフとネロの姿を確認し、先頭の浜谷が足を止めて告げると、勤一が二人を睨みつけた。


「少し……話し込んでしまったせいで、見つかってしまったか」

「そのようですな」


 ネロとアジモフは転烙ガーディアンの姿を確認しても、平然とした様子だ。二人は陣を張った後、打ち合わせをしていた。


「一華の仇だ。さよならパーンチッ!」


 勤一がその場でパンチを繰り出す動作をすると、それに合わせて巨大な拳のヴィジョンが出現し、ネロめがけて飛んでいく。


 次の瞬間、勤一は目を剥いた。ネロは片手を上げて、拳のヴィジョンを軽く受け止めたのだ。

 拳のヴィジョンが消える。当たればほぼ即死級の威力を持つ一撃であるというのに、ネロの掌は何の変化も見受けられない。


 アジモフがネロの前に進み出る。


 浜谷の前より、白く光輝く小さな矢が五本放たれる。放物線を描いて飛んでいった矢は、三本がアジモフに当たり、二本はネロを狙ったがかわされた。


 闘争心を眠気へと転換する効果を持つ、眠りの矢。しかしアジモフには一切効いている様子が無い。


「あの顔の長い男は……闘争心が微塵も無い……。私の能力が無風状態にされてしまっています……」


 アジモフを見て、浜谷が唸る。


「アジモフ。君はまだ出るな」

「承知しました」


 ネロに命じられ、アジモフは下がった。アジモフの戦闘力も相当に高いため、よほどの相手ではない限り、引けを取る事は無い。しかしアジモフの術が計画の要であるが故、アジモフが消耗させまいと判断しての指示だ。


「い、行くぞ……。俺が相手だ」


 複数の転烙ガーディアンの能力者達を舞うにして、徒手空拳で構えるネロ。


(あいつ……相当強い……)


 ネロを見て、勤一は震えを覚える。隣にいる凡美も同様に恐怖していた。二人共それなりに修羅場をくぐっているので、相手が自分達より格段に強いことは、すぐにわかった。


「やってやるよ……」


 恐怖を飲み込み、勤一が闘争心を剥き出しにした顔になると、全身の肌が青黒く変わり、筋肉が盛り上がっていく。顔も鬼のようなものへと変わる。


 勤一が真っ先にネロに飛び込んでいた。勤一がネロに迫る前に、凡美が口からビームを吐いて、ネロを攻撃する。勤一への手助けのつもりだった。


「むんっ」


 ネロは一声唸ると、片手をかざして、ビームを受け止めてしまう。


 そこに勤一が肉薄して拳を繰り出してきたが、ネロはその拳も掌で受け止める。


 勤一は驚く間も無く、攻撃されて意識が暗転した。ネロは勤一のパンチをキャッチした刹那、思いっきり勤一の顎を蹴り上げたのだ。勤一は空中で何回転もして吹き飛ばされ、地面に顔から落下する。


(嘘でしょ……。あんなにあっさり……)


 強敵だということはわかっていたが、それにしてもあの勤一が、こうもあっさりと瞬殺されるとは思ってもみなかった凡美である。東ではPO対策機構の刺客を尽く返り討ちにし、A級サイキック・オフェンダーの中でもツートップと呼ばれる程の実力者であるというにも関わらず、この有様だ。


「主の盟により来たれ。第十八の神獣、猛き愛粘の父蛙!」


 ネロが叫ぶ。


 巨大なカエルがネロの前に出現した。カエルの全身には粘液がまとわりついており、その粘液がアメーバの如く蠢いている。


 転烙ガーディアン数名も一斉に遠隔攻撃を仕掛ける。しかしネロの前にいるカエルの粘液が大きく広がると、全ての遠隔攻撃を受け止め、無力化した。


 その後、カエルが跳びはね、転烙ガーディアンの元へと向かっていく。


 粘液の塊が大量に飛び散って、転烙ガーディアンに降り注いだ。凡美は手を変形させた棘付き鉄球で防いだが、他の面々は粘液の塊を浴びてしまう。


「何ですかこれは……」

「う、動けん……」

「スライムプレイとか~」


 転烙ガーディアン達が唸る。粘液は全身を包み込むように広がり、彼等の動きを封じていた。


(手加減しているのね……。その気になれば殺せたはず。舐められていると見ればいいのか、ありがたいと感じればいいのか……)


 その気になれば体内に粘液を侵入させて、彼等を殺す事も出来ると凡美は見た。しかしネロはそうしようとせずに、動きを封じるに留めている。


「加減する必要は無いのでは? いずれ皆死にます」

「お、俺達の計画が成功すればな。失敗すれば……死に損になる」


 アジモフが伺うと、ネロはそんな答えを返した。


「ネロ」

 と、そこに聞き覚えのある声がかかる。


 ネロが声のした方を見ると、見覚えのある二人組がいた。


「嘘鼠……真か」


 真とツグミの二人を見て、ネロは目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ