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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
3251/3386

9

 その日、真は朝から一人で行動していた。ある人物と直接会って話をするために、転烙市の外れまで赴いた。


『真兄、途中で他にも客来るけどいい?』

 みどりからメールが届く。


『誰だよ。ちゃんと教えろ』

『御先祖様と綾音姉。特に大事な用があるってわけじゃなくて、ただのお喋りだわさ』

『構わない』


 メールのやり取りをしてから約十五分後、真は小さな繁華街にある喫茶店に入った。


「ヘーイ、真兄元気~?」


 みどりが席から手を振り、歯を見せて笑う。


「状況はどんなよー?」

「祭りまでもうあと三日だ。水面下で様々な勢力が動いている。しかし昨日は表だった動きはあまり無かったな」


 真がみどりの前に座る。


「あの脳みその謎はわかったか?」

 真が尋ねるが、みどりは首を横に振った。


「残念。こっちは何も進展無しだわさ。精神分裂体をこっそりと飛ばして、色々と怪しい所は探っているけどさァ。市の管理の建物とかね。市庁舎は流石に見つかりそうで入れないし」


 転烙市の謎、祭りの際に具体的に何が行われるか、寒色植物や空の川やオレンジの塔の中で見受けられた大量の脳など、独自で探っていたみどりである。


「精神分裂体を複数使うとはいえ、都市一つ探るってのは容易じゃないよな」

「イェア、だねえ。あたしはこの能力に長けているから、長時間、複数の分裂体を飛ばし続けられるんだよね~」

「それほど疲れるってことはないのか?」

「疲れるっちゃ疲れるけど、御先祖様よりはずっと持続力あるよぉ」


 しばらく真とみどりで会話していると、累と綾音が現れた。


「真もいましたか」

 累が真を見て嬉しそうに微笑む。


「いきなりこんなこと言うのもなんだけど、お前が僕ではなく雪岡の方についたのは、僕にとっては面倒だし、残念だった。でも、何となく予想もしてたけどな」


 真が累を見て言った。


「すみません。それが僕の正直な気持ちでしたから」

「責めてはいないよ。気が変わったらいつでもこっちに来いよ」

(怒ってくれても、責めてくれてもいいんですけどね)


 真は気遣ってくれるが、累はそれが返ってもどかしく感じた。


「質問です。どうしてそんなに躍起になって、純子の邪魔をするんです? マッドサイエンティストとしての彼女を否定するんです?」

「そりゃマッドサイエンティストなんだから否定するに決まっている」

「わかりません。純子の目指す世界はそれほど悪いことでもないですよ? 他の連中ならともかく、それを真が必死になって止める理由があるのですか?」


 累の価値観からすると、純子についた方が面白いし、純子の目的が叶った方がずっと面白いと思える。真はただ純子に対する反抗心や対抗心だけで、純子に盾突いているかのようにも見えていたので、はっきりと真意を問いただしたかった。


「必死になってという言われ方は……何か小馬鹿にされている気がするな」

「いえ……そんなつもりは無いです。でも凄く必死に見えます。僕は必死という言葉が煽りで使われるのも――煽りで使う人も、あまり好ましいと思っていませんし。必死であることは悪いことではないですよ」

「そうか。理由は二つある。一つは……元々あった。あいつのマッドサイエンティストとしての性質が、嫌だったからだ。それをあいつも知ってか、僕の前では控えていたような気がする。研究のためなら何でもする、如何にもなマッドサイエンティスト気質を、あいつは確かに持っている。僕はちょくちょくそれを見てきたし、累は僕よりあいつと付き合いが長いんだし、それをよく知ってるんじゃないか?」


 真に指摘されるも、累は押し黙ったまま何も口にしようとはしない。否定できないし、する気も無い。沈黙が肯定になっている。


「二つ目の理由は、つい最近になって出来た事だ。それは……みどりは知っている。雪岡もな。累にも……教えてやってもいいかな」


 少し躊躇いがちな口調で前置きする真。


「私がいても大丈夫ですか」

「問題無いよ。一緒に聞いてくれ」


 伺いを立てる綾音に、真は頷く。


「雪岡をあんな風にしたのは僕だ。僕があいつに甘い呪いをかけて……自分の理想をあいつに刷り込んだ結果、あいつはああなった。あいつは前世の僕の望みを自分の望みとして、今こうして叶えようとしている」

「そんなルーツがあったのですか……」


 累もその話は初耳だ。純子から聞かされてもいなかった。


「そしてその甘い呪いをかけた時、前世の僕も、自分の行為に胸を痛めていた。自分でやっておきながらな。その痛みだけ、僕が引き継ぐことにしたよ。僕が清算する。僕の罪も、あいつの罪も、全て償う」

「償う? 罪?」


 真のその台詞に対し、綾音が反応しつつ、横に座っている累を一瞥した。数限りない罪を犯し、罪悪感を抱えて生きている累のことを、どうしても意識してしまう。


「僕の罪は――あいつに自分の夢を押し付けた事。あいつの罪は、僕の夢を叶えようした事だ。その過程で、どれだけの痛みと孤独が生じた。どれだけの血を流した? 罪はあるだろう? だから僕が全て償うよ」

「その償いの方法は、自分が死ぬとか、純子殺すとかではないですよね?」

「僕がそんな馬鹿に見えるか?」


 不安そうに問う累に、真は心なしか呆れたような響きの声で否定する。


「この前、僕が捕まった時、お前の前でも言っただろ。ギネスブックを目指すって」

「何のことですか……」


 何のことかわからないが、漠然と嫌な予感がする累であった。みどりも同じ予感を覚えている。


「ああ、雪岡を止める理由……三つ目もあったな」

「何です?」

「悪魔の偽証罪だ」

「ああ……」


 その一言だけで、累は真の口にする理由とやらが何であるか、理解してしまった。それは累も危惧していた事だ。


「累、今は見逃しておく」

「見逃す?」


 脈絡の無い真の台詞に、累は怪訝な顔になる。


「そのまま雪岡について、護っていてもいい。でも、累には最終的にこっちについてもらう。それは絶対にそうすると、僕が決めてあるんだ。そして絶対にそうなるんだ」

(父上……私もその方がよいと思います。しかし今私がこの場でそれを口にしても、父上は反発しそうですね)


 真の台詞に、綾音は心の中で心底同意していた。


 累はというと、うつむき加減になって真から視線を外し、口元に微笑を浮かべている。正直、真の口から告げられた今の台詞を、とても嬉しく思っている。しかし同時に複雑な心境でもある。


(僕も真も純子も、相対したいわけではないんです。また元の鞘に収まりたい。一緒に暮らしたい。けど、譲れぬ信条があるから、しょうがないんです。決着をつけないと……)


 累がそう思ったその時、累がとてもよく知る存在の気配が接近している事に気付いた。


「ふわっ」

「おいおい……」


 喫茶店の中に突然虎が現れたので、みどりが驚きの声をあげ、真は呆れ気味の声を出す。店員や客も慄いている。


「お久しぶりですね」

「がおー」


 累が微笑んで虎の喉を撫でると、虎は嬉しそうに小さく鳴く。


「どうやら僕に会いに来たようですが、人払いした方がよいですか?」

「がおー」


 累の確認に、虎は首を横に振った後、右前脚を上げて累を指したかと思うと、みどりと綾音の方を向いて、今度は前脚でみどりと綾音も指す。


「ふわぁ~? つまり雫野の妖術師の力が必要てこと?」

「それよりここにいると店の迷惑になりそうですよ。外で話した方がよろしいかと」


 みどりが尋ね、綾音が促す。


 四人と一匹は喫茶店を出た。すると虎が道を歩いていく。


「どこかに連れて行くつもりか?」

「ええ。というか、誰かを連れてきたようです。そちらの方々が、用件があるようですね」


 虎の後を追いながら真と累が言う。


 しばらく進んだ所で、こちらに向かって歩いてくる勇気、鈴音、政馬の三名の姿を確認した。


「お前達だったか。しかも累もいるな。敵じゃなかったのか?」


 勇気が声をかける。


「敵だけど、裏切ったわけじゃないぞ。ただ話をしていただけだ」

 と、真。


「裏切ったと誰が言った。俺はお前が裏切るとは思っていない。むしろ累がこっちに寝返ったのかと思った。そして、もや……かいわ……も久しぶりだな」

「ヘーイ。今、もやしだのかいわれ大根だの言おうとしたべー?」


 勇気の台詞を聞き、みどりが笑いながら指摘する。


「虎に連れてこられた形ですが、僕達に何か用ですか?」

「あのね、デビルを始末したいんだ。しかしその方法が容易ではないんだ。雅紀にも出来るかもしれないけど、雅紀一人じゃ心許ないし」


 累が伺うと、政馬が用件を伝えた。


「虎が言うには、お前達が可能な心当たりという事になるな」

 と、勇気。


「確かに雫野流の妖術であれば、霊を浄化できますが……。果たしてデビルにも効くかどうかは謎です」


 歯切れの悪い口調で累が言うが、デビルに有効かどうかに自信が無いわけではなかった。


(デビルは純子につきそうですし、そうなると僕は力を貸すわけにはいきませんね)


 そう思いつつ、累はみどりをチラ見する。


「イェア、あたしがやってやんよ。雫野流の妖術だけじゃいない。あたしには死の運命を操作する力もあるからさァ」


 累の視線に気付いて、みどりが笑顔で申し出る。


「じゃあもや……みどり、よろしく頼む。一応、史愉や男治らにも報告して相談してある」

「それ絶対わざとやってるだろ~」


 ジト目で薄笑いという顔になって、みどりが勇気に突っ込んだ。

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