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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
3250/3386

8

 さらに一日が経過し、転烙魂命祭まであと三日となる。


 勇気と鈴音は、出来るだけスノーフレーク・ソサエティーの面々と行動を共にしている。デビルの襲撃対策だ。

 彼等が滞在しているホテルは、ロビーにスノーフレーク・ソサエティーの精鋭が持ち回りで見張りを行い、目を光らせている。現在は三名の少年少女がロビーにいた。


「あれ?」


 スノーフレーク・ソサエティーに所属する少女が、訝しげにホテルの入口から入って来た人物三名を見た。勇気と鈴音と政馬だ。


「いつの間に外へ?」

「さっきだよ……」


 見張りの少年が尋ねると、政馬がぼんやりとした顔で答える。


「さっきってことは入れ違い?」

「何で交代前の見張りは、ちゃんと政馬君達の移動を報告しなかったんだろ?」


 不思議そうに顔を見合わせる見張りの少年少女達に目もくれず、勇気達は無言でホテルの中へと入っていく。


「ちょっと様子がおかしくない?」

「政馬さん、元気無さそうだったし、挨拶もろくにしなかった。何かあったのかな?」

「何かヤバいことがあったら、皆に報せて動員するはずでしょ」


 見張りの三名は戸惑い気味だったが、外から入って来た勇気達が偽物であるという考えには及ばなかった。


(上手くいったかな? 怪しまれていたようだったけど)


 ホテルの中に侵入したデビルは胸を撫でおろした。


 デビルは偽勇気の体内にいた。ホテルに結界が張ってあるかもしれないし、生体情報監視装置があるかもしれない。それらの対策として、デビルは勇気と鈴音と政馬のクローンを作って、ホテルへの侵入を試みたのだ。

 急ごしらえのクローンは非常に出来が悪く、本人の記憶の移植は出来ていないし、特徴を真似る事すら出来ない有様だった。一人だけなら怪しまれるので、三人揃ってであれば少しは説得力が増すかと思ったデビルであったが、三人揃ってどこか虚ろな表情で、ふらふらと歩いている。

 これは失敗したかと思いきや、何とか見張りを誤魔化して、中に侵入することが出来た。


 本物の勇気達を探し、ホテルの中をふらふらと歩く偽勇気達。


「あああ……」


 突然鈴音が呻き声を漏らし、地面に足をついた。

 顔は真っ赤だ。激しく発汗している。苦悶の形相だ。


(急ごしらえすぎて、体の方もおかしいのか。中に入るという目的は達したけど、出来れば生かしたまま、勇気にこの三人を見せてやりたい。勇気の反応を見たい。それまでは生きていてほしい)


 上手くいかないことに焦れったさを覚えるデビル。

 その時だった。


「がおーっ」


 いまいち迫力にかける吠え声と共に、空間の切れ目から一頭の虎が出現し、偽勇気達に飛びかかった。


(またこの虎……)


 イメージ世界の住人でありながらも自由意思を持ち、そのうえ実体化し、暴走したイメージ体の排除を使命としている虎の出現に、デビルは激しく苛立つ。


 虎は蹲った偽鈴音の首筋に噛みつく。牙は立てていない。


「ぐるるる……」


 虎は戸惑いの声をあげていた。ただ偽鈴音の首に噛みついているわけではなく、生命力を分け与えて回復を促していたが、上手くいかない。


「がおーっ」


 虎が偽鈴音を放し、偽勇気を睨んで吠える。


(僕に気付いたか)

 偽勇気の体内で、溜息をつくデビル。


「今の声って、とらさんだよね?」

 すぐ隣の扉の内より、鈴音の声が響く。


「虎? 来てたのか……って」

「ちょっとちょっとちょっとっ、僕達の偽物がいるよっ」


 勇気が扉を開けて固まる。政馬が狼狽して声をあげる。


(丁度いい所で現れた? いや、失敗。こっちが奇襲かける予定だったのに。また神様の悪ふざけの意地悪だ。何で僕にばかりこんなに意地が悪いんだ)


 何もかも上手くいかないことに、デビルはうんざりしてしまう。


「どこのどいつだ……ってのは疑問だな。どうせデビルがいるんだろう」

「ぐるるるる……」


 勇気が指摘すると、虎が肯定するかのように唸った。


「あ……あああ……あ……」

 蹲って苦しそうに喘ぐ偽鈴音。


「私の偽物、何か気分悪そう」

 偽鈴音を見て、鈴音が心配する。


「偽物に戦意は無さそうだな。操られてはいるようだが」

「デビルは偽勇気の中にいるよ」


 勇気が言った直後、政馬が指摘した。


「何でわかる?」

「虎がずーっと偽勇気見てたからさ」

「がおー」


 勇気の問いに政馬が答え、虎が短く一声鳴いて頷いた。


 デビルは仕方なく、偽勇気の体内から外に出る。


「ふん。お出ましか。今度は俺達の偽物を用意して何するつもりだったのやら」

「あの手この手で色々やってくれるね」


 勇気が不敵に笑い、政馬もおかしそうに笑っている。


 デビルとしては、最初は偽物で悪さをさせてやろうとしたが、偽物の出来が悪すぎたうえに、歩くことさえ辛いという有様でそれどころではなかったので、偽物で不意打ちをかけて、戸惑っている所にさらに自分が不意打ちをしてやるつもりでいたのだが、それも台無しになった。


(まだだ。面白いことならまだ出来る)


 デビルが偽勇気達の精神に干渉し、殺意と闘争心を増幅させる。


 偽勇気と偽政馬が、勇気達に飛びかかる。偽鈴音は蹲ったままだ。


「がおー」

「やめろ、虎」


 虎が迎え討とうとしたが、勇気が制した。


 鬼の巨大な手が二つ現れ、偽物二人は掌に衝突する。

 偽物二人は鬼の手に掴まれるが、遮二無二もがいて、鬼の手から抜け出そうとする。


「こいつら、潜在能力のリミッターが外されて、怪力を出せるようだ」


 鬼の手から半分以上抜け出た二人を見て、勇気が言った。


「何で私の偽物だけあんなに弱ってるの?」

「個人差はあるけど、他のも弱っている。そう長くもたない」


 鈴音が疑問を口にすると、デビルが答えた。


「作るのが早過ぎた。普通もっと時間をかけて作るはずのクローンを、一晩で作りあげたから、色々と中途半端。すぐに死ぬ。僕が遊ぶために作った使い捨ての玩具だから、そんな急ごしらえでも問題は無い」

「お前は……」


 淡々と解説するデビルに、勇気が怒りを孕んだ視線をぶつける。


「おおおお……」


 唸り声をあげながら、鈴音のクローンが崩れ落ちた。

 肌がめくれ、肉が溶けていく。目も零れ落ちる。


 偽勇気を掴んでいる手を放して、鬼の手が偽鈴音の元へと向かう。


「ヤマ・アプリ。拘束」


 政馬が能力を発動させて、偽勇気の動きを止めた。罪業も罪悪感も無いクローンなので、力はデビルのものを利用した。


 勇気が鬼の癒しの力で、崩れるクローンを治そうとするが、治らない。

 やがて偽鈴音は完全に溶けて、肉汁となって床に広がる。


「駄目だ……。こいつらは助けられない。根本的に……命として……未完成品なままの状態だから……どうにもできない……」


 両拳をきつく握りしめて、全身を震わせながら膝をつき、怒りと悲しみを交えて語る勇気。


「ひどい……」

「ぐるるるるるる……」


 鈴音と虎も同様の感情を覚えながら、デビルを睨む。


「相変わらずの偽善……吐き気がする。使い捨てで一日しかもたない命だし、人の形をしていても、それは虫みたいなもの。知能も中途半端。そんなものに同情?」


 嘆く勇気の姿を見下ろし、心底嫌そうな口調で吐き捨てるデビル。


「うあああ……」


 偽政馬も溶けだした。偽鈴音よりも早く溶けていく。


 デビルはそれを見て小さく息を吐くと、拘束されている偽勇気に向かって衝撃波を放つ。偽勇気の体が吹き飛んで、窓を突き破り、ホテルの六階から下へと落下していく。


「もういい冷めた。もういい。面倒になった」


 デビルがそう言い残して、平面化しようとしたが――


「冷めた? それって自分のプライド守ってるつもり? 冷めたじゃなくてさ、君は負けたんだよ。敵わなくて、すごすごと逃げ帰るんだよ。そして諦めるんだよ。もういっぺん言おうか? 君は負けたんだよ? それは認めようよ」


 退却しようとするデビルに、政馬が嘲りたっぷりに言い放つ。


(ウザい……)


 政馬への不快感をさらに募らせるデビル。


「負けでもいい。もう呆れたし冷めたのも事実。諦めたのも事実。でも君達がPO対策機構につくなら、また遊べる時が来るかも」

「はははははっ! 逃がすと思うか!?」


 怒気をまとって大声で笑い、立ち上がる勇気。


「殺せるものなら殺してみて。その前に死ぬ」


 デビルがそう言った直後、デビルの体が崩れ落ちた。


「死んでるよ……」


 鈴音がデビルの体を見て、ぽつりと呟いた。


「霊魂だけ外に逃げたんだね。そんなことも出来るんだ。これは本当に厄介だ。雅紀を呼べばどうにかできたかもしれないけど」


 と、政馬。


「いい加減あいつとは決着をつけたい所だが、殺しきれる方法が無いからな。ちょっかいをかけられっぱなしだっ」


 憮然とした顔で吐き捨てる勇気。


「ぐるるる……」

「虎さんが何か言いたそう」


 虎が唸り、鈴音が訴える。


「あいつを滅ぼす手段の心当たりでもあるのか?」

「がう」


 勇気の質問に、虎は一声発して大きく頷いた。


「何だそれは? 教えろ」

「虎に教えられるの?」

「がおー」


 勇気が要求し、政馬がおかしそうに微笑みながら尋ねると、虎は一声鳴いて、ホログラフィー・ディスプレイを投影し、文字を記入しだした。


『対処出来そうな人間に心当たりがあるから、連れて行く』

「ほう。虎、上手くいったら褒美として存分に撫でまくってやるぞ」


 映し出された文字を読み、勇気が虎を見てにやりと笑った。

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