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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
3248/3386

6

 美香とクローンズとワグナーと日葵のいる場所に、いいタイミングで真達が駆けつけた。


「うおー、あのお婆さん、何か凄―い」

「フヒェヒェヒェ、よく言われるよ。さっきも言われたばかりさね」


 ツグミが日葵を見て歓声をあげる。日葵は何故か気をよくして笑う。


「二手に分かれて行動したおかげでこれだよ」

「無事だったからいいだろ」


 倒れているクローン達を見て、熱次郎と真が言った。


「美香さん降参しかけてたし、相当ヤバい相手だねー。ていうかクジラの時点でどう考えてもヤバいっ」


 ワグナーに注目するツグミ。


(おやおや、あの子とは深い縁を感じるね)

 一方、日葵は真に注目していた。


「イヒヒヒ、二対五が、二対九になっちまったね。赤猫電波発信管理塔の時みたいだねえ。また多勢に無勢だよ」


 日葵が言うも、その口調には全く危機感が無い。


「二対九ってつまり……私達は一人と勘定」

「二対十が正解」

「おやおや、こいつは悪かった。あんたのことは知っているよ。悶仁郎の爺さんと戦った二つ頭の魔術師。もう転烙市じゃ有名人だ」


 しょげる牛村姉妹に、日葵が告げる。


「え? 有名人なんだ」「評判気になる~」


 伽耶と麻耶の表情が輝く。


「ローカルSNSでもローカル匿名掲示板でも、話題になっているさね。『二人共可愛い』『頭二つでも綺麗だしスタイルもいい』『市長との戦い、格好良かった』とか、フェッフェッフェッ、好評判じゃないか」


 日葵がホログラフィー・ディスプレイを投影して、伽耶と麻耶の評判を読み上げる。


「うおー、伽耶さんと麻耶さん、すっかり時の人なんだ。いいな~。憧れちゃうな~」

「日陰でこっそりと生きていこうかと思ったけど」

「転烙市限定だけど、人気者は辛いよ」


 羨ましがるツグミの反応を見て、伽耶と麻耶揃ってドヤ顔になる。


「ああ、こんなのもあるね。『二人の口の中に交互に突っ込みたい』『Hしてる時って二人揃って同時に喘ぐの?』『叡智の新境地を開拓するために産まれてきた女』『三つ穴どころか四つ穴責め可能』」

「それは教えてくれなくていいから……」

「いい気にさせておいてから突き落としてくる糞婆め」


 おかしそうに報告する日葵に、伽耶と麻耶揃って憮然とした顔になる。


(二対十になっても……この二人に勝てるものなのか!? 少し交戦しただけでも、圧倒的差を見せつけられて、たちまち半壊してしまったぞ!)

(あんな巨大な敵と戦うのは、戦力五倍でも、今の面子では少し辛いかもしれない。高さはともかく、全身の長さだけ見たら、この前の黒マリモの区車亀三より大きいぞ。伽耶と麻耶とツグミの能力を駆使するにしても、有効な手を考えないといけないな。そしてあの婆さんも相当強そうだ)


 ワグナーと日葵を見て、美香は危機感を募らせ、真は神妙に頭を巡らす。


「一つお伺いしたいのですが、仮に私を殺したとして、その後の事はお考えですか?」


 クジラ状態のまま、ワグナーが問う。


「このクローン製造工場を潰す! それだけだ! そのために来た!」

「作りかけのクローンや、作ったばかりのクローンもいるというのにですか? それらも全て死ぬことになりますよ? 誰が面倒を見るのです?」


 ワグナーのさらなる問いかけに、美香は絶句してしまう。


「それも貴女の正義を通すためにやむをえない――ということですか? 私はあの子達を死なせたくありません」

「いいや……! そのつもりはない! それは……考えてなかった!」


 美香はそこまでして自分の正義を押し通す気になれない。


(このまま何も考えず正面から戦っても辛そうな相手だ。一旦退く理由にもなる)


 真はそう計算した。


「美香、ここは一旦出直した方がいい。あいつは脅しで言ってるわけではなさそうだし、実際にクローン達が死ぬ事になっても困るだろう」

「しかし……! いや……わかった……」


 真の提案を受け入れる美香。


「おやおや、口先で上手いこと丸め込んだね。フィ~フェッフェッフェッ」


 倒れているクローン達を担ぎ上げ、撤退していく真と美香達を見送りながら、日葵が笑った。


「日葵さん、申し訳ありませんが、私の服の顔を取ってきていただけませんか? 元に戻ると私はすっぽんぽんだ」

「あいよ。裸で工場内を徘徊する禿爺なんて、誰も見たくないだろうからね。ウヒャヒャヒャヒャ」


 ワグナーに頼まれ、日葵は工場の中へと入る。


「何かよい策が有るのか!?」

 工場の敷地を出た所で、美香が真に問う。


「良い策じゃあないけど、考えはある」

 そう言って真は電話をかける。


「雪岡、実は今、美香含めた皆でクローン製造工場の前にいて、責任者のワグナーという奴と交戦したんだが。いや、交戦したのは美香達だけだし、ほぼ一方的にやられていたけど」

「ここぞという時の純子頼み」

「真てさ、誰かに頼る……というか誰かを利用すること多くない?」

「今頃気付いたのか!? かなり多いぞ! おまけに人を振り回す!」


 真の電話の相手が純子と知り、伽耶、麻耶、美香が言い合う。


「……というわけなんだ」

 真は純子に撤退に至った事情を話した。


『そっかー。つまり今いるクローンの人達や作りかけの人達のケアが必要ってことだね』

「お前に頼みたくて電話したんだが、引き受けてくれないか? 手っ取り早いのは、クローン販売と製造を、お前の権限で辞めさせる事だ」

「純子は今敵だろうに……」

「敵だろうと女はいいように利用するものと心得よっ。くっくっくっ、真先輩もワルよの~」


 真の要求を聞き、熱次郎は呆れ、ツグミはにやにや笑いながら茶化していた。


『んー……ケアするだけならいいよ。でも私が辞めさせるって……中々難しい注文してくれるねえ。困っちゃうなあ』

「そこで突っぱねずに、難しい注文とか、困っちゃうなんて言葉を返す時点で、脈有りだよな。お前も本当は快く思っていない証拠だ」

『んー……まあ、そうなんだけどね』

「あるいは僕達にクローン製造販売を潰して欲しいとか、考えていなかったか?」

『ち、ち、ちっとも考えてないよー。あはあはあははは……』


 図星を突かれて、純子が笑い声で誤魔化す。


「互いに利益は一致しているなら、引き受けてくれてもいいだろう?」

『んー……ワグナー教授は出来れば殺さないでほしいかなあ』

「殺さないで、クローン製造販売を辞めさせる方法があればな」

『あの人を殺したからといって、それで辞めるという事にもならないんだけどね』

「転烙市側からの反対声明を出すという事は出来ないか? 転烙市首脳部にも、クローンの製作と販売を倫理的に疑問視している者がいて、それらの反発があったと」

『なるほど。それは実際にいるから、スムーズにいくね。真君そういうことよく思いつくねー』


 真の提案に純子が感心する。


「ぱっと策を思いつくのはいいが、それもまた他力本願な策だな……」

「真先輩は他人任せの策を思いつく天才っ。すごいなー、憧れちゃうなー」

「凄くないし憧れるな! 言語道断だ! 絶対真似するな!」


 熱次郎がまた呆れ、ツグミはまた茶化し、美香は叱った。


『とはいえ、それだけじゃワグナー教授の顔を潰すだけになっちゃうから、真君達にも動いてもらう必要があるよ?』

「殺してほしくない人物なら、適度に痛めつけて打ち負かした時点で、その声明を出してもらう方がいいな。交戦する直前でも、直後でもいい」


 とは言ったものの、ワグナーと日葵に勝つのは生半可なことではないと、真は思う。交戦しなくてもそれはわかる。美香達も五人いて、あっさりと半壊していた。


『いや、先にこっちで動くから、真君達はその後で動いて欲しい。工場で作りかけのクローンとか、すでに作っちゃったクローンのケアに関しては、こちらで問題無く行えると思う』

「わかった。頼む」


 電話を切る。と、そこに――


「お前は!?」


 その場に現れた人物を見て、美香が目を剥いて叫んだ。


「デビル!?」

「何の用だ?」


 美香が叫び、真が静かに問いかける。


「どうして君達は純子の邪魔をするの?」

 真の質問を無視して、質問で返すデビル。


「どうしてその理由をお前に話す必要があるんだ」

「純子も恥ずかしがって答えてくれなかった」


 真が言うと、デビルはそんな答えを返す。


「僕は……ずっと迷っている」


 言いづらそうに脈絡の無いことを口にするデビル。


「何を?」

「純子の方につくか。君の方につくか」


 真に問われ、デビルは正直に述べる。


「純子の理想とする世界――以前は抵抗があった。あれは駄目だと思って、止めようともした。でも今の世界の混沌とした有様、それほど悪くは無い。だから……そのせいで僕は、彼女に対する見方が変わった。彼女がまた世界を変えようとしている。その後の世界はもっといいものになるかもしれないと、そう期待している」

「よくなるという保証は無いだろう」

「真、もう一度聞く。君はどうして純子の邪魔を? 君は純子の家族のようなものなのに、どうして相対するの?」

「過程で犠牲たっぷりだからだ。あいつはマッドサイエンティストだから、それを気にしない。自分の研究や発明のためなら、倫理完全放棄だ。それを僕は許さない」

「つまらない……」


 真の理由を聞き、デビルは落胆して大きく息を吐いた。


「8:2から9:1くらいになった。いや、もう10:0でいい」


 デビルは真のことをかなり評価していた。睦月の想い人であるという理由だけではなく、これまでの彼の行動もそれなりに知っている。自分と交戦した事もある。百合に勝利した事も見事だったと思っている。純子と対決姿勢を見せる事は不思議であったが、戦おうとする姿勢だけは一目置いていた。しかしその理由を聞いて、真に対して軽く失望してしまった。

 そして前世からの因縁のことも意識して、デビルの気持ちは大きく純子側に傾いている。


「つまり雪岡につくということか」

「そういうこと。最初は君につく方が面白いかと思ったけど、純子に盾突く理由を聞いてがっかり」


 嫌味で言っているわけではなく、本気で残念がるデビルを見て、真は言葉を失くす。


(純子に着く前に、やることがある。いや――彼等も純子の敵だから、都合がいい)


 デビルはまだ勇気を破滅させることを諦めていない。


「お前のことだから、どっちも否定するかと思った」

「卓袱台をひっくり返して遊ぶ馬鹿だと思われているとは心外」


 真の言葉に、さらにがっかりするデビル。


「それで何しに来たんだ!?」

 美香が苛立ち気味に叫ぶ。


「ここに用がある。君達に関係無い」

「勇気を狙っていると聞いたぞ」

「君達に関係無い」

「関係ある。勇気に恨みでもあるのか?」

「君達に言っても仕方がない」


 真の問いに答えることなく、デビルは二次元化して、工場の中へと入っていった。


***


「またお客さんのようです」


 工場内の一室で茶を飲んでいたワグナーが、一言呟いた。同じ部屋には日葵もいる。


 黒い影が盛り上がり、人型となる。デビルだ。

 デビルは特に気配を消すことも無く部屋に入ったが、一応保護色の状態で平面化していた。即座に自分の気付いたことは流石と思う。


「フヒヒッヒッヒッ、何だろうね。この子とも縁を感じるよ」

(僕もだ。前世の知り合いかな?)


 自分を見て笑う日葵に、デビルも同じことを感じていた。


「雪岡さんから話は伺っています。全身真っ黒な子が、性急なクローン作りを所望だと。私としては気が進まないのですが……。すぐに作ったクローンは、すぐに死んでしまいますし」

「それでいい」

「私としてはよくありませんけどね。しかし雪岡さんの頼みだから仕方ありません」


 ワグナーは気乗りしない顔で立ち上がった。

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